レビュー
ASUSの簡易水冷搭載Radeon RX 6800 XTビデオカードを試す
2020年12月9日 06:50
ASUSから、簡易水冷を搭載したRadeon RX 6800 XTビデオカード「ROG-STRIX-LC-RX6800XT-O16G-GAMING」が発表された。今回、発売に先立って製品を入手したので、簡単にレビューをしたい。なお、発売日と価格はともに現時点では未定だ。
240mmラジエータ装備で冷却性に不安なし
本製品はRadeon RX 6800 XTの解禁早々、ASUSより予告されたモデルで、RadeonとしてはRX Vega 64以来、久々の簡易水冷仕様だ。ただ、Vega 64の水冷モデルは120mmラジエータを採用していたのに対し、本製品は240mmラジエータを装備しており、より高い冷却性を達成できる。
Radeon RX 6800 XTのチップ自体のTDPは不明だが、ボード全体の消費電力は300Wとされている。昨今のCPUは、TDPが125W程度であっても、240mmないしは360mmラジエータ採用の簡易水冷と組み合わせて使っていることを考えると、200W超が確実なGPUと240mmラジエータの組み合わせはなんら不思議ではないと言えるだろう。
製品名 | ROG-STRIX-LC-RX6800XT-O16G-GAMING |
---|---|
GPU | Radeon RX 6800 XT |
SP数 | 4,608基 |
ゲームクロック | 2,110MHz(リファレンスから+95MHz) |
Boostクロック | 2,360MHz(リファレンスから+110MHz) |
ビデオメモリ | GDDR6 |
バス幅 | 256bit |
速度 | 16Gbps |
インターフェイス | HDMI 2.1、DisplayPort 1.4a、USB Type-C |
最新のGeForce RTX 30シリーズとRadeon RX 6000シリーズは、いずれも消費電力が300Wクラスとなっており、従来と比較するとまさしく“モンスター級”とも言える。そのためメーカー各社は周辺の強化に乗り出しており、マルチフェーズに対応するための長尺/幅広基板や、2.5スロット占有のGPUクーラーは、常識になりつつある。そのなかで240mmラジエータを採用する本製品のようなモデルが出てくるのは、ある意味自然なことなのだ。
本製品は240mmラジエータを備えている関係で、ケースをかなり選ぶのは確か。近年のケースは5インチベイ/3.5インチベイがなく、前面と上部両方に簡易水冷を装着できるので、そういったケースではあまり問題にならないかもしれないが、一方向にしか240mmラジエータを装着できないようなケースにおいて、CPUにすでに簡易水冷を採用している場合新たに組み込むのは難しい点は注意したい。
また、本製品はカード自体の幅が広く、なおかつ側面から水冷のホースやファン接続ケーブルが出ているため、幅に余裕があまりないケースだと、たとえ240mmラジエータを収められるスペースがあっても、サイドパネルを閉められないといった事態になりかねない。購入のさいはよく確認してからにしておこう。
しかし、カード長自体は近年のトリプルファン採用モデルと比較するとかなり短い上に、占有スロットも2スロットだけで済むので、対応ケースさえ見つけられれば逆に組み込みやすいと言えるだろう。
ASUSならではのクラフトマンシップ
それでは本体を見ていこう。さすが240mmラジエータとビデオカード本体の2ピースに分かれた製品だけあって、パッケージは一般的なビデオカードよりかなり厚みがある。ただ、カード長はむしろ短いためコンパクトに収まってはいる。店頭で購入しても問題なく持ち帰れそうだ。内容物は本体のほかに、マニュアルと、結束バンドや定規、シールなど、いくつかのオマケがついていた。
ビデオカード側には、ブロワーファンが搭載されていて、VRMといった部品を冷却する。その一方でビデオメモリとGPUはポンプ一体型の水冷ヘッドにより冷却される仕組み。このため、いわゆる電源部も冷却するフルカバー水冷とは異なる。ただ、Radeon RX 6800 XTのリファレンスは事実上3スロット占有するが、先述のとおり本製品は2スロットで済むので、拡張カードを1つでも多く利用したいユーザーには優しい仕様だ。
