レビュー

長く使えるAMDだから5年保証のマザボを。BIOSTARの「X670E VALKYRIE」

X670E VALKYRIE

 BIOSTARの「X670E VALKYRIE」は、AMDの最新Socket AM5プラットフォームに対応したX670Eチップセット搭載のマザーボードだ。代理店はアユートで、実売価格は6万円前後となっている。今回広報代理の協力により入手できたので、写真や機能を中心にレポートしていきたいと思う。

フラグシップのVALKYRIEシリーズ。装備は充実

 VALKYRIEシリーズは同社のフラグシップを担うモデルとして位置付けられており、2021年に「Z590 VALKYRIE」と「Z590I VALKYRIE」という2モデルからスタートした。その後Intel Z690搭載モデルも投入されているが、AMDチップセット搭載としてはこのX670E VALKYRIEが初となった。なお、現時点でBIOSTARのSocket AM5マザーボードは、本モデルが唯一でもある。

 BIOSTAR VALKYRIEシリーズの特徴としてまず挙げられるのはゴールドとマゼンタのアクセント、そして翼のようなロゴなのだが、初代のZ590 VALKYRIEと比べればそのデザインはだいぶ落ち着いたもので、主張は控えめとなった。特に、翼のロゴはZ590ではチップセットのヒートシンクに大きくゴールドのエンブレムとしてあしらわれていたが、X670EではLEDで浮かび上がるものとなり、電源オフの際はミラーとなった。同様にVRMヒートシンク部の意匠も控えめとなっている。

 Z690まで装備されていたVRMファンは、X670Eであっさり省かれた。確かに、以前テストしたZ590 VALKYRIEのVRMファンは強力であり、水冷CPUクーラーでは冷却がおろそかになりがちなVRM周辺の放熱問題を解決してくれてはいたが、フル回転時の騒音はかなりのものであった。もちろんユーザーによる制御も可能なのだが、そもそも他社でファンを装備していないし、X670Eでは装備しなくても十分許容範囲だと判断して省いたのだろう。

製品パッケージ
付属品はSATAケーブル4本、ドライバディスク、マニュアル、ステッカーと、ハイエンドにしてはあっさりしている
エンブレムのデザインは初代のZ590からだいぶ大人しくなった

 その一方で超強力な電源回路や、自作やオーバークロックの際に便利な機能などは継続して装備している。たとえばVRMコントローラはデジタルPWM方式で、合計22フェーズ構成となっている。基板は8層PCBで安定性を高めているほか、高耐久のインダクタの採用や、2万時間の寿命を謳う高耐久コンデンサを採用。基板上に電源ボタンやリセットボタンを備えているほか、POSTコード表示が可能な7セグメントLEDも搭載している。

 なお、2.5Gigabit Ethernetに関してはIntelの「I225V」、オーディオはRealtekの「ALC1220」を採用するなど、こちらも採用実績が多いパーツとなっている。そのほかのインターフェイスはUSB 3.2 Type-C×2(背面および内部ピンヘッダ)、USB 3.1×11(背面×9、ピンヘッダ×2)、USB 2.0×4(すべてピンヘッダ)、DisplayPort、HDMI出力。ただ、USB4の装備はなく(Thunderboltピンヘッダはある)、Wi-Fi/Bluetoothモジュールもユーザーが自身で取り付ける必要がある点は注意したい。

 背面USB 3.0ポートのうち1基は「SMART BIOS UPDATE」と呼ばれる機能に対応する。これは、ホームページ上からダウンロードしたBIOSファイルを指定のファイル名にリネームしてUSBメモリに保存、そのUSBメモリをそのポートに挿して、横にあるSMART BIOS UPDATEボタンを3~5秒押すだけでBIOSの更新が行なわれる、というものだ。

背面インターフェイス
オンボードの電源ボタンとリセットボタンを装備。近くには3基のファン用ピンヘッダや、LEDテープ接続用ピンヘッダも見える
POSTコード表示用の7セグメントLED。トラブルシューティングに役立つ
LN2スイッチなども装備している
アナログサウンド部は隔離されているのが分かる。また、写真上部が示す通り8層基板となっている
SSD用のM.2スロットは4基。うち2基はチップセット接続で4.0、2基はCPU接続で5.0
M.2 SSD用には肉厚のヒートシンクを備えている
Socket AM5

 同様の機能はASUSの「BIOS Flashback」があるが、これと同等ということだろう。代理店のアユートによれば、CPUやメモリがない状態でも更新が可能とのこと。つまり、同じAM5を使用する新CPUが出て、それがBIOS更新が必須だとしても、旧CPUでBIOSアップデートを行なわないで、本機能を使ってBIOSを更新し、そのまま新CPUを利用可能にできるというわけだ。

