メーカーさん、こんなPC作ってください!
【特別版】3Dプリンタでオリジナルスマホスタンドを作ろう
~第5回「Photoshop」の3D機能を快適に動かすためのPCを検証
2016年6月8日 06:00
今回の特集のテーマは、3Dプリンタ向けの3Dデータを制作するのに適したPCを作ろうというものだ。ややニッチな用途と思われるかもしれないが、それには理由がある。実は、本コーナーに協力をいただいているパソコン工房が株式会社カブクによる協力の下、一般ユーザーを対象にした3Dプリンタを使ったPCケースデザインコンテストを近日開催する予定になっているのだ。
前回は、アドビシステムズのフォトレタッチソフト「Photoshop」の3D機能を快適に動かすためのPCスペックについて、株式会社グラスプアットジエアーのデザイナーである岩島伊織氏、株式会社グラスプアットジエアーのディレクターである南方祐紀氏、株式会社カブクの横井康秀氏を交えて、ミーティングを行なった。そのミーティングをもとに、パソコン工房が以下に示すデスクトップPC2機種とノートPC1機種を作成した。
一連の3Dプリンタシリーズの最終回となる今回は、それらのマシンを使って、Photoshopの3D機能を実際に試してみたので、その結果を報告したい。また、あわせてPhotoshopを使って、スマホスタンドのひな形データをカスタマイズする方法についても紹介する。
Photoshop CC 向け ハイエンドモデル「Sen-RA09-i7EK-NX-PSCC」の主な仕様 | |
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OS | Windows 10 Home |
CPU | Core i7-5820K(3.3-3.6GHz/6コア/12スレッド/15MBキャッシュ/TDP140W) |
CPUクーラー | 標準CPUクーラー |
メインメモリ | DDR4-2133 4GB×4(クアッドチャンネル/計16GB) |
M.2 | オプション |
SSD | 250GB 2.5インチ |
HDD | オプション |
VGA | GeForce GTX 750 Ti 2GB GDDR5 |
ODD | 24倍速DVDスーパーマルチドライブ |
チップセット | Intel X99 |
ケース | ミドルタワーATXケース IW-EA040 |
電源 | 700W 80PLUS Bronze認証 ATX電源 |
税別価格 | 163,908円 |
Photoshop CC 向け エントリーモデル「Sen-M015-i5-HCS-PSCC」の主な仕様 | |
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OS | Windows 10 Home |
CPU | Core i5-6500(3.2-3.6GHz/4コア/4スレッド/6MBキャッシュ/TDP65W) |
CPUクーラー | 標準CPUクーラー |
メインメモリ | DDR4-2133 8GB×2(デュアルチャンネル/計16GB) |
SSD | 250GB 2.5インチ |
HDD | オプション |
VGA | Intel HD Graphics 530 |
ODD | 24倍速DVDスーパーマルチドライブ |
チップセット | Intel H170 |
ケース | ミニタワーMicroATXケース IW-EM040 |
電源 | 500W 80PLUS SILVER認証 ATX電源 |
税別価格 | 87,980円 |
Photoshop CC 向け ノートモデル「Sen-15FH045-i5T-FES-PSCC」の主な仕様 | |
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OS | Windows 10 Home |
CPU | Core i5-6500T(2.5-3.1GHz/4コア/4スレッド/6MBキャッシュ/TDP35W) |
CPUクーラー | 標準CPUクーラー |
メインメモリ | DDR3-1600 8GB×2(デュアルチャンネル/計16GB) |
M.2 | オプション |
SSD | 250GB 2.5インチ |
VGA | Intel HD Graphics 530 |
ODD | DVDスーパーマルチドライブ |
チップセット | Intel H170 |
液晶 | 15.6型 フルHD対応非光沢 |
専用ドッキングステーション | DS200 RS-232Cレガシーポート搭載ドッキングステーション(※オプションです。標準では付属しません) |
税別価格 | 108,980円 |
Photoshopの3D機能とは
