イベントレポート

Surface Hubで飛行機整備士の配置業務を完全デジタル化したJALの取り組み

~FEST2015レポート

満員となった2日目の基調講演会場

 日本マイクロソフトによる、ビジネスパートナーに向けた自社ビジネスの取り組みとテクノロジを紹介するイベント「FEST2015」2日目には、「企業に求められるビジネス変革とは。ITで何を変え、何を始めなければならないか?」と題された基調講演が行なわれた。本稿では、その中で紹介された3つの事例を取り上げる。

アナログとデジタルのメリットを両立するシステムを開発したJAL

日本マイクロソフト代表執行役社長の平野拓也氏

 最初に登壇した代表執行役社長の平野拓也氏は、初日に続き、「革新的で、親しみやすく、安心でき、喜んで使っていただけるクラウドとデバイスを提供する」という目的達成のため、現在同社が最も注力している事業分野が「プロダクティビティとビジネスプロセス」、「Windows 10+デバイス」、「インテリジェントクラウド」であることを紹介。

 平野氏は、“革新的で、親しみやすく、安心でき、喜んで使っていただけるクラウドとデバイス”という点について、革新的であっても、Microsoftのシェアが高く他に選択肢がないから仕方なく使ってもらうのはダメであり、喜んで使ってもらうことに最も重きを置いていると話した。

 注力分野の1つである、プロダクティビティとビジネスプロセスについては、3日付けで出荷が開始された84型のWindows 10端末で、働き方を変える次世代のコラボレーションデバイスと銘打つ「Surface Hub」が日本航空(JAL)に採用されたことを発表した。国内での採用事例はこれが初となる。JALがなぜSurface Hubの導入を決めたのか。日本航空株式会社整備副本部長で、株式会社JALエンジニアリング常務執行委役員の北田裕一氏が壇上で経緯を説明した。

JALの北田裕一氏

 JALエンジニアリングには4,000名が従事しており、羽田空港で複数の航空機を同時に整備を行なっている。安全かつ確実に、そして工期通り作業するためには、適切に工程を組み、専門分野別の異なる資格を持った多数の整備士を適切に配置することが重要となり、同社では、スケジュール、作業内容、進捗、整備士の資格に加え、整備士の今後の育成計画も考慮しながら、日々の工程や、整備士の配置を決定してる。

 すでに実施すべき作業はコンピュータシステムで管理されているが、システムから出力されるその日の1つ1つの作業に対して、整備作業を熟知したベテラン社員が細かく調整しながら、全体の工程、進捗を確認し、特大のホワイトボードを使って、整備士の氏名が記載されたマグネットシートの票を個々の作業枠に貼り付けるというアナログ的管理を行なっている。

 特大ホワイトボードを使うメリットは、全体の工程と整備士の配置状況を直感的かつ俯瞰的に把握できる点にある。その一方で、割り当てがデータとして記録されない、他の場所では共有できないという欠点もある。また、この工程管理のノウハウの多くは、個人に依存しており、システム化されていない。

整備管理システムはIT化されているが、そこから出力された作業指示書は、ベテラン社員がホワイトボードを使って工程を組む

 これらの課題を解決するツールとして、同社が選んだのがSurface Hubだ。Surface Hubは84型という大きな画面を持ち、タッチによる操作にも対応。こういったホワイトボードに似た特性を活かしたアプリを新規開発、利用することで、従来のように作業や配置内容を画面上で直感的かつ視覚的に配置、把握して、どの作業にどのくらいの整備士を投入し、どのような順序で作業すれば全体工程が効率的に進むかといったことについて迅速に意思決定しつつ、それらのデータは保存することで、次の整備に対するノウハウとして活かせるようになる。つまり、既存システムのアナログ的メリットとデジタルのメリットを両立できるというわけだ。

ホワイトボードのアナログ的な直感性、視覚性を持ったアプリをSurface Hub上で実現した

ノウハウの共有やその分析により、新サービスを開発した日本郵便

 マイクロソフトが提供するITソリューションを活用したビジネス改革の事例の1つとしては、日本郵便株式会社常務執行役員の白土惠一氏がゲストとして招かれ、実績を紹介した。

日本郵便の白土惠一氏

 日本郵便は、郵便、物販、貯金・送金、保険という商品を取り扱い、その窓口として全国にアクセスポイントとなる郵便局は24,514箇所、配達拠点は3,643箇所、ATMは26,557台と、非常に大規模なネットワーク基盤を持つ。

 そういった中、事業を成功に導くには、顧客のニーズを先取りし、最適なサービスを提供する必要があるが、それには市場の変化にいかに早く対応するかが鍵となる。その上で、他社に対する競争優位を確保していく。

 同社には元々営業支援システムがあったが、白土氏はそれをもっと発展的で使いやすいものにできないかと考え、2014年よりマイクロソフトのシステムを導入した。詳細は割愛されたが、大きなネットワークの中で収集された顧客の声や各種ビッグデータを分析するシステムと営業支援システムを連携させ、社内で共有し、新たなサービス開発に活用できるプロセスを構築。その成果として、「ポスパケット」や「はこぽす」という新サービスを開発した。

 同社では、従来からあるITシステムの利用によって、戦略商品の新規案件成約額と成約率を過去3年に渡って右肩上がりで引き上げてきたが、白土氏によれば、それは補完的なITの活用だったという。

 今後はマイクロソフトのソリューションの導入によって、ITを使って最大の結果を導き出せる人材を育成するという戦略的IT活用へと移行していきたいと白土氏は話す。つまり、ITとマンパワーの融合こそが、これからの時代に求められるという。

マイクロソフトのソリューションを採用し、ビッグデータを活用した新サービスの開発を実現
また、ITの利用を補完的なものから戦略的なものへ転換していく

Azure Machine Learningを使ったイントロンの判例検索

 インテリジェントクラウドの事例としては、株式会社イントロンワークス専務取締役新規事業開発担当役員の常間地悟氏がマシンラーニングを使った同社の新サービスを紹介した。

イントロンワークスの常間地悟氏

 同社はAzure Machine Learningを使い、裁判の判決文や法律文を自然言語で検索できるサービス「Leagles」を展開している。常間地氏は、壇上で実際にそのシステムを使い、「競馬払戻金の所得分類は雑所得か一時所得か」と言う文章を入力し、検索することで、それに当てはまる事件がピンポイントで表示されることを示した。

 機械学習はどちらかというと将来の予測に使われることが多いが、常間地氏は、文書間の類似性の判定や、類義語・同義語や表記揺れに対応した辞書の作成、文書の中の重要な部分の抽出・解析膨大な文書から適切なものを探し出す上で、機械学習が不可欠なものであると考え、Azure Machine Learningの採用に至ったという。

 また、機械学習はマイクロソフトの協業他社も提供しているが、法律業界という固い業界で事業する上では、マイクロソフトの信頼性が導入の鍵になったと常間地氏は話す。

 さらに、マイクロソフトのサポート体制が充実している点も挙げた。常間地氏は、他社のサービスでは、課題が発生した時に、フォーラムに頼ったり、自力で解決することが求められることが多いが、マイクロソフトのサポートは手厚く、ドキュメントも豊富であると説明。

 加えて、Azure Machine LearningのGUIは洗練されており、経験が浅いエンジニアにも使いやすい点も評価が高いとした。

Leagles
「競馬払戻金の所得分類は雑所得か一時所得か」という自然言語で検索
適切な判例や法律文書がヒットした

(若杉 紀彦)