レビュー

静電容量式のメリットを最大限に活かしたアナログ入力対応版「REALFORCE」を試す

~MIDI鍵盤やゲームコントローラにもなるキーボード

REALFORCE108UH-ANLG(型番:AFAX01)

 東プレ株式会社は、アナログ入力に対応したキーボード「REALFORCE108UH-ANLG」(型番AFAX01)を発売した。価格はオープンプライスで、店頭予想価格は3万円前後だ。今回、発売に先立って試作機を入手したので、試用レポートをお届けしたい。

 AFAX01は、おそらくキーボード製品としては初めて「アナログ入力」をサポートした製品となる。読者なら既にご存知だろうが、東プレのREALFORCEシリーズは、静電容量の変化でキー入力検知を行なう静電容量無接点方式を採用している。つまり、電極のような機械的な接点を持っておらず、オン/オフだけの一般的なキースイッチとは構造的に異なる。

 逆に言うと、これまでのREALFORCEシリーズはそもそも静電容量の変化を検知していたのだが、キーボードであるが故に、“わざわざ”ほかのキーボードと同様に、キーのオンとオフという2つの状態(厳密に言えば、USBではオンだけ)をPCに送信していたのだ。AFAX01では初めて、入力された静電容量の値をPCに送信することで、アナログ入力を実現したわけである。

 アナログ入力と言っても、その実態は当然デジタルである。AFAX01では、従来機種にはない、静電容量の変化を読み取るコントローラ、およびファームウェアを新たに実装することでアナログ入力を実現している。できれば分解してそのコントローラとやらを一目見てみたいものだが、今回は試作貸出機である上に、REALFORCEシリーズを一回分解してしまうと戻すのが大変であるということは、筆者が身をもって体験しているので、分解していない点をご容赦頂きたい。

普通のキーボードとして使ってみる

筆者が2003年に購入した初代のRealforce 106(LA0100、写真上)との比較。インジケータ部のプレート以外、ほとんど変わっていない

 まずは普通のキーボードとしての使い勝手を見ていこう。筆者は2003年頃からのREALFORCEユーザーで、今もなお2003年に買ったRealforce 106(型番:LA0100)を現役で使っていたりする。このLA0100は、小指で打つキーが30g、そのほかのキーが45gという変荷重が特徴。一方AFAX01は全てが45gに統一されている。実際の荷重感は、確かにLA0100の45gと同じ印象だ。

 ただ、AFAX01は今風のキーボードらしく“スコスコ”といった感じで入力できるのに対し、LA0100は“パタパタ”いった感じだ。LA0100は13年間使っているだけあって経年劣化も否めないが、筆者のように長年LA0100を使っていてAFAX01に乗り換えた場合、この辺りの違いは感じ取れるはずである。とは言え、違和感を感じるほどではないため、すぐに慣れることだろう。

 ちなみにLA0100を購入した当初、小指の荷重が30gのキーに対し「薬指を置いただけのつもりが入力されていた」ということはしばし発生していたのだが、全て45gになったAFAX01ではまずそのようなことは起きない(ちなみになぜ薬指を置くかというと、当時の筆者がLA0100でよくプレイしていたファイナルファンタジーXIのマクロは、AltまたはCtrlと数字キーで同時発動するものが多く、小指を1に置くより薬指や中指を置いた方が疲れないため)。例え起きたとしても、後述するREALStationソフトウェアで押下の反応距離を変更すれば良いだけだ。

 配列は、日本語108のお手本となるような標準配置なので、慣れる必要は特にない。小指が30gではないという点も、しばらくタイピングして杞憂に終わった。というよりも筆者は仕事でLA0100以外のキーボードを使っているので、特に気にならなくなっていたのである。かくいうこの原稿も全てAFAX01で書いている。

シリーズ一貫でステップスカルプチャーを採用しており、打鍵時の違和感が少ない
手前に小さな滑り止めがあるだけだが、全体的に重量感のある作りのため、打鍵によってキーボードがずれることはまずない
チルトスタンドは1段階のみ
チルトスタンドを立てた状態
本体底面。ケーブルは左右どちらかに這って出せるガイドが付いている
右上のプレート。LEDはブルーに光る
apH/apM/apL/ap*はいずれもREALFORCEキーと同時押しで発動。全てのキー入力位置変更を浅く/中間/深く/任意にするものである。なお、MIDIモードのときだけ、apHは半音音程を上げる、apMは半音音程を下げる、apLは下側半分を1オクターブ上げる、ap*は同じく下側半分を1オクターブ下げるものである

