NVIDIA Optimus Technologyを試す

Optimusに対応するASUSTeK「UL50Vf」

2月9日発表(現地時間)



製品に貼られるOptimusステッカー

 米NVIDIAが9日(現地時間)に発表した、第3世代のGPU切り替え技術「Optimus Technology」をいち早く採用したASUSTeK製ノートPC「UL50Vf」を評価する機会を得たので、さっそくその使い勝手や、挙動などを確認してみたい。

 Optimusは、ユーザーが操作することなく、起動するアプリケーションに応じて、GeForceを起動するオンデマンド型のGPU切り替え技術だ。その仕組みなどの詳細については、別記事を参照していただきたい。

 UL50Vfは、世界で初めてOptimusを採用する製品の1つで、Core 2 Duo SU7300、Intel GM45 Expressチップセット、GeForce G210M、1,366×768ドット表示対応15.6型液晶を搭載。このほか、評価機ではメモリ4GB、HDD 320GB、Windows 7 Ultimate(64bit英語版)が搭載されていた。

 この製品には、チップセット内蔵のグラフィックス機能(以下、IGP)とGeForce G210M(以下、dGPU)を切り替えるハードウェアスイッチのようなものはなく、切り替えはソフトウェア的に行なう。そのため、外見から今どちらが動いているのかは分からないのだが、評価機には特別にdGPUのオン/オフ状態を示すユーティリティが付属しており、これで区別できる。

 デバイスマネージャーを見ると、IGPとdGPUの2つが常に認識されている。一方、解像度の設定画面からは、常にIGPしか認識されていないようだ。

GPUがオンかオフかを示す検証用ツール。実際の製品には入っていないデバイスマネージャーではIGPとdGPUが認識されている画面解像度の設定画面ではシングルディスプレイの扱い

 OSを起動した直後、つまりアプリケーションを起動していない状態では、dGPUが不要なのでオフ、つまりIGPが全ての描画を行なっている。

 この状態から3Dゲーム「World in Conflict」のデモを起動すると、即座にdGPUはオンになる。同様に、CUDA専用の動画変換ソフト「Badaboom」を起動しても、即座にdGPUがオンになる。これらを終了すると、dGPUはオフになる。

【動画】CUDA対応のBadaboomを起動するとdGPUがオンになり、終了するとオフになる

 Optimusのプロファイルには、すでにゲームを中心に数百のソフトの情報があり、それらについてもユーザーは特別な設定や、操作を行なうことなく、必要なときだけdGPUを活用できる。

 別記事で、アプリケーションによっては、DirectXなどのコールを行なった時点でdGPUがオンになるものがあると書いた。手元で試した限りでは、3DMark06とNVIDIA Control Panelがそのような振る舞いを示した。

 3DMark06については、起動中にGPUが何度かオン/オフを繰り返し、設定画面が出ているところではオフになっている。そして、ベンチマークを実行するとオンに切り替わる。NVIDIA Control Panelも、起動しただけでは、dGPUはオンにはならないが、3Dの品質設定画面を開いた時だけ、dGPUがオンになる。

 これに似たパターンとしては、Flash Player 10.1ベータ利用時のGPU再生支援がある。例えば、YouTubeでFlashビデオによる動画を再生すると、その瞬間にdGPUがオンになって、DXVAによる再生支援を行ない、この画面を閉じるなりすると、dGPUはオフになる。

【動画】Flash Playerを使った場合。動画の再生を始めるとdGPUがオンになり、そのページから移動すると即座にオフになる

 ただ、この振る舞いについてはいくつかの問題がみつかった。まず、Intel GM45 Expressに内蔵されるGMA X4500HDは、Flash Player 10.1によるGPU再生支援の対象に含まれている。つまり、dGPUをオンにしなくとも、IGPだけでフルHDクラスも再生できるはずであり、NVIDIAの説明によるとこのような(IGPもdGPUも同等機能を有する)場合、消費電力の観点から、IGPを使うことになっている。しかしこの評価機においてはそのようになっていない。

 また、Flashビデオの解像度が非常に低い(dGPUによる支援が不要)場合でも、再生画面を表示するとdGPUがオンになる。この点についてNVIDIAでは、現在のIGPのドライバに問題があり、アクセラレーションが効かないため、強制的にdGPUを使うようプロファイルを設定しているという。

 とはいえ、これらについては、多少消費電力が上がる程度で、目くじらを立てるほどの問題ではない。しかし、Internet Explorer 8環境では別の問題が生じた。