最初にPhotoshopの3D機能について、簡単に紹介したい。Photoshopは、高機能フォトレタッチソフトとして長い歴史を持ち、プロのカメラマンやデザイナーを中心に広く使われている。Photoshopは、新バージョンが登場する度に機能が強化されてきているが、3D機能が搭載されたのは、2007年に登場したPhotoshop CS3 Extendedからである。2012年に登場したPhotoshop CS6 Extendedまでは、高機能版であるExtendedにしか3D機能は搭載されていなかったが、2013年に登場したPhotoshop CCからは、Extended版と通常版が統合され、Extendedの機能も全て通常版に含まれるようになった。ここでは、最新のPhotoshop CC(2015)を指すことにする。
Photoshop CC(2015)では、立方体や円柱、球といった基本的な3Dオブジェクトを作成したり、2Dのパスを押し出したり、回転させたりして3Dオブジェクトを作成することが可能だ。また、3Dレンダリング機能や他のアプリケーションで作成した3Dデータの読み込み機能、STL形式などでの出力機能もあるため、本格的な3D CADの代わりになるとはいわないまでも、3Dプリンタで出力するためのちょっとした3Dオブジェクトを作成する程度なら、Photoshopでも十分用が足りる。
Photoshopの3D機能を快適に利用するためのPCスペックとは
今回、パソコン工房がPhotoshop向けのPCを作成するにあたって、まず重視したのは、メモリ容量だという。Photoshopは、フォトレタッチにおいてもメモリを多量に利用することが多く、特に高解像度写真を複数読み込む場合などは、メモリ容量の多寡によって快適さが変わってくる。
ただし、3D機能を中心に検証した結果では、メモリは16GBは必要だが(8GBではSTL形式での出力時や操作時にメモリ不足でエラーが生じる頻度が高まる)、32GB実装しても使い切ることはなかったとのことだ。
そこで作成したPCは、エントリーモデル、ハイエンドモデル、ノートモデルともメモリを16GB実装している。CPUのコア数については、4コアあれば100%CPUを使い切ることはなく、Core i5でも十分だという結果になった。グラフィックスカードについては、2Dデータを押し出して3Dデータ化する作業や、300個のオブジェクトから構成されている3Dデータを回転するといった作業において、Photoshop CC側の3Dモデリングの操作後、処理時間をはさむため、GPU性能があっても結局待ち時間が発生し、高速なグラフィックカードを搭載しても効果が薄いという検証結果が出たという。
また、「Fusion 360」ではビデオメモリの消費が大きい。Photoshop CCの場合も、ビデオメモリを同様に多く消費しますが、4GB以上のビデオメモリを使い切る前にPhotoshop CC自体の3D処理の限界がくるようなので、ビデオメモリは最低でも2GB~4GBあればよいとの結論に達したとしている。
これらは、Intelオンボード、GeForceとQuadroで確認したが、上記挙動の違いは見受けられず、コストパフォーマンスを重視し、オンボードモデル、GeForceモデルを用意することにしたという。
パソコン工房の検証によると、ハイエンドモデルとほぼ同等のスペックのPCとエントリーモデルとほぼ同等のスペックのPCで、下の画面のように2Dデータを押し出して3Dデータ化するのにかかった時間を計測すると、ハイエンドモデルが13.9秒だったのに対し、エントリーモデルは15.1秒という結果になった。確かに多少の差はあるが、実際の操作感はほとんど変わらない。また、その3DデータをSTL形式で書き出すのにかかった時間は、ハイエンドモデルが2.1秒だったのに対し、エントリーモデルが1.9秒とほぼ同じであった(むしろエントリーモデルのほうが高速だが、手動計測なので誤差の範囲であろう)。
下の図は、3Dデータに関するパソコン工房での検証結果をまとめたもの。かなり詳細な検証を行なっていることが分かるだろう。その内容の解説や、2Dなど他のベンチマークの結果などは、パソコン工房の「パソコン実験工房」のページを参照して欲しい。
2Dのロゴデータを押し出して3Dデータ化したもの
後述するスマホスタンドのカスタマイズ作業では、今回パソコン工房が作成した3機種の中で最もローエンドとなるノートモデルを利用したが、どの操作においてもほとんど処理待ちはなく、快適に作業が行なえた。
