大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

量販店店頭では購入できない!? 「GALAPAGOS」の思い切った販売戦略



 いよいよ12月10日から、シャープのメディアタブレット「GALAPAGOS(ガラパゴス)」が発売される。価格は、5.5型カラーTFTを搭載したモバイルモデルが39,800円、10.8型カラーTFT液晶を搭載したホームモデルが54,800円。シャープでは否定するが、この価格設定は、当然のことながら、iPadを意識したものといえるだろう。

発表会から数カ月。いよいよ発売されるシャープのGALAPAGOS

 GALAPAGOSの詳細なスペックについては別稿に譲るが、その一方で注目しておきたいのが、GALAPAGOSの販売戦略である。

 実は、GALAPAGOSは、量販店店頭では直接購入できない仕組みを採用しているのだ。12月3日からの予約開始にあわせて、全国の主要量販店には、GALAPAGOSが展示されることにはなる。年内には全国約1,000店舗の量販店にGALAPAGOSが展示される見込みであり、首都圏であれば、ほぼ主要な量販店で、GALAPAGOSを手にとって見ることができる。

 しかし、その場で購入して、持ち帰ることはできない。購入者は、GALAPAGOSの売り場に設置されている購入申し込み用紙に必要事項を記入。そこにクレジットカードでの支払い条件を指定して、シャープに郵送する。シャープから受注完了のメールにより受注が完了。その後、基本的には2日間程度での発送が可能になると見ている。

 購入者は、GALAPAGOSの初期設定、無線LAN設定を行ない、送られたきたユーザーIDとパスワードを入力して、端末を登録する。さらに、ストアを利用するためのクレジットカード登録を行なう。これによって、GALAPAGOSが初めて利用できるようになる。

 一方で、インターネットでの購入も可能だ。郵送よりも、むしろこちらの購入の方が多いかもしれない。

 同社の「シャープメディアタブレットストア」サイトから、購入申し込み手続きをし、そこで同様にクレジットカードによる支払いを設定すれば、あとの流れは購入申込書の郵送パターンと同じだ。

 このように、シャープからの直販に限定したのが、GALAPAGOSの販売モデルということになる。

 品薄の際に、量販店店頭の「在庫あります」の表示につられて、衝動買いをしてしまったという経験を持つ読者もいるだろう。ニンテンドーDSやiPadなどのモバイル型の製品では、特にそうした傾向が強かった。

 だが、GALAPAGOSでは、こうした店頭での衝動買いといったケースは無くなり、さらに、量販店店頭を訪れた人にとっては、一度自宅に帰ってから、量販店でもらった購入申込書に記入するか、インターネットに接続して購入するということになるため、余計に一手間かかる。

●なぜ、シャープは直販限定としたのか?

 では、なぜ、シャープは販売モデルを、直販限定としたのか。

 シャープのネットワークサービス事業推進本部・新井優司副本部長は、「GALAPAGOSは、単に端末を売るという販売モデルではなく、サービスを含めて提供する製品。これまでの端末以上に、ユーザーオリエンテッドな端末として提供したいと考えている。シャープとお客様がより密接な関係を構築し、シャープ側からもさまざまな情報を発信し、利用を支援し、活用面での利点を提供していきたい。新たな端末を提供するために用意した、新たな販売モデルである」と位置づける。

 ユーザーとの緊密な関係を構築するには、当然、メーカー直販の方が優位である。日本のPCメーカーにも、販売方法をメーカー直販に限定して、ユーザーサポートの充実ぶりを前面に打ち出す仕組みを構築している例がある。GALAPAGOSが目指す日本のユーザーが求める手厚いサポートを実現する上では、最も適した販売モデルといえるかもしれない。

 そのほかに、直販モデルの一般的なメリットとして、在庫管理がしやすく、店頭における不良在庫が発生しにくい、量販店同士の価格競争などを背景として発生する価格下落が起きにくいという点がある。また、流通関連コストも削減できる。

 シャープにとって初めてのサービス融合型端末であり、結果として販売台数を予測しにくいこと、また戦略的な価格設定を行なったことなどを含めると、こうした点も直販モデルに限定した理由の1つと言えそうだ。

 そして、ネットウォーカーでの経験も、今回の販売モデル構築に活かされていることになるだろう。

 量販店では、配布した購入申し込み書からその配布店舗が特定でき、取り次ぎ手数料が量販店に支払われる仕組みだ。また、アプリケーションランチャーの最下部に用意された表示エリアには、取り次いだ店舗のアイコンが用意され、店舗のお得情報などが配信されることから、これを活用した集客メリットも期待できる。

 シャープでは、当面、この仕組みを維持する計画で、量販店を通じた具体的な販売計画はないとする。

 量販店が力を注ぐのは、利益率が高い製品、手離れのいい製品というのがセオリーだ。GALAPAGOSのこの仕組みが、量販店からどう評価されるかが、量販店がGALAPAGOSに本気になるのかどうかのバロメータにもなる。

 なお、今後も見込まれる米国における販売については、直販モデルに限定するかどうかは未定だという。

●GALAPAGOSが打ち出す2つのメッセージ

 GALAPAGOSは、マーケティング戦略の観点から、2つのメッセージを投げかける。

 1つは、「新しい書籍習慣」あるいは「新しい生活習慣」というメッセージだ。GALAPAGOSのトップページには、「デスク」と呼ばれるサービス直結型ホームアプリケーションが表示される。

