山田祥平のRe:config.sys

いつも満タン、でなきゃ不安、ならどうする

 スマートフォンやPCなどのバッテリ駆動デバイスを短時間で充電できるのは理想だ。なくなったら充電すればいいからだ。ところがまだ高速充電は道半ば。これからデバイスの充電事情はどのように推移していくのか。

日本初の認証取得済みPDアダプタ

 ゴッパがUSB Power Delivery(PD)対応のACアダプタ「Energear」シリーズを発表した。46Wと65Wの2種類のほか、カーチャージャーも発売されるという。扱いはアイ・オー・データ機器だ。

 仕様としては46W版が5V、9V、12V、15V(各3A)、20Vが2.3Aで、65W版は15Vまでは46W版と同じで20Vが3.25Aとなる。なお、PDコントローラはCypressのものを使っているそうだ。

 特筆すべきは、これらのアダプタがUSB Implementers Forum(USB-IF)認証を取得している点だ。コンパクトでプラグ部分を折りたためるアダプタ本体にはUSB Type-Cメスが装備されていて、ここにUSB Type-Cケーブルを装着することで電源を確保できる。製品には両端Type-Cオスのケーブルも同梱されているが、eMarkerが実装されていて、このケーブルもまたUSB-IFの認証を取得しているという。

 USB-IFはUSB仕様の策定管理団体として1995年に設立された。現在は、Apple、HP、Intel、Microsoft、Renesas Electronics、STMicroelectronics、Texas Instrumentsの7社がボードメンバーで、合計900社以上の企業によって構成されているNPOだ。

 もちろんUSB PDの仕様もUSB-IFが策定したものだ。その認証を取得しているということは、正しくUSB PDの仕様に準拠した製品であることを示す。USBロゴはそのお墨付きの証で、認証を取得した場合にのみ提示を認められる。

 そして、ゴッパの「Energear」シリーズは日本初の認証取得済みチャージャーとなる。国内で販売される製品として互換性のことを気にすることなく信頼できるものとして安心して購入、利用できるわけだ。

 USBによる充電は、各社各様の独自仕様によって高速充電が行なわれてきて、現時点でも混沌とした状態が続いている。USB BC1.2やQualcommのQuickCharge(QC)など、ある程度の標準化はあったものの、自分の手持ちデバイスがどの規格でどのように充電すれば高速に充電できるのか今ひとつわかりにくかった。だが、こうした状況にも出口が見えてきた。

 手元の環境でEnergearシリーズのアダプタを試してみると、

  • Galaxy S8、S8+、Note8
  • iPhone X
  • HUAWEI Mate 10 Pro
  • HUAWEI P10 Plus

で高速充電ができることを確認した。充電電圧を計測してみるとGalaxyをのぞき9Vに昇圧する。もっともこれらのデバイスのなかで正式にPD対応を謳っているものはない。

 まず、GalaxyはS8/S8+の発売当初はQC2.0のみ対応としていたが、Note8発売時にGalaxyとしてPD対応を明らかにした。実際、接続してみると確かに高速充電にはなるのだが、電圧を計測しても5Vから動かない。これについては現時点で謎のままだ。

 ちなみに、前回紹介したDeXステーションにはAFC(アドバンストファーストチャージ)アダプタが添付されていて、それを使ってDeXに電源を供給するのだが、それをDeXがPDに変換してGalaxyに充電すると公式には説明されている。

 確かにAFC-DeX-Galaxyでは9Vに昇圧する。AFCの代わりにPDをDeXに供給すると12Vに昇圧する。また、AFCをGalaxy Note8に直結すると9Vに昇圧する。

 だが、PD直結ではGalaxyは急速充電を主張するものの5Vのままなのだ。5VのみのPD対応なのかどうか、これについては公式回答が待っても待っても届かない状態だ。

 一方、iPhone XについてはiPhone 8/8 Plus世代も同様で、PD対応のはずなのだが、正式にはPD対応を表明していない。あくまでも仕様として「高速充電に対応: 30分で最大50%充電」とあるだけだ。

 また、注として「iPhone Xの試作ハードウェアとソフトウェア、Apple USB-C電源アダプタ(29WモデルA1540、61WモデルA1718、87WモデルA1719)アクセサリを使用」と記載されている。

 これらの「Apple USB-C電源アダプタ」の代わりにEnergearを使い、ケーブルを「USB-C - Lightningケーブル(1m)」を使うと高速充電ができることから「Apple USB-C電源アダプタ」はUSB PDアダプタであると想像できる。

