米国で9月28日に発表された、第4世代となるAmazon「Kindle」ファミリー。実売199ドルの7型カラータブレット「Kindle Fire」が注目を集めたが、従来のKindleシリーズの直系にあたるラインナップの中で、実売わずか79ドル(広告付き)というローエンドモデルが発表されたことも目を引く。今回はこの第4世代「Kindle」について試用レポートをお届けする。
Kindleファミリーの製品はページや媒体で型番表記が統一されておらず、また後継製品の登場で呼び名が変化することもあるが、現時点でこの第4世代にあたるローエンドモデルの呼称は「Kindle, Wi-Fi, 6" E Ink Display」。購入時には日本発送向けのバージョンを選択する必要があり、価格は109ドル。ここに送料および手数料13.98ドルが加算され、総額122.98ドル、日本円にすると9,767円となる。レートは時期およびクレジットカードの種類により変化する可能性があるが、無線機能のついたE Ink端末が日本から1万円以下で買えることは実に感慨深い。
●第4世代Kindleのラインナップのうち、現時点で唯一国内から購入可能
本題に入る前に、第4世代に当たるKindleの新ラインナップについて、ざっとおさらいしておこう。
Amazonの電子書籍リーダー「Kindle」は、初代こそ日本向けには販売されなかったものの、第2世代にあたる通称Kindle 2からは国際版が日本でも買えるようになった。続く第3世代の通称Kindle 3(現在はKindle Keyboardと称されている)では、発売当初から日本向けの出荷に対応していたが、フォントを埋め込んだ日本語PDFの表示には対応するもののメニューは英語のみという状況であった。販売元はいずれもAmazon.comであり、日本のAmazon.co.jpではない。
今回発表された第4世代にあたるKindleの新ラインナップは4種類存在するが、今回紹介するローエンドモデルのみ日本などへの出荷に対応しており、タッチ操作に対応したKindle Touch、その3G対応モデルであるKindle Touch 3G、そして199ドルという価格設定で反響を呼んだ7型カラータブレットのKindle Fireは、いずれも本稿執筆時点では日本向けの出荷に対応していない。
ローエンドモデルを除く3点は出荷時期が11月中旬以降なのでそれまでに状況が変わる可能性はあるが、従来はいずれのモデルも日本から問題なく買えていたことを考えると、この状況はやや不可解ではある(しかも発表会では100カ国以上で3Gネットワークが使えると明言しているにもかかわらず、である)。ひょっとすると、各国向けにローカライズされたモデルが現地法人から発売されるなどの動きがこの先あるのではと勘繰ってしまう。今回新登場した全モデルで物理キーボードが完全廃止されたことも踏まえると、興味深くはある。
●物理キーボードの廃止で、従来モデルより小型軽量に
では、製品について見て行こう。今回投入されたローエンドモデルは価格が79ドルという破格の安さ。ただしこれは広告付モデルという独自のビジネスモデルによるもので、日本向け発送を選択すると自動的に広告なし/for international shipmentモデル(109ドル)が選択される。送料や手数料を含んだ価格は冒頭にも述べたように122.98ドル、日本円にすると9,767円だった。
製品の仕様は従来のKindle 3(Wi-Fiモデル)に準じており、モノクロ16階調のE Ink製電子ペーパーを採用。画面サイズは6インチ、画面解像度は600×800ドット、Kindle Storeで電子書籍コンテンツをダウンロード購入して読めるほか、PCとUSB接続してPDFなどの文書を表示することもできる。無線LANの方式はIEEE 802.11b/g/nで、3G対応モデルは用意されない。
ソフトウェアキーボード。QWERTY配列ではなくA-Zの順に並んでいるのが特徴的。日本語入力には非対応 |
外見上の大きな変化として、本体下部にあったQWERTYキーボードが省かれ、ソフトウェアキーのみとなったことが挙げられる。Kindle 2でキーボードの上一列を占めていた数字キーがKindle 3では削減されるなど、物理キーボードが削減の方向に向かう予兆はこれまでもあったため、この変化は予想の範囲内だ。
