メーカーさん、こんなPC作ってください!

【特別版】3Dプリンタでオリジナルスマホスタンドを作ろう

~第3回オートデスクの「Fusion 360」を快適に動かすためのPCを検証

 PCは実に多くのことができるが、最近ではスマートフォンなどの能力も一気に向上しており、PCでなければできないことは減りつつある。だが、ものづくり、あるいはそこまで行かなくても、自分で編集・作成するオリジナルコンテンツの制作においては、PCに比肩するデバイスはないのが現状だ。

 ただし、何でもできると言っても、実際には、予算上限が決まっているので、いくらでも高性能なパーツを使えるわけではないし、1人が使う用途もある程度限られている。

 本コーナーでは、主にクリエイターやクリエイターを目指すユーザーを想定し、特定の用途において価格性能比の面で最適なPCとはどのようなものかを、その分野に造詣の深い専門家やライターの方、および実際にPCを製造するメーカー、PC Watchの三者が一緒に議論、検討し、実際に製品化する。

 今回の特集のテーマは、3Dプリンタ向けの3Dデータを制作するのに適したPCを作ろうというものだ。ややニッチな用途と思われるかもしれないが、それには理由がある。実は、本コーナーに協力をいただいているパソコン工房が株式会社カブクによる協力の下、一般ユーザーを対象にした3Dプリンタを使ったPCケースデザインコンテストを近日開催する予定になっているのだ。

 前回は、オートデスクの3D CAD「Autodesk Fusion 360」を快適に動かすためのPCスペックについて、Fusion 360 エヴァンジェリストの藤村祐爾氏を交えて、ミーティングを行なった。そのミーティングを基に、パソコン工房がFusion 360向けPCを作成。スマホスタンドや、スマホケースなど、簡単なものなら十分に製作できるエントリークラスからFusion 360をしっかり使い込めるハイスペックまで3モデルを用意した。

 ここでは、そのうち「Fusion 360向けミドルモデル」(以下ミドルモデル)と「Fusion 360向けハイスペックモデル」(以下ハイスペックモデル)の2台を使って、Fusion 360を実際に動かし、そのインプレッションやベンチマーク結果を報告したい。また、併せてFusion 360を使って、スマートフォンスタンドのひな形データをカスタマイズする方法についても紹介する。

Fusion 360向けエントリーモデル「Sen-M015-i3-HFS-Drafter 3D CAD」。エントリーモデルはレンダリングなどCPUを使う作業はクラウドサーバーに任せてしまい、思い切りコストを抑えたモデル。Intel内蔵GPUの性能を引き出すためDDR4メモリをデュアルチャンネルで搭載している
【Fusion 360向けエントリーモデル「Sen-M015-i3-HFS-Drafter 3D CAD」の主な仕様】
OSWindows 10 Home
CPUCore i3-6100(3.7GHz/2コア/4スレッド)
CPUクーラー標準CPUクーラー
メインメモリDDR4-2133 4GB×2(計8GB)
SSD240GB 2.5インチ Serial-ATA SSD
GPUIntel HD Graphics 530(CPU内蔵グラフィックス)
ODD24倍速DVDスーパーマルチドライブ
チップセットIntel H170
ケースIN WIN IW-EM040
電源500W 80PLUS SILVER認証 ATX電源
税別価格70,980円
Fusion 360向けミドルモデル「Sen-M015-i5-NXS-Drafter 3D CAD」。作り込みや、取込みメッシュデータの追加、フィギュア制作など、より本格的に3D制作を行なっていくのに最適。GPUにGeForce GTX 750 Ti(2GB)を採用し、メモリは余裕の16GBを搭載で、作り込みのデータにも対応できる。数年後の上達を見据えるならミドルクラスを推奨
【Fusion 360向けミドルモデル「Sen-M015-i5-NXS-Drafter 3D CAD」の主な仕様】
OSWindows 10 Home
CPUCore i5-6500(3.2GHz/4コア/4スレッド)
CPUクーラー標準CPUクーラー
メインメモリDDR4-2133 8GB×2(計16GB)
SSD1240GB 2.5インチ Serial-ATA SSD
GPUGeForce GTX 750 Ti
ODD24倍速DVDスーパーマルチドライブ
チップセットIntel H170
ケースIN WIN IW-EM040
電源500W 80PLUS SILVER認証 ATX電源
税別価格101,980円
Fusion 360はビデオメモリを大量に消費する。その動作に最適とする4GBのメモリを搭載しつつ、コストパフォーマンスに優れたGeForce GTX 960を標準搭載した最上位のハイスペックモデル。Fusion 360の機能を限界まで使い込みたいユーザーに最適のPC。4コア8スレッド処理のCore i7を搭載し、コア数が効くシミュレーションやレンダリングも高速に実行することができる
Fusion 360 向け ハイスペックモデル「Sen-R017-i7-RMS-Drafter 3D CAD」の主な仕様
OSWindows 10 Home
CPUCore i7-6700(3.4GHz/4コア/8スレッド)
CPUクーラー標準CPUクーラー
メインメモリDDR4-2133 8GB×2(計16GB)
SSD1240GB 2.5インチ Serial-ATA SSD
VGAGeForce GTX 960(4GB GDDR5)
ODD24倍速DVDスーパーマルチドライブ
チップセットIntel Z170
ケースIN WIN IW-EA040
電源500W 80PLUS SILVER認証 ATX電源
税別価格139,980円

