イベントレポート

近未来の5G無線技術や超高速NAND回路などが登場。VLSI回路シンポジウム

VLSI回路シンポジウムの参加登録者数の推移。出典 : VLSI回路シンポジウム委員会

 半導体の研究開発コミュティにおける夏の恒例イベント「VLSIシンポジウム(VLSI Symposia)」が今年(2020年)もはじまった。「VLSIシンポジウム」は、半導体技術に関する2つの国際学会で構成される。

 1つはデバイス/プロセス技術の研究成果に関する国際学会「Symposium on VLSI Technology」(「VLSI Technology」あるいは「VLSI技術シンポジウム」とも呼ばれる)、もう1つは回路技術の研究成果に関する国際学会「Symposium on VLSI Circuits」(「VLSI Circuits」あるいは「VLSI回路シンポジウム」とも呼ばれる)である。

 VLSIシンポジウムの共通テーマと全体像(バーチャル開催のVLSIシンポジウム、自宅や仕事場で最先端の技術情報を入手参照)、それからVLSI技術シンポジウムの概要(【VLSI 2020レポート】最先端のCMOS製造技術とメモリ技術が続出参照)はすでにご説明した。

 今回は「VLSI回路シンポジウム」の概要を紹介していこう。

 はじめは、最近のVLSI回路シンポジウムにおける参加登録者数を見ていく。西暦の奇数年が日本の京都、偶数年が米国のハワイと交互に開催地を交代してきた。ここ10年の参加者数は、京都が多く、ハワイが少ない。また人数そのものは少しずつ増えてきた。半導体回路技術に関する関心が高まっていることがうかがえる。

国/地域別の投稿論文数はトップが米国、2位は韓国で前回と変わらず

 VLSI回路シンポジウムの発表講演を目指して投稿された論文(投稿論文)の数は、321件である。ハワイ開催だけで比較すると前回(2018年)が362件、前々回(2016年)が375件、さらにその前(2014年)が419件であり、最近は減少が続いている。

 発表講演に選ばれた論文(採択論文)の数は110件である。採択率は34%で、前回のハワイ開催と比べて4ポイント上昇した。

投稿論文数と採択論文数、採択率の推移(2006年~2020年)。出典 : VLSI回路シンポジウム委員会

 投稿論文の件数(投稿件数)を国/地域別に見ると、米国(およびカナダ)が116件でもっとも多い。前回のハワイ開催(2018年)でもトップだった。ただしこのとき投稿件数は131件で、件数そのものは減少傾向にある。

 米国の次は韓国が74件と多く、2位につける。韓国の投稿件数は2006年以降でもっとも多い投稿件数を記録した。これに欧州が42件、台湾が30件、中国が21件と続く。日本は15件で、2008年以降ではもっとも少ない投稿件数となった。

投稿論文の国/地域別推移(2008年~2020年)。出典 : VLSI回路シンポジウム委員会

国/地域別の採択論文数は米国、韓国の次に日本がつける

 発表講演に選ばれた論文(採択論文)の数(採択件数)を国/地域別に見ると、投稿論文の件数と同様に米国がトップ、韓国が2位を占めた。米国の採択件数は49件で、110件の採択件数全体の半分近くを占める。韓国の採択件数は20件である。

 日本の採択件数は10件で3位につけた。投稿件数が15件しかないので、日本の採択率は66.7%と非常に高い。4位は台湾で7件である。

採択論文数の国/地域別件数(左)とおもな国/地域の採択件数の推移(右)。出典 : VLSI回路シンポジウム委員会

発表機関別の採択件数はトップがIntel、2位はKAIST

 採択論文の数を発表機関別に見ていくと、トップはIntelで12件に達する。昨年までトップをほぼ独占していたミシガン大学(University of Michigan)は、今年は7件で3位に落ちた。2位は9件が採択されたKAISTである。4位には5件のSamsung Electronicsがつけた。

