■西川和久の不定期コラム■
2011年のCESでは色々なものが展示された。個人的に面白そうなものが何点かあったが、このAMDのGPU統合CPU「Fusion APU」もその1つ。早くも秋葉原でマザーボードの販売が開始されたので購入し、試しながらのレポートをお届けする。
GPU統合CPUと言えば、(一部例外もあるが)IntelのCore iプロセッサや第2世代Atomプロセッサなどがあげられる。GPUのパワー自体はそれほどではないものの、CPUと一体化していることにより、システムとして見た時、省エネが期待できる。特にノートPCの場合、バッテリ駆動時間が伸びるため、外部にGPUを搭載していても、バッテリ駆動時は内蔵GPUへ切り替える方式をとるマシンが多い。
そのような中、AMDからGPU統合CPU「Fusion APU」が発表、そして出荷開始となった。現在、大きく別けてラインアップはEシリーズとCシリーズの2つ。それぞれ2モデルあり、前者は2コア/1.6GHzのE-350とシングルコア/1.5GHzのE-240、後者は2コア/1GHzのC-50と、シングルコア/1.2GHzのC-30となっている。
今回入手したマザーボードASUS「E35M1-M PRO」は、この中でも最上位ランクとなるE-350を搭載したものだ。主な仕様は以下の通り。
ASUS「E35M1-M PRO」の仕様 | |
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CPU | AMD E-350(2コア/2スレッド、1.6GHz、キャッシュ512KB×2、TDP 18W) |
チップセット | AMD A50M FCH(SATA 6.0Gbps対応×6) |
メモリ | DIMM2スロット(DDR3-800/1066、最大8GB) |
グラフィックス | 内蔵Radeon HD 6310(DirectX 11対応)、DVI-D、HDMI、ミニD-Sub15ピン |
拡張バス | 1×PCIe x16(x4動作)、1×PCIe x1、2×PCI |
LAN | Gigabit Ethernet |
バックパネルI/O | USB 3.0×2、USB 2.0 ×4、eSATA×1、IEEE 1394、8ch HD Audio、光デジタル出力、PS/2ポート |
サイズ | 24.4×18.3cm(microATX) |
価格 | 16,000円前後 |
CPUはAMD E-350。2コア、1.6GHz、キャッシュ512KB×2、TDP 18W。AMD-VやAMD64には対応しているが、Hyper-Threading相当の機能は無い。また同じデュアルコアのTurion Neo X2 L625(1.60GHz/L2 キャッシュ 1MB)もTDPは18Wであるが、GPUはチップセット側。同じTDP18Wでも含まれている機能が違う。
そのCPUに統合されているGPUは「Radeon HD 6310」。動作周波数500MHz、シェーダ数80。ノートPC用のMobility Radeon HD 5430が550MHz/シェーダ数80なので、近いだろうか。最大の特徴はDirectX 11に対応、動画支援機能UVD3を搭載していること。ご存知のように、Intelの第2世代Core iプロセッサの内蔵GPU、Intel HD Graphics 2000/3000は、DirectX 10.1までの対応。AMDのFusion APUは、現時点でCPU統合型GPUとしては唯一のDirectX 11対応となる。またIntel HD Graphics 2000/3000のようなエンコード専用のエンジンは搭載していないものの、GPGPUのATI Streamが使えるので、H.264などのエンコードはソフトウェア側が対応していれば速くなる。
出力は、DVI-D、HDMI、ミニD-Sub15ピンの3系統。DVI-DとHDMIの最大解像度は1,920×1,080@60Hz。ミニD-Sub15ピンは2,560×1,600@60Hz。加えてミニD-Sub15ピンとDVI-D、もしくはミニD-Sub15ピンとHDMIのデュアルディスプレイもサポートしている。
チップセットは、E/Cシリーズ共通の「AMD A50M FCH」。6Gbps対応SATAポート×6があるのが特徴的だ。ただしUSB 3.0には非対応。外付けまたは追加チップが必要となる。またPCI Express 2.0のスロットは持っているものの、最大x4まで。従ってこのマザーボードにあるPCIe x16はx4相当となる。ただ初めからグラフィックカードを付けることを考えるユーザーは、このマザーボードを選ばないだろうから特に問題無いだろう。PCIはサポートしないが、E35M1-M PROはブリッジチップを搭載することでPCIスロット×2を設けている。
