レビュー

G.SKILLの光るメモリ「Trident Z RGB」を試してみた

Trident Z RGB

 PCゲーミングの普及に伴って、RGBイルミネーションは身近なものになった。もともとはゲーミング向けのキーボードやマウスなどで搭載されてきた機能だが、ビデオカードやマザーボード、PCファンで普及すると、ついにサウンドカードやCPUクーラー、PCケース、電源なども光るようになった。自作PCパーツでイルミネーション目的で光らないと言えば、光学ドライブとHDD、CPUぐらいしか残されていない。

 そして、「メモリ」もイルミネーションで光るパーツの1つ。メモリが光るのは意外にも歴史が古く、2003年にも機能的なものとしてCorsairの「XMS PRO SERIES」シリーズが登場していた。以降もCorsairは比較的積極的にこうしたプレミアム機能付きメモリをリリースしてるが、そのほかのメーカーの製品は通電時に単色に光るというだけのものがほとんどだった。

 メモリにRGB LEDが付き、本格的にユーザーが光り方をカスタマイズできるようになったのは、比較的最近のことだ。それを実現できた理由の1つは、やはりゲーミング需要で台頭したRGB LEDコントローラICの普及に伴う低価格化、そして開発がしやすい環境になったためだと思われる。

 今回ご紹介するG.SKILLの「Trident Z RGB」も、その流れのなかで生まれた製品の1つ。本機は、本体上部の表裏に6個ずつ、合計12個のRGB LEDを搭載し、専用のソフトウェア上から、5つのゾーンに分けて、色や発光パターンを制御できるようになっている。

 「RGB LEDコントローラIC」と簡単に述べてしまったのだが、じつは本製品はどのようにしてRGB LEDの制御を行なっているのか、仕組みは明らかではない。G.SKILLに問い合わせてみたが、機密保持契約(NDA)を結ばないと教えてくれないとのことだったので、その仕組みは事実上非公開だ。モジュールのヒートスプレッダを外して、せめてコントローラを見てみようと試みたが、接着がかなり堅牢で断念した。

 しかし、完全にヒントがないわけではない。たとえば、同じくRGB LEDを搭載し、それを制御できるGALAXの「GAMER III RGB」シリーズは、RGB制御用のコントローラとして、Holtek製のArm Cortex-M0+プロセッサをベースとしたマイクロコントローラ「HT32F52231」を採用していることが明らかになっている。つまり、PCのCPUに関係なく、RGB LEDの制御を行なっていると見られる。

GALAXのGAMER II RGBシリーズの製品ページより。Holtek製のArm Cortex-M0+プロセッサ、HT32F 52231が、RGB LED制御用として使われている

 DDR4メモリの標準規格では、当然このような汎用プロセッサの接続が考慮されておらず、ピン配列の大部分は電源もしくはメモリのデータ転送用だ。ほかの用途に利用できそうな汎用バスと言えば、メモリのタイミング情報を保存しておくSPDと通信に残された低速なI2Cバスのみだ。

 HT32F52231にも、このI2Cバスが用意されており、これがマスターとしても、スレーブとしても動作する。よって、少なくともGALAXのGAMER III RGBは、DDR4スロットのI2Cを介して、OSやソフトウェア上などからHT32F52231と通信していると見られる。

 後述する、G.SKILLのホームページ上からダウンロードできるRGB LEDコントロールソフトの注意書きでも、その挙動の一部を伺い知れる。これによると、ASUSのX99マザーボードで本製品のRGB LEDコントロール機能を有効にするためには、「DRAM SPD Write」という機能を有効にする必要があるとされている(GIGABYTE/MSI/ASRockは標準で有効になっている)。このことからも、SPDと共通のI2Cバスを利用していることがわかる。

 I2Cの規格上、複数のマスターやスレーブを同じバス上に載せることは可能とされているので、SPDとHT32F52231の両方を搭載することも一応可能のようだ。一方で、HT32F52231には32KBのフラッシュメモリを内包しているので、このなかにSPD情報を保存し、HT32F52231一発でSPDとして振る舞うこともできそうだ。

