Amazon「Kindle DX」試用レポート
~9.7型大画面の電子ペーパー端末


 昨年(2009年)10月から日本での購入が可能になった「Kindle」に引き続き、この1月からは大画面版の「Kindle DX」も日本から購入できるようになった。日本語表示にいまだ対応していない点はKindleと同様だが、9.7型という大画面を活かしてPDFビューアとして利用できるほか、今年に入ってからは日本語コンテンツをKindle Storeで販売しようという有志の活動も活発化しており、なにかと注目度は高い。また、今後はAppleのiPadと比べて語られることも増えてくると予想される。今回は、このKindle DXについて、従来のKindleとはどこが違うのか、また現状でどのような活用法があるのかを見ていきたい。

 なお、本体の購入時価格は489ドル。同時購入の革製カバーが49.99ドルであわせて538.99ドル、送料と海外配送費を足すと600.92ドル。日本円にするとおよそ6万円弱だ。Kindleのおよそ倍ということで、やや割高感がある。

Kindle DX本体。画面は16階調グレースケールパッケージ。Amazonの箱そのままのデザインはKindleと変わらない上方に開くとKindle DXが姿を表す
下部の紙製タグを引っ張って取り出す画面にはケーブルの接続方法および電源投入方法が表示されている。これはフィルムに印字されているのではなく、画面に表示されている

●9.7型の大画面。自動回転機能も搭載

 Kindle DXが従来のKindleと異なる点は、主に以下のということになる。

(1)画面サイズが大きい(6→9.7型)
(2)容量が大きい(2GB→4GB)
(3)画面の自動回転機能を搭載
(4)キーおよびボタンの形状やレイアウトの相違

 (1)についてはとくに説明は不要だろう。9.7型という画面サイズは、初期のネットブックをはるかに上回る大画面である。文庫~新書版の等倍表示が可能なKindleに対して、単行本の等倍表示を可能にするのがKindle DXということになる。実際に定規を当てて測ってみたところ、有効表示サイズは約131×196mmだったので、余白を考慮するとA5サイズ(148×210mm)相当だと言えるだろう(ちなみにKindleは約83×116mmと半分以下だ)。なお、この9.7型という画面サイズは、AppleのiPadと同じである。

製品本体。片手で長時間持つにはやや重い画面サイズは9.7型。「1Q84」とほぼ同じサイズだ。Amazon.comでは地図やグラフの表示にも最適だとしている
左から、Kindle DX、Kindle、iPhone。いずれも同じページ(User's Guide)を表示させているKindle DXの画面は、Kindle本体のフットプリントにほぼ等しい

 (2)についてだが、本体内メモリ容量のうち約600~700MBはシステム領域に割り当てられているため、ユーザーが利用可能な領域は1.4GB→3.3GBと倍以上になった計算だ。保存可能冊数の公称値が約2.3倍(Kindleは1,500冊、Kindle DXは3,500冊)に増えているのはこのためである。もっとも、現状では日本語ネイティブのコンテンツが購入できないこともあり、購入直後はあまり差を感じにくい点ではある。後述するPDFデータを大量に保存しておく人にとっては魅力的かもしれない。

 (3)は、iPhoneなどと同様、本体をタテにすれば表示内容がタテ向きに、ヨコにすれば表示内容がヨコ向きになる機能だ。回転表示そのものはKindleでも可能だが、手動回転のKindleに対し、Kindle DXは本体の向きに応じた自動回転という点が新しい。コンテンツによっては2ページ表示にすることもできるので、本のように見開きで楽しむことも可能だ。自動回転が使いづらい場合は、任意の向きで固定することもできる。

 もっとも、iPhoneに比べると向きを検知してから回転が実行されるまでの動きはやや鈍く、iPhoneのきびきびした挙動に慣れていると、もっさりした印象を受けがちだ。また電子ペーパーの特性上、回転にあたってアニメーション効果がないため、ややそっけなく感じる。使い勝手に決定的な影響を及ぼすわけではないが、マイナスイメージを持つ人も中にはいるかもしれない。

内蔵センサーによる自動回転機構を備える。コンテンツによっては2ページ表示になる自動回転機構は90度単位。180度回転させて上下逆にすることも可能自動回転機構のON/OFFおよび任意の向きでの固定は、文字サイズ調整パネルから行なえる

 

【動画】画面の自動回転の様子。90度単位で回転する。任意の向きで固定することも可能

 (4)については、Kindleでは本体の左側に装備されていた「PREV PAGE」ボタンが本体右側に移動したことや、本体下部のキーボードの形状が異なることが挙げられる。本体重量の増加もあり、このあたりの操作性はKindleとはかなり異なるので、のちほど詳しく見ていきたい。