 ちなみに3万円以上のマザーボードではWi-Fi 6を標準で搭載している製品も多いが、本製品はフラグシップでありながらWi-Fiは標準で非搭載。背面にはアンテナポートがあり、ケーブルも這わされているので、あとはモジュールとアンテナさえユーザーが準備すれば使えるのだが、ややハードルが高い。

 メモリはDDR5×4基で、最大6,000MHz以上のメモリも対応。ストレージインターフェイスは、PCI Express 5.0対応M.2(CPU直結)が2基、PCI Express 4.0対応M.2(チップセット直結)が2基、SATAが6基と十分な数。PCI ExpressスロットはPCI Express x16スロットが3基で、うち2基が5.0対応でx16またはx8×2、1基が4.0対応でx4接続だ。

 チップセットは製品名の通りX670E。ちなみに筆者はチップセットのヒートシンクを剥がして、デュアルチップであることを確認したかったが、手元に届いた機材は熱伝導シートの接着力がかなり固く外せなかった。

PCI Expressスロットは3基でいずれもx16形状
前面パネルインターフェイスのUSB Type-C用のコネクタも備える
頑張って分解しようとしたがチップセットのヒートシンクだけ外せなかった

圧巻の22フェーズVRM

 本製品はBIOSTARのフラグシップを担うモデルとして、オーバークロック競技での使用も見据えているようで、LN2(液体窒素)を使用した超低温でのオーバークロックも考慮されている。そのためCPU周りには合計22フェーズの電源回路を装備している。

 VRMコントローラにはルネサスの「RAA229628」を採用。VCORE部には、105Aに対応したルネサス製Dr.MOS「RAA22010540」を18フェーズ、SOCおよびMISCには、それぞれルネサス製の60A対応Dr.MOS「ISL99360」を2フェーズずつ備えるなど、電源周りは全てルネサスということになる。

 ちなみに“ISL”という文字列から始まる型番があるチップが混じっていることからも分かる通り、これは2016年にルネサスが買収したIntersilのものである。一方でRAAから始まる型番のチップについてはルネサスのサイトを検索してもなかなか引っかからない。このあたりはPCパーツ向けの専用品といった辺りだろう(筆者の予測だが、パッケージや型番などからして、これはルネサス時代のDr.MOSではなくIntersilの流れを汲む製品の可能性が高い)。なお、周辺にはフェーズダブラーのような実装は見えないため、PWMコントローラによって直接ドライブされていると思われる。

CPU周りの電源の実装。22フェーズはさすがに圧巻だ
VRMコントローラの「RAA229628」
上部のVRM回路。RAA22010540がずらりと並び、右端にISL99360が見える
こちらは背面パネル側のもの

 これら圧巻とも言える電源回路は、ヒートパイプ付きの大型のヒートシンクによって放熱している。実際にヒートシンクの重量を計測してみたが、それだけで565gに達した(LEDライトは含まれるが)。加えて、マザーボードのバックプレートもDr.MOSの底面からの熱を伝導するようになっている。

 先述の通り本機は旧モデルのようなVRMヒートシンク用ファンを搭載していないが、動作中に不安定になることはまったくなかった。実際にRyzen 9 7950Xを搭載し、Cinebench R23を用いて30分負荷をかけてみたが、室温21℃の環境では、VRM部ヒートシンクは50℃で頭打ちとなった(ユーティリティ読みでは60℃)。

VRMヒートシンクはヒートパイプのみで、ファンは省かれた
重量は565gに達しており、強力に熱を奪う
負荷を30分かけたが、VRMヒートシンクの温度は50℃程度と余裕があった

 このほか基板上の目立つ装備としては、Diodes IncorporatedのHDMIのリニアリドライバ「PI3HDX12211A」およびUSB 3.1リドライバ「PI3EQX1004」、USB 3.2リドライバ「PI3EQX2024」、PhisonのPCI Express 5.0対応リピーター「PS7101-51」、ITEのスーパーI/O「IT8625E」、ELAN Microelectronicsのマイクロコントローラ「eKTF5832」などがある。

 BIOSTARと言えば、台湾製の部品をふんだんに使用し、コストパフォーマンスを追求する路線というイメージがあると思うが、このように、VALKYRIEシリーズに関して言えば競合他社のハイエンドと同じ実績のある部品、高耐久部品を採用し、性能に追求したものとなっていることが分かるだろう。

IntelのI225-Vコントローラ
RealtekのオーディオコーデックALC1220
PhisonのPCI Express 5.0対応リピーター「PS7101-51」
ITEのスーパーI/O「IT8625E」
電源取りセットボタンの間にあるのがELAN Microelectronicsのマイクロコントローラ「eKTF5832」
M.2スロット付近の実装。これはM.2リドライバだろうか
チップセットの電源回路周りと思われる実装