 とは言え、Trident Z RGBに関しては情報がなく、分解できていないため、どの手法で実現しているのかは不明。というより、そもそもHT32F52231またはそれ相当のものが搭載されているかどうかすら不明なので、あくまでも筆者の憶測の域を出ないのだが、少なくともSPDと同じI2Cバスを利用していることは確実だろう。

HT32F 52231のブロックダイアグラム。とは言え、Trident Z RGBにHT32Fが使われている保証はない

メモリをじっくり眺めてみる

 DDR4メモリモジュールなのに眺めて楽しいのか! などと怒られそうだが、じつは見どころが多いのがTrident Z RGBの特徴でもある。ちなみにTrident Z RGBは容量やタイミング、動作クロックの違いで多彩なラインナップがあるが、今回G.SKILLより送られたのは「F4-3200C14Q-32GTZR」と呼ばれるモデルだ。DDR4-3200に動作し、レイテンシはCL14-14-14-34、動作電圧は1.35V。容量8GB×4枚組のセット(合計32GB)で、Intel XMP 2.0への対応が謳われている。

 パッケージはごくごく普通の紙のパッケージで、モジュール1枚1枚がブリスターパックに入っている。そのモジュールだが、CPU側のヒートスプレッダはガンメタル、逆側のヒートスプレッダは黒のツートーンカラーとなっている。LED自体は基板の上に実装されているのだが、その光を柔らかくするための、乳白色のプラスチック製パーツが上部に取り付けられている。

 モジュールの高さは44mmあり、サイドフローのCPUクーラーでは、一部が干渉して装着できなくなる可能性がある。本製品の特徴でRGB LEDイルミネーションを“鑑賞する”ためにも、できればメモリモジュールの上空の干渉を極力抑えたCPUクーラーか、簡易水冷CPUクーラーの使用をおすすめする。

 先述のとおり分解はできていないのだが、外観からでもある程度技術寄りの話はできる。まず、本製品のチップは片面実装によって実現されている点だ。3,200MHzという高いクロックを実現していることから鑑みるに、おそらくシングルランクだろう。採用チップは不明だが、近年のオーバークロック向けメモリの大半はSamsungだと聞くので、本製品もSamsungを採用している可能性が高い。

 片面実装されているチップだが、Skylake登場時に話題になった「B1ガーバー」そのままというわけではない。もっとも、本製品の場合、RGB LEDやそのコントローラの実装をしなければならいため、JEDECリファレンスを採用できない。しかし、A1,D1ガーバーをベースにしていると見られる。

 2,400MHzにネイティブ準拠したJEDEC準拠のUnbuffered DIMM基板デザインは、SK Hynixが設計した「A1,D1」、Micronが設計した「B1」、「C0」、そしてSamsungが設計した「E1」があるなどがある。チップの配列などから本製品はA1,D1にもっとも近い。ただ、基板中央の蛇行配線などが違うことから、LED部のみならず、DDR4の信号線も含めてオリジナル設計であることが伺える。

 ちなみに、G.SKILLは4,000MHz以上で動作するメモリを一般でも販売しているし、世界のメモリクロックランキングは、ほぼG.SKILLの製品が上位を占めている状態。これは同社が高クロックメモリに特化した開発/設計をしていることを裏付けるものだと言えるだろう。

ラベル面はガンメタルのヒートスプレッダ
裏面はブラックのヒートスプレッダ
ヒートスプレッダは切り欠きやフィンのデザインが入っている
メモリチップは片面実装
基板はオリジナル設計で、チップが左右のエッジに寄っている。JEDECが公開しているリファレンス基板設計としては、SK Hynixが設計したA1,D1にもっとも近い
乳白色のパーツの下に合計12個のRGB LED
モジュールの高さは約44mm。CPUクーラーとのクリアランスに配慮する必要があるだろう
おまけで付属しているG.SKILLのステッカー

