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JAXA、2019年1月に多様な実証機器を載せた実証実験用衛星を打ち上げ
2018年12月18日 21:54
国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は18日、2019年の打ち上げを予定している「小型実証衛星1号機(RAPIS-1: RAPid Innovative payload demonstration Satellite 1)」について、記者説明会を開催した。
RAPIS-1は、宇宙基本計画上の宇宙システムの基幹的部品などの安定供給に向けた環境整備の一環として、民間企業や大学などが開発した機器や部品、超小型衛星、キューブサットに宇宙実証の機会を提供する「革新的衛星技術実証プログラム」の1号機である、「革新的衛星技術実証1号機」に搭載される衛星の1つ。
革新的衛星技術実証プログラムは2年に1回、計4回の打ち上げ実証が計画されており、実証テーマは通年で公募されている。革新的衛星技術実証1号機は、固体ロケットであるイプシロンロケット4号機に衛星を積載。JAXAは、2019年1月17日に鹿児島県の内之浦宇宙空間観測所より打ち上げを行なう予定。
この革新的衛星技術実証1号機には、民間企業や大学、研究機関など10機関が参加し、RAPIS-1をふくめた7機の衛星を高度500kmの太陽同期軌道へ投入。合計で実証テーマは13あり、衛星は積み重ねるようにして積載される。
部品/コンポーネントの実証を行なうRAPIS-1
JAXA 研究開発部門 革新的衛星技術実証グループ長の香河英史氏は、RAPIS-1は、H-IIAロケットへの相乗りなどでは実証機会が少なかった、衛星推進系、展開物、電子部品単体といった対象を採用しており、部品/コンポーネントの実証を行なうための衛星であると説明。
JAXAとしては初のスタートアップ企業に開発を委託した衛星でもあり、株式会社アクセルスペースが開発/試験/運用を行ない、JAXAは持ち込まれるテーマに対して、実証環境や必要なリソース、計測/確認手段の提供を提案し、宇宙実証サービスの提供機関として提案者と連携しているとした。
開発を委託された、株式会社アクセルスペースの代表取締役 CEOである中村友哉氏は、同社ではこれまでに衛星を3機開発してきたが、50~100kg級のもので、今回のRAPIS-1は初の200kg級衛星となると紹介。
同社はプラットフォームの提供というかたちでビジネスを行なっており、衛星本体の開発以外にも、運用をふくめ受託し、そこまで考慮した設計を行なうことで、全体として最適化を図ってきたと説明。今回のRAPIS-1でも、同様に小型衛星のバス技術をベースに開発を行ない、運用も同社の運用管制システムで行なわれるという。
今回、200kg級の衛星開発となったことで、従来は容積が小さく、バス系とミッション系を分離できなかったが、RAPIS-1では次回以降の実証プログラムでも使い回しが効くように、インターフェイスを分離し、高リスクなミッションでも、バス系が影響を受けないよう設計しており、柔軟な運用が可能となっているとした。
地上システムでは、運用の省力化を目指し、衛星が安定するまでの初期運用は人が行なうが、安定動作以後のコマンドの送信や実験の実施、衛星からのデータ送信なども自動化していると述べ、ブラウザから実験要求を出してデータを取得できるなど、ユーザーフレンドリーでもあるとした。
7つの実証テーマを搭載
続いて、RAPIS-1に搭載された実証テーマについて、各機関が説明を行なった。
日本電気株式会社(NEC) システムプラットフォーム研究所 技術主幹の杉林直彦氏は、RAPIS-1では、「NBFPGA (NanoBridge based Field Programmable Gate Array)」の耐宇宙環境性能の軌道上評価を行なうと説明。
NBFPGAは、原子スイッチに基づくFPGA(Field Programmable Gate Array)で、従来のトランジスタをスイッチとするFPGAと異なり、電圧を掛けると銅原子が銅架橋を作ることを利用してスイッチを行なうという。
利点として、FPGAはデータ保存にSRAMが必要とされていたが、NBFPGAは電源を切ってもスイッチ状態が維持されるため不揮発性メモリとしても動作し、SRAMが不要なほか、小型化できるため集積率が高められる点、低消費電力化を実現できるという。
