レビュー

「水槽PCケース」を試してみたら癒やされた。でもリスクが釣り合わない

デスクワークに癒やしを提供してくれる「水槽PCケース」を組み立ててみた

 本誌PC Watchで紹介されるやいなやネットが騒然となり、賛否(?)が飛び交った、あの「水槽PCケース」が手元にやってきた。上に水槽が乗っかったPCケースという変わり種。PCとアクアリウムのマッチングがいかほどのものなのか、さっそく組み立てて体感してみることにした。

【16日21時より配信】水槽PCケースでPCを自作!? 簡易水冷よりもはるかにリスキーに見える(水交換とかありますし)、超謎アイテムをPC Watchでは実際に購入。これを使ってPCを自作してみました。この配信では実機を確認しながら、みなさんに詳細をお伝えします。

水槽が一体化した前衛的なPCケース

 改めてこの「水槽PCケース」を紹介すると、中国の広州北魚科技有限公司というPCパーツメーカーが製造する「Y2鱼缸机箱」という名前のPCケース。下半分の土台にあたるところがPCケースで、その上にガラス水槽を載せることができ、PCが使えるのと同時にアクアリウム鑑賞も可能になるという前衛的なプロダクトだ。サイズは幅370×奥行き250×高さ290mm(LEDライト除く)で、下半分のPCケース部分の高さは約152mmとなっている。

上に載せるガラスの水槽部
土台となるPCケース部

 PCケース部の仕様としては、マザーボードはmicroATXとMini-ITXの2種類に対応し、FlexATX電源が利用可。CPUクーラーは高さ90mmまでのものが装着でき、90mmサイズのイルミネーション付きファン2基が取り付け済み。ビデオカードは最大220mm長までで、同梱のライザーケーブルを使って横倒しで装着する。

 2.5インチのSATA HDD/SSDを1つ内蔵可能になっており、前面インターフェイスにはUSB 3.0ポート×2が用意されている。中国の通販サイトでは電源ユニットがセットになったモデルも販売されており、今回入手したものは500W電源モデルだ。

正面。電源ボタンとUSB 3.0ポート×2
上から
背面
底面
イルミ付きケースファン
500WのFlexATX電源
電源ケーブルはプラグが中国仕様のOタイプと呼ばれるものなので注意。今回は別のPC用電源ケーブルを使った

 同梱物はガラス水槽、水槽上部に取り付けるLEDライト、フィルタ付きポンプ、LEDテープライトと操作用リモコン、マザーボード等の固定に使うネジ類、SATAケーブルなど。筐体内配線用の電源ケーブル各種も揃っている(電源セットモデルのみ付属するものと思われる)。水槽周りのパーツはともかく、それ以外はごく一般的なPCケースの構成と言えるだろう。

同梱物一式
詳しいマニュアルは同梱されておらず、この2枚が入っていたのみ

PCパーツ組み込みは意外と作業性高し

今回組み込むパーツ類。第10世代Intel Core i5、Mini-ITXマザーボードなど、やや古め。左にデカいビデオカードも見えるが、これは当然ながらケースに入らない

 そんなわけで前置きもそこそこに組み立ててみよう。届いたダンボールを開梱すると、PCケース部と水槽部に分けて梱包されているので、とりあえずはPCケース部の方にPCパーツを組み込んでいく。水槽との間の仕切りの役割を果たすアクリル板を取り除き、ケース内にみっしり詰め込まれた付属品類を取り出す。

PCケース部は最初は仕切り用のアクリル板でフタされている
ねじを緩めてフタを取り外し、中身の付属品類を取り出す

 ここに直接パーツを組み込んでいくこともできると思われるが、背面側の両サイドに1つずつあるストッパーとなっている大きなねじを外すと、前面ポートを含めたPCケースの内装だけをスライドして引き出せる。こうすると外装フレームに邪魔されずに組み込んでいけるので、コンパクトなPCケースのわりに作業性はかなり高い印象だ。

背面左右端に大きなねじ。これがストッパーになっている
内装を引き出せる。この状態でパーツを組み込んでいくと楽ちん

 マザーボードを取り付け、CPU、メモリなども装着したら、各種ケーブルを配線していく。前面パネルの電源ボタンとUSB 3.0ポートからのケーブルをマザーボードに取り付け、プラグイン型の電源ユニットとマザーボードとの間をケーブルでつないでいく。

リアパネルを取り付け
マザーボードもねじ留め

 が、メインの20+4ピンの電源ケーブルについては、マザーボードのレイアウトによっては同梱のものだと届かないことがありそうなので注意。今回使ったマザーボード(BIOSTAR Z490GTN Racing)ではパッツンパッツンで、余計なテンションがかかっているような気もするが、なんとかギリギリ届かせた。