マウスモード

 さて、ここからはAFAX01が本領を発揮するアナログの部分である。まずはマウスモードを見ていこう。マウスモードへの切り替えは、スペースバーの横にある「REALFORCEロゴ(無変換)」+「F1」で切り替えを行なう。切り替えた後は、カーソルキーでマウスの上下左右、右Ctrl(手前の刻印はL-click)で左クリック、右Shift(同R-click)で右クリック、アプリケーションキーでセンタークリック(同Z)、Page Up(同U)で上へのスクロール、Page Down(同D)で下へのスクロールが行なえるようになる。

 カーソルキーを素早く強く押すとマウスカーソルが速く、弱く押すとカーソルがゆっくり動作する。なお、カーソルキーを押下する深さによってもリアルタイムに速度が変わり、遅い動きの時は速度変化は小さいが、速い動きの時は速度変化は大きい。加えて、移動中に右Altを押すと移動速度を増加させることができ、この右Altの押下の深さによって大きく加速度の加減が付くようになっている。

【お詫びと訂正】記事初出時、カーソルキー押下の深さによって速度は変更しないとしておりましたが、正しくは変化します。お詫びして訂正します。

 なお、マウスモードに切り替えた後も、これら以外のキーは通常のキーとして動作するため、例えばNumLockをオフにして、2/4/6/8でカーソル移動、カーソルでマウス移動をすると言ったこともできる。

 一般的な用途においては、例えばマウスが置けないほどの狭いスペースでの活用や、(トラックポイントやアキュポイントほどではないものの)キーボードからなるべく手を離さずマウスカーソルを移動させるといった場合に有効だろう。また、何らかの原因によりマウスが使えないユーザーにも有効的な機能と言える。

マウスモードへの切り替えはREALFORCEキー(無変換)+F1で行なう。そのほかのモードもここに集約されている
マウスモードは赤文字なので、前側面が赤の刻印のキーが対応する動作となる

MIDIモード

 MIDIモードは「REALFORCEロゴ」+「F2」で発動する。MIDIモードでは、最上段を除く主要キーの左端から右端まで全てがMIDIの鍵盤となる。

 ちなみにキートップには黒丸が印字されているキーがあるのだが、これはデフォルト設定で、ピアノの鍵盤で言うところの黒い鍵に当たる。2個続いているのはそれぞれドとレのシャープ、3個続いているところがファ/ソ/ラのシャープになるので、これを頼りに弾けば良いという、実によく考えられた仕組みだ。

 主要の鍵盤に加え、スペースバーがサステイン(サステインを押している間、音を離しても継続する)、左WindowsキーとAltキーがピッチの上下(これもアナログで、押す深さによって音の高低がリアルタイムに変化)、変換キーがモジュレーション(音を揺らす)の動作をする。

 実際の操作感だが、これがびっくりするほどリニアに反応してくれる。ソフトウェアMIDIだとかなりレイテンシがあるので、こういった環境下ではさっぱり分からないが、Sound Blaster X-FiのSoundFontを使ったハードウェアMIDIテーブルで、例えばSoundFontバンクマネージャのようなシンプルなソフトの上で弾いても、そのリニアな感触に驚かされる。

キートップに黒丸が印字されているのが、ピアノの鍵盤で言うところの黒い鍵だ
AFAX01はMIDIデバイスとして認識される
一番手前の列がサスティーンやモジュレーションなどとして割り当てられており、片手で演奏する場合、もう片方の手でこれらを操作できる
MIDI関連のF5~F8キーは、RALFORCEと同時押しで動作する。INCとDECは1オクターブ音程を上げ/下げするもので、V+とV-はベロシティ(音の大きさ)を1段階出しやすく/出しにくくするものだ

 本来、静電容量式は押下の距離を検出するだけで、強さ、つまり押下圧を検出する手段はないはずだ。なので当初は大した期待をしていなかったのだが、いい意味で期待を裏切ってくれた。具体的にどういった検出法を用いているのか、回答が得られなかったが、おそらく値の変化の速さを見て強弱を付けているのだろう。

 とは言え、実際本物のキーボードに慣れたミュージシャンがいきなりこのキーボードでMIDIを打ち込めるか? と言われたら微妙かも知れない。操作感はやはり実際の鍵盤とは大きく異るし、直感的ではないので、慣れるまで相当な練習時間と根気が必要だろう。実際のピアノの鍵盤の荷重は45gより相当重いはずで、この辺りもハードルの1つになってくる。