そもそもKindleは本製品を含めて日本語入力に対応しないことから、日本のユーザーが初期設定後にキーボードで文字入力を行なう機会といえばせいぜいページ番号を指定してジャンプする場合くらいしかなく、キーボードの存在意義はそれほど高くなかった。従来モデルと比べた場合の影響はほぼないといっていいだろう。
またキーボードの廃止に伴い、これまで本体右下に配置されていた上下左右決定キー(5-Way Controller)が、本体下部中央に移動している。これまでは右手操作を前提としたキーレイアウトだったのが、かなりユニバーサル寄りに改められた形だ(製品ページでは「Ergonomic Design」という表現が見られる)。
これに伴ってメニューやホームのボタンもレイアウトが変更になり、前述の5-Way Controllerの左右に並ぶ形になっている。ボタンの形状が統一され、またラベルがなくなりアイコン表示のみとなったため最初はやや分かりにくいが、実際に使い始めるとボタン配置で把握するので、かえって軽快に操作できる。
ベゼル上部のロゴは、これまでの「AmazonKindle」から「Kindle」に改められている。このほかスクリーンセーバーに至るまで「AmazonKindle」→「Kindle」へのロゴ変更はかなり徹底している | Kindleの特徴でもあった作家の肖像画のスクリーンセーバは省かれ、オブジェの羅列のデザインに改められている |
物理キー類の廃止およびレイアウト変更にともなって大きな影響を受けたのが本体サイズで、従来のモデルが123×190×8.5mm(幅×奥行き×高さ)だったのに対して、本製品は114×166×8.7mm(同)と、縦方向に25mmほど短くなっている。これは海外でKindleの直接の競合となるBarnes&Nobleの「NOOK」(126.6×165.4×12.0mm、同)のサイズを下回る意図があったのではないかと考えられる。
また重量は5.98オンス(約169.5g)と、従来モデルの8.7オンス(約247g)から大幅な軽量化を果たしている。タッチ対応の有無という違いはあるものの、NOOKですら7.48オンス(約212g)なので、50g近い差がある。iPhone 4(重量137g)と比較しても、およそ30gしか違わない。寝転がって読んでいても、端末の重さよりむしろ腕の疲れが気になるレベルだ。6型画面にしてこの軽さは、本製品の大きな強みと言えるだろう。
●メモリ容量は大幅に削減。自炊データは実質20冊程度が限界?一方で、ローエンドモデルということでかなり割り切った仕様も見られる。上位モデルに当たる「Kindle Touch」「Kindle Touch 3G」では対応しているタッチ操作に対応しないこと、またバッテリの持続時間は無線オンで3週間、無線オフで1カ月と、上位モデル(無線オンで6週間、無線オフで2カ月)のおよそ半分になっている。もっともこれは上位モデルと比べれば低スペックに見えるというだけで、従来モデル(タッチ非対応、バッテリ持続時間は無線オンで3週間、無線オフで2カ月)に比べると、ほぼ同等といったところだ。
逆に露骨にスペックダウンした箇所もある。メモリ容量がそれで、従来モデルでは4GB(ユーザ使用可能領域は3GB)だったのが、今回のモデルでは2GB(ユーザー使用可能領域は1.25GB)に削減されている。おそらく国内ユーザーにとってもっとも懸念される点はここだろう。というのも、国内ユーザーはKindle Storeで洋書を購入して読むよりも、自炊データなど、自前のPDFデータを読む機会が多いと考えられるからだ。
フォント埋め込みされたPDFデータならまだしも、全面が画像化されたデータであれば、本1冊あたり50~100MB近い容量があることもざらだ。これを本製品のユーザー使用可能領域で割ると、多くて約25冊、少ないと10冊強しか保存できない計算になる。例えばJコミで配布されている赤松健氏「ラブひな」のPDFは1巻あたり50~60MBなので、全14巻を保存するとそれだけでメモリ容量の半分以上(約800MB)を占めてしまうといった具合だ。
