山田祥平のRe:config.sys

軽さは正義、広さも正義

 薄軽ノートPCで知られるLG gramシリーズ2019年モデルの日本発売が発表された(LG gramに“17型世界最軽量1.34kg”で約22時間動くモバイルノート参照)。今年(2019年)は新たに17型ディスプレイの製品が追加され、モバイルデスクトップという新しいスタイルが提案されている。

10型以下が普通だった昔のノートPC

 PCを使いはじめた30年以上前、当初のディスプレイは14型のブラウン管だった。当時リビングに置いてあったTVは28型だったので、そのサイズ感はパーソナルという響きがピッタリだと感じていた。

 そのうちラップトップPCやノートPCを手に入れて外に持ち出すようになるわけだが、いわゆるノートPCの画面サイズは初代dynabookや98NOTEで8.9型、5年くらいをかけてWindowsを使うようになり、カラーになってからは、レッツノートの前身Pronote Jet miniやCopaq Aeroが7.8型で、今から考えるといったんは小さくなってしまった。しかも重量は3kg近かった。自宅で使うディスプレイは14型、持ち歩き用ノートPCのディスプレイはその面積が約4分の1ということで棲み分けができていた。それがほぼ四半世紀前の話だ。

 今、身の回りのノートPCを見回すと、用途やワークスタイルに応じて、さまざまな画面サイズが選べるようになっている。機動性の高い10.1型あたりから、今回、LG gramが提案している17型あたりまで、よりどりみどりだ。主流は13.3型だが、昨年(2018年)あたりから14型がトレンドとなりそうな勢いだ。やっぱり、みんな広い画面を根底では求めているのだろう。

 17型のノートPCは、なにも、最近出てきたものではない。個人的にも10年ほど前にはMacBook Proの17型を持ち歩いていた時期もあった。3kg超の苦行だったが、その昔、セイコーエプソンのPC-286Lを持ち運んでいたころを思えば格段にラクだった。その日の作業内容によっては広い画面がほしいという気持ちは強かったからだ。

 今、LG gramは、その17型を1.34kgという、当時の約半分の重量で実現し、モバイルデスクトップとして提案している

マルチデバイスが許されないからオールマイティをノートPCに求める

 ただ広い画面がほしいだけならノートPCに外付けディスプレイをつなげばいい。もちろんデスクトップPCを使ったっていい。個人的には重量3kgの24型ディスプレイを別途スーツケースに入れて出張にでかけるくらいだ。17型PCが1.34kgで作れるのなら、24型モバイルディスプレイ(※編注 あくまで筆者の主観です)は2kgを切る日も近いんじゃないか。LGのようなベンダーには、そういう方向性も期待したいと欲も出てくる。

 出張時は携行できるPCが限定される。そして1台のPCにオールマイティを求めたくなる。だからディスプレイ一体型のノートPCが必要なのだ。このことは、会社などで1台だけのPCを、自分の業務に使う唯一のPCとして貸与されている場合にも当てはまる。

 とくに日本では、私物PCの会社への持ち込みなどはまだまだ許されるムードもなく、でかけるときはこのPC、オフィスでの作業ではそのPC、自宅ではあのPCといった複数のデバイスを使い分けるというような贅沢も許されない。

 そんな状況だから、1台のPCに対してフォームファクタ的なオールマイティを求めたくなるわけだ。13型程度の画面の広さで、下調べを伴う資料作りから、プレゼンテーション作成、DTPもどきの作業まで、あらゆる業務をこなさなければならないのはたいへんだ。だが、それが当たり前のようにこなされている状況だ。

 ここをなんとかしなければならない。今、働き方改革が叫ばれているわけだが、オフィスワーカーの生産性を上げるには、働く場所の改革とともに、PCによる作業効率化の改革を考えなければならない。

 高性能で広い画面というとゲーミングノートPCの十八番だと思われてきたが、ビジネスノートPCにもLG gramのような製品が出てきたのは、ごく自然な流れだと言えるだろう。モビリティはいろいろなガマンを強いるが、そのガマンを最小限に抑えること。その要素の1つが画面の広さであり、17型gramはそこにフォーカスした。しかも画面のアスペクト比は16:10だ。ツボをしっかり押さえている。

モバイルデスクトップという考え方

 gramの真骨頂は、「デスクトップ=たとえば24型ディスプレイのような広い画面」という環境に、ポータブルのみならず、モバイルの方向性を持たせたことだ。「点のモバイル」はもちろん「線のモバイル」も視野に入っている。

 もちろん、この製品を電車のなかで開いて膝の上で使うのはさすがにためらわれるだろう。でも、出張先のホテルでは作業がはかどるだろうし、客先でのプレゼンにも活かせるはずだ。

 PCを持ち歩いて使う人たちは、おそらくそのスキルで、スマートフォンでも同様のことがこなせるに違いない。だが、効率を考えるとPCを開いたほうが手っ取り早いわけだ。だからPCを携行する。

 同じように13型のノートでも15.6型でも、17型でもできることは同じだ。それでも効率が違う。30年以上PCを使い続けてきて、そのことは十二分にわかっている。

 これから春を迎え、世のなかには多くのフレッシュマンが誕生する。とくに若い世代は新生活を機会に初めての自分専用PCを手に入れるかもしれない。悪いことは言わないから、自分の持ち歩きに負担のない程度にできるだけ広い画面のPCを手に入れることをすすめたい。

 大は小を兼ねるが、小は大を兼ねないということもある。PCを使うノウハウを身につけることが目的ではないのだから、小さなノートを大きく使うスキルを磨くのはあとまわしでいい。

 PCが小さくなければならない現場もあるが、それはかなり特殊なシチュエーションだと言える。たとえば、記者会見やイベントの基調講演など、机のない環境で、カメラとPCをとっかえひっかえしながら写真を撮り、メモをとりといった作業は17型では無理だ。だから10型ノートが重宝する。

 でも、そんなことをPCに求めるのは、ごく一部の職業の人たちだろう。そして多くの場合は2台目以降のPCにその役割をゆだねる。

 初代dynabookの発売ではじまった平成の歴史はノートPCの歴史でもあったと言える。その平成最後の年に、大きなPCを提案するLG。その方向性はノートPCの多様性と可能性を「広さ」という面からトレンドにしようとしている確かな意思だ。ちなみに同社ではシニア層への訴求も考えているようだ。

 軽くて薄い、でも大きい。それもモビリティだ。さらには、PCと人の関係のなかでのホスピタリティだ。それはすなわち、PCの新しいスタイルのおもてなしでもある。