特集

Windows版3DMark追試レポート

~AtomタブレットやRadeon HD 7970 GEをベンチマーク

ARROWS Tab Wi-Fi QH55/JとMATRIX-HD7970-P-3GD5

 Futuremarkが5日に公開したベンチマークソフト「3DMark」のWindows版。すでに弊誌でもレポートしており、ベンチマークを実際に実行した読者も少なくないと思うが、いくつかのシステムで追試した結果をお伝えする。

 既にレポートしている通り、新しい3DMarkはエントリー向けのシステムも視野に入れており、“現行モデルでどのぐらい低スペックまで対応できるか”ということで、Atom Z2760を搭載し、グラフィックスにIntel Graphics Media Accelerator(PowerVR SGX 545相当)を採用した防水タブレット「ARROWS Tab Wi-Fi QH55/J」を用意した。

 さらに、Ultrabookなどで主流となっている低電圧版のCore i5とIntel HD Graphics 4000の性能についても検証するため、デルの「XPS 12」をテストに加えた。

 前回のテストで、ハイエンド向けの「Fire Strike」のシーンにおいて、Radeon HD 7870が予想以上に健闘した。以前3DMark11でRadeon HD 7870とGeForce GTX 680を比較した際、Extremeプリセットのスコアで前者は後者のおよそ64%前後の性能であったが、Fire Strikeでは84%まで縮まっている。これはさらなる上位のRadeon HD 7970に期待がかかりそうだったので、Radeon HD 7970 GHz Editionの中でも高価な部類となるASUSの「MATRIX-HD7970-P-3GD5」もお借りして、追試した。

MATRIX-HD7970-P-3GD5。R.O.G.ブランドの製品で、オーバークロックに特化した各種装備を備える。実売価格は6万円前後で、これ1枚でThinkPad X121eが2台購入できるほど高価である

 また、CPUとGPUのクロックを変更してテストを行ない、その動向を見てみたい。

Atom Z2760で実行できるのはIce Stormのみ

 というわけで前回の表に今回新たにテストしたものを加えたのが下表の結果である。

【表1】全テスト結果
ARROWS Tab Wi-FiThinkPad X121eXPS 12NEXTGEAR-NOTE i300自作PCサブマシン
CPUAtom Z2760AMD E-450Core i5-3317UCore i7-3612QMCore i7-2600K
GPUIntel Graphics Media AcceleratorRadeon HD 6320Intel HD Graphics 4000GeForce GT 650MRadeon HD 7870 GHz Edition(OC)
メモリLPDDR3-1066 2GBDDR3-1333 4GB×2DDR3-1333 2GB×2DDR3-1600 4GB×2DDR3-1600 4GB×2
ストレージeMMC 64GBSMP35 SSD 120GBSamsung 830 120GBMicron C400 256GBIntel SSD 520 120GB
OSWindows 8(32bit)Windows 8 ProWindows 8Windows 7 Home PremiumWindows 7 Ultimate
Ice Storm2438153333026463997118961
Graphics score28932007631798102360237646
Physics score15748394258952768443291
Graphics test1(fps)14.6989.95145.534721074.68
Graphics test2(fps)1184.78131.67421994.89
Physics test(fps)526.6582.2187.89137.43
Cloud Gate実行不可13053514768617747
Graphics score実行不可193141341045137035
Physics score実行不可612230539926287
Graphics test1(fps)実行不可9.4417.8842.81157.29
Graphics test2(fps)実行不可7.5618.0748.41164.94
Physics test実行不可1.947.3212.6719.96
Fire Strike実行不可21346314065094
Graphics score実行不可22851414845626
Physics score実行不可753258255698927
Graphics test1(fps)実行不可0.952.416.7326.81
Graphics test2(fps)実行不可1.052.086.222.49
Physics test(fps)実行不可2.398.217.6828.34
Combined test(fps)実行不可0.390.732.610.08
自作PCメインマシン自作PCメインマシン
(Extreme)
自作PCメインマシン自作メインマシン
(Extreme)
CPUCore i7-3770K(4GHz)
GPUGTX680-DC2O-2GD5GTX680-DC2O-2GD5MATRIX-HD7970-P-3GD5MATRIX-HD7970-P-3GD5
メモリDDR3-2133 8GB×2
ストレージPlextor M5P 512GB
OSWindows 7 Ultimate
Ice Storm147453-150292-
Graphics score291808-313658-
Physics score53984-53240-
Graphics test1(fps)1317.49-1369.2-
Graphics test2(fps)1223.46-1358.31-
Physics test(fps)171.38-169.02-
Cloud Gate20270-23126-
Graphics score46676-52586-
Physics score6802-7811-
Graphics test1(fps)196.02-218.34-
Graphics test2(fps)210.37-239.95-
Physics test(fps)21.59-24.9-
Fire Strike6036299672083527
Graphics score6793313381533670
Physics score974096881071010723
Graphics test1(fps)32.7816.5838.1818.53
Graphics test2(fps)26.8811.5633.0914.01
Physics test(fps)30.9230.763434.04
Combined test(fps)11.685.9114.227.14