 なお、上記の相違点に加えて、かつては「Kindleと違ってKindle DXはPDF表示に対応する」というメリットがあったが、昨年11月のファームアップデートでKindleもPDF表示に対応したため、ことPDFの表示という点での差はなくなった。

●重量増加とインターフェイスの変更により使い勝手はKindleとやや異なる

 Kindle DXと従来のKindleとの違いをざっと見てきたが、上記以外の点は驚くほどそっくり、というのが率直な感想だ。本体の化粧箱、梱包、付属物、説明書、初期画面からメニュー画面のインターフェイス、無線通信の仕様、さらに本体の質感に至るまで、ほとんどが瓜二つの状態で、まさに「Kindleの大画面版」といった製品だ。動作速度についても差は感じない。

本体上部の電源スイッチ。スライドタイプなので誤操作の可能性は低い。隣には3.5mmステレオオーディオジャックを搭載する本体右側面上部にはボリュームのUP/DOWNキーを備える本体上部と左右のベゼル幅はKindleと共通
本体下部。中央にmicroUSBポート、両サイドにスピーカーを備えるスピーカーの位置は、Kindle(右)が背面にまで回り込んでいるのに対し、Kindle DXでは下部に収められている
本体背面上部の「amazonkindle」ロゴ。この背面ロゴを含め、筐体には「DX」とは書かれていない本体の厚みは約9.7mm。Kindleの9.1mmとほとんど変わっていないが、重さが増しているせいか、かなり厚くなったように感じる

 やや異なるのが、本体下部のキーボードの形状だ。Kindleでは各キーが丸い形だったのに対して、本製品ではキーが横に細長い形状になっている。筆者個人としては、Kindle DXのキーボードはKindleのフラットなボタンに比べて押しやすいと感じるが、天地が狭いことで打ちづらいと感じるユーザーもいることだろう。ユーザーの好みが出る部分だといえる。

キーボード。Kindleが丸型のキーだったのに対し、DXは横に細長い形状のキーを採用しているキーはやや厚みがある

 また、Kindleでは本体左側にレイアウトされていたPREV PAGEボタンが本体右側に移動し、NEXT PAGEと上下に並ぶ格好になったのも大きな違いだ。操作系が右側に集約されたことにより右手だけでページめくり・戻りができるようになったわけだが、Kindle DXは本体重量が約535.8gとKindleのおよそ2倍弱(Kindleは約289.2g)もあるため、片手で長時間ホールドするのは難しく、左手などで本体を支えてやる必要がある。

本体右側のキー群。上から順に、HOME、PREV PAGE、NEXT PAGEキーが並び、その下にMENUキーとBACKキー、さらにその間にポインティングデバイス(5-way controller)がレイアウトされているKindle DXをKindleと重ねてみたところ。KindleはPREV PAGEキーは本体左側にレイアウトされているため右側には存在しないが、DXではPREV PAGEとNEXT PAGEが上下に並んでいるポインティングデバイス(5-way controller)。カーソルの操作のほか、押し込むことで決定キーの役割を果たす

 さらに、本体右側にPREVボタンが追加されたことで、最上部のHOMEボタンと下部の「5-way controller」の間が10cm近く離れる格好となり、本体を握り替えずに操作を行なうことはかなり難しくなってしまった。握り位置を変えずに親指が届く範囲はせいぜい5cmが限界だと思うのだが、それをはるかに超えてしまっているのだ。ボタンのサイズを小さくしてもよいので、もう少し天地が狭ければよかったのではないかと思う。

Kindle DXおよびKindleを右手で持った状態を比較したもの。本体重量やボタン間の距離といった問題もあり、片手でホールドしたまま操作するのはかなり困難

 以上のように、重量の増加とキー配置の変更により、Kindleとはやや操作性が異なる本製品だが、画面サイズの大きさがもたらす恩恵はやはり大きいと感じる。従来のKindleであれば、1行に表示する文字数を増やすために、文字サイズをやや小さめに設定することもあったが、本製品ではそうした配慮はいっさい不要だ。むしろ文字を小さくしすぎると1行に表示される文字数が増えすぎて読みづらくなる。年配のユーザーはDXのほうが目にやさしいのではないかと思う。

 やや乱暴な使い分けを定義するならば「通勤電車内で吊革につかまったまま片手で読むならKindle、着席して読めるのであればKindle DX」と考えるとよいかもしれない。