 ここには、新規購入や定期購読しているコンテンツを表示する「未読・おすすめ」、読書履歴順に表示し、併読する際に便利な「最近読んだ本」、自らの座右の銘としている書籍や、やすらぎたい時にいつも読む本など、何度も読みたいと思う重読本を表示する「お気に入り」、そして、定期購読している書籍をバックナンバーを含めて表示する「定期購読」という4つの棚が表示されている。

 シャープのネットワークサービス事業推進本部商品企画チーフの松本融氏は、「『デスク』を利用することで、気になる本、読みたい本にすぐに出会え、さらに複数の書籍を持ち運ぶことができる。例えば、これまで通勤時間に本を読んでいる人は、行きに読む本と、帰りに読む本は、持ち運べる本の数に限度があるために、どうしても同じものを読んでいるという人が多かっただろう。しかし、朝の通勤は新聞、昼の移動時はビジネス書、帰りの電車ではコミックといった併読が可能になる。電子書籍の環境では、併読が増加すると見ており、こうした新たな習慣も提案できる」とする。

 また、「新しい書籍習慣」のスタイルとして、電子書籍の販売手法についても変革を及ぼすとして、これを「リアル店舗型の書店と、ネット書店の良さを生かしつつ、既存の書店サービスでは提供できていない、これまでにない新しい書籍との出会いの提供」と位置づける。

 デスクの「未読・おすすめ」では、スクエア、ストリート、特集という3つの書店サービスを用意した。

 「スクエア」は書店でいうところの「島」にあたる部分であり、ニーズやライフスタイルといった切り口で構成。これを「丸の内のスクエア」、「白金のスクエア」、「神田のスクエア」の名称を用いて、それぞれにビジネスパーソン向け、美しさを追求する女性向け、小説好き向けといったカテゴリーで分類する。今後は、「秋葉原のスクエア」といったスクエアも登場することになるという。

 「ストリート」は、スクエアに設定したテーマから連想するキーワードに関連したお勧め書籍を表示するもの。ビジネスパーソン向けのスクエアから、マーケティング関連、経営関連などの細分化したカテゴリーでの表示が可能になる。

 そして、「特集」は書店の平台にあたる部分で、タイムリーなキーワードから書籍を紹介するというものだ。まずは、芥川賞作家である平野敬一郎氏の「かたちだけの愛」が、書籍と電子版とが同時発売されるのにあわせてスペシャルインタビューが掲載され、芥川賞受賞作品などへの広がりを提案するという仕掛けを用意する。

 書店の良さ、ネットワークの良さを活用した書店というコンセプトは、こうした構成から生まれることになる。

アプリケーションランチャーの最下部の表示エリアに、シャープや取り次いだ店舗のアイコンが用意される。試作機ではまだなにも表示がされていない GALAPAGOSのサービス直結型ホームアプリケーション「デスク」 「未読・おすすめ」ページからスクエアを表示したところ
「神田のスクエア」は小説好きのためのスクエア 試し読みの機能もある 書籍の管理はPCとの連携で行なう。PC用の管理ソフト「GALAPAGOS Station」の画面の様子

 ただ、気になるのは、microSDカードに蓄積したコンテンツは、ID、パスワードが異なるGALAPAGOS端末では認識できないということ。家族が持つ別のGALAPAGOS端末と書籍を共有したり、友人同士で共有できないほか、個人が家庭内に置く10.8型のホームモデルと、持ち運び用のモバイルモデルと2台を所有した際にも、IDが異なれば、そのままmicroSDカードの抜き差しだけでは利用できない。この点の解決は、ぜひ検討してもらいたいところだ。

●さまざまな観点で進化するGALAPAGOS

 もう1つのマーケティングメッセージは、「進化する」というメッセージだ。

 以前の本コラムでも触れたが、GALAPAGOSのブランドの前には、「進化する」という文字を付け、広告展開などでも、当面は「進化する GALAPAGOS」という表記を行なう。

 例えば、GALAPAGOSでは当面、電子書籍端末という切り口で展開し、TSUTAYA GALAPAGOSで提供されるサービス開始時2万冊、年内3万冊という書籍をラインナップすることを訴求する。だが、その後の方向性として、映像、ショッピング、教育、ヘルスケアなど、生活に深く関わる各種サービスをプッシュ型で提供する考えを示している。

 また、シャープのGALAPAGOSにはウェブ閲覧端末としての機能も搭載。さらに、ソフトバンクから発売されるGALAPAGOS「003SH」のように、電話、メール、ワンセグ、おサイフケータイ機能を搭載したように、GALAPAGOS端末の広がりといった進化もある。

 「端末とサービスが融合した点がGALAPAGOSの特徴。これまでは製品開発が完了し、発売日を迎えると、商品企画の担当者は、それで仕事が終わったという感覚を持つが、GALAPAGOSに関しては、むしろこれからが勝負という意識が強い。いつも発売日直前に感じる、仕事が終わったという感覚は一切ない」と、松本チーフが語るのも、進化を標榜するGALAPAGOSならではのものだろう。

 コンテンツの配信内容や仕組みが今後進化するというのは、まさにGALAPAGOSが実現する「進化」である。そしてマーケティングや販売方法についても、今後は進化が検討されることにはなるだろう。

 発売日の完成状態だけでなく、今後、どんな「進化」を遂げるのかが、GALAPAGOSの注目点だといえる。

ソフトバンクが発売するGALAPAGOS端末「SofBbank 003SH」 TSUTAYA GALAPAGOSではサービス開始時2万冊、年内3万冊という電子書籍がラインアップされる