イベントレポート
この秋はデスクトップCPU戦争が熱い。AMD、IPCが15%向上したRyzen 7000の概要を発表
2022年5月23日 15:33
AMDは5月24日からオンラインおよび対面で開催されるCOMPUTEX 2022の前日基調講演に、同社会長 兼 CEOのリサ・スー氏が登壇し、同社の新製品などに関する説明を行なった。
この中で、スー氏は同社の新製品として、CPUにZen 4コアを採用した次期デスクトップPC用CPUとなる「Ryzen 7000」シリーズを発表した。TSMCの5nmで製造され、CPUソケットがLGA1718に変更され、DDR5とPCI Express 5.0に対応するなど、CPUだけでなくI/O周りも強化され、CPUクーラーはSocket AM4用のソリューションを使い回せるように工夫されている。
AMDによれば、Ryzen 7000はこの秋に投入される計画で、Intelも同じく今年後半に「Raptor Lake」を投入する計画で、今年後半にはデスクトップPCの性能競争がさらに激しくなっていきそうだ。
Socket AM5という新しいプラットフォームに進化するRyzen 7000
今回AMDが発表したRyzen 7000の概要をまとめると以下のようになる。
- 5nmで製造されるCCDが2つ
- 6nmで製造されるIOD(I/O Die)
- I/OにRDNA2のGPUが統合されている
- I/O関連は高速化され、メモリはDDR5に対応し、24レーンのPCI Express 5.0に対応
- CPUソケットはSocket AM5ことLGA1718(1,718ピンのLGAソケットに進化)
- 最大でTDP 170Wに対応可能な設計
- Socket AM4のCPUクーラーとの互換性あり
- チップセットはX670E、X670、B650と3つのSKU
AMDは今年(2022年)の1月にCESに合わせて行なったデジタル会見の中で、Socket AM5と呼ばれる、LGA1718という新しいLGA(Land Grid Array)のCPUパッケージとソケットに移行すると発表していた。
その時点ではCPUは5nmで製造され、ソケットがSocket AM5になり、DDR5とPCI Express 5.0に対応するとだけ発表されていたが、今回はより多くの詳細が発表されたことになる。
従来のSocket AM4は、CPU側にピンがあり、CPUクーラーを取り外す時にCPUがCPUクーラーにくっついたまま外れるなどの際に、CPUのピンが破損するという事故が起きやすかった。今回のLGAへの変更は、自作PCユーザーとしてはシンプルに歓迎してよい変化だろう。
もう1つの歓迎して良い変化としてはピン数の増加がある。Socket AM4では1,331ピンだったのが、Socket AM5では1,718ピンと数が増えており、つまりそれだけ多くの信号線をCPUとマザーボードの間に通せるということだ。実際、PCI Expressのレーン数、USBのポート数、ディスプレイ出力のポート数が増えるといったメリットがもたらされる。
Zen 4になりL2キャッシュが強化、TDPは170Wに引き上げられ動作クロックも引き上げられる
CPUはZen 4という開発コードネームを持つ新しいCPUのダイ(CCDと呼ばれる)へと強化されている。そして、IODも6nmへの微細化され(従来世代のZen 3世代では14nmで製造されるIODが採用されていた)、CCDもIODも製造プロセスルールが微細化されたことが大きな強化点となる。
CPUのZen 4に関しては、現時点ではアーキテクチャ上の詳細は明らかにされなかったし、CPUコアの数(1つのCCDにいくつのCPUコアが搭載されているかなど)は明らかにされなかった(後述するGhostwire: Tokyoのデモでは16コア版が使われたので、16コア版が存在することは判明している、その場合は現行と同じ1つのCCDあたり8コアとなる)。
今回公開されたのはキャッシュ周りの強化点だ。CPUコア1つあたりのL2キャッシュは1MBと、従来のZen 3での1つのコアあたり512KBから倍増されることは明らかにされた。近年のAMDはキャッシュサイズの増加に力を入れており、Zen 3世代では3D V-Cacheを利用して大容量のL3キャッシュを搭載したモデルを用意するなどしており、そうした戦略の延長線上にある強化と言える。AMDによれば、そうした強化によりシングルスレッドの性能の上がり幅は15%だということだ。
また、デスクトップPC向けとしてはターボブースト時のクロックが5GHzを超えることは見逃せない。実際、AMDが基調講演の中で行なったデモ(Ghostwire: Tokyoを利用したデモ)では16コアのRyzen 7000が5.5GHzでずっと動作し続ける様子が公開されており、TDPが従来製品の105Wから170Wに引き上げられたことのメリットが出ていることが見てとれる。
今回AMDは、AI関連の新命令セットに対応していることを明らかにしている。現時点ではどのような命令かはわからないが、Intelが近年の製品でサポートしているようなBF16(Bflot16)やINT8に置きかえて演算することで、マシンラーニング/ディープラーニングを利用した推論時の処理速度を高めるような命令セットが追加されると考えることが妥当だろう。
そう考えると、現在のZen 3ではAVX2までの対応に留まっている拡張命令への対応が、AVX512へ拡張され、Intelが言うところのVNNIなどに対応するというのがストーリーとしてはもっとも考えられるが……。
なお、この新命令セットへの対応がどのようなものかは、今後Ryzen 7000が市場に投入される段階など今年の終わりまでに説明されるとAMDでは説明している。
IODにRDNA2 GPUが統合。4ディスプレイ出力、PCIe 5.0、DDR5などの強化
