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1,000nitの高輝度とHDRでゲームはここまで変わる!
PhilipsのDisplayHDR 1000対応液晶を西川善司氏が徹底解剖
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- Philips
2018年10月24日 11:00
4K(3,840×2,160ピクセル)が登場したさい、「フルHD(1,920×1,080ドット)で十分じゃない?」という声もあったが、あれよあれよという間に店頭に列ぶミドルアッパークラスのTV製品までが4K機となり、ノートPCやスマートフォン、タブレットのような中小画面サイズ製品にまで4K化が進みつつある。今や4Kは「あたりまえ」のテクノロジになりつつあるといっていい。
そして同じように「あたりまえ」のテクノロジとして普及が進むディスプレイ技術にハイダイナミックレンジ(High Dynamic Range)、略して「HDR」がある。
4Kは、規格として家電系の3,840×2,160ピクセルとシネマ系の4,096×2,160ドットという2つの定義があるが、HDRの方はもう少しいろいろな規格があって少々ややこしい。各社からさまざまな製品が出ているが、どれがどういう規格に対応していて、どの程度の性能なのか少々わかりにくいこともある。
そこで今回は、現在のAV機器、そしてPC環境を取り巻くHDR技術を簡単に整理しつつ、現状(2018年10月時点)のPC用ディスプレイ製品としてはHDRの最上位規格「DisplayHDR 1000」に対応するPhilips製の「436M6VBPAB/11」をお題にして、その表現能力の違いというものを解説することにしたい。
なお、本製品を用いたUHD BD(4K BD)での検証レポートの方も先日掲載している。ぜひ、そちらもあわせてご一読いただきたい(鳥井一豊氏によるUHD BDでのレビュー記事はこちら)。
HDRってなに? 現状のHDR規格事情をおさらい
まず、簡単に「HDR」とはなにか、ということを簡単に整理しよう。
一般向け製品に限っていうとディスプレイ製品とカメラ製品とではHDRの意味が微妙に異なっていることに気を付けたい。民生向けのカメラ機器で「HDR写真」というと、とても暗い領域ととても明るい領域をそれぞれ異なる感度で撮影して、普通に見られる写真として合成し「暗いところから明るいところまでを1枚の写真で見られるようにしたもの」という場合が多い。
一方、ディスプレイ機器で「HDRディスプレイ」というと「とても暗い領域ととても明るい領域をそれなりに高いコントラストで表示できるディスプレイ機器」を指す場合が多い。
この「とても暗い領域ととても明るい領域をかなり高いコントラストで表示できる」ことをディスプレイ製品、TV製品に対して実践していこう……と誕生したのがHDR技術で、これの普及のきっかけとなったのが、2015年に発表された「HDR10」と呼ばれる規格になる。
HDR10は4KブルーレイことUHD BDの映像規格向けに規格化されたもので、その名の通り10bit幅のRGBないしはYUVで階調を表現する仕様となっている。ただし、10bitで表現される階調の割り当てには非線形なPerceptual Quantizer(PQ)カーブが採用されている。これは「SMPTE ST 2084カーブ」とも言われるもので「その映像の最大輝度が確定しているときに人間の視覚特性の範囲内で違和感が起きないように階調を割り当てる」ものになる。
HDR10の誕生と多少の前後するタイミングで、別のHDR映像規格も立ち上がっている。1つは映像音響技術開発企業のドルビーラボラトリーズが提唱した「Dolby Vision」だ。HDR10とは互換性のない独自HDR映像規格であるDolby Visionは最大12bit幅の階調を許容し、映像フレームの最大輝度情報などのメタデータを1フレーム毎に挿入できるところをHDR10に対する優位点として訴求している。
2つ目はNHKとBBCが提唱した「Hybrid Log-Gamma」(HLG)だ。HLGは、従来の非HDR映像、すなわちスタンダードダイナミックレンジ(SDR)と互換性の高い階調特性を与えることで、1つの映像データでSDRディスプレイ機器とHDRディスプレイ機器で違和感なく見られることが訴求ポイントになっている。