 今回テストしたプラットフォームの中でCPU/GPUともにもっとも低性能だと思われる富士通のARROWS Tab Wi-Fi QH55/Jだが、結果としてDirectX 10以上のテストに対応しておらず、DirectX 9相当のIce Stormしか実行できなかった。そのIce Stormだがスコアは2,438と、ThinkPad X121eの15,333と比較するとわずか約6分の1以下のスコアであった。

 もちろんTDPやPC自体のフォームファクタが大きく異るため単純な性能比較はできないし、Intel Graphics Media Acceleratorのドライバが未熟であることも関係していると思うが、ThinkPad X121eに搭載されるE-450内蔵のRadeon HD 6320の性能の高さやドライバの成熟さを改めて実感できた次第である。

 XPS 12は、ThinkPad X121eと比較するとおおよそ2~2.7倍、GeForce GT 650Mと比較するとおおよそ2分の1のスコアといったところで落ち着いている。E-450と同じTDP 17WクラスのCPU(E-450は18W)で、これだけの3D性能が実現できるのは立派だといえるだろう(ただし、価格も3倍以上の開きがある)。また、Atom系では実施できなかったCloud GateやFire Strikeのテストが実行できる点でも差が大きい。

 一方、MATRIX-HD7970-P-3GD5は、3つのシーン全てでGeForce GTX 680のオーバークロック版である「GTX680-DC2O-2GD5」を超えるスコアが得られた。MATRIX-HD7970-P-3GD5はRadeon HD 7970 GHz EditionのBoostクロックを1,100MHz、メモリクロックを6,600MHzに高めた非常に高性能なビデオカードではあるが、以前に1GHz駆動の「HD7970-DC2T-3GD5」を3DMark 11でテストした際は、1,100MHzまで高めたとしてもGTX680-DC2O-2GD5を超えるのは難しそうな印象だった。新しい3DMarkでは何らか手が加えられており、Radeon HD 7000シリーズでも性能が出せるようになったのかもしれない。

 Radeon HD 7970 GHz EditionはGeForce GTX 680よりも消費電力が高いし、トランジスタ数も多い。そういった観点からすれば、従来のベンチマークでは顕著だった「Radeon HD 7970 GHz EditionはGeForce GTX 680と比較すると効率が悪い」印象を、新しい3DMarkで払拭したとも言える。

【グラフ1】Ice Stormスコア
【グラフ2】Ice Stormフレームレート
【グラフ3】Cloud Gateスコア
【グラフ4】Cloud Gateフレームレート
【グラフ5】Fire Strikeスコア
【グラフ6】Fire Strikeフレームレート

CPUとGPUクロックを変えてテストしてみる

 次にCPUクロックとGPUクロックを変更してテストしてみた。

 CPUクロックはCore i7-3770Kを用いて、最初に掲載した全コアを4GHzにオーバークロックの結果に加えて、標準設定のクロック(Turbo BoostはONのまま、3.5GHz~3.9GHz)、全コア3GHz、全コア2.5GHzに設定した結果を掲載する。ビデオカードはMATRIX-HD7970-P-3GD5で統一してある。

【表2】CPUクロックを変更した場合のテスト結果
自作PCメインマシン
CPUCore i7-3770K(4GHz)Core i7-3770K(標準)Core i7-3770K(3GHz)Core i7-3770K(2.5GHz)
GPUMATRIX-HD7970-P-3GD5
メモリDDR3-2133 8GB×2
ストレージPlextor M5P 512GB
OSWindows 7 Ultimate
Ice Storm15029213700511207097708
Graphics score313658287204241243204596
Physics score53240484053899434554
Graphics test1(fps)1369.21260.921006.71817.64
Graphics test2(fps)1358.311236.741094.75975.32
Physics test(fps)169.02153.67123.79109.67
Cloud Gate23126217731893015448
Graphics score52586523085176052621
Physics score7811715558794449
Graphics test1(fps)218.34217.96214.5218.83
Graphics test2(fps)239.95237.76236.68239.69
Physics test(fps)24.922.7218.6714.13
Fire Strike7208703769716694
Graphics score8153803581828131
Physics score10710993480846347
Graphics test1(fps)38.1837.8238.4138.48
Graphics test2(fps)33.0972.4633.1332.7
Physics test(fps)3431.5425.6620.15
Combined test(fps)14.2213.8214.0113.88

 結果を見ると、もっとも軽いIce Storm以外はGraphics scoreに大きな変化はなく、Physics scoreでクロック相応の差が開き、それが最終的にスコアに反映されていることがわかる。つまり一般的にベンチマークでよく見られる傾向とほぼ同じく、軽い3DテストではCPUが足かせ、重い3DテストではGPUが足かせになるようである。

 なお、2.5GHzまで落とすと、Ice StormのPhysics testで、本来バブルの中にあるべきオブジェクトが外に出てしまい、バブルがそのまま画面下部に落ちていくという描画の異常も見られたが、スコアは順当なのでそのまま掲載してある。

【グラフ7】Ice StormのCPUクロックによるスコア差
【グラフ8】Cloud GateのCPUクロックによるスコア差
【グラフ9】Fire StrikeのCPUクロックによるスコア差