 ただ、楽器そのもの自体に関して言えば、ピアノの鍵盤の形をしていなければならないという定義は全くない。例えばコルグの多くの楽器も、決してピアノの鍵盤というインターフェイスを持っているわけではない。AFAX01もそのような、やや変わった入力方式を用いた楽器のうちの1つだと思えばいいのである。そのうちAFAX01で美しく音楽を奏でる職人も出るに違いない(かくいう開発者の1人もそうだと筆者は思っている)。

 ちなみに、キーボードをピアノの鍵盤代わりに使うという発想自体はかなり昔存在するし、そのように使うソフトはいくらでもある(先述のSoundFontバンクマネージャもそのように使える)。その昔、キートップにかぶせることで、ピアノの鍵盤と全く同じ配列にして弾ける製品もあったと記憶しているが、もしかしたらAFAX01の登場によって、そのような製品が“再発明”されるかもしれない。

ゲームモード

ゲームモードではゲームコントローラとして認識される

 いよいよゲームモードを見ていきたい。ゲームモードには「REALFORCE」+「F3」で切り替えられる「gameD」と、「REALFORCE」+「F4」で切り替えられる「gameX」の2種類のモードがあり、前者はDirect Inputコントローラ互換、後者はXboxコントローラ互換モードとなる。両者の差異は色々あるが、ざっくり言うと旧ゲームならDirect Input、比較的新しいゲームならXInputモードを使えば良い。

 ゲームモードに入ると、前側面の緑の刻印が、対応する操作となる。XInputで言えば、A/W/S/Dが左のスティック、;/@/:/]が右のスティック、F/T/G/Hがデジタルパッド、J/I/K/LがX/Y/A/Dボタンに当たる。また、左トリガーはREALFORCEキー、右トリガーはカタカナ/ひらがなキー……と言った具合だ。

 このモードでようやくAFAX01の本領発揮と言ったところ。特に左右のスティックとトリガーボタンに関しては、押し具合によって値が微妙に変化するので、これまでのキーボードにはない操作が可能だ。PCが主流のFPSゲームでは検出のオン位置を高く設定することで、通常のキーボードより一瞬速い入力が可能となるほか、カーレーシングゲームであれば、ステアリングの微妙な操作が可能だし、微妙なアクセルワークやブレーキもかけられるようになる。

 実は筆者はストリートレーシングゲーム「Need For Speed 3」の時代から、PCレーシングゲームのファンの1人であったが、これまで全てキーボードでクリアしてきた。しかしキーボードでは微妙なステアリングやアクセルが不可能だったので、緩いカーブでは「チョンチョン」とカーソルを押したり、ちょっときついが思いっきりブレーキを掛けるほどでもないカーブではブレーキボタンを連打したりして対処してきた。これは現実世界ではありえない車の操作である。これがAFAX01だと押し具合によって微調整が可能になるわけで、斬新この上ない操作感である。

ゲームモードでは緑色の刻印が対応する操作となる。写真のように親指をLTの上ではなく手前に置いているのは、上からの押下ではなく、手前のフレームに親指を載せ、親指を転がすようにした方が、微妙な操作に向いているから。だが、ゲーム中いちいちこの細かい操作を気にしてられなかった……

 しかしこれが実用的か? と言われれば、短時間の試用では「う~ん」と首を傾げざる得なかった。時速200kmやら300kmやらが当たり前のゲームの世界において、4mmというキーストロークと45gの荷重の中で、ステアリングやらブレーキングやらアクセルワークやらを繊細やりくりするのは無理があるにも程がある。

 ストロークと荷重以外にも、REALFORCEシリーズ特有の押下特性も影響している。REALFORCEシリーズは「ソフトタクタイルフィーリング」と呼ばれる独特の押下特性を有しているが、押下から1mm前後で荷重のピークが来て、その後1.5mmから柔らかくなっていき、3.3mm付近で一番柔らかくなってからまた重くなるのである。

 普通のキーボードであればこの仕様で何ら問題はないのだが、一般的なアナログスティックやトリガーはシンプルなバネであり、ストロークに応じてリニアに荷重が高まるタイプである。つまり、押下のし始めは軽く、底が近づくにつれ反発力が高まっていく。しかしAFAX01だと途中で「フッ」と抜けるため、中間値の維持や調節が難しい。

 4mmのストロークと45gの荷重、そしてソフトタクタイルフィーリングで車の運転ができるのなら、今頃とっくに実際の車で実用化されているに違いない。それがないということは、これができる人は職人を超えた神の存在であると言ってもいい。

