シャープ、作家の平野啓一郎氏を招き「GALAPAGOS」イベントを開催

書籍版、電子書籍版の「かたちだけの愛」と平野啓一郎氏

11月29日 開催



 シャープ株式会社は29日、電子書籍端末「GALAPAGOS」発売日発表に合わせ、作家の平野啓一郎氏を招いて新刊発表イベントを開催した。

 GALAPAGOS発売日である12月10日に、平野氏の新作「かたちだけの愛」(中央公論新社)が書籍(1,785円)、電子書籍版(1,470円)同時に発売される。今回のイベントはそれに合わせて開催されたもので、平野氏の電子書籍に対する思いなどが語られた。

 「かたちだけの愛」は、初めての恋愛小説で、2009年から1年間、新聞に連載されたものに加筆した新作。

作家 平野啓一郎氏

 初めての恋愛小説執筆については、「足を無くした女性に、彼女のための義足をプレゼントするストーリーで、テーマはズバリ“愛”。恋愛は文学を書く上で大きなテーマであり、欠かせないものだと考えていた。現代は、インターネットが登場し、触れる人の数は増えたものの、愛を見つける上では逆に難しい時代となっている。愛とはそもそも何なのか、深いところからもう一度考えてみたいというところが、今回の小説を書く動機となっている」と、現代ならではの恋愛物語を書くことに挑戦したと説明。

 その作品がGALAPAGOSと同時に発売されることとなり、「自然な流れで、それでは電子書籍版も一緒に発行しようということになった。そのため、『電子書籍版小説を書く』という強い意欲を持ってトライしたということではない。パソコンや携帯電話が日常的に使われるようになり、文字を読む時間として端末からの方が多い時代となっている。電子書籍が登場したのは自然な流れではないか」と、特別なものとして電子書籍を捉えているわけではないと説明した。

GALAPAGOSホームモデルに搭載された平野啓一郎氏の新作「かたちだけの愛」

 今後の新刊については、「電子書籍と紙の書籍を同時に発行していくことになる。過去の作品も、順次、電子化していきたい」と電子書籍に前向きに取り組んでいく姿勢を表明した。

 ただし、「電子書籍を使えば、写真や音楽が使えるようになると言われる。しかし、どこにどんな写真を入れるのか、音楽をどう使うのかといったことができるのは特別な人だけではないか。今回の作品も、紙の書籍をそのまま電子化したもの。将来についても、自分自身は紙の書籍の電子化には取り組んでいくが、写真や音楽を使ったものを取り組む予定はない。将来は、紙を電子化したもの、写真や音楽が入ったものが別々なジャンルとして存在していくことになるのではないか」と、マルチメディア版書籍ではないと説明した。

 電子出版については、出版社ごとにスタンスが異なり、印税などのルール面でも定番化されていない状況にある。それに対しては、「今年は電子出版元年と言われたものの、端末はiPadを除いて年末になるまでは登場してこなかった。出版業界側も足並みが全く揃っていないので、ここ2~3年は印税も含めて作家と出版社が個々に相談をしていくことになるのではないか。今回の書籍は、中央公論新社から発行されるが、中央公論側でも電子出版を行なう環境が特別整っているわけではない。しかし、どこの出版社も電子出版は全くやらないというスタンスではないので、調整しながら、紙、電子版を同時に発行していくスタイルをとることは可能だと思う」と話し、当面は出版社側と話し合いを進めながら、発行していくことになるとの見方を示した。

(2010年 11月 29日)

[Reported by 三浦 優子]