20+4ピンの電源ケーブルの長さは、マザーボードによってはかなりタイト。パッツンパッツンである

 2つあるケースファンの電源は、マザーボード上に通常のファン用の3ピン(または4ピン)コネクタがあればそこに、なければ電源から引っ張ってきたペリフェラル4ピンコネクタに連結する。ただ、3ピンコネクタはあくまでもフツーの3ピンで、PWM制御でもなければアドレサブルLED/RGBでもない。固定回転かつ一定の光り方になる。

電源ユニットからのコネクタ(左)とケースファンの電源コネクタ(右の2組)を連結
こんな感じ

 2.5インチ「ベイ」と言えるかどうかは分からないが、2.5インチのSATA HDD/SSDを設置するスペースは向かって右側の端。ここにストレージを立てて、ねじ2本で固定する。ビデオカードはライザーケーブルを取り付けた後、そこにビデオカードを装着し、ひと通りのパーツ取り付けが終わったらPCケースのフレームに戻す。

2.5インチHDD/SSDは向かって右側の端に立てる
ビデオカード用電源ケーブル以外を整理。ファンの風を遮る気がするが迂回しようがないので諦めた。ただ、後でLEDテープライトを取り付けることを考えると、ペリフェラル4ピンコネクタもまだこの段階ではフリーにしておいた方がいい
ライザーケーブルを取り付けるステーがなんか斜めってるような……
真っ直ぐじゃないと気持ち悪いので、ライザーケーブル側のねじ穴位置でなんとなく調整
ライザーケーブルの取り付けが完了
ショートサイズ(長さ約16cm)のビデオカードを装着してみた
ケースファンを活かすなら最大でも長さ20cmあたりまで
外装フレームに戻す
きれいに収まっただろうか

 次に取り付けるのはLEDテープライトだ。PCケースにはマニュアルが同梱されておらず、ネット上でも見つけられなかったので、このLEDテープライトの装着箇所が本当に正しいのかどうかわからないのだが、その形状などからPCケース部の縁(仕切り用のアクリル板を固定する面)から1段下がった3辺のリブに貼り付けるものと思われる。

お次はLEDテープライト。電源はペリフェラル4ピン
発光パターンを制御できる赤外線リモコンはCR2025のボタン電池で駆動する

 LEDテープライトの裏側が粘着テープになっているので、保護フィルムをはがしてフロント側と左右のリブ部分に貼り付けていく。電源はペリフェラル4ピン(配線されているのは2ピンだけ)なので、ケースファンの電源コネクタに連結しておく。

LEDテープライトは裏側が粘着テープになっている
外装フレームの一段下がったところに貼り付けた

 これでPCケース部分のセットアップは完了。仕切りのアクリル板両面の保護フィルムをはがし、きれいな透明状態にして元通りにフタをする。アクリル板固定用のネジが少しでも飛び出ていたりするとガラス水槽が割れて悲惨なことになるので、丁寧に(アクリルが割れない強さで)ねじを締め込もう。まあ、最初からアクリルの一部にヒビが入っていたのだが、見なかったことにする。

アクリル板両面の保護シートをはがす
ねじ留めしてセットアップ完了
ねじ留めするところに最初からヒビが入っていたが……
試しに電源を入れてみると、きらびやかな姿に
リモコンで色、点滅の早さ、カラーローテーションなどをいろいろ調整できる

こぼれたら即アウト。水槽への注水は慎重に

今度は水槽の方を仕上げていく

 続いては水槽部。底面外側に断熱材的なシートがくっついているので、PCを稼働させたときの「見栄えの良さ」を重視するなら外しておく。PCケース側に設置したLEDテープライトの光をほとんどさえぎってしまうからだ。PCの熱で水温が上がった時に、水槽の中のものに悪影響を与えそうなときは、シートはそのままにしておいた方がいいかもしれない(本当に断熱効果があるのかは不明なので、心配ならきちんとした断熱シートを買ってきて使いたい)。

今回は底面の断熱材的なシートをはがして使ってみる

 念のためPC稼働時に温度が上がるかどうか、シートを外した状態で簡易的に確かめてみた。下記の写真にあるように、PCを稼働させていないときの水槽の底(CPUの真上付近)の温度は室温とほぼ同じ25℃だったが、PCの電源を入れてみたところ(BIOS画面なので負荷は高くない)、30分後には26.4℃を示した。これが高負荷状態になるとさらに温度上昇幅は大きくなると思われ、水槽内部への影響も無視できないものになるだろう。温度に敏感な生き物を水槽で飼うことはおすすめできない。