 Firefox環境では、Flashビデオの再生画面から移動、あるいはそのタブを閉じるとdGPUはオフになった。しかしIE8では、いったんFlashビデオを再生すると、移動しようが、タブを閉じようがdGPUがオンのままで、オフにするにはIE自体を終了する必要があった。複数タブを開いているような場合、不必要にそれらまで閉じなければならないので、IE8ではストレスが溜まってしまうだろう。これはOptimus側ではなく、Flash Player 10.1の問題である可能性もあるが、解決を望みたい。

 また、メディアプレーヤーソフトにおける挙動も怪しい点があった。それは、Windows Media Player 12およびPowerDVD 9 Ultimateのいずれにおいても、dGPUの再生支援を利用できなかったというものだ。

 特に、PowerDVD 9 Ultimateについては、設定画面でハードウェアアクセラレーションの項目に、NVIDIA GPUなら「PureVideo」、Intel GPUなら「Intel Clear Video」と、実際に利用するエンジンの名前も表示されるのだが、Optimusではこれが常にIntel Clear Videoとなっている。背後でBadaboomを起動し、dGPUを強制的にオンにした状態でPowerDVDを起動しても変わらない。

 しかし、第2世代のGPU切り替え技術を搭載する「VAIO type Z」で試したところ、IGPではIntel Clear Videoだが、dGPUに切り替えるとPureVideoに表示が変わった。

 前述の通り、GMA X4500HDのIntel Clear Videoの能力は強力なので、フルHDクラスの動画もCPUに負荷をかけることなく、フルフレームで再生できる。しかし、NVIDIAの主張によると、PureVideoは画質においても、ノイズの削減や3:2プルダウン補正などを行なっており、優れているということになっている。そのため、ユーザーとしては、そちらを明示的に使いたい場合もあるだろう。しかし、今回試した限りでは、バグか仕様かは分からないが、これができなかった。

VAIO type ZでdGPUをオンにしてPowerDVD 9を立ち上げると、PureVideoが認識されるしかし、今回のOptimus評価機では、どうやってもIntel Clear Videoのままだった

 このように、OptimusによるdGPUのオン/オフは自動化されているが、手動で設定することもできる。Optimusのプロファイルは、NVIDIA Control Panelの「Manage 3D Settings」の項目にまとめられている。

 ここのProgram Settingsタブから、プロファイルリストにアクセスして、個別にIGPとdGPUのどちらを使うか、またdGPU利用時にアンチエイリアスなどの設定をどうするかなどを細かく指定できる。

 また、メインメニューの「View」から「Add Desktop Content Menu」にチェックを入れておくと、アプリケーションのショートカットなどから右クリックしたときに「Run with graphics processor」という項目が追加され、ここでアプリケーション起動時にIGPを使うか、dGPUをオンにするかを手動で選べる。

 この方法を使うと、PowerDVD 9起動時にもdGPUをオンにできるのだが、この場合でも、設定画面の表示はIntel Clear Videoのままだった。一方、IE8などのように、dGPUを指定して起動しても、dGPUがオンにならないアプリケーションもあった。

Optimusの設定やプロファイルはビデオドライバに統合されているアプリケーションのショートカットなどを右クリックすることで、起動時にIGPを使うか、dGPUを使うかを選ぶこともできる

 このように、Optimusでは、現状いくつか妙な挙動もあるものの、ほとんど場合において、dGPUを必要なときだけシームレスに活用できることが確認できた。設定のカスタマイズもできるので、PCに詳しくないユーザーだけでなく、パワーユーザーにとってもメリットの大きな技術だと言える。

 古くからのPCユーザーなら3dfxのVoodooを思い出すかもしれないが、VoodooではGlideという独自APIを利用していたのに対し、Optimusでは全てがWindowsにおける標準規格の上で成り立っている。そのため、今後の発展性にも期待ができる。

 PCメーカーの立場からも、コストの削減や、設計の容易さなど、Optimusにはデメリットとなるところが少ないため、採用は進むだろう。

 もちろん、別記事にも書いた通り、最終出力がIGPのディスプレイコントローラを使うので、それに伴う制限はある。また、使いやすさの点では、dGPUを使うアプリケーションを終了させなくても、バックグラウンドでアイドル状態なら、オフにすると言った工夫も盛り込んで欲しいという希望はある。

 しかし、それらを踏まえても、OptimusはPCの持つバッテリ性能とグラフィック性能を両立させる点で、大きな前進を遂げた技術だと言って間違いない。

(2010年 2月 9日)

[Reported by 若杉 紀彦]