3つ目は、Samsung、パナソニック、20世紀フォックスなどの家電機器メーカーと映画スタジオ連合によって組織されたHDR10+ Allianceが、今年、2018年に発表した「HDR10+」だ。HDR10+は、前出のHDR10との互換性を保ちながら、Dolby Visionと同等の1フレーム毎にメタデータを挿入させる拡張仕様を盛り込んだものになる。
4つ目は、2017年12月にDisplayPort規格などを策定していることなどで知られる映像技術規格策定機関VESA(The Video Electronics Standards Association)が策定したHDR映像規格「DisplayHDR」だ。
DisplayHDRは「HDR映像信号の規格」ではなく「HDR映像品の表示性能規格」
前出3つのHDR規格は「HDR映像信号の規格」に相当するものだが、このDisplayHDRは、HDR映像を表示できるディスプレイ/TV製品の「表示性能規格」に相当するものになる。分かりやすく換言すれば、DisplayHDR規格は、HDR映像品質グレード規格、と理解してもいいだろう。
DisplayHDR規格のラインナップとしては、エントリークラスの「DisplayHDR 400」(以下、HDR400)、メインストリームクラスの「DisplayHDR 600」(以下、HDR600)、ハイエンドクラスの「DisplayHDR 1000」(以下、HDR1000)という3つが規定されており、数値が大きいものほど高品位グレードということになる。
現状のHDR映像規格上は最大1万nitの輝度までを表現できることになっているが、業務用ディスプレイでも4,000nit程度が最大で、民生向けTV製品になると液晶機で1,500nit前後、有機EL機で1,000nit前後といったところ。なので、DisplayHDR規格も、HDR1000までの規格化に留まっているというわけである。
さて、DisplayHDR規格1.0で規定される「HDR 400」、「HDR 600」、「HDR 1000」のそれぞれの400/600/1000は、そのディスプレイのHDR映像表示時の最大輝度(nit)値を表している。あくまで最大輝度性能であり、常時その輝度で光っているわけではない点に留意したい。それでも一般的なTVの平均輝度は400nit前後、PCディスプレイは200~300nit程度なので600nitや1,000nitは相当に明るい。
長期に継続的に光らせるときの要求最低輝度はHDR400、600、1000でそれぞれ320nit、350nit、600nitとなっている。これは「平均輝度をそこにせよ」といっているのではなく、ディスプレイ装置の性能として「この輝度を維持できるくらいの性能にしてください」という意味になる。
DisplayHDR規格1.0では黒レベルのパフォーマンスも細かく規定されているのが興味深い。黒表示時の四隅の最低輝度値(黒レベル)はHDR400、600、1000でそれぞれ0.4nit、0.1nit、0.05nitと定められ、全白・全黒のコントラスト比を955:1で保証し、そのさいの黒の最低輝度値がHDR400、600、1000で、いずれも0.1nit以下と規定される。
このスペック規定を吟味すると、HDR400はエッジ型バックライトでもなんとかなりそうだが、HDR1000は直下型バックライトシステムに映像の明暗に合わせてバックライトの明暗分布を局所的に制御するエリア駆動は必須となりそうだ。HDR600はエッジ型バックライトシステムでも、帯状のエリア駆動ができればギリギリ要件はパスできそうではある。
いずれにせよ、HDR400、600、1000のそれぞれの規格への対応は、ディスプレイのHDR表示性能を端的に分かりやすく指し示すものになっている。
DisplayHDR規格1.0では、色に関しても規定があり、HDR400ではsRGB色空間カバー率95%以上、HDR600とHDR1000では、sRGB色空間カバー率99%以上にプラスして、DCI-P3色空間カバー率90%以上を条件として盛り込んでいる。なお、意外なことに、HDMI 2.0で採用されているBT.2020色空間についての対応要件への言及はない。