 Fusion 360で作成したデータはクラウド上に保存されるため、ストレージはすべてのモデルで必要最低限の240GB SSDを搭載している。注文時には必要に応じてHDDの追加や、SSDの容量アップのカスタマイズが行なえる。これらのモデルの詳しい検証内容と、モデル構成選定の詳細については、パソコン工房 実験工房に掲載されているので、そちらを参照して欲しい。

モデリング作業ならエントリーモデルでも十分

 Fusion 360は、非常に高機能な3D CADソフトであり、レンダリングやシミュレーションなどの機能もすべて統合されていることが特徴だ。しかし、PCケースデザインコンテストに向けた作品作りや、さらにその入門編として位置付けられるオリジナルスマホスタンド作りなら、Fusion 360の基本的なモデリング機能を利用するだけで十分だ。当然、扱う3Dモデルが複雑になればなるほどデータ量が増加し、処理が重くなるわけだが、3D CADの初心者がそこまで複雑な3Dモデルを作る可能性は低い。ただし、高精度の3Dスキャナを使って、全身をスキャンした3Dデータを扱う場合は別だ。この場合は、ポリゴン数が数十万から数百万になることもあり、かなりの性能が要求される。

 そこでここでは、やや重めの3Dデータとして、藤村氏がモデリングしたミニ四駆の3Dデータ(Fusion 360のギャラリーに公開されている)を使って、マシンの性能を検証することにした。この3Dデータのサイズは38.8MB(f3d形式)であり、1,000ステップ近いステップによって作成された大作だ。

藤村氏が作成したミニ四駆の3Dモデル。やや重い3Dデータである

 まず、この3DデータをFusion 360に読み込ませ、モデルの拡大縮小や回転、変形などを行なってみたが、ハイスペックモデルはもちろん、ミドルモデルでもマウスの動きが即座にモデルに反映され、待たされるようなことはなかった。筆者が普段使っているモバイルノートPC(Core i7-2640M/メモリ8GB/SSD 512GB)でも、こうした基本操作については特に問題はなかったが、パソコン工房のエントリーモデルによる検証によれば、ビデオメモリが1.2GBほど消費している状態で、メモリは6GB以上消費され、かなりギリギリな状況だったということなので、筆者が使っているようなノートPCでは、きちんとFusion 360による制作を行なった場合、かなりシビアな動作になりそうだ。パソコン工房はこれくらいのモデリングなら、余裕を見て、今回のミドルクラス以上のPCを使うことを推奨している。

ミニ四駆の拡大縮小や回転、一部の変形などを行なってみた

複雑な3Dモデルの履歴参照やSTL形式への変換はCPUの差が出てくる

 Fusion 360は、作業の履歴が1ステップずつ全て保存されるので、途中で任意のステップに戻り、そこで修正が可能だ。今回ベンチマークに利用した3Dデータは1,000ステップ近い履歴でできているが、こうした長い履歴を持つ3Dデータで、任意のステップに戻る操作はかなり重い処理となる。そこで、最初から5つめの履歴をダブルクリックして、その状態まで戻るのにかかる時間を計測した。計測は3回行ない、その平均を採用した。結果は下の表にまとめた通りで、ハイスペックモデルは6.5秒、ミドルモデルは7.5秒、参考用のモバイルノートPCでは15.2秒という結果になった。やはり、こうした重い処理だと、マシンのスペック差が出てくる。履歴を戻りつつ処理を行なっていくため、CPU性能が効いてくると思われる。パソコン工房の検証によると、こうした処理はシングルコア処理となり、CPUの動作クロックが効いてくるようだ。