実際に確認してみたところ、Windowsのエクスプローラ上での容量は1.35GB。プリインストールされているユーザーズガイドや辞書など約50MBを差し引くと残りは約1.30GBとなるが、ここに「ラブひな」PDF(高画質版)14ファイルとその他5つの自炊データ、辞書コンテンツ「英辞郎」、そしてKindle Storeで購入済みのコンテンツ2つを入れた段階で、残容量はゼロになってしまった。「英辞郎」が200MB弱あるとはいえ、自炊データは実質的に20冊程度しか入らないことになる。これはちょっといただけない。
本製品はメモリカードスロットも搭載しないことから容量の追加はできず、自炊データのビューアとして使う場合、この約1.30GBというユーザー使用可能領域でせっせと入れ替えなければならない。国内の電子ペーパー端末、具体的にはソニーのReaderなどと比べた場合、ここがもっとも大きな違いだ。他の端末に比べ、自炊データを入れて持ち歩くためのビューアとしてはやや不向きと言ってしまっても良いだろう。
ちなみに本製品は従来モデルと異なり音楽再生機能を搭載しないが、もとよりこの容量であれば、たとえ機能が残されていたとしても、大量の音楽ファイルを入れる余裕がないことは明白だ。こうした部分にもコストダウンの跡が見て取れる。
●ページめくりがさらに高速化、連続ページめくり時に顕著
画面の構成やメニューについては、従来のモデルと相違ない。すなわち起動するとホーム画面が表示され、コンテンツを選択すればそのまま読書が行なえるというフローだ。コンテンツはCollection機能を使って分類したり、並び替えることができる。また、ストアに接続すれば本などのコンテンツをダウンロード購入できる。
ページめくりの挙動は従来モデルとよく似ているように見えて、微妙に異なっている。具体的には、キーを押し込んでから反応するまで若干間があるKindle 3に対して、本製品は押してすぐに反応する。ページの書き換えが完了するまでの時間は大きな差はないのだが、すぐ反応するため体感的には描画速度まで向上したように感じる。
キーレスポンスが向上したことから「キーを押したけど反応がないと思ってもう一回押したら2ページめくられてしまった」という、E Inkにありがちな現象も起こりにくくなった。Kindle 2から3になった時ほどの速度向上はないものの、世代を重ねてより使い勝手が向上していることは間違いない。
さらに、連続してページをめくった際のレスポンスは、従来モデルに比べて本製品のほうが圧倒的に速い。リファレンス系の書籍など、ページをひんぱんに前後にめくって目的の内容を探す使い方であれば、従来モデルよりも本製品のほうが向いているだろう。
これら実際の挙動については、以下の比較動画を参照してほしい。なお、ファイルによっては挙動が異なる可能性があることをお断りしておく。実際、PDFとZIP圧縮JPEGでは若干動きも異なるようだ。
【動画】Jコミで配布されている赤松健氏「ラブひな」1巻を用いてページめくりを比較した様子。左がKindle 3、右が本製品。1ページずつめくっている時はそれほど差は感じないが、連続したページめくりではかなりの差が出ていることがわかる。キーを押してから反応があるまでの速度も本製品のほうが速い。一方で画質については差は見られない |
パブーで販売されている、うめ氏「東京トイボックス」1巻を表示したところ。ドットバイドットで表示していないので、文字などにかすれが見られる |
E Inkの画質は、Kindle 3と大きな違いは見られない。多少ザラザラ感がなくもないが、ロットの違いによる差と言われればそんなものかと納得できるレベルだ。少なくともKindle 2と3のように黒い部分の濃度差が露骨にあるといったことはない。
なお、E Inkは画像の拡大縮小を行なうとジャギーの発生が著しいため、自炊データなどを美しく表示するためには、画像のサイズを画面の実効解像度にぴったり合わせる「ドットバイドット」が有効であるとされるが、実験した限りでは、本製品の画面の実効解像度はKindle 3と同じ「560×734ドット」ということで間違いなさそうだ。