ユーティリティはオマケレベル。CPU性能はフルに引き出せる

 最後にBIOSとユーティリティ、それからCPU性能をフルに引き出せるかどうかテストしてみた。今回はCPUにRyzen 9 7950X、CPUクーラーにASUSの「RYUJIN 360」、メモリにG.Skillの「F5-5200J2834F16GX2-RS5W」(DDR5-5200 16GB×2)、SSDにSamsungの「PM981」(PCI Express 3.0 SSD/512GB)、OSにWindows 11 Proといった環境を用意している。

 まずはBIOSだが、このあたりはオーソドックスな使い勝手で特筆すべき点はない。一応日本語にも設定できるのだが、それはタブのみで、各項目が英語であることに変わりはない。設定できる項目はかなり多いが、自作向けAMDプラットフォームとしては平均的だろう。ちなみにオーバークロック関連はすべての「トゥイーカー」にまとめられているため、アクセスがしやすい。なお、ファン回転数やLEDの制御もBIOS上から行なえる。

BIOSの詳細設定画面。項目が多くあるが、一覧性が良い
Precision Boostの設定
Above 4G DecodingおよびRe-size BARは標準で有効になっていた
トゥイーカー(Tweaker)の画面。ベースクロックや動作倍率、電圧などの設定はここから行なう
メモリのプロファイルを確認する機能も備える

 筆者としては、こうした豊富な設定が可能なBIOSでは、なるべく多くの項目が表示され、一覧性に高い方が良いと思うのだが、X670E VALKYRIEのBIOSはその期待を裏切らず、フォントサイズが小さく抑えられている。一度に表示できる項目は多い点は、好感が持てる(どうせBIOSにアクセスするような人はパワーユーザーなのだから、UIのリッチさよりも使い勝手重視だとは思う)。

 その一方でちょっと期待ハズレなのが「VALKYRIE AURORA Utility」。確かに温度監視も、ファンの回転数設定も、LEDの制御、オーバークロック(というか電圧調整)もできるのだが、いかんせん機能が少なすぎる。たとえばファン制御では自動チューニングや回転数表示ぐらいはしてほしいし、LED制御もパターンがわずか4種類しかなく、部分部分で個別の制御もできない。オーバークロック項目に至ってはベースクロックと各種電圧調整のみで、クロック倍率も設定できないので、何がしたいのか? といった印象だ。

VALKYRIE AURORA Utility起動後の画面
音量調整画面。あえてこの画面で音量調整をする人はいないだろう
ワンタッチで動作モードが変えられるGTタッチ。ただ、何をしているのかがやや不透明だ
LED発光などを設定する画面。正直、設定が足りなさすぎる
A.I.ファンというファン調整機能A.Iという割にはAIを使っていない気がする
ハードウェアモニタリング機能
オーバークロックの画面。BCLKしか調整できない
各部の電圧は調整できる

 オーバークロック周りは今やAMDでは「Ryzen Master」という大変優れたユーティリティがあるので、あえてVALKYRIE AURORAを使う必要もないといえばそれまでだが、しかし画面の場所は大きく取るのに大した機能も持たず、妙な光沢感のあるボタンといったちょっと古臭いUIを含め、テコ入れすべきだとは思う。

オーバークロック関連の設定ならRyzen Masterから行なうべきだろう

 ソフトウェア面では改善の余地がかなり残されているものの、先述の通りハードウェアは一線級のものを使っているということもあり、性能や安定性は抜群。実際にCinebench R23を実行してみたが、スコアは37912と、以前Ryzen 9 7950XをテストしたASRockの「X670E Taichi」環境を凌駕してしまった(同じようにVBSは有効)。このスコアが叩き出せるなら、ゲーマーやクリエイターでも安心して使えるだろう。

Ryzen 9 7950XのCinebench R23結果

長く使いたい質実剛健志向のユーザーに最適

 ちなみに本機の最大の特徴は、むしろハードウェアやソフトウェア面より、購入より1カ月間以内に「BIOSTAR VIP Care」にて製品登録を行なうと、保証期間を5年間に延長することができる点ではないだろうか。BIOSTAR VIP Care自体はBIOSTARが運営しているが、修理の際の申請は日本の国内代理店であるアユートから行なえるのがとても心強い。

 AMDのCPUは、Socket AM4プラットフォームで5年以上継続して使えた実績がある。今回のAM5のプラットフォームについては、期間については明言こそしていないものの、少なくとも2025年、さらにはそれ以上先まで対応する計画ということは公言している。X670Eマザーボードは高価な製品も多いので、なおさら長く使いたいユーザーが多いはずで、その中で5年間も保証が付くというのはユーザーにとっても大変ありがたいとは思う。

 X670E VALKYRIEは、ハードウェアやソフトウェア面での派手さはないものの、シンプルでスッキリ、それでいて高性能で保証期間が長く安心できる。PCの利用目的がはっきりしていて、機能を取捨選択できるユーザーに、ぜひ手を取ってもらいたい1枚である。