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1,000nitの高輝度とHDRで映画はここまで変わる!

PhilipsのDisplayHDR 1000対応液晶を鳥居一豊氏が徹底解剖

PC向けの「DisplayHDR」とはどんな規格なのか

 近年、薄型TVにおいて、4K解像度の大画面モデルが登場し、UHD BD(4K BD)や4K動画配信サービスが普及してきている。4K解像度が大きな特徴ではあるが、それだけでなく、「HDR」という言葉を見かけることも増えてきている。

 HDR(High Dynamic Range)とは、一般的なディスプレイが最大100nitの明るさを表現できるのに対し、規格上では最大1万nitもの高輝度表示が可能な高輝度表示技術だ。これまでは明るすぎて真っ白になってしまうような強い光も階調性を維持して表示できるので、より明るく力強い映像が表現できる。同時に明暗のダイナミックレンジが広がるため、黒く潰れがちな暗部の再現性も大きく向上するのだ。

 HDR規格は、映画などのメディアで先行して採用され、現在発売されている家庭用の4K TVのほとんどはHDRに対応済み。色域的に表現できる色の範囲を大幅に拡大したBT.2020なども採用されており、4Kの高解像度、HDRの高輝度表示、BT.2020の広色域による、よりリアルな映像が楽しめるようになっている。

 こうした4K時代のコンテンツが普及したことにあわせて、4Kコンテンツの視聴や制作のため、PC用のディスプレイでもHDRへの対応が求められてきた。そこで、PC向けビデオ周辺機器に関する業界標準化団体であるVESAが制定したのが、「DisplayHDR 1000」だ。

 「DisplayHDR 1000」はDisplayHDRにおける最上位規格で、輝度1,000nit以上、ピクセルドライバ(映像処理回路)10bit、色域はBT.709カバー率99%以上といった基準をクリアした製品であることを保証するもの。エントリー規格として「DisplayHDR 400」などもあり、こちらは輝度400nit以上、ピクセルドライバ8bit、色域はBT.709カバー率90%以上となっている。

2018年10月時点でDisplay HDRには400/600/1000の3種類があり、1000が最上位となる

 すでに登場しているHDR技術を採用したメディアへの対応では、DisplayHDRは、UHD BDや4K動画配信サービスで採用されているHDR10方式に対応する。つまり、UHD BDソフトやNETFLIXなどの4KコンテンツをHDR表示で再生できる。ただし、最近登場したドルビービジョン方式や4K放送などで採用されているHLG方式には対応していない。

 こうしたHDR対応のディスプレイが登場してきたことで、PCでのビデオ制作や視聴、ゲームなどでもHDRが採用され、より表現力豊かでリアルな映像が楽しめる環境が整ってきたわけだ。

国内初のDisplayHDR 1000対応液晶Philips「436M6VBPAB/11」

Philips「436M6VBPAB/11」

 Philipsから登場した液晶ディスプレイの「436M6VBPAB/11」(実売価格97,980円前後)は、4K解像度の液晶パネルの採用に加えて、液晶ディスプレイ向けのHDR規格「DisplayHDR 1000」に対応したモデル。同時にエントリー規格の「DisplayHDR 400」に対応した「436M6VBRAB/11」(実売価格69,800円前後)も登場した。

 Philipsは、日本では白物家電のメーカーとして名前を知っている人がいる程度かもしれないが、じつはオランダの総合電機メーカーで、ヨーロッパでは一二を争う有名ブランドだ。日本にも白物家電だけでなく、ヘッドフォンなどのオーディオ製品も発売している。ディスプレイの生産でもブラウン管時代から長い歴史を持っており、高い技術を持っている。

 じっさい、本製品は、Philipsによると日本で発売されたDisplayHDR 1000対応製品としては初めてのもの(※国内液晶ディスプレイにおいて。2018年3月26日時点 MMD調べ)であり、同社の先進性がわかるだろう。

 そんな436M6VBPAB/11の実力をじっくりとレポートするのがこの特集だ。まずは本製品の概要を見ていこう。

 MVA方式の液晶パネルは4K(3,840×2,160)解像度で、サイズは43型。DisplayHDR 1000規格対応で、輝度ピークは最大1,000nit。バックライトはB-LED+QD Filmで、量子ドット技術の採用による広色域再現も可能だ(BT.709カバー率100%、DCI P3カバー率97.6%)。パネルのコントラスト比は4,000:1だが、LEDバックライトのエリア駆動を組み合わせることで、50,000,000:1のコントラスト比を実現している。

本体側面
本体背面

 このほか、PC用ディスプレイとして、入力遅延の低減技術、ゲームのプレイでスムーズで遅延の少ない表示ができる「Adaptive-Sync」技術、DTS Soundによるオーディオ機能を採用した内蔵スピーカー、入力された信号に合わせて豊かな光と色のイルミネーションを行なう「Ambiglow」などを採用する。最大で2系統の入力信号を2画面同時に表示できる「MultiView」機能も備えている。

表示するコンテンツに応じてカラーLEDをぼんやりと光らせるイルミネーション機能を搭載。もちろんオフにもできる

 PCとの接続のための入力端子も、HDMI 2.0、DisplayPort 1.2、Mini DisplayPort 1.2、USB Type-C(DP Altモード)を備え、急速充電が可能なUSB3.0端子も2系統装備する。機能や装備を含めて、必要なものをすべて兼ね備えた4Kディスプレイとなっている。リモコンも付属する

 スリムなスタンドを備えた外観は、家庭用の4K TVそのものという感じで、43型の大画面も含めて、PC用としてだけでなく、外部チューナを組み合わせれば家庭用TVとしても十分に使える印象だ。