映像パネルそのものの潜在性能についても規定が述べられているのもDisplayHDR規格1.0のユニークなところである。HDR400、600、1000のいずれにおいても映像処理は最低で10bit、映像パネルの画素駆動は最低で8bitで行なわれることを規定しているのだ。意外に知らない人も多いが、現行のTVやPCディスプレイの映像パネル自体はネイティブ8bit駆動のものが圧倒的に多いため、ここは規定の「最低8bit」と緩いままなのである。
さらに、DisplayHDR規格1.0では黒から白への輝度レスポンスは8フレーム以内で行なえることも規定している。これはマイクロ秒で応答できる有機EL機やLEDバックライトシステムの液晶機ではなんの苦労もなく実現できる要件だが、水銀ランプを採用したプロジェクタ機器などではそれなりに厳しい条件だったりする。VESAは直視型ディスプレイだけをターゲットにしているわけではないので、こうした規定も盛り込まれているのだ。
DisplayHDR 1000準拠のハイエンド機「436M6VBPAB/11」
やっと、ここからが本題となるのだが、今回、このHDR400とHDR1000の能力差を実感すべく、Philips製のHDR400対応の「436M6VBRAB/11」とHDR1000対応の「436M6VBPAB/11」の2モデルを借り出して評価してみることにした。
簡単にこの2モデルの紹介を行なっておこう。両者は型番が非常に似ていて、その違いは型番後半の「VB"R"AB/11」と「VB"P"AB/11」にある。"R"の方がエントリーモデルのHDR400対応機で、"P"の方がハイエンドのHDR1000対応機となる。
両方とも「436M6」シリーズということで、ともに全面パネル左下には「436M6」のモデルロゴが刻まれている。実際、外観デザインは、ほぼ両機とも共通で、違いは背面の接続端子ラインナップくらいのものだ。
液晶パネルはともにマルチドメイン(M)構造の垂直配向(VA)型のMVA型液晶を採用する。MVA型液晶は、視野角的にはIPS型液晶には及ばないものの、暗部の沈み込みはIPS型液晶を上回る特性があり、コントラスト性能を重視する製品ではMVA型液晶の採用事例はよくあることだ。436M6シリーズはともに、真ん前で使うパーソナルユースを狙ったディスプレイ製品ということで、視野角よりも、コントラスト性能を重視しているため、MVA型液晶を採用しているのだろう。
液晶パネルの応答速度は共に4ms(GTG)。システム総遅延も両機とも60fps時で1フレーム未満が実測されているため、ゲーミングディスプレイとしての活用も問題なしだ。
大きな違いはバックライトシステムにある。両機ともエッジ型バックライトシステムを採用し、画面内の暗部領域をより暗く、明部領域をより明るく表示するエリア駆動(ローカルディミング)に対応するのだが、そのLED光源の種類が違っている。
エントリー機の436M6VBRAB/11では、ごく一般的な白色LEDを採用しているの対し、上位機の436M6VBPAB/11では光源としては青色LEDに量子ドット(QD:Quantum Dot)シートを組み合わせて白色光を生成する仕組みを採用しているのだ。量子ドットとは、亜鉛、セレン、硫黄などを組み合わせた直径がナノメートル級の合金微細粒子に代表される光学部材で、おもに光の波長変換を行なうことに応用される。
この量子ドット技術をディスプレイ機器に応用した場合に期待されるのは色域の拡大だ。エントリー機の436M6VBRAB/11の色空間カバー率がsRGB CIE1931 129.28%(面積比)なのに対し、上位機の436M6VBPAB/11では145.89%(同)にまで拡大されている。
また、上位機の436M6VBPAB/11では実装LEDの個数も増大されているため、標準輝度が720nit、ピーク輝度が1,000nitとなっている。ピーク輝度1,000nitを達成しているからこそ、HDR1000規格準拠を達成しているわけだ。ちなみに、エントリー機の436M6VBRAB/11はピーク輝度450nitとなっている。
上位機の436M6VBPAB/11の実勢価格は9万円台、エントリー機の 436M6VBRAB/11は6万円台なので価格差は約3万円(いずれも2018年10⽉中旬時点)。そう、この3万円の価格差は、ほぼこのバックライトシステムの違いに現れているのである。
Far Cry 5でHDR表示能力を検証~HDR1000は明るいだけじゃない。眩しい輝きの中に階調が宿る!