メモリは、DDR3-800/1066に対応。2スロット、最大4GB×2の8GBまで。既に秋葉原などでは、DDR3-800/1066は無く、DDR3-1600やDDR3-1333に入れ替わっているが、基本的に下位互換なので、(相性の問題はあるかも知れないものの)そのまま流用できる。
その他のインターフェイスとしてリアパネルにあるのは、Gigabit Ethernet、USB 3.0×2、USB 2.0×4、PS/2ポート、eSATA、IEEE 1394、8ch High Definition Audio、光デジタル出力。通常これだけあれば困らない。さらにボード上には、COM、LPT、フロントパネル用オーディオコネクタ、IEEE 1394、USB 2.0×4、S/PIDF OUTがある。リアパネルのeSATAと5ポートのSATAは全て6Gbps対応に対応している。
サイズは24.4×18.3cmのmicroATX、価格は1.6万円程度。DirectX 11、USB 3.0、SATA 6Gbpsなど、最新のデバイスに全て対応しているので色々遊べそうなマザーボードと言えよう。定格で使う限りファンレス仕様なのも魅力的だ。
付属品としては、マニュアル、I/Oシールド、CPUファン、サポートCD-ROM、SATA 6Gbps対応ケーブル。
ASUS「E35M1-M PRO」のBIOSは、一般的な文字(CUI)ベースのBIOSではなく、GUIベースのEFI BIOSとなっている。筆者のように、昔からPCを触っていた人間にとってはCUIベースの方が触りやすいものの、画面キャプチャをご覧頂ければ分かるように、結構使い易く工夫がされている。
EFI BIOS/EZ Mode | EFI BIOS/Advanced Mode/Main | EFI BIOS/Advanced Mode/Ai Tweaker |
EFI BIOS/Advanced Mode/Advanced | EFI BIOS/Advanced Mode/Monitor | EFI BIOS/Advanced Mode/Boot |
早速その性能を試すため、64bit版のWindows 7 Home Premiumをインストールした。インストール直後は、ビデオ、LAN、USB 3.0などを認識しないが、付属のマザーボードサポートCDで簡単にセットアップできる。一括インストールを選択、一度リブートすればOKだ。特に問題は発生せず、簡単にWindows 7を動かすことができた。出たばかりのプラットフォームの割には安定している印象だ。
マザーボードサポートCD/ドライバ | マザーボードサポートCD/ユーティリティ | マザーボードサポートCD/特徴(ノートン インターネット セキュリティ 2011) |
ドライバをまとめてインストール | ユーティリティをまとめてインストール | ASUS Ai Charger(USBのバスパワーコントロール)のインストール |
1つ気になったのは、付属のCPUファン。オーバークロックをしない限り、ヒートシンクのみでファンレス動作が可能なのだが、オーバークロック時はこのCPUファンを取り付けなければならない。その際、ヒートシンクにネジ穴は無く、スリットの間を適当にネジ止めすることになる。この時、ネジ溝の傷が付いてしまうのだ。特にヒートシンクは綺麗なブルーなので、傷の部分はアルミの色がむき出しとなり、CPUファンを外したときに気になってしまう。掲載した写真は一度CPUファンを付け、外して撮影したので、良く見ると傷があるのが分かる。専用のネジ穴が欲しいところだ。
●ほぼ予想通りのパフォーマンスベンチマークテストはWindows エクスペリエンス インデックスとCrystalMarkの結果を見たい。比較対象として筆者が以前掲載したIntel D510MOマザーボード(Atom D510/クロック1.66GHz、2次キャッシュ512KB×2、TDP 13W)の値もカッコ内に併記する。ちなみにこの時に使っているSSDと、今回使っているSSDは同じものだ。
Windows エクスペリエンス インデックスは、プロセッサ 3.8(3.4)、メモリ 4.9(4.6)、グラフィックス 3.9(3.1)、ゲーム用グラフィックス 5.6(3.1)、プライマリハードディスク 5.9(5.9)。直接関係ないHDD以外、全てE-350が上回っている。特にゲーム用グラフィックスの5.6はなかなかの値。
CrystalMarkは、ALU 10533(10107)、FPU 9658(8292)、MEM 8079(8009)、HDD 17808(19293)、GDI 4148(2417)、D2D 2119(1166)、OGL 8514(482)。クロックが1.6GHz vs 1.66GHzにも関わらず、ALU/FPU共にAtom D510を上回っている。さらにGDI/D2Dで約2倍、OGLは何と20倍もの差となった。1月に掲載したIntel Core i7-2600のIntel HD Graphics 2000でさえD2D 1766、OGL3300(流石にGDIは18405)。
