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JAXA、極地研、ミサワホームによる「南極移動基地ユニット」がお披露目。未来住宅への検証も
2019年10月29日 16:40
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)、国立極地研究所、ミサワホーム株式会社、株式会社ミサワホーム総合研究所の4者は10月29日、立川にある国立極地研究所にて2020年2月から南極昭和基地で実証実験を行なう「南極移動基地ユニット」のお披露目を行なった。
南極移動基地ユニット 最低気温-45.3℃、最大瞬間風速61.2m/sに耐える省エネ住居
「南極移動基地ユニット(AMUS)」とは、地球上の極限環境下である南極で「持続可能な住宅システム」の構築を目指した実証実験で、宇宙空間の有人拠点に必要な「簡易施工性」、「自然エネルギーシステムによるエネルギーの最適化」、「センサー技術を活用したモニタリング」などを検証する予定。極限の環境下で検証することにより、技術の信頼性を高め、将来的には未来志向の住宅、南極での基地建設、そして月面の有人拠点の開発を目指す。
寸法は約6,100×2,500×3,050mm(幅×奥行き×高さ)、床面積約11.82平方m。船で南極まで運ぶためコンテナユニットとなっている。ユニットを2基連結することにより、床面積約32.88平方mに拡張できる。
構造は鉄骨ユニット構造 + 木質接着複合パネル(厚さ120mm)。外壁材はガルバリウム鋼板、太陽光発電モジュール(PVモジュール)。ミサワホームの鉄骨ラーメン構造技術と木質パネルを組み合わせる。ボルト接合だけで気密性を保つことができる乾式構造で、接着剤などは使わない。ユニットなので増築や減築が容易な構成になっている。4人から6人で6時間程度で組み立てられるという。
南極では食堂兼会議室として用いる予定。実証実験における想定環境は年平均気温-10.4℃、最低気温-45.3℃、最大瞬間風速61.2m/sなど。コンテナ輸送用に使用するソリを装着したり、居住者の安全見守りセンサーなどを搭載している。
ミサワホームおよびミサワ総研が、2017年にJAXAが実施する「宇宙探査イノベーションハブ」の研究提案募集(「太陽系フロンティア開拓による人類の生存圏・活動領域拡大に向けたオープンイノベーションハブ」)において、「建築を省力化する工法技術」と「住宅エネルギーの自律循環システム」の開発による「持続可能な新たな住宅システムの構築」を提案し、採択されたもの。
そして製作した「南極移動基地ユニット」を昭和基地の運営を担う極地研が実施する「第61次南極地域観測隊の公開利用研究」に対して、「極地における居住ユニットの実証研究」として提案した。
南極・昭和基地の建物には1957年の開設当時から南極の過酷な環境に耐えられる堅牢性と、夏期のかぎられた期間に建築の専門家ではない隊員でも簡易に施工できる簡易施工性が求められてきた。極地研ではこのユニットの技術要素が今後の南極における基地建設にもおおいに寄与すると考えて実証実験提案を採択したという流れ。
ユニットには「セルサイクル工法」を採用。構造体に開口部や換気設備、電気配線、内・外装材、PVモジュールなどをあらかじめ装備したユニット2基を設置場所で連結し、その間にジョイントスペースを設けることで居住空間を拡張する。その後、1基ずつのユニットへ縮小する作業を行なう。このさいの施工の簡易性や今回のために開発した施工治具、作業支援センサーの南極での実効性について検証を行なう。
また、自然エネルギーシステムは、太陽光発電と集熱蓄熱システムなどにより、ユニット内部の暖房エネルギーの利用最適化を実施し、その効果を検証する。
ユニットには、120mm厚の木質系高断熱パネルをベースに付加断熱を施した。具体的にはグラスウールの空気を抜いて真空化することで75cmくらいの厚さの断熱材並みの性能とした。
断熱性能の目標値はUA値(住宅の断熱性能を表す「外皮熱貫流率」)50.20W/m2・K。この数値は日本における寒冷地域(北海道や東北の一部)のZEH(標準的な新築住宅で年間の一次エネルギー消費量が正味でおおむねゼロとなる住宅のこと)基準であるUA値0.4W/m2・Kを大幅に上回り、国内最高レベルの断熱性能となる。これらの断熱技術による省エネルギー性能を検証する。
ゲームチェンジャーを目指すJAXA「宇宙探査イノベーションハブ」
宇宙航空研究開発機構 宇宙探査イノベーションハブ ハブ長 久保田孝氏は、JAXA「宇宙探査イノベーションハブ」について、探査研究のあり方を発注型から参画型へと変えるものだと紹介。地上の民間技術を活用し、オープンイノベーションによって宇宙探査のありかたを変えると同時に、地上技術に革命を起こすことを目的としている。