また、シリコンと異なり金属製のため、放射線によるソフトエラーの発生確率が低く、高信頼性化が見込まれていると述べ、今回の実証ではそれを評価するものになるとした。
慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 特任教授の平子敬一氏は、X帯通信システムの高速通信の実証について説明。
X帯通信は、降雨に強く、省電力/低価格という特徴を持っており、今回の実証では高速通信機と中利得アンテナを用いて、地球周回衛星からでは世界最速となる、周波数利用効率の高い2~3Gbpsのダウンリンク通信を行なうという。
このX帯の高速通信システム開発は、もともとImPACTによる委託研究であり、これが実現されれば、災害時などにすぐ観測衛星を打ち上げて、取得したデータから被害状況を確認するといった活用が見込まれていると説明した。
宇宙システム開発利用推進機構 専務理事の久野木慶治氏は、グリーンプロペラント推進系および粒子エネルギースペクトロメータについて説明。
グリーンプロペラント推進系は、衛星の姿勢制御に使われるスラスターの実証で、同氏は、現在使われている推進薬のヒドラジンは毒物で、その取り扱いのために慎重な作業を求められ、運用性に難があると説明。
実証で使用される「SHP163」という推薬は、ヒドラジンよりも高性能なもので、かつ毒性がないため、簡易作業着などで取り扱うことが可能となるという。
しかし、高出力だが燃焼時の温度がヒドラジンよりも高温となってしまい、従来の推進系では耐熱性の限界を超えてしまう問題があった。そこで、実証では燃焼温度を落とし、従来と同じ素材で推進機構が作れるように改善したという。低温化によって推力も落ちるが、性能はヒドラジンと同程度の水準はあるという。
もう1つ実証である粒子エネルギースペクトロメータは、放射線計測装置で、電子や陽子、重イオンなど粒子ごとに計測器を備えていた従来品と異なり、減速材と検出器を積層することで、大きく小型化に成功したという。
同等の検出率を実現しつつ、小型化/低価格化が進んでいる衛星に合わせた小型化を行なっているとした。
東京工業大学 理学員 物理学系 助教の谷津陽一氏は、深層学習を応用した地球センサー/スタートラッカーについて説明。
地球センサーは、携帯電話用の小型カメラを利用して地球を撮影し、その画像から3軸の姿勢推定を行なうというもの。従来の地球センサーは赤外線カメラを用いており、これはピッチ/ヨー軸は判定できるものの、ロール軸が判定できないが、今回の地球センサーでは、撮影した画像から雲/陸地/砂漠/海などを深層学習によるAIで判別し、地図データと照合してロール軸の判定も可能であるという。
同氏は、地球上のスーパーコンピュータなどで、衛星の撮影した画像を解析する事例は多数あるが、衛星軌道上という“エッジ”で画像解析を行なうのはこれが世界初になるとし、災害監視などにおいて、衛星段階でモノを識別して、圧縮したデータを送信できるようになれば、衛星利用の在り方を変えることにつながるとした。
スタートラッカーは同じく姿勢制御に星の識別を用いるもので、点源抽出から幾何パターンマッチングを行ない恒星を同定、3軸の姿勢制御を行なうという。こちらは2020年に商品化を目指しているとした。
JAXA 研究開発部門 第一研究ユニット 主任研究開発員の住田泰史氏は、軽量電池パドル機構を紹介。
シャープ製の太陽電池とNECの機構を採用しており、従来のハニカムリジットパネルの3分の1の重量を実現。25mm程度の厚みがあったアルミハニカムパネルを省き、セルの下にシートしかない状態の薄膜パネルになっているという。
ただしシート状態では強度が足りないため、障子のようなフレームに貼り付けて運用するという。なお、打ち上げ時の衝撃などでパネルがたわみ、接触して故障するといった事態を避けるため、パネルは湾曲している。
中部大学 工学部 宇宙航空理工学科 准教授の海老沼拓史氏は、超小型/省電力のGNSS受信機「Fireant」について説明。
10cm角の小型衛星向けで、5cm角の大きさに受信機とアンテナすべての機能を搭載しており、数百数千の衛星群を運用することで、従来できなかったミッションを行なう「Swarm」といったトレンドに対応するものと紹介。
Swarmのような運用では、各衛星に高度な自立動作が要求され、時刻と位置などの取得にGNSSが必要となる。
すでに販売も行なっており、JAXAや大学などでいくつかの採用事例もあると紹介した。