 また、モデリングが完了して、Rinkakなどの3Dプリントサービスを使って3Dプリントを依頼したり、パーソナル3Dプリンタを使って3Dプリントを行なうには、必ず汎用形式であるSTL形式に変換して保存する必要がある。STL形式では、物体がすべて三角形のポリゴンに分割されて表現されるが、このときにどのように分割されるのか、Fusion 360にはそのメッシュをプレビューする機能がある。このメッシュプレビュー機能も、多くの曲面を持つ複雑なモデルではかなり時間がかかる処理となる。

 ポリゴンの細かさを決めるリファインメントを「高」にして、メッシュプレビュー処理が完了する時間を計測したところ、ハイスペックモデルは2分52秒、ミドルモデルは3分21秒、モバイルノートPCは7分35秒という結果になり、こちらも今回用意されたFusion 360向けPCとモバイルノートPCでは、2倍以上の差が出た。ちなみに分割されたポリゴンの数は2,105,436となった。メッシュプレビューは頻繁に利用する機能ではなく、基本的に最後のSTL変換時のみ利用するものなので、多少待たされても問題はないという考えもあるが、メッシュプレビューも短時間で完了させたいのなら、ミドルモデル以上がお勧めだ。パソコン工房の検証によると、こうした処理はマルチコア処理となり、CPUのコア数が効いてくるようだ。

 メッシュプレビューとSTL形式での出力自体は独立しており、メッシュプレビューをせずに直接STL形式で出力することもできる。そこで最後にSTL形式で出力するのにかかる時間を計測した。こちらもポリゴンの細かさを決めるリファインメントを「高」にしたが、こちらを「中」や「低」に下げれば、出力にかかる時間はより短くなる。その結果は、ハイスペックモデルが6.4秒、ミドルモデルが8.1秒、モバイルノートPCが28.8秒となった。こちらは、ハイスペックモデルとモバイルノートPCでは4倍以上の差が出ており、CPUのコア数やクロックの違いが効いていると思われる。

Fusion 360ベンチマーク結果
Fusion 360向けハイスペックモデルFusion 360向けミドルモデルCore i7-2640M搭載モバイルノートPC
履歴を戻るのにかかる時間6.5秒7.5秒15.2秒
メッシュのプレビューにかかる時間2分52秒3分21秒7分35秒
STL形式での保存にかかる時間6.4秒8.1秒28.8秒

 以上の検証から、Fusion 360が初めて使う3D CADとなるユーザーなら、エントリーモデルで十分快適にモデリングが可能だと思われる。スマホスタンドや身の回りで役に立つ小物をモデリングして3Dプリントするのなら、エントリーモデルでも不満はない。

 今回は、3Dプリントが主眼なので、CG作品として仕上げるレンダリング機能については触れないが、レンダリングを行なう場合でも、Fusion 360はクラウドの計算能力を利用してレンダリングを行なう、クラウドレンダリング機能が用意されているため、それほど高いCPUパワーは不要なのだ。

 ただし、3Dスキャンデータを取り込んで、それをベースに編集を行なったり、より高度なモデリングを行ないたいのなら、エントリーモデルではやや力不足に感じることもあるだろう。すでにほかの3D CADを使いこなしているユーザーや、まだ3D CADは初心者だが、今後継続的に3D CADに取り組みたいという人は、性能に余裕があるミドルモデルがお勧めだ。

 ハイスペックモデルは、シミュレーションやCAMといった、より複雑なモデリングなど、より高度な機能を存分に活用したい人に向いている。パソコン工房の検証によると複雑なモデリングをする場合、ビデオメモリを多く消費するとのことなので、ビデオメモリを多く搭載したハイスペックモデルが好適という。また、ハイスペックモデルは、GPU性能も高いため、最新3Dゲームなど、Fusion 360以外の重い用途も十分にこなせるだろう。

 なお、以下に、Fusion 360を利用して、今回カブクに提供していただいたスマホスタンドのひな形の3Dデータをカスタマイズする簡単な方法をいくつか紹介するが、この程度の作業なら、エントリーモデルはもちろん、数年前に発売されたモバイルノートPCでも十分なので、興味を持った方は是非試していただきたい。

下に並んでいるのが履歴だ。最初から5つめの履歴をダブルクリックして戻る時間を計測した
STL変換時にメッシュプレビューするのにかかる時間を計測した。リファインメントは「高」に設定した
リファインメント「高」で、STL形式に変換して保存する時間を計測した