LEDをいじってみる

 さていよいよマザーボードに組み入れて、RGB LEDの発光機能を試してみたい。今回用意した環境は、CPUにCore i7-7700K、メモリに本製品、マザーボードにASRockのZ270M Extreme4、OSにWindow 10 Homeをインストールした環境である。なお、本製品はASUSの「Aura Sync」に対応しており、マザーボードのユーティリティで発光を設定したり同期させたりできるはずだが、今回は試していない。

 発光を設定するためには、まず専用のユーティリティ「Trident Z RGB Control」をG.SKILLのサイトからダウンロードしてインストールする。先述のとおり、ASUSのX99マザーボードではDRAM SPD Write機能を有効にする必要があるが、それ以外のマザーボードでは、最新版のv1.00.28ではとくに設定しなくても動作するはずだ。

 ソフトはシンプルなUIで、左ペインでエフェクトを選んで、詳細な設定は右のペインで行なうだけ。このうち「Color cycle」や「Rainbow」といったいくつかのエフェクトは、詳しい色設定ができないが、カスタマイズできるものに関しては、1つのモジュールにつき5つのセグメントの色と、エフェクトの速度を設定できるようになっている。ただし、エフェクトはモジュールごとに設定できるわけではなく、PCに装着しているすべてのDRAMで共通のエフェクト設定となる。

エフェクトがないStatic。LEDの色のみを設定する
Breathingエフェクト。呼吸しているようなエフェクトとなる
Color Cycleエフェクト。色が滑らかに循環する
Raibowエフェクト。虹のようにゆっくり変化していく。なお、変化する色域を限定できる
Cometエフェクト。上から下に流れるように点くエフェクトだ
Flash and Dashエフェクト。すべてのLEDがあらかじめ暗く点き、Cometのように明るく流れる
Flash and Dashの変化をもっと滑らかにしたようなエフェクトだ
Glowing YoyoはWaveのあとにCometが来るようなエフェクト
Starry-Nightは星のようにランダムにチカチカするエフェクト
Strobingは全体がだんだん明るくなり、一気にオフになり、まただんだん明るくなるようなエフェクト

 実際に設定して見たところが下の動画だ。ご覧のように、上部の乳白色のパーツの効果もあいまって、近頃のLEDイルミネーションにありがちな、LEDの直射光による“眩しい”ものではなく、パステルカラーに近いような、柔らかい印象を受ける。

 もちろん、PC内部全体をイルミネーション化するさいのテーマとして、眩しいほうで統一するか柔らかい光で統一するかは自由だし、個人の好みもあるだろうが、筆者は柔らかい光のほうが上品さがある印象で好みだった。PC自作を十数年もやっていれば、そろそろLEDの直射光はもうおなかいっぱいだったりする。

 ちなみにソフトウェアを入れず、電源を投入したばかりの状態では、なめらかなグラデーションがゆっくり変化するエフェクトとなる。設定をどこかしらに保持していくことはできず、基本的にソフトウェアに依存している。ソフトウェアはWindowsのサービスとして常駐しており、制御を行なっているようだ。

 音楽に合わせて光らせるエフェクトもある。この場合、Windowsのミキサーから光るパターンをリアルタイムに演算してI2Cバスでリアルタイム制御する。そのため、このエフェクトの場合のみ、音楽再生中などはCPU使用率が上昇する。

DDR4-3200の高クロックで低レイテンシ

 最後に本製品の性能を計測してみよう。ただ、Trident Z RGBシリーズは豊富なバリエーションがあり、モジュールあたりの容量や枚数違いの組み合わせのほか、動作クロックやレイテンシ、駆動電圧の違いなどで、じつに73モデルも用意されている。上記のRGB LED機能に関しては共通だが、じっさいにユーザーが購入するのは、自身の環境に合わせて選ぶことになる。よって、今回の性能検証はあくまでも参考にしていただきたい。