今回試しにダウンロードした村上春樹著「海辺のカフカ」の英訳版「Kafka on the Shore」。価格は11.99ドルとやや高価Kindle DXにおける文字サイズの最大と最小の比較(100円玉はサイズ比較のために置いたもの)。文字サイズは6段階で変更できる
テキストをもっとも細かい文字で表示した状態を、Kindle DX(左上、右上)およびKindle(左下、右下)で比較したもの。ページに相当する概念である「Locations」が、Kindleは63から79までしか表示できないが、画面が大きいKindle DXでは63から95まで表示できる。単純計算ではKindleの2倍の情報量を表示できていることになる

 なお、本体の重量については、運用次第である程度緩和できる。Kindle DXに革製カバーをつけた重量は約762.6gと、VAIO type Pと比較しても100g以上重いのだが、約226.8gの革製カバーを外すと約535.8gと一気に軽くなる。従って、事実上のセット販売になっている革製カバーではなく、B5ノート用のキャリングケースに入れて持ち運び、使う時は裸の状態のまま使うといった方法も考えられる。これからKindle DXを注文される人は、こうした選択肢も視野に入れておきたい。

事実上のセット販売になっている革製カバー。サイズ以外の仕様はKindle用のものと同じ。約226.8gとやや重いKindle DX本体左側面の上下に設けられた、カバーを取り付けるための穴

●Kindle Storeでマンガコンテンツを購入して読む

 本稿執筆時点ではいまだ日本語表示に対応していないKindleであるが、日本語のコンテンツそのものはKindle Storeでもいくつか目にすることができる。それらの多くはテキストデータを画像化することにより、Kindle上での日本語表示を実現している。この状態では行間調整や文字サイズの拡大縮小は行なえないほか、Text-to-SpeechといったKindleならではの拡張機能は利用できないものの、日本語は問題なく読むことができる。

 中でもマンガについては、ページ単位できっちりと区切られている上、そもそも行間調整や文字サイズ拡大縮小の必要もないことから、こうしたデメリットはあてはまりにくい。しかもKindle DXであれば画面サイズはマンガ単行本よりも大きいわけで、サイズの面でも支障はない。

 以下にスクリーンショットを掲載しているのは、Kindle Store初の日本発マンガとして1月26日に公開された「青空ファインダーロック(Aozora Finder Lock)」である(掲載に快諾いただいたうめ氏に感謝)。詳しくは比較写真をご覧いただきたいが、Kindle、またiPhone for Kindleなどと比べると、Kindle DXでの読みやすさは一目瞭然だ。そもそもKindle DXの有効表示サイズは一般的なマンガ単行本よりも大きいので、当然といえば当然だろう。

うめ著「青空ファインダーロック(Aozora Finder Lock)」の同一ページを、Kindle DX、Kindle、iPhone(Kindle for iPhone)のそれぞれで表示した状態90度ローテートさせることで見開き表示が可能。KindleやiPhone(Kindle for iPhone)でも見開き表示は可能だが、サイズが縮小されるため、マンガのようなコンテンツでは文字を読み取ることが困難になるKindle DXで見開き表示にした際の1ページのサイズは、Kindleの1ページ表示のサイズよりも大きい
画面の一部を拡大したもの。左から順に、Kindle DX、Kindle、iPhone(Kindle for iPhone)。細かい線や吹き出しの漢字など、解像度の違いは一目瞭然だ

 ただ、現状ではKindleのプラットフォームで書籍を出版するためのAmazon DTP(Digital Text Platform)において、サイズの大きい画像をアップロードすると自動的にリサイズされてしまうという制約があり、元原稿のクオリティを生かしきれない状況になっている。上記「青空ファインダーロック」の元原稿から直接起こした画像をうめ氏のサイトで見ることができるが、いかにKindle DXの画面が大きくとも、元原稿とのクオリティの差は歴然だ。マンガとKindleの相性は悪くないと思われるだけに、今後はむしろAmazon DTP側の対応が望まれる(なお、上記「青空ファインダーロック」はその後何度か画質の向上が試みられており、現在Kindle Storeから購入できるバージョンはクオリティが向上している可能性が高いことを付記しておく)。

【動画】Kindle DXで「青空ファインダーロック」のページをめくる様子、および自動回転で見開き表示になる様子

●ドキュメントスキャナで取り込んだPDFファイルを読む

 現時点で日本語に対応しないKindleの活用方法としてもっとも現実的なのは、ScanSnapなどのドキュメントスキャナで作成したPDFのビューアとしての利用だろう。Acrobatで出力した日本語テキストを含むPDFファイルを表示することはできないが、スキャナ経由で画像化されたPDFであればよいわけである。とくに画面サイズが大きいKindle DXの場合、Kindleなどに比べると限りなくオリジナルの書類に近いサイズで表示が行なえるメリットがある。