 一方GPUのクロックだが、当初GTX680-DC2O-2GD5のクロックをリファレンスまで落とそうとしたが、どのソフトを用いてもモニタリング上は落ちているものの、200MHz落としてもスコアに大きな変化が見られなかったので、今回はMATRIX-HD7970-P-3GD5のコアクロックのみをリファレンスクロック(1GHz)に落とした結果のみを掲載した。

【表3】GPUクロックを変更した場合のテスト結果
自作PCメインマシン
CPUCore i7-3770K(4GHz)
GPUGTX680-DC2O-2GD5(標準)GTX680-DC2O-2GD5(標準/Extreme)MATRIX-HD7970-P-3GD5(1GHz)MATRIX-HD7970-P-3GD5(1GHz/Extreme)MATRIX-HD7970-P-3GD5MATRIX-HD7970-P-3GD5(Extreme)
メモリDDR3-2133 8GB×2
ストレージPlextor M5P 512GB
OSWindows 7 Ultimate
Ice Storm147453-148605-150292-
Graphics score291808-302014-313658-
Physics score53984-53497-53240-
Graphics test11317.49-1316.45-1369.2-
Graphics test21223.46-1309.78-1358.31-
Physics test171.38-169.83-169.02-
Cloud Gate20270-22293-23126-
Graphics score46676-48107-52586-
Physics score6802-7746-7811-
Graphics test1196.02-200.4-218.34-
Graphics test2210.37-218.73-239.95-
Physics test21.59-24.59-24.9-
Fire Strike603629966646326672083527
Graphics score679331337375335881533670
Physics score9740968810657106001071010723
Graphics test132.7816.5834.9916.9438.1818.53
Graphics test226.8811.5629.5912.8333.0914.01
Physics test30.9230.7633.8333.843434.04
Combined test11.685.9113.426.7814.227.14

 結果を見ると、MATRIX-HD7970-P-3GD5はコアクロックを1GHzに落としても、GTX680-DC2O-2GD5のスコアを超えている。今回は時間の都合でメモリクロックを引き下げなかったが、おそらく引き下げてもリファレンスのGeForce GTX 680よりも高速だろう。

 GPUクロックを下げた本来の目的を見ると、コアを1,100MHz→1,000MHzと約10%引き下げると、Ice Stormのスコアは約1.1%、Cloud Gateのスコアは約3.6%、Fire Strikeのスコアは約7.8%低下する。先述の通りIce StormではGPUよりもCPUが足かせなわけだが、これが実証できた結果とも言える。一方シェーダー処理が多いCloud GateやFire StrikeではGPUの性能が足かせとなっているので、クロック比ほどではないものの一定の性能低下が見られたわけである。

【グラフ10】Ice StormのGPUクロックによるスコア差
【グラフ11】Cloud GateのGPUクロックによるスコア差
【グラフ12】Fire StrikeのGPUクロックによるスコア差

3DMarkのスコア算出方法

 最後に、資料によって判明した3DMarkスコアの算出方法をお伝えする。

 各テストでGraphics score、Physics score、そしてFire StrikeのみCombined scoreの3種類の個別スコアが用意され、それを元に3DMark scoreが算出されるが、

・Graphics score=係数230×2/(1/Graphics test1のフレームレート+1/Graphics test2のフレームレート)
・Physics score=係数315×Physics testのフレームレート
・Combined score=係数215×Combined testのフレームレート
・Ice Storm/Cloud Gate 3DMark score=1/(7/9/Graphics score+2/9/Physics score)
・Fire Strike 3DMark score=1/(0.75/Graphics score+0.15/Physics score+0.10/Combined score)

※いずれも小数点以下切り捨て

といったようになっている。つまりIce StormとCloud GateのシーンにおいてGraphicsの比重が9分の7でPhysicsの比重が9分の2、Fire StrikeのシーンにおいてGraphicsの比重が0.75、Physicsの比重が0.15、Combinedの比重が0.1ずつとなっている。グラフィックスが全体スコアに及ぼす比率は大きいが、CPU速度も重要な要素となるため、突出したグラフィックススコアだけで全体のスコアを引き上げることは難しそうである。

【表4】スコアのシミュレーション(Ice Storm/Cloud Gateの場合)
Graphics test1Graphics test2Physics testGraphis scorePhysics Score3DMark
110.2523079161
220.5460158322
441920315645
88218406301290
16164368012602579
32328736025205158
64641614720504010317
12812832294401008020633
25625664588802016041267
5125121281177604032082534
1024102425623552080640165068

 あくまでも仮想の例だが、MATRIX-HD7970-P-3GD5を4 GPUでCrossFire Xシステムを構築し、Graphics test1と2で5,000fpsを達成し、Graphics scoreで115万を達成したとしても、CPUが要となるPhysics testで300fpsしか達成できないと、3DMark scoreは330,263止まりである。GPUが4倍になっても、見かけ上の性能は2倍弱程度である。つまり、良い3DMark scoreを目指すためには、バランスのとれたシステム構築が必要であるということだ。

(劉 尭)