 今回サンプル提供をいただいたモデルは、3,200MHz駆動、CL14-14-14-36、1.35Vで、容量は8GB×4(32GB)のものだ。ポイントは、3,200MHzという高いクロックであるにも関わらず、レイテンシは14とかなり低く抑えられている点。一般的に、JEDECで定められているレイテンシは、2,133MHz駆動で15-15-15-36、2,400MHz駆動で17-17-17-39、2,666MHz駆動で19-19-19-43なので、本製品のレイテンシがいかにアグレッシブなものかおわかりいただけるだろう。

 検証環境だが、CPUにはCore i7-7700K、CPUクーラーにCRYORIGのA40 Ultra、マザーボードにはIntel Z270を搭載したASRock Z270M Extreme4、SSDにKingstonのSSD Now Vシリーズ(SNV425-S2/64GB)、OSにWindows 10 Homeを準備した。

 検証パターンは、本製品のSPDにプロファイルとして保存されていたJEDEC準拠の2,133MHz、Z270M Extreme4のBIOS上から2,400MHzとして自動設定したもの(Kaby Lakeの対応メモリクロック)、そして本製品のSPDに保存されていたXMP Profile 2.0の3種類だ。テストにはSiSoftware Sandra 2017を使用し、メモリバンド幅とレイテンシ、Intel HD Graphicsから見たメモリバンド幅の測定を行なった。

 メモリの高クロック+低レイテンシ化の効果を見ると、2,133MHz→2,400MHzのクロック比率は1.125で、それを裏付けるかのようにSandraのバンド幅も12.5%向上している。一方で2,133MHz→3,200MHzのクロック比率は約1.5だが、バンド幅の向上率は48.9%となっている。

 わずか1%ほど足りないが、計測誤差の可能性もある。これ以上のクロックを試していないのでなんとも言えないが、高クロックなメモリ環境下では、Core i7-7700K内蔵メモリコントローラやリングバスが足かせになる可能性も高く、そちらも合わせてオーバークロックする必要性が生まれてきそうだ。しかし、少なくとも3,200MHzあたりまでは、CPUのオーバークロックをせずとも、十分なメモリ帯域幅を享受できそうではある。

 ちなみにメモリ帯域が実性能に与える影響は、残念ながら普段の作業においてはあまりない。メモリを酷使するような作業なら体感できるだろうが、実際同システムにGeForce GTX 1080 Tiを載せてさまざまなゲームをプレイしてみたが、2,133MHzと3,200MHzのあいだで有意義な差は見られなかった。ただ、Trident Z RGBシリーズは2,400MHz品から用意されているので、純粋なRGB LEDイルミネーションをリーズナブルに楽しむなら、そちらで十分だろう。

自作PCは華を添えよう

Trident Z RGBのパッケージ

 本製品が活きるのは、やはり側面がアクリル、もしくは強化ガラスのPCケース、もしくはバラック状態に限る。近年、側面がアクリル/強化ガラスのケースが手頃になってきているほか、その種類も多く、いまや内部が見えないPCケースを見つけるのが難しいほどだ。

 2000年前後の時代、自作PCと言えばコストパフォーマンスの追求の要素が大部分を占めていたが、いまや自作PCは単なる趣味と言っても過言ではない。つまり、PCが必要だから組むというより、PCパーツが好きだから組むという人のほうが多いだろう。そんなパーツ好きのために、自作向けPCケースの“見える化”が進んできたわけだが、それならいっそ、マザーボードやビデオカード、メモリを派手にして、個性を出すようにしよう、というのが今のトレンドだと言える。Trident Z RGBもそのトレンドのなかで生まれた製品だ。

 もちろん、光るだけが芸だけではないのがTrident Z RGBのいいところで、メモリとして備わるべき機能や性能をきちんと踏まえた上で、数多くのオーバークロッカーが採用し、高いクロックを達成できる高い品質も兼ね備えている。普通のDDR4メモリより多少値は張るが、自作派にこそオススメしたいメモリである。