PCの電源を入れ、BIOSが起動している状態で温度チェックしてみる
稼働前は室温とほぼ同じ25℃。透明なガラスだと正確に計測できないため、底に黒テープを貼って計測している
30分ほど稼働させてから計測すると26.4℃に

 それはそれとして、いよいよ水槽に水を入れていく。今回、飼っていたメダカが全滅して久しい我が家の水草ばかりのビオトープ的な感じのヤツを水槽PCに移すことにした。念のため電源ケーブルは抜き、移す際に水がこぼれそうなところにはビニルシートを掛けておく。わずかでも水がPCケース内部に入り込むと、通電していないとしてもやっかいなことになる。ここは慎重に作業したい。

メダカが全滅し、今はもう水草だけになったビオトープ的なヤツを水槽に移す

 水槽の内寸はおよそ36×22×15cmなので、計算上は満水で12L弱だが、実際には満水にしない(揺れたりしてこぼれた瞬間にPCが壊れる可能性があるので)。とはいえ、付属のポンプは高さがあり、それでいて完全に水没させて使わなければならない(水没状態じゃないとエア取り込み口に水が逆流して外側に吹き出し、PCが以下略)から、8~9割ほどまで注水する必要がある。実際の水量は10~11L程度だろうか。

付属のポンプ
中には目の粗いフィルタが入っている
背面の吸盤を使って水槽の内側に取り付ける
これが完全に水没するように水を入れる
電源はUSBなので、PC背面のUSBポートなどに接続すればいいだろう
こちらは水槽の上に載せるLEDライト
ACアダプタ側でオンオフできるが、光量調整の機能はない

 中身を無事移し終えたら、LEDライトを水槽上部にセットし、フィルタ付きポンプはPCのUSBポートから給電する形にして、PCの電源をオン。2つのケースファンが七色に輝き、LEDテープライトがチカチカと点滅しながらPCが起動する。水槽上部のLEDライトはACアダプターによる別電源となっているため、別途電源をオンにするとパッと明るく水槽全体が照らされる。どう見ても地味だったビオトープが瞬く間に輝き出し、お店や大企業の受付で見たことがありそうなアクアリウムが顕現する。美しい。

移し替えが完了し、電源オン。なかなか美しい

アクアリウムを楽しみたいなら水槽とPCは別にすべきである

 付属のリモコンを操作することで、PCケースに仕込んだLEDテープライトの光り方や明るさなどをさまざまに変化させることができ、その明滅は水槽の見栄えにももちろん影響する。仕切りのアクリル板と水槽のガラスを透過して、水中の水草などを赤や青や緑に照らし出す。

部屋を暗くしてみると雰囲気が出る

 水槽上部のLEDライトは明るさ調整できないのでギンギンに照射されているし、LEDテープライトもチカチカとヤバいくらいにフィーバーしているから、もしここでお魚さんたちが泳いでいるとすれば、それらの健康にいいとは決して思えない。

 しかし、今回は水草だけではあるものの、幻想的な見栄えになった水槽は、ポンプからプクプク湧き上がる様も雰囲気があって、30分くらいじっと見つめていても全然飽きないし、日々の疲れでささくれた心がなんだか癒やされていく気がする。アクアリウムっていいよな。身近にあるとずっと眺めていられるのがいいよな。このまま原稿のこと忘れちゃいたいな、みたいな。

真横だとLEDテープライトの効果がよくわからないが、斜め横から見ると光っているのが見える
上の方から見ると光っているのがよくわかる。が、底に砂利などを敷き詰めると見えなくなるだろう

 しかしである。PC+アクアリウムの、癒やしという多大なメリットは自覚しつつも、それを3周くらい上回るデメリットも指摘しておかなければならないだろう。とにもかくにも、PC+水という危険きわまりない取り合わせによるリスクからは逃れることができず、ただただこの1点のみで、当製品をおすすめすることは良心の呵責に耐えかねる。

 考えてもみてほしい。もし地震が発生して水がちょっとでもこぼれでもしたら、その時点でだいたいアウトなのである。PCケース外装はメッシュになっていて、無数の穴が開いている。これはこれでエアフローを改善する効果はありそうだが、そのぶん水が入り込む可能性も高い。アクアリウムに癒やされることは間違いないが、一方で「水がこぼれたらどうしよう」という不安が頭の片隅に常につきまとう。