水冷ラジエータとファンの作りに関しては、CPUに使われるそれと似ているので説明は省くが、ビデオカード側のデザインはなかなか凝っている。多角形や金属をふんだんに使ったヒートシンクカバーや、ストライプスデザインが入ったバックカバー、ステンレス製のブラケットなど、ASUSビデオカードの上位モデルだけあって抜かりはない。クラフトマンシップが十分に感じられるデザインとなっている。
カードの側面からは水冷のホースのほかに、ファンとARGB LED制御用ケーブルも伸びていて、水冷ホースを含めれば、ビデオカード/ラジエータ間は合計6本の線がつながれていることになる。ちなみにファンとARGB LED制御用のピンヘッダは一般的なものと互換なので、マザーボード側で制御することもできる。
逆に、本体末端部には一般的な4ピンPWM対応ファンを接続するコネクタも2本ついているので、GPUの温度に伴ってケースの吸排気ファンをビデオカード側で制御することも可能だ。
ただ、本体には控えめに側面のROGロゴがRGBに光るようになっているし、先述のとおり威張れるデザインではあるのだが、基本的に側面のケーブルが煩雑になりがちなため、適当に組み込んだだけだと、見栄えはあまり良いとは言えない。ラジエータの配置スペースを十分考慮した上で、ファンケーブルをきれいにまとめるなどの工夫が必要となる。
基本的にQ modeでの運用がおすすめ
それでは最後に性能を簡単に検証したい。用意した環境はCPUがXeon W-1290P(ES品)、DDR4-2666メモリ32GB(8GB×4)、マザーボードがSupermicroの「X12SCA-F」という、PalitのGeForce RTX 3070 JetStream OCレビュー時と同じもの。やや特殊な環境だが、事実上Core i9-10900+Z490環境に近い。Radeon RX 6800 XTのレビューについてはすでに掲載しているため、詳しいベンチマークはそちらを参照されたい。
本製品の背面には、「P mode」と「Q mode」という2つのモードを備えている。これはファンの動作モードで、前者は冷却性重視、後者は静音性重視だった。ただ、このスイッチを変更したからと言って動作クロックには影響なく、2つのモードで3DMarkを計測してみたがスコアはほぼ同じであった。
よって、今回はQ modeでの結果を掲載しているが、スコアを見ればわかるとおりRadeon RX 6800 XTらしい高性能で、GeForce RTX 3070を大きく上回り、3080クラスと拮抗するスコアである。
ちなみに、バラック状態では、P modeもQ modeも動作温度にも大差がなく、いずれもGPU温度は60℃前後で推移していた。ただ、Q modeのほうがファンの回転数が明らかに低く、騒音も少なかった。ケース内のエアフローがよほど不利でないかぎり、標準のP modeではなくQ modeで運用すべきだろう。
本機は標準で最大2,360MHzがBoostクロックが設定されていたのだが、冷却に余裕があるからか、2,450MHzに近いクロックも記録した。ただ、2,500MHz以上を設定してしまうとやや不安定になった。個体差もあるとは思うが、本機はすでにRadeon RX 6800 XTの限界性能を十分に引き出せていると述べてよく、デフォルトのまま利用することをおすすめしたい。
Radeon RX 6000シリーズ供給不足の早期解消に期待
ROG-STRIX-LC-RX6800XT-O16G-GAMINGは、Radeon RX 6800 XTの性能を十分に引き出しながら、Q modeで十分な静音性も確保した製品だ。Radeon RX 6800 XTのリファレンスは基本的にケース内に十分なエアフローがあることが前提のGPUクーラーであり、環境によっては十分に冷却できず、騒音に悩まされそうだが、本製品は簡易水冷によって、外気に近いところで吸排気ができるので、比較的安定した冷却が見込める。収められるケースが用意できれば、十分魅力的な製品だ。
一方でやや心配なのはRadeon RX 6800 XT自体の供給量だ。AMDはこのところ立て続けに新製品を投入しているが、Ryzen 5000シリーズもRadeon RX 6000シリーズも、そしてコンシューマゲーム機のPlayStation 5もXbox Series X/Sも、皆TSMCの7nmプロセスであり、いずれも高い人気から品薄が続いてしまっている。なので本製品も発売日が未定なのだろう。こうした状況がいち早く解消され、Radeon RX 6000シリーズが欲しいユーザーがすぐ手にできるようにしてほしいものだ。