JST(科学技術振興機構)の支援を受けて2015年度からスタートし、現在、87社、42大学・研究機関が参加しており、75研究テーマが走っている。これからさらに20近くの研究テーマを走らせる予定。集中から自律分散協調への設計思想の転換がキーであり、宇宙探査技術と地上産業への波及を同時に進める点が特徴だという。
探る、建てる、支援する、作る、住むの5つの領域に課題を分けており、今回の「南極移動基地ユニット」は2017年度に採択された持続可能な住宅システムの構築を目指すもの。研究期間は2020年9月まで。
無人でスマートにものを作ることを掲げており、南極と宇宙には簡易施工性、自然エネルギーシステムの活用、センサーを活用したモニタリングなどの実現目標が共通しており、位置決めや接合、太陽光発電、集熱・蓄熱、付加断熱、温湿度検知、CO2センサー、火災検知など開発技術項目にも共通点がある。
ここから、自動化技術を使った将来の月・惑星上拠点建設へつなげるための課題抽出や実験検証を進める。久保田氏は「今回の実験にはたいへん期待している」と語った。
2050年を想定するミサワホーム「未来住宅」
ミサワホーム株式会社 取締役専務執行役員 作尾徹也氏は、人口減少・人手不足、環境問題、住宅ストックの活用の必要性などの社会課題を踏まえた上で持続可能な住宅システムが必要になっていると述べた。工業化技術、エネルギー技術、IoT活用技術が必要だと考えて、今回の南極実証などを繰り返しながらミサワホーム の「未来住宅」へのフィードバックを行ないたいと語った。
「未来住宅」とは2050年の住まいを想定したもの。5G、自動運転やリニアによる自由な移動、テレワーク、デュアルライフなどの普及を想定している。技術進歩が時間や距離の制約をなくすことで、生活をとりまく環境の変化は加速し、生活圏は多層化するだろうと考えているという。縦割りのデザインではなくライフスタイル全体の変化を捉えて新たな技術開発を進めていこうとしている。
たとえば1F部分に宅配や来客などに対応するコネクションスペースを設けたり、ホームワークやシェアワークスペースの必要性、自然災害への対応システム、快眠環境などを考えている。テレプレゼンス技術(アバター)の活用なども視野に入れて、さまざまな検証を行なっているという。
南極移動基地では建物の長期利用、快適・便利、安全・健康、環境保全などを実証する。誰でも簡単に施工できる簡易施工性、メンテナンスの容易さ、建物見守り用の躯体センサー、周辺環境モニタリングの検証、自然エネルギーの効率的な活用などを進める。
災害時の仮設住宅にも適用可能
株式会社ミサワホーム総合研究所 所長 桜沢雅樹氏は、南極移動基地ユニットに用いられてる「セルサイクル工法」について、災害時の仮設住宅にも用いることができる技術だと紹介。特徴はインタージョイントシステムで、内部がすべてモジュール化されている。メンテナンスや機能追加が容易になっている。床下にセンサーや分電盤を配置し、レイアウト変更や接続も容易になっている。
エネルギーについては太陽電池パネルの裏で集熱した熱を暖房に使う「カスケードソーラーシステム」と同時に、温度差発電も同時に行なう。これらによって内部の温度を10℃以上につねに保つことができる。換気システムはつねにセンサーでCO2濃度を監視し、それと連動する。エネルギーロスのない非常に効率のいい換気ができる。建物の異常を検知するための傾きや気圧変化などを検知するセンサーも取り付けられている。想定耐用年数は5年。ただし気密材の交換を行なえばさらに伸ばすこともできるという。
最終的には今後のわれわれの生活に取り込む技術開発を行なっていき、より快適・安全な施設建設へとつなげる。宇宙有人拠点の構築にも貢献していきたいと述べた。
南極を模擬宇宙空間として利用
国立極地研究所 所長の中村卓司氏は、極地研の遠隔や南極観測体制について紹介した。日本の南極観測基地は「昭和基地」と、内陸の高地にある「ドームふじ基地」の2箇所。2010年以降は大幅に公募制を採用しており、7つのうち4つの課題が公募で行なわれる。JAXA、ミサワホームとの研究は「公開利用研究」の1つ。
今後は、11月に東京港にてコンテナに積込み、南極観測船「しらせ」で昭和基地に向け輸送し、翌2020年1月に昭和基地に到着、昭和基地主要部から1km離れた「見晴らしエリア」で、その後9月まで越冬期間を通じて機能実証実験となる。
昭和基地での実証実験終了後は、南極移動基地ユニットを標高3,800mで-80℃、最大風速50m/sと台風並みの暴風雪もある南極内陸の「ドームふじ」に輸送し、第3期ドームふじ氷床深層掘削計画の居住空間(最大18名)として利用する計画だ。
内陸で居住性能・移動性能・現地施工性などを検証したのち、センサーによるモニタリングを継続し、今後の南極での基地建設に活かしていく。さらにJAXA・ミサワホーム・ミサワ総研では、今後、共同研究の成果を応用し、地上における未来志向の住宅や、宇宙における月面の有人基地への展開を目指す。