もちろん、もっと複雑なパスを押し出して3Dオブジェクトを作る場合などは、スペックの差が出てくることもあるだろうが、今回行なったスマホスタンドのカスタマイズはもちろん、3D機能の初中級者が作る程度の3Dモデルなら、エントリーモデルやノートモデルでもスペック的には十分であろう。むしろ、数千万画素クラスのハイエンドデジタル一眼レフカメラで撮影した高解像度写真にエフェクトをかけるような作業の方が、マシンスペックの差が出てくる。そういった2D編集は非常にメモリ容量重視となるため、Intel X99チップセットベースとなるハイスペックモデルは6コアのCPU性能より、最大128GBというメモリの搭載容量の方が意味を持つということで、ラインナップに加えられた。
Photoshopを使ってスマホスタンドをカスタマイズする
それでは、Photoshopを使って、スマホスタンドをカスタマイズする方法を紹介しよう。前述したように、Photoshopはあくまでフォトレタッチ機能がメインであり、3D CADのように、複雑な3Dモデリングを行なうためのソフトではない。しかし、2Dデータから3Dモデルを起こすのは得意であり、例えば、筆で書いた手書きの文字やイラストなどをスキャンしたものを3D化して、スマホスタンドに貼り付けるといったことは、逆に3D CADでは難しい。本格的な3Dモデリングを行ないたいのなら、Fusion 360などの3D CADを使うことをお勧めするが、Illustratorなどで描いたイラストなどの2Dデータを立体化してスマホスタンドに貼り付ける程度なら、Photoshopで十分だ。
もちろん、3D機能を使うためにわざわざPhotshopを購入するというのはナンセンスだが(それなら無料で使えるFusion 360をお勧めする)、写真を撮るのが趣味という方なら、古くからPhotoshopを使っているという人も多いことだろう。Photoshopのユーザーなら、新たなソフトの使い方を覚えなくても、以下で紹介しているような簡単な3Dモデリングができるので、試してみてはいかがだろうか。
ここでは、Photoshopの3D機能の活用例として、カブクに提供していただいたスマホスタンドのひな形のSTL形式データに、筆ペンで紙に書いた名前をスキャンしたものを3Dデータ化して貼り付ける手順を紹介する。
1.手書きデータをスキャンして取り込み、作業パスを作成する
まず、筆ペンを使って紙に名前を書き、複合機のスキャン機能などを利用してスキャンし、JPEG形式のデータにする。スキャン解像度は最低150dpi、通常は300dpi程度でいいだろう。次にPhotoshopを起動し、スキャンした画像を読み込み、文字を選択して、その輪郭をパス化する。具体的な手順は以下の画面キャプチャとキャプションを参考にして欲しい。
2. パスを押し出して3Dモデルにする
次に、作成したパスを押し出して3Dモデルに変換する。ここでは単純に押し出しているだけだが、ねじりながら押し出したり、テーパーをつけることもできる。作成された3Dオブジェクトは自由に移動や回転、拡大縮小が可能だが、サイズの調整などはスマホスタンドに貼り付けるときに行なえばよい。具体的な手順は以下の画面キャプチャとキャプションを参考にして欲しい。
3. ひな形データを読み込み、手書き文字を3D化したものを貼り付ける
続いて、Rinkakで公開されているスマホスタンドのひな形のSTL形式データを読み込み、さきほど作成した手書き文字の3Dオブジェクトをその上に貼り付ける作業を行なう。スマホスタンドのひな形データと手書き文字の3Dオブジェクトは、別々のレイヤーとして読み込まれるので、以降の作業のためにまずレイヤーを統合する。レイヤーを統合しても、スマホスタンドと手書き文字は別々の3Dオブジェクトとして扱われており、マウス操作で自由に移動や回転、拡大縮小が可能だ。
スマホスタンドのひな形データは、iPhone 6用にデザインされているが、ここでサイズを変更することで、他のスマートフォンやタブレットにも対応できる。スマホスタンドのサイズをお使いのスマートフォンなどにあわせて変更し、手書き文字の3Dオブジェクトも適切なサイズにしてスマホスタンドに貼り付ければ完成だ。具体的な手順は以下の画面キャプチャとキャプションを参考にして欲しい。
4. シーンを統合して3Dプリント用STL形式データを出力する
スマホスタンドのカスタマイズが終わったら、3Dプリントを行なうために、シーンを統合してSTL形式で書き出せば、Photoshopでの一連の作業は終了だ。具体的な手順は以下の画面キャプチャとキャプションを参考にして欲しい。
書き出したSTL形式のデータをRinkakなどの3Dプリントサービスやパーソナル3Dプリンタを利用して出力すれば、世界に1つしかないオリジナルスマホスタンドを手に入れることができる。
本連載は、今回で最終回となります。ご愛顧ありがとうございました。装いを新たにして別の連載を開始する予定ですので、今後ともよろしくお願いいたします。 制作協力:ユニットコム