レビュー

USB 3.0接続でデュアル4K/60Hz出力できるディスプレイアダプタを試してみた

 Club3Dの「CSV-1474」および「CSV-1477」は、PCとUSB 3.0で接続し、4K解像度と60Hzのリフレッシュレートの出力を2画面で実現できる高性能なディスプレイアダプタだ。Amazon.co.jpでの価格は12,980円となっている。今回、Club3Dのご協力により実際の製品をお借りできたので、簡単な試用レポートをお届けしよう。

 まず、製品のレビューに入る前に技術的な背景を紹介したい。ひとくちUSB 3.0で4K/60Hz/2画面出力と言っても、技術的に簡単になし得るものではない。現在広く普及しているUSB 3.0の転送速度は5Gbpsだ。一方で4K/60Hzの1画面の転送に必要な帯域は3,840×2,160ドット×24bit×60Hzで、おおよそ11.944Gbpsだ。つまり、これを2画面分実現しようとすると、約24Gbpsもの帯域を必要とし、USB 3.0では到底実現できない。

 よって、この高解像度/高リフレッシュレートをUSB 3.0の帯域で転送するためには、データを圧縮する必要が生じる。この画像の圧縮を得意とし、技術やチップを含めて開発している会社が、米DisplayLinkだ。CSV-1474およびCSV-1477は、このDisplayLinkが開発した最新チップ「DL-6950」を採用することで、4K/60Hz/2画面出力を実現している。

 DisplayLink製品のおおまかな仕組みはこうだ。実際の画面描画などは、CPU内蔵のGPUや、ディスクリートGPUが行なう。具体的には「プライマリーディスプレイアダプタ」に指定したGPUが担当する。そして描画したフレームを、ビデオメモリ上からコピーしてCPUで圧縮、そしてUSB 3.0を通して転送し、USBアダプタに搭載されたチップで展開、ディスプレイへ出力する仕組みとなっている。

 よって、実際の表示性能は描画するGPUに大きく依存するほか、圧縮もCPUで行なうためある程度負荷に耐えるCPUを使用する必要がある。ちなみに圧縮は可逆圧縮方式を使っているため、画像の劣化はない。具体的な形式などは非公開だが、効率よく処理するため、画面で変化が現れた差分だけを圧縮して転送していると予想される。

 USB 2.0接続世代のDisplayLinkの製品では、不可逆圧縮により画像が劣化することもあったのだが、USB 3.0接続世代の「DL-3100」ですでに改善されていた点ではある。DL-6950はDL-3100の特徴を引き継ぎつつ、4K/60Hz/2画面への対応が図られた製品、ということになる。

 なお、DL-3100世代の製品の挙動や仕組みの考察については、アイ・オー・データ機器の「USB-RGB3/D」で過去にレビューしたことがあるため、そちらも合わせて参考にされたい。

プラグ・アンド・プレイで手軽に使用

 今回は、手持ちの4K/60Hzの出力ができないIvy Bridge世代のPC「NEXTGEAR-NOTE i300」を使用して製品をテストした。NEXTGEAR-NOTE i300は2012年の製品であり、HDMI出力は4K解像度の場合、24Hzが上限である。しかし4コア/8スレッドの高性能CPUや、(NVIDIA Optimusではあるものの)GeForce GT 630を搭載しており、2017年末においても普通のモバイルノートと張り合える性能の製品である。

 ディスプレイには、ASUSより今回のために特別にお借りした「PA328Q」と「PA329Q」の2モデルを使用した。PA328QはIPSパネルを採用し、sRGBとRec.709の色域を100%カバーするプロ向けモデル、一方PA329Qはその上位で、量子ドット技術を採用し、Adobe RGBカバー率99.5%を謳う製品である。