HDMI 2.0、DisplayPort 1.2、Mini DisplayPort 1.2、USB Type-C(DP Altモード)という豊富なインターフェイスを装備
付属のリモコン
各種詳細設定は本体背面のジョイスティックで直感的に操作できるのも好感が持てる

UHD BDソフトやBDソフトで、その実力を確認してみた

 さっそく、UHD BDソフトで映像を確認してみることにしよう。プレーヤーはパナソニックのUHD BD対応のDMP-UB900を使用し、HDMI接続で視聴している。

パナソニックのUHD BDプレーヤー「DMP-UB900」を使って検証した

 まずはBDソフトでスティーブン・スピルバーグ監督の「レディ・プレーヤー1」を見てみたが、画面が明るく、かなりパワフルな印象だ。視聴は映画館のように部屋を真っ暗にして行なっているが、その状態だと、車のヘッドライトや街灯、太陽の光が眩しすぎるくらいだ。BDソフトはHDRではない標準的な輝度の映像だが、コントラストの高い映像になるので、光の強さや暗部の再現もかなり優秀だ。

 色の再現は忠実感のあるもので、リアル世界の薄汚れた街の感じも生々しく描くし、VR世界のきらびやかな色彩も鮮やかだ。冒頭のカーレースの場面では、たくさんの車が一斉にスタートし、早々にクラッシュする車もあるが、数々の車の細かなディテールや破損した車が部品を飛び散らせる様子なども細部までしっかりと再現している。

 PC用ディスプレイは、静止画の緻密な表示の実力は高いが、BD再生などで動画を表示すると、動きの大きな場面で映像がぼやけたり、ノイズが増えて見づらくなることが少なくない。しかし、436M6VBPAB/11は動画表示も鮮明だし、ノイズも目に付かず、質の高い映像を楽しめる。

 操作メニューでは、画質調整も行なえるので好みに合わせて調整することもできるが、明るさやコントラストなどを特に調整しなくても、十分に優れた映像が楽しめた。

 今度は、ヒーローとは思えない言葉使いと容赦なしの残虐アクションが展開する「デッドプール2」をUHD BD版で見てみた。当然ながら、4K+HDRの高精細な表示が楽しめる。

 HDRの映像は、眩しい光の輝きや映画ならではの暗部の豊かな再現性がしっかりと再現され、SDR表示とは別次元の映像になる。太陽の光の強さ、薄暗い室内の見え方が、肉眼で見ている感じに近くなる。リアリティが倍増した印象で、CGも多用したアクション映画も、より本物らしい迫力が味わえる。そんな、HDRの魅力をしっかりと楽しむことができた。

 ちょっと惜しいのは、HDR映像を入力すると、画質調整機能はグレーアウトして調整ができなくなること。これは、ディスプレイ的な忠実な再現をするためだろうが、視聴環境に合わせて微調整ができるほうが使いやすいと感じた。

 映像に関しては、黒に近い暗部はやや黒浮きが生じてしまうが、暗部の陰影自体はきちんと再現されている。これは、暗部の再現が苦手な液晶パネルの傾向であり、家庭用の4K TVも同様。LEDバックライトの制御もしっかりとしており、不満を感じるほどではない。

 燃え上がる炎や爆発を力強く描くし、HDRの輝度の高い光も白飛びすることなく、鮮やかに再現している。肌の色もリアル志向で白人の肌の質感がしっかりと出ているし、デッドプールの薄汚れた衣装の感じもかなり生々しく再現している。

検証に使ったUHD BDタイトル

 このほか、アニメ作品の「イノセンス」もUHD BD版で見てみたが、暗部の黒浮きが少々気になるものの、暗部の階調表現もきちんとできているし、明るいシーンでは鮮やかな色彩を豊かに描いた。

 HDRらしいパワフルな光の表現は見事なもので、家庭用TVでもここまで力強い光の再現ができるのは、一部の高級モデルのみ。ディスプレイとしての実力はかなり高い。トータルとしての実力も、高級モデルの4K TVと肩を並べるレベルで、価格差などを考えるとかなり魅力的だと言える。

 音質については、映画の爆音や臨場感豊かなサラウンドとなるとややもの足りないが、音質そのものはクリアで聴きやすくまとまっており、大きな不満は少ない。もちろん、大迫力でサラウンド音声を楽しむならば、サラウンド再生のためのシステムを組み合わせたほうがいい。43型の大画面で映像の迫力もなかなかのものなので、音が迫力負けしてしまったように感じやすいのだ。

 ちなみに、DisplayHDR 400の「436M6VBRAB/11」も見てみたが、こちらは画面の明るさやHDRの高輝度表示はしっかりとできているが、暗部の黒浮きが多くなるため、暗部の再現ではやや差を感じた。細部のディテールの再現や微妙な色の変化なども多少の差があるが、実売で7万円ほどのディスプレイとしては十分に優秀なレベルだ。

4K HDRコンテンツの優れた映像を存分に楽しめる実力の高い大画面ディスプレイ

 Philipsの436M6VBPAB/11は、HDR対応の最新鋭のディスプレイにふさわしい高い実力を持っていることが確認できた。UHD BDを見ていても、液晶パネルを使った4K TVに匹敵する高い実力だとわかった。

 しかも、PC用ディスプレイとしての機能性も十分に備えているので、UHD BDや4K動画配信で映画などを楽しむだけでなく、静止画や動画編集、ゲームといった用途でも正確かつ豊かな映像を味わえるだろう。

 PC用ディスプレイとしておよそ10万円という価格は、少々高めかもしれない。だが、その実力で言えば、2倍かそれ以上の価格で販売されている4K TVと変わらない。非常にコストパフォーマンスが高いし、満足度も高い。UHD BDや動画配信サービスをPCで視聴することが多い人にはぜひともおすすめしたい。

鳥井 一豊

著者近影
1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。