Fusion 360を使ってスマホスタンドをカスタマイズする

 それでは、Fusion 360を使って、スマホスタンドをカスタマイズする方法をいくつか紹介しよう。ひな形のSTEP形式データはこちらから(右クリックからダウンロード)からダウンロードできる。ここで紹介している方法は、Fusion 360のもっとも基本的な機能しか利用していない。しかし、基本的な機能でも、それらを組み合わせることで、より複雑なモデリングが可能になる。まずはカスタマイズからはじめて、次は自分で最初からモデリングすることに挑戦してみてはいかがだろうか。

1. サイズを変更する

 今回提供されているスマホスタンドのひな形のサイズは8.4×9.8×1.6cm(幅×奥行き×高さ)で、iPhone 6に合わせたサイズとなっている。そのため、iPhone 6より横幅の大きなスマホで使いたい場合は、サイズを変更しなければならない。また、サイズを大きくすれば8型タブレットなどのスタンドとして使うことも可能だ。サイズの変更には、「修正」→「尺度」を利用すると楽だ。尺度では、X軸Y軸Z軸を同じ比率で拡大縮小できるだけでなく、それぞれの軸を独立した比率での拡大縮小が可能だ。このひな形だと、「X距離」が幅、「Y距離」が高さ、「Z距離」が奥行きになるので、例えば幅と奥行きを1.5倍にしたければ、X距離とZ距離を1.5に、Y距離を1.0にすれば良い。具体的な手順は以下の画面キャプチャとキャプションを参考にして欲しい。

STEP形式のデータを読み込むと、作業スペースが「スカルプ」になっているので、作業スペースを「モデル」に変更する
「修正」→「尺度」を選択する
スマホスタンドをクリックして指定する(青色になる)
尺度のタイプを「不均一」にする
X距離、Y距離、Z距離を入力する。この数値が拡大率となる
尺度の設定ウィンドウで「OK」をクリックすれば、拡大や縮小が行なわれる

2. 穴をあける

 今度は、上面に穴をあける方法を紹介しよう。ここでは単純に円形の穴をくり抜いているが、同じ方法で長方形やスケッチで描いた任意の形状でくり抜くことも可能だ。具体的な手順は以下の画面キャプチャとキャプションを参考にして欲しい。

先ほどと同様に、作業スペースを「モデル」に変更する
「スケッチ」→「円」→「中心と直径で指定した円」を選択する
スマホスタンドの上面をクリックして選択する
円の中心をクリックする
マウスをドラッグするか、数値を入力して円の半径を指定する
円が描けたら「スケッチを停止」をクリックする
また斜めから見た視点になる
「作成」→「押し出し」を選択する
先ほど描いた円の中をクリックして指定する
矢印を下側にドラッグして、上面の厚さ以上になったら止める
押し出しの設定ウィンドウで操作が「切り取り」になっていることを確認して、「OK」をクリックすると、円が切り抜かれる

3. 名前などの文字を入れる

 次に名前などの文字を入れる方法を紹介する。英字だけでなく、日本語の文字も入れることができる。今回は上に字を盛り上げているが、逆に凹ませることも可能だ。具体的な手順は以下の画面キャプチャとキャプションを参考にして欲しい。

先ほどと同様に、作業スペースを「モデル」に変更する
「スケッチ」→「テキスト」を選択する
スマホスタンドの前面(斜めになっている面)をクリックして選択する
テキストの左下の位置をクリックして指定する
テキストを入力して、高さやフォントなどを指定する
「OK」をクリックすると、テキストが表示される
「スケッチを停止」をクリックする
また斜めから見た視点になる
「作成」→「押し出し」を選択する
名前の文字をクリックして選択する
マウスで矢印をドラッグするか、距離に数字を入れて、文字の高さを決める
押し出しの設定ウィンドウで「OK」をクリックすると、文字が立体として押し出される

4.STL形式で出力する

 最後は、STL形式で出力する方法だ。スマホスタンドのカスタマイズが完了したら、そのままの形式で保存した後、STL形式に変換して出力する必要がある。Rinkakなどの3Dプリントサービスも、基本的にSTL形式のデータをアップロードすることになっているためだ。具体的な手順は以下の画面キャプチャとキャプションを参考にして欲しい。

左のブラウザの下のファイル名を右クリックして、コンテキストメニューを開き、「STL形式で保存」を選択する
STL形式で保存のウィンドウが現れる。基本的にはそのまま「OK」をクリックすれば良いが、より高精度に変換したい場合は、リファインメントオプションを「高」にする
ファイル名を指定すれば、STL形式で出力される

(石井 英男)