事前に色々情報が出回っていたので、ある程度予想できたが、期待を裏切らない結果となった。CESではThinkPad X100eの後継機、ThinkPad X120eにE-350が搭載されるなど、いくつかのマシンを展示していた。これから実機の出てくるのが楽しみだ。
●オーバークロック対応
定格で動かす限りは先にあげた性能だが、ASUS「E35M1-M PRO」はオーバークロックにも対応している。方法はEFI BIOSで設定、Windows上でTurboV EVOを使って設定、Windows上でAuto Tuning、そしてマザーボード上にある「Turbo Key IIスイッチ」をONにする……と、4パターン。
筆者は随分前からオーバークロックをしていないので、お任せで安心な、Auto TuningとTurbo Key IIスイッチを試すことにした。どちらもシステムが状態を判断して、無理のないオーバークロックを自動的に設定する。Auto Tuningは、クリック一発→リブートで完了。Turbo Key IIは電源OFFの時にON側へスイッチを入れ(この時LEDが点燈する)電源ONにすれば完了と、とても簡単なもの。
結果的にクロックが100MHz×16=1,600MHzから103MHz×16=1,648MHzと、48MHzだけアップした。この状態でのWindows エクスペリエンス インデックスは、総合 3.9(3.8)。プロセッサ 3.9(3.8)、メモリ 5.1(4.9)、グラフィックス 4.1(3.9)、ゲーム用グラフィックス 5.7(5.6)、プライマリハードディスク 5.9(5.9)。CrystalMarkは、ALU 10779(10533)、FPU 9771(9658)、MEM 8312(8079)、HDD 17911(17808)、GDI 4387(4148)、D2D 2176(2119)、OGL 8798(8514)。
カッコ内は定格の値だが、何とWindows エクスペリエンス インデックスは軒並みスコアが上昇している。Auto TuningとTurbo Key IIのロジックは同じらしく、どちらも値は変わらず。単にきっかけがソフトウェア的かハードウェア的かの違いなのだろう。またこの時、ヒートシンクが熱くならないのも(冷たいまま)印象的だった。
ここまでくると、せめてWindows エクスペリエンス インデックスの全スコアを4以上、つまりCPUをもう0.1だけ上げたいと思い、色々やってみたが110MHz×16=1,760Mzまでは安定して動いたものの、CPUのスコアは3.9のまま。電圧関係を触っていないので、さらに上がる可能性は残っているが、それ以上は試していない。
参考までに、E-350と環境の近いPCのWindows エクスペリエンス インデックスを掲載した。トータル的にAtomプロセッサ+IONシステムより上なのが分かる。CPUがそれなりに速いのももちろんだが、ゲーム用グラフィックスの5.6は圧巻だ。これでGPUをCPUに統合し、TDP 18Wと言うのだから、消費電力における性能比率はかなり高いことが分かる。
Windows エクスペリエンス インデックスの比較 | ||||||
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マシン | E35M1-M PRO (Auto Tuning) | ThinkPad Edge 13" | ThinkPad X100e | Eee PC VX6 | ASR3610-A44 | Intel D510MO |
CPU/GPU | E-350/Radeon HD 6310 | Turion Neo X2 L625/Radeon HD 3200 | Athlon Neo MV-40/Radeon HD 3200 | Atom D525/ION | Atom 330/ION | Atom D510 |
Processor | 3.8(3.9) | 4.2 | 3.1 | 3.5 | 3.3 | 3.4 |
Memory | 4.9(5.1) | 5.8 | 4.9 | 4.9 | 4.5 | 4.6 |
Graphics | 3.9(4.1) | 3.2 | 3.5 | 3.2 | 4.3 | 3.1 |
Game | 5.6(5.7) | 4.5 | 4.8 | 3.7 | 5.3 | 3.1 |
基本的にAMD E-350は、Atomプロセッサなどと同じローエンド向けなので、過度の期待は禁物であるが、それでもASUS「E35M1-M PRO」に関しては、I/OまわりはUSB 3.0も含め全部入り、内蔵GPUの性能もCPUのクラスを考慮すると強力で、オーバークロック対応と、普段使いなら十分なパフォーマンスを発揮する。価格も手頃で「ちょっと作ってみるか!」にピッタリな逸品と言えよう。