 とはいえ、元ファイルがA4やB5など大判サイズの場合だと、ページの縮小にあわせてフォントが小さくなってしまい、読みづらくなることが危惧される。そこで今回はA4用紙にさまざまなフォントサイズのテキストを並べ、どの程度のフォントサイズまで読めるのかをテストしてみた。

 テスト原稿として、WordでA4タテの書類を作成し、各フォントサイズでテキストを打ち出したものをいったんプリンタで出力。プリントアウトしたものをPFUの「ScanSnap S1500」で解像度とカラーモードを変更しつつ取り込みを行ない、USBケーブルでKindleに転送した。解像度はグレー/白黒とも600dpiになるよう設定。グレーで指定可能な圧縮率は標準の「3」としている。

テストに用いた画像。フォントサイズ5~36の計16段階でテキストを入力。作成にはWordを利用しているWordで作成したものをいったんプリントアウトする
PFU「ScanSnap S1500」で解像度とカラーモードを変えつつ取り込むUSBケーブルでKindleに転送。右は取込前の元画像

 さて結果だが、単純に読めるか否かといった話ならば、Kindleではフォントサイズ「9」がギリギリのようだ。詳しくは以下のサンプル画像をご覧いただければと思うが、「8」以下になると文字がかすれたり潰れることがあり、実用的ではない。一方Kindle DXは、フォントサイズ「6」でもなんとか読めてしまう。WordやPowerPointで書類を作成する際に「7」以下のフォントサイズを用いる頻度はあまり高くないはずなので、ドキュメントスキャナでPDF化したビジネス書類をKindle DXで持ち歩いて閲覧するというのは、十分実用的だと言えそうだ。

Kindleでの表示(グレーモード、600dpi)。右はその拡大
Kindleでの表示(白黒モード、600dpi)。右はその拡大
Kindle DXでの表示(グレーモード、600dpi)。右はその拡大
Kindle DXでの表示(白黒モード、600dpi)。右はその拡大

 もっとも、実際の書類では密度のある漢字も含まれていることを考慮すると、現実的にはKindle DXでフォントサイズ「9」、Kindleでフォントサイズ「12」くらいが、快適に読むための最低ラインと見たほうがよさそうである。

 なお、上記サンプル画像にあるように、ScanSnapで取り込む際のカラーモードは、グレーよりも白黒のほうが向いているようだ。白黒のほうがファイルサイズも小さくて済むので、Kindleでの持ち運びが前提であれば、画質的にも容量的にも、白黒モードでの取り込みがベターということになる。筆者が試した以外にもよい方法があるかもしれないので、いろいろと設定をいじってみて最適解を見つけていただきたい。

 なお、画像点数が多くなるので割愛したが、ScanSnapで取り込む際、ノーマル/ファイン/スーパーファイン/エクセレントいずれの設定でも、文字の視認性に大きな違いはなかった。図版などが含まれていると話が変わってくる可能性があるが、ファイルサイズを考慮すると、ノーマルもしくはファイン、つまり150~200dpi程度でも、十分な読みやすさが得られる。

●ハードウェアとしての電子書籍端末の評価軸を考える

 AppleのiPadの発表もあり、いま電子書籍が大いに注目を集めているが、さまざまな関連記事やブログのエントリを見ていると、Kindleに採用されている電子ペーパーの特性を考慮せずに、従来のデジタルガジェットと同じパラメータで製品の優劣を評価している記事が意外に多いように思える。ハードウェアとしての電子書籍端末に求められるのは、「長く読んでいて目が疲れないか」という、非常に数値化しにくい項目がかなりのウェイトを占めていて、従来と同じパラメータ、つまり「カラーかモノクロか」「動的なコンテンツが表示できるか」などの点はあくまで付加価値なのではないかと思う。

 Kindleに使われているE-Inkの電子ペーパー自体、従来の液晶からは想像しにくい特性があるだけに、実際にこれらに触れたことのある人が一定数に達するまで、評価の根本的なズレは当面続くのかなとも思う。またE-Inkの電子ペーパーならどれも目に優しくて見やすいのかというとそうでもなかったりするので(Kindleのパネルは16階調だが、さらに低い階調の製品もある)、ますます評価を難しくしている。

 いまだ日本語表示をサポートしないKindleを日本市場に投入したこと自体、売上げ云々よりも電子ペーパー端末を多くの人の目に触れさせることを目的としたプロモーションの一環ではないかという気もしなくはないが、いずれにせよ正しい評価を受けるためにはさらなるPRが必要ではないかという気がする。送料などのネックのないAmazon.co.jpから販売される日が来るのか、その前に日本語対応が行なわれて人の目にふれる機会が爆発的に増えるのか。こと国内市場におけるKindleの動向については今後も注目していきたい。

(2010年 2月 17日)

[Reported by 山口 真弘]