 若干の色味の違いがあり、ぱっと見てもPA329Qの方がきれいだということは明らかだが、いずれもハイエンドモデルということもあり、発色が鮮やかで視野角も広い。ちなみにPA328QはUSB 3.0 Hubが4ポート、PA329QはUSB 3.0 Hubが3ポートになる代わりにSDカードリーダがついている、前者のアクセントカラーはレッドで後者はゴールドといった微妙な違いもある。

 さて、CSV-1474とCSV-1477の違いだが、前者はHDMI 2.0による出力、後者はDisplayPortによる出力である。今回試用したのは後者だが、使い方などは両製品共通だ。CSV-1474はおもにTV向け、CSV-1477はおもにPCディスプレイ向けといったところだが、ディスプレイの入力に合わせて各自選択して欲しい。

CSV-1477の製品パッケージ
付属品は簡易マニュアルとドライバCDのみ
CSV-1477の本体
CSV-1474の本体
CSV-1474はHDMI接続、CSV-1477はDisplayPort接続。それ以外の違いはない

 パッケージには、本製品のほかに、簡単なマニュアルと8cmのドライバCDが同梱されていた。NEXTGEAR-NOTE i300はもともとOSとしてWindows 7 Home Editionが搭載されていたが、筆者はすでにWindows 8 Proへのアップグレードを経て、Windows 10 Proをインストール済みだ。CSV-1477を本体右側面のUSB 3.0に接続するだけで、自動的にドライバがダウンロード/インストールされ、1分足らずで使用可能になった。

 ちなみに本製品はUSB 2.0には非対応だ。試しにUSB 2.0に挿してみたが、デバイスとして認識されることはなかった。さすがに12Gbpsのデータを480Mbpsで転送させるのは無理で想定しておらず、下位互換性を完全に切り捨てた、ということだろう。USBデバイスとしては珍しいし、最近のPCで困ることはないだろうが、注意されたい。

USB 3.0でPCと接続し、ディスプレイと接続するだけで利用できた
Windows 10では、PCと接続するだけでドライバが自動的にダウンロードされ、利用可能になる

いろいろ試してみた

 先述のとおり、本製品は可逆圧縮による転送のため、画質のロスがなく、PA328Q/PA329Qが持つ高い画質のポテンシャルをそのまま活かせる。また、リフレッシュレートが60Hzのため、マウスポインタやウィンドウを移動させたときの遅延を感じることはなかった。

 試しにYouTube経由で動画を再生させてみたが、1080pの動画をウィンドウ表示のまま再生させてみたところ難なく再生できた。フルスクリーンにすると、シーンの変更といった画面内容が大幅に変化したときや、スクロールしたときに、テアリングやカクつきが発生した。4K/60pの動画再生も同じような現象が生じた。このあたりやはり5Gbps転送のボトルネックを感じさせる。

 とは言え、Club3Dは動画再生での使用を推奨しておらず、「できる」というだけでも驚きだ。ちなみに、本製品は映像のみならず音声もディスプレイに出力される。つまり、USB 3.0で音声ストリームも流れているわけで、それを踏まえた上で評価するならば立派の一言だ。

 試しに3Dゲーム(MMORPGの「黒い砂漠」)も実行してみた。NVIDIA Optimus経由のGeForce GT 630で描画されているわけだが、これも問題なく出力できた。GeForce GT 630は決して高性能なGPUではないので、解像度を1,366×768ドットの最小限に抑えているが、この程度なら問題ない、ということになる。

 もちろん、4Kを描画できるポテンシャルのGPUなら、そもそも4K出力を備えているだろうし、動画のときと同じくテアリングやカクつきが生じるだろうから、本製品は適していないだろうが、少なくともNVIDIA Optimusを挟んでも問題なく表示させられる点は安心だろう。

4Kの解像度なら、複数サイトの同時チェックなども楽々だ
動画を再生させてみたが、さすがにフルスクリーンでは若干のコマ落ちやテアリングが発生した。ウィンドウモードだと問題ない
動画再生中は、ビデオメモリの内容を圧縮して転送するため、Windows Driver FoundationのCPU占有率が上がる