両製品の実際の表示性能を確認するアプリケーションとしては、ユービーアイソフトの新作ゲーム「Far Cry 5」を選択した。Far Cry 5は、ゲームエンジンレベルでネイティブにHDRグラフィックスに対応しているだけあって、その映像効果が分かりやすいだけでなく、グラフィックスオプションのHDR設定がとても分かりやすいタイトルである。
さて、今回のお題となる2台ののディスプレイ機器はホストPCとは分配器経由で接続し、同じHDR映像が上位機の両製品に出力されるような環境とした。ちなみに、今回の実験では分配器の都合でホストPCとディスプレイ機器とはHDMIケーブルで接続している。
まず行なうのは、ホストPCからゲームを起動し、「映像」オプションを開いて「HDRを有効にする」設定を「オン」にすること。これはシステムがHDRディスプレイとの接続を認識していないと選べない設定なので注意されたし。
続いて、同じ「映像」オプションの別タブにある「HDR設定」メニューに入り、接続されているHDR対応ディスプレイの表示性能に見合う輝度設定を行なう。ここの輝度設定はnit値で100~500の間を20ステップ刻みで設定できるが、ここの設定は、接続しているディスプレイのピーク輝度ではなく、最もよく見ることになる「基準輝度」を設定する。
この基準輝度設定画面において注目すべきは中央の教会のような白い建物よりは、むしろ背景の白い雲の方。設定値を最大の500nitまで上げたうえで、この雲が白1色の白い塊に見えているようならば設定値をじょじょに下げていくような調整を行なう。白い雲にはっきりとした陰影が見え始めて落ち着いたら、設定値を下げるのを止める。
上位機の436M6VBPAB/11では、最大値500nit設定でも十分に雲の陰影が見えたので、500nit設定が有効だといえる。一方、エントリー機の436M6VBRAB/11では、240nitまで下げて雲の陰影が見えるようになった。
実際に、ゲームを開始してみると、グラフィックスの見え方の違いは高輝度部分に顕著に表れる。Far Cry 5冒頭のカルト集団の教会に向かうシーンでは、満月に近い丸い月が夜空に浮かんでいるのだが、エントリー機の436M6VBRAB/11では月が「白1色の発光球体」として見え、周りに薄明るい光の溢れ出しが見えるだけ。
これはこれで月の輝きをうまく表現しているのだが、上位機の436M6VBPAB/11では、月が高輝度に発光しているにもかかわらず、そこにちゃんと月特有のクレーター模様までがはっきり見えるのだ。
教会内の光る紋章から溢れ出る光筋の出方もかなり違って見えていた。エントリー機の436M6VBRAB/11では、光筋が一方向にだらりと伸びて見え、これはこれで紋章から溢れ出る光の高輝度感がよく表現できているとは思うのだが、上位機の436M6VBPAB/11は光筋を作り出している原因となっている空気中を舞う埃の密度に応じて輝度の濃淡(階調)がちゃんと見える。つまり、エントリー機の436M6VBRAB/11では「光筋が明るい」という表現のみだったのが、上位機の436M6VBPAB/11では光筋が走っている空間の広がりのような情報までを伝えてくるのである。
明るい領域だけではない。やや暗いシーンでも違いに気付くことができる。たとえば、湿った泥道の上の細かな砂利や泥粒は月明かりの照り返しで、微細な凹凸陰影を浮かび上がらせている。エントリー機の436M6VBRAB/11では、この陰影の濃淡がやや地味だったり、あるいは照り返しの光沢表現が白飛びしてしまっているのに対し、上位機の436M6VBPAB/11では月明かりの高輝度感をそのまま反射しているようなメリハリ感がある。暗いところはより暗く、月明かりを反射している湿り気の表現は鋭い光を反射しつつもそこに階調が存在するのだ。
ゲームグラフィックスのHDR表現を妥協なしで楽しみたい人にうってつけ
Far Cry 5での評価を簡潔にまとめると、エントリー機の436M6VBRAB/11では、HDRの高輝度感を重視した設定にすると高輝度の階調が弱まり、高輝度部の階調を重視した設定にすると全体的に映像が暗く見えるため、自分の好みやプレイするゲームグラフィックスのタイプに応じた調整をする必要があるという印象だ。
とは言え、この製品でも従来のSDR製品と比べると、ひじょうに高いコントラスト比や色域が実現されている。
一方、上位機の436M6VBPAB/11は、DisplayHDR 1000の持つ性能をフルに活かし、伸びやかな高輝度感と高輝度領域の階調性が両立されるような表現が可能となっている。
ゲームグラフィックスにおけるHDR表現を「とりあえず見てみたい」という初心者層には、エントリー機の「436M6VBRAB/11」でも十分にオススメできると思うが、現在のゲームグラフィックスのHDR表現を妥協なしで楽しみたい人には上位機の436M6VBPAB/11がお勧めだ。加えて、上位機の436M6VBPAB/11は、グラフィックスや映像関連の開発に携わるクリエイターにも響く製品だといえる。
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