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理研、ミドリムシのゲノム編集を高効率で行なう手法を開発

 理化学研究所(理研)および株式会社ユーグレナの合同研究チームは17日、ミドリムシの産業利用種である「Euglena gracils」を対象にした高効率ゲノム編集の方法を確立させたと発表した。

 Euglena gracilsは、好気条件下でバイオプラスチックの材料や機能性食品となる貯蔵多糖パラミロンを蓄積する。嫌気条件下ではパラミロンからワックスエステルと呼ばれるジェット機燃料油脂を産出し、実用化に向けた試験が進められている。また、ミドリムシは栄養価が高いため、飼餌料としても注目されている。

 このため、ミドリムシを利活用するための生物学知識の集積と、有用形質を持った改変株の作出が求められている。しかし、実用的かつ持続的なミドリムシの遺伝子機能の改変法は確立されておらず、これが基礎研究や効率的な育種の妨げとなっていた。

 今回、研究チームはミドリムシのパラミロン合成に関わる酵素の遺伝子「EgGSL2」を標的としたガイドRNAを設計し、標的DNAの切断活性を持った「Cas9 RNP複合体」を制作した。Cas9 RNP複合体は、ゲノム上の標的箇所に基づいて設計したガイドRNAとCas9タンパク質から構成されており、標的DNAサイトを特異的に切断する役割を持つ。

 次に、パラミロン粒の形状変化や、DNAのミスマッチを認識して切断する酵素「T7 Endonuclease I」を用いたゲノム編集の効果確認「T7E1 assay法」などを指標とし、電気パルスにより細胞膜に微小な穴を一時的に開けるエレクトロポレーション法など用いて、Cas9 RNP複合体の直接導入に最適な条件を探った。

 その結果、アンプリコンシークエンス解析による評価で、Cas9 RNP複合体導入後72時間で約80%という、ほかの微細藻類では類を見ないほどの高効率でランダムな欠損、挿入変異導入に成功したという。

 さらに、ゲノム上の離れた位置を標的とする2種類のCas9 RNP複合体を細胞内に同時に導入することで長い欠損変異を終発でき、Cas9 RNP複合体と一緒に、標的配列部位上下流と相同な配列を両端部に付加したssODN(一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド)を、ドナーDNAとしてミドリムシの細胞内に導入したところ、正確な短い塩基配列のノックイン(ゲノムの標的部位にDNAを挿入)にも成功したという。

 今回の研究は、ほかの微細藻類では類を見ないほど高効率でDNAフリーゲノム編集を実現したとしており、さらに効率的なノックイン実験にも成功しミドリムシのゲノムの改変を正確に制御できたとしており、今後、ミドリムシの遺伝子機能解析や、有用物質生産能力を向上させた株の分子育種などが可能になるとしている。