 さて、「動画もゲームもできず、一般的なデスクトップ用途なら、旧世代のHDMIでも24Hzや30Hzが出せるから、60Hz出力じゃなくてもいいんじゃないの?」というツッコミもあるだろう。そこで用意したのが下の動画だ。

【動画】左がCSV-1477の60Hz出力、右がIntel HD Graphicsの24Hz出力

 この動画は、左にCSV-1477に接続したPA329Q、右にNEXTGEAR-NOTE i300のHDMIに接続したPA328Qを並べている。ディスプレイの設定で左右に並べていると設定し、マウスでウィンドウを掴んで移動させてみたところだ。NEXTGEAR-NOTE i300のHDMIポートは、Intel HD Graphics 4000から出力されており、4K解像度は出せるものの、設定から選択できるリフレッシュレートは24Hzまたは23Hzだ。一方、本製品は60Hzのほかに、30Hz/25Hz/24Hzも選択できる。

CSV-1477では、リフレッシュレートを60Hz/30Hz/25Hz/24Hzから選択できる
NEXTGEAR-NOTE i300のHDMIポートは4K出力が可能だが、リフレッシュレートは24Hzまたは23Hzに制限される

 動画は30p(つまり30Hz)で撮影したのだが、それでもリフレッシュレートによる差は一目瞭然だろう。CSV-1477の出力は60Hzのため、マウスの動きに対してウィンドウ描画の遅延を感じることはないが、NEXTGEAR-NOTE i300のHDMI出力は24Hzのためか、ワンテンポ……いや、ツーテンポぐらい遅れている印象だ。動画に撮ってもこれだけの差があるわけだから、実際の操作では雲泥の差と言ってもいい。60Hzを体感したあとだと、24Hzの動作は耐え難いほどだ。

 同じように、MMORPG「黒い砂漠」のプレイ画面を、左右のディスプレイにまたいでやってみたが、これもまったく同じだ。CSV-1477の方が先に描画されてから、NEXTGEAR-NOTE i300のHDMIの方が後に描画される。

【動画】左がCSV-1477の60Hz出力、右がIntel HD Graphicsの24Hz出力

 ちなみに、データを圧縮してUSB 3.0で転送、さらにチップ上でデータを展開……という一連の処理で、遅延が気になるところだろうが、少なくとも筆者にはその遅延を体感することはできなかった。無線のMiracast技術などによるディスプレイ表示では、どうしても遅延が発生し、一般的なデスクトップ作業ですら気になることはあるのだが、CSV-1477の遅延は無視できるほどと言っていい。それは上記の動画を見ても明らかだろう。

古いノートPCの延命や複数の4Kディスプレイ増設に最適

 単純に4K/60Hzの出力をしたいだけであれば、近年のノートやデスクトップPCは間違いなくサポートしているし、デスクトップPCの場合、同価格帯のビデオカードの買い替えも視野に入ってくる。そのため、本製品は選択肢になりえない。

 しかしHaswell~Sandy Bridge世代の古いノートPCで、4Kの出力をしたいと思っているならば、本製品はなかなかいい選択肢だ。そのクラスのノートは、未だ実用十分な性能を持っているが、4K/60Hzの出力ができないといった弱点がある。写真編集やお絵描き、簡単なCAD程度なら、4Kの高解像度のメリットを旧世代のノートPCで享受できる。

 また、現代的なデスクトップPCでも、単純にディスプレイを増設したいといった場合に本製品は選択肢になりうる。最近のビデオカードは4つの程度のディスプレイ出力を備えていることも珍しくないが、6枚や8枚のディスプレイ環境を構築しようとした場合、1つのビデオカードでまかなえない可能性もある。1万円ちょっとで入手でき、USB 3.0ポートに挿せば1分程度でディスプレイを2つ増設できる本製品は、魅力的だと言える。