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Snapdragon X2 Eliteのレファレンス機が登場。各種ベンチ結果も公開

QualcommのSnapdragon X2 EliteのレファレンスデザインCRD。左からX2E-80-100搭載機(TDP 22W)、中央がX2E-88-100搭載機(TDP 22W)、右がSnapdragon X2 Elite Extreme(X2E-96-100)搭載機(TDP非固定)。Cinebench 2024のスコア(マルチ/シングル)は、X2E-80-100が1,153/152、X2E-88-100が1,388/153、X2E-96-100が1,968/161だった

 Qualcommは、同社の本社があるカリフォルニア州サンディエゴ市において「Snapdragon Architecture Deep Dive 2025」を開催し、同社のPC向け最新SoC「Snapdragon X2 Elite」に関する詳細を説明した。

 この中でQualcommは、Snapdragon X2 Eliteの熱設計やレファレンスデザインに関する情報、さらには9月のSnapdragon Summitでは公開されていなかったSnapdragon X2 Eliteの下位2モデル(X2E-88-100、X2E-80-100)のベンチマークデータなどを公開した。

システムやSoCレベルでのPL1、PL2も定義されたSnapdragon X2シリーズ

PL1、PL2の仕組み。基本的にはAMDやIntelのCPUで定義されているPL1やPL2と同じ概念(出典: Snapdragon X Series_Architecture Deep Dive 2025_Day 2_Performance, Power, & Thermals、Qualcomm)

 現代のノートPCの性能は、大きく2つのパラメータで決まってくる。1つはSoCで、そのSoCがどんなCPU、GPU、NPUなどを採用しているかによって、システムの大まかな性能が決定される。もう1つは熱設計で、同じSoCを採用しているシステムであっても、A社の製品とB社の製品で性能が違ってくる理由がこれだ。

 なぜそうしたことが起きるのかというと、現代のCPUやGPUは、規定の動作クロック周波数に加えて、(メーカーによって呼び方が違うが)ターボモードやターボブーストといった、規定のクロック周波数よりも高いクロック周波数が設定されているからだ。

Snapdragon X2 EliteでCinebench 2024を動かしている時の温度、クロック周波数、消費電力(出典: Snapdragon X Series_Architecture Deep Dive 2025_Day 2_Performance, Power, & Thermals、Qualcomm)
SoCにかける消費電力と性能の関係(出典: Snapdragon X Series_Architecture Deep Dive 2025_Day 2_Performance, Power, & Thermals、Qualcomm)

 アイドル時のように低クロックで動作している状況から、高クロック動作に切り替わってCPUをフル稼働させても、動作の限界温度(Tcase)に達するまでタイムラグがある。その間は、規定の動作クロック周波数よりも高いクロック周波数で動作させて、性能を引き上げられるというわけだ。逆に限界温度に達したとCPUが判断すれば、自動的にクロック周波数が下げられ、処理能力がその分低下することになる。

 つまりノートPCメーカーが施す熱設計によって、この高いクロック周波数(ブーストクロック周波数などと呼ばれる)を長く維持できれば、同じSoCでもより高い性能を発揮できることになる。

Snapdragon X2シリーズのクロック周波数はクラスタ単位で変動する(出典: Snapdragon X Series_Architecture Deep Dive 2025_Day 2_Performance, Power, & Thermals、Qualcomm)

 QualcommのSnapdragon X2シリーズにも、そうしたブーストクロック周波数が用意されている。たとえば、Snapdragon X2 Elite Extreme(X2E-96-100)の場合、プライムコアCPUの動作クロックは1つのCPUクラスタ(6コア)あたりシングルコア時が5GHz、デュアルコア時は4.8GHz、3コア時は4.7GHz、4~6コアが4.45GHzに設定されている。Snapdragon X2 Elite ExtremeにはプライムコアのCPUクラスタが2つあるため、SoC全体ではシングルコアでも、デュアルコアでも5GHzで動作させられる。

システムレベルやSoCレベルでもPL1、PL2を設定(出典: Snapdragon X Series_Architecture Deep Dive 2025_Day 2_Performance, Power, & Thermals、Qualcomm)

 一般的に、ターボモード時の電力限界(Power Limit)はPL2、規定の動作クロックでの電力限界はPL1と呼ばれているが、今回のSnapdragon X2シリーズでは、このようなPL1、PL2に加えて、システムレベル(システム全体)でのPL1、PL2として「SYS PL1」「SYS PL2」、SoC全体でのPL1、PL2として「SOC PL1」「SOC PL2」といった新しいパラメータを定義して、ノートPCメーカーがより熱設計をしやすいように配慮している。

Windows on Armデバイス(Surface Pro 11th Edition)でHWiNFO64を実行しているところ。CPUなどの消費電力をテレメトリデータとして確認できる