●その他の仕様や特性は従来モデルにほぼ準拠
やや話が前後するが、その他いくつか気づいた点をまとめて補足しておく。
日本語表示については、従来モデルと同様、日本語フォントを埋め込んだPDFなどは問題なく表示が行なえる。また辞書コンテンツを東村ジャパンの「英辞郎●MOBI/Kindle対応版」に差し替え、英単語の日本語訳を画面下部に表示させるといったこともできる。Kindle Storeで販売されている洋書を読むには大変便利なので、ぜひ導入することをお勧めしたい。
内蔵辞書については、自分で別の辞書を組み込むことができる。ここでは東村ジャパンが発売している「英辞郎●MOBI/Kindle対応版」に差し替えている | 「英辞郎●MOBI/Kindle対応版」を使うと、英単語にカーソルを当てるだけで画面下部に約が表示されるので、Kindle Storeで販売されている洋書を読み進めるには最適 |
PDFは、PCとUSB接続して「documents」フォルダにコピーすれば表示できる。PDFのほかZIP圧縮JPEGについても同じく「documents」フォルダにコピーして読むことができるが、ページめくりを行なった際の画面の乱れなどはあまり改善されていない。製品コンセプトを考えるとZIP圧縮JPEGはあくまでもおまけ機能なので、これは致し方ないだろう。ZIPファイル直下のJPEGファイルのみ認識されてフォルダは無視される点もこれまでと同じで、ページ表示時に自動的に余白をカットして表示するお節介機能も相変わらずだ。
なお、しばらく試用していて気になったのは、従来モデルに比べるとハングアップする確率が高いことだ。具体的には、スクリーンキャプチャを取得したり、ZIPファイルを読み込ませた場合などに、ハングアップすることがそれぞれ何度かあった。個体不良の可能性もなくはない点は留保しつつ、書き留めておきたい。
またスクリーンキャプチャはこれまでのようにボタンを押してすぐに撮られるのではなく、数秒~数十秒たってから撮られる。このタイミングがまちまちで、なんとも使いづらい。一般的な用途であればあまり関係ないだろうが、従来モデルではレスポンスは良好だっただけに気になる。
●国内ユーザーにとってはやや使いにくい仕様。購入は慎重に
以上ざっと見てきたが、音声読み上げ機能の省略や、物理キーボードがなくなった点など、日本国内のユーザーにはあまり影響がないと思われる機能および仕様の削減がある一方で、メモリ容量の削減という、製品の使い方にダイレクトに影響を及ぼすスペックダウンもみられる。確かに価格が安いのは魅力であり、また約169.5gという読書端末として飛び抜けた軽さは目を引くが、それだけでおすすめできるかと言われると、やや躊躇するところもある。
今回述べたページめくりなどのレスポンス強化が反映されており、なおかつ日本向けに発売されることが前提になるが、タッチ操作にも対応しメモリ容量も多いKindle Touchを選んだほうが、満足度は高いのではないかと思える。容量面などに目をつぶっても軽さを優先したいのであれば本製品を選ぶという選択肢はなくもないが、なにを優先すべきかによって評価が大きく分かれる製品であることは、念頭に置いておいたほうがよいだろう。
なお、本製品の発売にともなって「Kindle Keyboard」に名称変更された従来のKindle 3(Wi-Fiモデル)も、日本から購入すると139ドル、手数料込みで13,000円前後で購入できる。メモリも4GBと潤沢なので、むしろこちらを狙う手もある。また本製品の発表に前後して、ソニーからもE Inkを採用した「Reader」の新モデルが登場している。こちらはタッチ操作に対応しているのでKindle TouchおよびKindle Touch 3Gの競合相手ということになるが、本製品の購入を検討する場合は、こうした他社のE Ink製品も比較対象に含めておくべきだろう。
【お詫びと訂正】初出時、Kindle Keyboardを99ドルと記載しておりましたが、広告版が99ドルで、日本から購入できるものは139ドルの誤りでした。お詫びして訂正いたします。
(2011年 10月 6日)
[Reported by 山口 真弘]