発表機関別の採択論文数ランキング(2016年~2020年)。出典 : VLSI回路シンポジウム委員会

技術分野別の投稿件数は「プロセッサ」がトップ、「電力変換」が続く

 技術分野別の投稿件数を見ると、「プロセッサ、SoC、マシンラーニング」が43件でもっとも多い。それから「デジタル回路、ハードウェアセキュリティ」が41件で続く。その後は、「センサー、ディスプレイ」が34件、「電力変換回路」が33件、「周波数発生とクロック」が30件となっている。

技術分野別の投稿件数(2011年~2020年)。出典 : VLSI回路シンポジウム委員会

技術分野別の採択件数は「プロセッサなど」がトップ、「メモリ」が2位

 同じく技術分野別の採択件数を見ると、「プロセッサ、SoC、マシンラーニング」が18件でもっとも多い。「メモリ」が14件で2位を占めた。3位は12件の「センサー、ディスプレイ」、4位は11件の「デジタル回路、ハードウェアセキュリティ」と続く。

 日本の採択論文を技術分野別に見ると、「プロセッサ、SoC、マシンラーニング」と「メモリ」がそれぞれ3件を数える。これに「無線通信」が2件で続く。

技術分野別の採択論文数と日本の発表件数の推移(2016年~2020年)。出典 : VLSI回路シンポジウム委員会

企業対大学の投稿件数では大学の投稿が大半を占める

 企業(および研究機関)と大学の投稿件数を比較すると、大学の投稿が大半を占める。企業(および研究機関)の比率は25%前後とかなり少ない。最近の投稿論文の減少傾向はとくにどちらかが減っているというわけではなく、企業と大学の両方とも、投稿が減ってきている。

企業(および研究機関)と大学の投稿件数の推移と、企業の比率の推移。出典 : VLSI回路シンポジウム委員会

11件の注目論文をシンポジウムの委員会が選出

 VLSI回路シンポジウムの実行委員会は、採択論文のなかから11件の注目論文を選出した。以下は、11件の注目論文の概要を図面で説明していこう。

VLSI回路シンポジウム委員会が選んだ11件の注目論文一覧(その1)。出典 : VLSI回路シンポジウム委員会
VLSI回路シンポジウム委員会が選んだ11件の注目論文一覧(その2)。出典 : VLSI回路シンポジウム委員会
5G移動体通信の28GHz帯向け偏波MIMOトランシーバ(東京工業大学)。出典 : VLSI回路シンポジウム委員会
5G移動体通信対応のマルチスタンダード無線機(Samsung Electronics)。出典 : VLSI回路シンポジウム委員会
シリコンフォトニクス技術による8✕8スイッチ(IBM)。出典 : VLSI回路シンポジウム委員会
1.8Gbit/秒/ピンの性能を実現する16Tbit NANDフラッシュメモリスタック(Samsung Electronics)。出典 : VLSI回路シンポジウム委員会
DSPの性能向上に向けた電力予測に基づくクロック周波数の能動的制御(Qualcomm Technologies)。出典 : VLSI回路シンポジウム委員会
サイドチャンネルアタックに強い暗号プロセッサ(Intel)。出典 : VLSI回路シンポジウム委員会
32GHzで動作する極低温超電導4bitプロセッサ(九州大学と名古屋大学)。出典 : VLSI回路シンポジウム委員会
大規模システム向け高効率AI学習/推論処理プロセッサ(IBM)。出典 : VLSI回路シンポジウム委員会
超低消費電力IoT用ピエゾ抵抗式圧力センサー(University of Michigan)。出典 : VLSI回路シンポジウム委員会
レーザー光の干渉防止機能を搭載したLiDAR(Time-of-Flight)センサー(Sungkyunkwan University)。出典 : VLSI回路シンポジウム委員会
人工虹彩スマートコンタクトデバイス(imec)。なお講演番号が「B1.2」なっているのは誤りで、正しくは「CB1.2」だと思われる。出典 : VLSI回路シンポジウム委員会

 このほかにも興味深い講演が予定されている。随時レポートしていくので期待されたい。