 ちなみに、IntelやAMDなどのx86プロセッサ環境で、CPUやGPU、マザーボードなどの情報を確認するのにおなじみのツールとしてはHWiNFO64が知られているが、v8.32以降はArmネイティブ版も用意されている。実際にSnapdragon Xシリーズでv8.34を動作させたところ、CPU、GPU、PMIなどの電力消費の様子を確認することができた。

レファレンスデザインや各種設計ツールをOEMメーカーに提供

3つのSKUそれぞれにCRDが用意される(出典: Snapdragon X Series_Architecture Deep Dive 2025_Day 2_Performance, Power, & Thermals、Qualcomm)

 こうした熱設計のレファレンスデザインとして、QualcommはCRD(Compute Reference Design)と呼ばれるノートPCの参考デザインを構築して、OEMメーカーに提供している。スマートフォンにおけるQRD(Qualcomm Reference Design)のノートPC版にあたり、OEMメーカーがCRDを利用してさまざまなテストを行なったり、自社製品を設計する際の参考にできる(競合他社でも同様の取り組みは存在する)。

 今回Qualcommは、Snapdragon X2 Elite Extreme(X2E-96-100用)のCRDと、Snapdragon X2 Elite(X2E-88-100およびX2E-80-100用)のCRDの2種類を設計した。前者はTDPのターゲットが定められておらず、放熱上の限界まで供給電力を引き上げられる仕様になっており、後者は22WのTDPをターゲットとしたデザインとなる。

Qualcommが現時点でターゲットにしているのは20~40W TDPの薄型ノートPC(出典: Snapdragon X Series_Architecture Deep Dive 2025_Day 2_Performance, Power, & Thermals、Qualcomm)

 ただし、Snapdragon X2 Eliteは、TDPが20~40W程度のいわゆる薄型ノートPCをターゲットにした製品で、ディスクリートGPU(dGPU)が入っている60~100W、よりハイエンドのdGPUが入っている110~200Wといった、より高TDPのワークステーションPCやゲーミングPCはターゲットにしていない。

 Snapdragon X2 Elite自体は、PCI Express 5.0を12レーン持っているので、たとえば8レーンでdGPUを接続することも技術的には可能だ。しかし現状、Windows on Arm(WoA)向けにArmのデバイスドライバが提供されているdGPUが市場に存在していない。

 AMD、Intel、NVIDIAといったdGPUベンダーはいずれもx64版だけをターゲットにしており、dGPUをWoAで使うには、Qualcomm自身がdGPUに取り組むか、前述の競合他社にArm版ドライバを作ってもらう必要がある。将来的にはそれが可能だとしても、現状は存在していないので、TDP 60Wを超えるようなデザインポイントはターゲットにしていないということになる。

SBO(出典: Snapdragon X Series_Architecture Deep Dive 2025_Day 2_Performance, Power, & Thermals、Qualcomm)

 なおQualcommは、OEMメーカーがBIOSなどのパラメータの設定を簡単に行なえるような開発用ツール(SBO: Scenario-Based Optimization)もSnapdragon X2シリーズ世代から提供する。UEFI BIOSのパラメータなどを変更しながら、ビデオ再生向け、ゲーム向けといったより突き詰めた電力設定などを検証できる。

CRDのベンチマーク結果を公開。X2E-88-100、X2E-80-100の性能も明らかに

Cinebench 2024の結果(出典: Snapdragon X Series_Architecture Deep Dive 2025_Day 2_Benchmarking、Qualcomm)

 今回Qualcommは、そうしたCRDを利用したX2E-96-100、X2E-88-100、X2E-80-100のベンチマーク結果を公開した。最上位モデルのX2E-96-100のスコアは9月に開催されたSnapdragon Summitでも公開されていたが、下位モデルのX2E-88-100とX2E-80-100に関しては今回初めて公開されたかたちになる。

Geekbench 6.5の結果(出典: Snapdragon X Series_Architecture Deep Dive 2025_Day 2_Benchmarking、Qualcomm)
3DMark(SolarBay/Steel Nomad Light)の結果(出典: Snapdragon X Series_Architecture Deep Dive 2025_Day 2_Benchmarking、Qualcomm)
NPUベンチマークの結果(出典: Snapdragon X Series_Architecture Deep Dive 2025_Day 2_Benchmarking、Qualcomm)
Speedometer 3.1、Procyon Office Productivityの結果(出典: Snapdragon X Series_Architecture Deep Dive 2025_Day 2_Benchmarking、Qualcomm)

 同時にQualcommは実機での様子も公開しており、実際にそのスコアを確認できた。その模様もあわせて写真で紹介しておこう。

3DMark(SolarBay)の結果。左からX2E-80-100(スコアは18,112)、X2E-88-100(22,357)、X2E-96-100(22,655)
Geekbench 6.5の結果。左からX2E-96-100(シングル/マルチのスコアは4,072/23,611)、X2E-88-100(3,838/20,320)、X2E-80-100(3,850/16,171)
Procyon Office Productivityの結果。左からX2E-96-100(スコアは9,205)、X2E-88-100(8,891)、X2E-80-100(8,528)