 地震がめったにない大陸ならではの発想なのだろうか。日本ではさすがに安定運用する難易度が高すぎる。せめて水槽に何かしらフタみたいなものを被せたいところだが、そこまでしてPCを組み合わせる必然性はあるのか。アクアリウムを楽しみたいなら水槽とPCは別にすべきである。

 問題はほかにもある。さきほど水量は10~11L程度になるという話をしたが、ガラス素材ということもあり、重さで言えば少なくとも水槽部だけで12kg以上。いったん水槽として運用してしまうと、下半分のPCケース部からそのままの状態で分離することは困難だ(無理に水槽だけ動かそうとすると割れる恐れがある)。つまり、その下にあるPCのメンテナンス性が圧倒的に低い。

 背面のねじ2本を外すことで内装を引き出せる構造になっているものの、LEDテープライト(外装フレーム側に貼り付けられている)の電源ケーブルが内部でつながっているせいで、引き出すときには注意が必要だ。LEDテープライトが引っかかって粘着テープがはがれると貼り直したくなるが、そのためにはやっぱり水槽をどけて上から作業しなければならない。それを無視するか、最初からLEDテープライトを使わなければメンテナンスできるけれども。

 microATX/Mini-ITX対応という仕様から、もともと拡張性は低いので、最初のセットアップ時点の中身のまま運用し続ける、という可能性は低くはないが、メモリを増設したい、ストレージを変えたい、ビデオカードをアップグレードしたい、掃除したい、などと思ったときに、フレキシブルに対応できるようにはなっていない。いちいち水槽の中身を別に移し替えてから、水槽を降ろして、仕切りのアクリル板を取り外して……みたいな回りくどい作業が伴うことになる。水槽とPCは別にすべきである。

 そしてもう1つ、PCケース部やパーツなどの重さを合わせるとトータルで20kgにはなるだろうその重さと、こぼれやすい水槽の水、といったことを考えると、いったん設置するとそこから筐体を動かしにくい、という問題もある。ちょっと部屋のレイアウトを変えたいなあ、なんて気分になったときに、おいそれとその場から動かせないのは厳しい。やっぱり水槽とPCは別にすべきである。

ポンプからのエアが水面で弾けて水滴を飛ばしているのもちょっと気になる。やっぱりフタはあった方がいいかも

 細かい点を言うと、PCの電源を切ると当然ながらLEDテープライトは消灯してしまうし、ケースファンのライトも消える(ポンプだけはPCのUSBポートがBIOSなどで常時通電設定になっている限り動き続ける)。水槽の水をケース内部に循環させてパーツを冷やせるとか、PCアプリケーションでLEDテープライトをコントロールできるとか、そういうギミックはないから、結局のところどちらも独立した存在であることは変わらず、2つを組み合わせることによるシナジーというかメリットは取り立てて見当たらない。

 そう考えると、この水槽部とPCケース部は別に設置して使うのもアリなのかもしれない。そうすれば、半分は中身が見える平置き型透明PCケースとして使えるし、もう半分はポンプ+ライト付きの水槽というオーソドックスなアクアリウム環境として活用できる。まあしかし、そんな風にして使うのであれば最初から水槽とPCは別に購入すべきである。

確実に心を癒やしてくれるが、水はやっぱり怖い

 と、なかなか辛辣な評価になってしまったのだが、「Y2鱼缸机箱」を使ってみて、アクアリウムの良さを改めて実感できたのは確かだ。間違いなく筆者の、そしてあなたの心の癒やしになってくれる。

 万が一のことを考えると、大量の水をたたえる水槽とPCを、わずか2枚のガラスとアクリル板とで隔てた状態で運用する(外側にこぼれた水に対しては無防備)というクレイジーなスタイルは絶対に避けるべきなのだが、LEDで明るく照らし出された雰囲気たっぷりのアクアリウムを、デスクワークの最中にいつでも眺められるという魅力には抗いがたいものがある、気がする。

 水量がさほど必要ない両生類・は虫類などであれば、それほど気を使うことなく運用できそうではある。ただ、常に暖かい状態を維持しなければならないは虫類には、PCの排熱だけでは到底間に合わないだろうし(たぶん高負荷状態を完璧に維持しなければならない)、一般的なヒーターを装着すると今度はPC側への影響も避けがたい。

 となれば、なかなかうまい組み合わせが思いつかないなあ、というのが正直なところ。せいぜい考えられるのは植物だけのネイチャーアクアリウムとか、そのくらいだろうか。せめて水槽が下で、PCが上だったならもうちょっと不安少なく使えたんじゃないだろうか、とも思うけれども……。そんなわけで、けっこうな玄人向けだなあ、と感じた今回の水槽PCケースなのだった。