 なお、ケーブルの価格は税別2,800円と、買うのにけっこう勇気がいる。AppleはUSB-IFのボードメンバーであるにもかかわらず認証を取得していないどころか、USB Type-C以外のコネクタ、つまり、Lightningコネクタを使ってPD充電をしていることになるが、PDとは言っていないのでグレーといったところか。

 また、HUAWEIの2製品についてもPD対応を謳っていない。これらはHUAWEI独自の超急速充電規格Super Fast Charge対応とされている。だが、実際には、PDアダプタを装着して充電すると、9Vに昇圧し「超」のつかない高速充電ができる。

 つまり、世界の3大巨頭とも言えるベンダーの製品は、PDに対応していながらPD対応を明言していない。これは認証を取得していないということと関係があるのかどうか。

アダプタ1つでなんでも高速充電

 PCではどうか。手元のPD対応のPCとしては、

  • 富士通 LIFEBOOK UH/B1
  • HP Elitebook x360

があるが、Energearの65W版を使って充電したところ、どちらも20Vに昇圧し、正常に充電ができる。

 LIFEBOOKは47W版での充電はできない。PDの仕様として要求するプロファイルが存在しない場合は無視できるのでこれも対応だ。

 また、HP機は47W版でも充電はできるが、サードパーティ製のアダプタを接続すると、HP製品を使うようにという警告がポップアップされる仕様だ。

 またかと言われそうだが、これらの充電は、百均のType-Cケーブルでも同じ結果が得られる。ただし、eMarkerのないケーブルは3AまでというのがPDの仕様なので65Wのアダプタをつないでも60Wまでしか得られないことになる。

 これでスマートフォンもPCも、このアダプタがあれば充電ができる。いろいろなデバイスが1つのアダプタ、しかも認証製品で充電できるというのは大きな安心感が得られる。

 願わくば、高速充電がもっと高速になってほしい。高速充電は実際にはいたわり充電でもある。デバイスの発熱を監視し、そして、バッテリの充電状況に応じて、刻一刻と電圧や電流を調整する。ずっとチェッカーの表示する値やバッテリ残量表示を見ているとわかるが、残量が少ないときには高速に、そして、残量に余裕があるときには低速にと、丁寧な制御がされていることがわかる。

 クルマのガソリンは空の状態から満タンまで給油しても、そんなに時間はかからない。だから、残りが不安になってはじめてスタンドに立ち寄って給油する。毎日帰宅時に満タンにしてから戻るといったことはしないだろう。

 だが、電気はそうでもない。最新のEVでは10分間で100kmは走行できるだけの電力を蓄積できるそうだが、帰宅したら翌日以降に備えて充電しっぱなしというのが普通だろう。高速道路などに設置されている充電ステーションはあくまでも長距離ドライブ用とされているようだ。

 スマートフォンの充電も、10分間でその日1日分を充電できるようなら、帰宅してすぐに充電というような習慣もなくなるに違いなし、満タンなんてどうでもよくなる。つねに満タンというのは決してバッテリにはよくないはずだ。使う分だけ充電するような感覚で使いたい。そうであってほしいと思う。

 でかける直前に、ちょっと充電すればいいのなら、帰宅のたびにわざわざ充電器にケーブルで接続するようなめんどうなことをする必要はない。

 外出途中に残り容量がわずかになっても、ちょっとカフェに立ち寄り、お茶を飲んでいる間に、テーブルサービスの充電でその日の残りの活動時間をカバーできる電力を蓄電できるのならモバイルバッテリを持ち歩くこともなくなるだろう。自分のクルマのトランクに予備のガソリンを積んで走るようなことはなくなるということだ。気持ちの上で、バッテリがフルでないと出かけるのが不安という脅迫観念とは早くサヨナラしたいものだ。

 こうした環境の実現のためにも、機器の標準化、そして、安心して使えるようにするための認証は重要だ。もちろん機器の価格は認証にかかる費用の分だけ高くなる。

 Energearにしても6,980円(46W)、7,980円(65W)だ。もっとも認証ケーブルつきでの価格だから、かなりがんばっていると考えることもできる。なにしろAppleのケーブルは3,000円超なのだから。

 さて、状況が落ち着くのにはあと何年かかるのか。東京オリンピックのころにはそんな世界が訪れていてほしい。