 いや、もしかしたら単に筆者が世界観が固定された30代だからという可能性もあり、若い10代の人なら、訓練に訓練を重ねれば不可能というわけではない。が、はっきり言ってこの仕様と戦ってその手のニッチな職人になる精力があるぐらいなら、ステアリングホイールを買って確実に勝てる練習に注ぎ込んだ方が良いと思われる。

 と、せっかく開発して付けた機能を否定的なトーンで述べてきたが、これももしかしたらキートップにかぶせて操作するジョイスティックの類が再発明されれば、評価が変わってくるかもしれない。

キーごとのオン位置などを細かく設定できる「REALStation Tool」

 最後にソフトウェア面について述べよう。AFAX01の使用に関しては、基本的に全てOSのインボックスドライバで動作する。gameXモードのみ自動認識されず、デバイスマネージャーを利用してXbox 360 Controller用のドライバを手動で当てる必要があるが、これもOSのインボックスドライバでOKだ。

 しかし、オリジナルのカスタマイズソフトウェア「REALStation Tools」を利用して、さまざまなカスタマイズを行なう場合は、CD-ROMに添付のドライバを当てる必要があった。製品版ではインストーラが用意されるかどうか不明だが、PCに慣れたユーザーであれば大した作業ではない。

 REALStation Toolを起動すると、キートップを全て模した画面が現れる。右下の「接続」ボタンを押すとAFAX01との通信を確立し、対応するキーのボタンを押すことでそのキーをカスタマイズするという、至ってシンプルな仕組み。今時にしては素っ気ないUIだが、実用十分だ。

 一見複雑のように見えるUIだが、そのキーを押すとキーボードモード、マウスモード、MIDIモード、ゲームモードのそれぞれの設定値を設定してあげるだけで良い。設定項目値のプルダウンメニューで、いくつか設定項目があるのだが、試作機の時点で設定できる項目はごく限られており、例えばキーボードモードは「ON位置」(押す深さ)のみで、キーレイアウトを変更するといったことはできない。マウスやMIDI、ゲームモードも基本的にSTATUSを変えるだけで、そのほかの設定項目名を選んでも、設定値はグレイアウトしているため設定できないのである。

 特にキーボードは、「ON位置」に加え「OFF位置」も設定できるので、本来押して反応する位置と、離して反応しなくなる位置を個別に設定できるはずなのだが、現時点ではそのような機能は実装されていない、ということだ。この辺りは将来的に実装されるかもしれないが、対応の可否は未知数である。

REALStation。一見複雑そうだが、設定自体はシンプルだ

必要かどうかは微妙だが、3万円なら付加価値としては十分過ぎる

 まとめに入る前に、試用中気になった点を1つ。それは本機はキーボードとしては純粋なUSB接続のREALFROCEである点だ。このため、全キー同時押しに対応しておらず、同時押しは6キーまでとなる。Nキーロールオーバーには対応しているため、6つ同時に押されている時点で7つ目を入力しても7つ目のキーを認識するが、最初に押した1つ目のキーが離されたものとして認識される。これはUSBが押されているキーを常にポーリングしている仕様上の制限である。

 1台でもUSB複合デバイスとして認識させることで、USBでも全キー同時押しを実現したゲーミング用キーボードがあるが、本機はその類ではない。このため6キー以上の同時押しを必要とする(例えば音ゲー系の)ゲーマーには向かない。ゲームモードがあるのでついゲーミング向けと考えがちだが、純粋なゲーミングキーボードとしてはPS/2版、およびPS/2に変換できるREALFORCEに一歩譲る(本機はPS/2変換で使用できない)。ちなみに、MIDIおよびゲームモードでは当然そのような同時押しの制限がないのでご安心頂きたい。

機能早見表が付属するので、慣れるまで手元に置いておくと良いだろう

 AFAX01を1週間ほど試用してみたが、確かにキーボードでアナログ入力を実現したのは初めてなので、技術的なデモとしては十分なインパクトがあった。しかし、少なくとも4mmのストロークと45gの荷重の中で繊細なアナログ入力をこなすには、相当な訓練を必要とする。

 もっとも、これは周辺アクセサリや“ワザ”など、工夫のしがいのあるデバイスだという見方もできる。現在、通常版のテンキー付きREALFORCEは19,000円台で販売されているので、実売3万円になる本機は+1万円弱という差額になる。+1万円弱でアナログ入力も追加でできるというのなら、決して高い買い物ではないはずだ。特にREALFORCEの場合、十数年経過しても使い続けられるデバイスであり、長期的に見た場合の投資効果は非常に高い。質実剛健だが一風変わった使い方もできるAFAX01は、コンピュータの歴史に刻まれる1台になるだろう。