プラットフォーム面で最も注目すべきは、IODにRDNA2アーキテクチャのGPUが統合されていることだ。従来のZen 3世代までは、デスクトップPC向けで内蔵GPUがないバージョンはCCD×2+IOD、内蔵GPUがあるデスクトップPC向けとノートPC向けはI/Oまで統合されたSoCという2つのバージョンの製品を用意していた。
しかし、このZen 4世代ではIODにGPUが統合されることになるので、GPUなしのデスクトップPC版も、GPUありのデスクトップ版も、ノートPC版もすべてCCD×2+IODのチップレット版で作ることが可能になる。
現時点では、AMDが明らかにしているのはGPUなしのデスクトップPC版だけで、同じ構造でノートPC向けを作るかは不明だが、AMDにとっては、1つのCCDと1つのIODを設計するだけで、複数のプラットフォームに派生することが可能になり、製造上の効率が大きく高まることになる。
ただ、今回AMDはそのIODに内蔵されたRDNA2の詳細(CUはいくつ内蔵しているかなど)に関しては説明しなかった。1月のCESで発表されたRDNA2を統合したSoCとなるノートPC向けのRyzen 6000シリーズでは最大で12CUのRDNA2 GPUが統合されており、IODもそのあたりのグレードのRDNA2 GPUが統合されることになるかもしれないが、現時点では詳細は明らかになっていない。
1つだけ明らかになっているのは、IOD内蔵のRDNA2を利用した場合にはディスプレイ出力が最大4ポートで、HDMI 2.1ないしはDisplayPort 2.0に対応したポートを実装することができるということだ。また、今回詳細は明らかにされなかったが、IODには新しい省電力機能が搭載されているという。
GPU以外のI/Oの強化も大きな強化点と言える。IODに内蔵されているメモリコントローラはDDR5対応へと強化され、PCI Expressも5.0に対応し、最大24レーンが実装される。また、USBコントローラも強化され、USB 3.2 Gen 2x2に対応した20Gbpsでのデータ転送が可能になる。
なお、Wi-Fi 6E対応も謳われているが、これはIODに内蔵ではなく、Qualcommなどのパートナーとの協業による実現になる。AMDは先週「Qualcomm FastConnect 6900」などをRyzenと動作検証などをしてOEMメーカーに提供することを明らかにしており、そうしたパートナー企業が提供する外部Wi-Fiコントローラをマザーボードメーカーがチョイスした時にWi-Fi 6E対応になるという意味になる。
X670E、X670、B650という3つのチップセットのSKUが用意される
新しいRyzen 7000に対応したチップセットとしては3つのSKUが発表された。それがX670 Extreme(ないしはX760E)、X670、B650という3つのSKUになる。
X670Eはその名前(Extreme)からもわかるように最上位の製品で、すべての機能を持った製品になる。GPU/SSD用の制限のないPCI Express 5.0(24レーン)、すべてのオーバークロック機能を備えており、ハイエンドゲーマーなどエクストリーム・ユーザー向けという位置づけになる。
X670はGPU用のPCI Express 5.0はオプション(グラフィックス用のPCI Express 4.0に標準対応)となり、SSD用のPCI Express 5.0に対応(つまりはPCI Express 5.0のx4レーンが1つに対応という意味になる)、ほとんどのオーバークロッキング機能に対応している。また、B650は従来のBシリーズと同じようにメインストリーム向けとなり、PCI Express 5.0が1x4になり、CPUにはPCI Express 4.0に対応している。
いずれの製品もPCI Express 5.0のSSDに対応しており、AMDとしても5.0対応SSDの普及を訴求していく。コントローラメーカーのPhisonとパートナーシップを組んで、5.0に対応したSSDの普及を促進する。
AMDによれば今回のCOMPUTEXではASRockから「X670E Taichi」、ASUSからROG 「CROSSHAIR X670E EXTREME」、BIOSTARから「X670E VALKYRIE」、GIGABYTEから「X670E AROUS XTREME」、MSIから「MEG X670E ACE」などのSocket AM5マザーボードが発表される計画であると明らかにされている。
第12世代Coreは上回る性能を実現とスーCEO、秋にはIntelのRaptor Lakeと熱いバトルか?
AMDはCOMPUTEXの基調講演の中でRyzen 7000の性能に関しても説明を行なっており、Ryzen 7000シリーズとだけ書かれたSKUやスペック不詳のRyzen 7000とCore i9-12900K(8xPコア/ベースクロック3.2GHz/ターボ時5.2GHz、8xEコア)との比較で3DレンダリングソフトのBlenderを利用してAMD側は25秒(筆者の手計測)で終わったのに対して、Intel側はそれ以上かかっていることが確認できた。
Intel側のシステムが終わらないうちにデモは終了したのでIntel側が何秒かは不明だったが、スーCEOは「31%上回っている」と説明した。
AMDによれば、こうしたRyzen 7000、そしてSocket AM5マザーボードが市場に登場するのは今秋と説明された。その頃には、Intelも開発コードネーム「Raptor Lake」で呼ばれる次世代デスクトップPC向けCPUを投入する見通しだ。つまり、この秋にはZen 4ベースのRyzen 7000と、IntelのRaptor Lakeという2つの新しい製品がデスクトップPC向けに投入されることになる。
この秋は、デスクトップPC向けのCPUを巡っての両社の激しい競争で市場は盛り上がりそうだし、何よりユーザーとして新しいCPUが登場することで、デスクトップPCを更新する良いタイミングがやってくることになる。