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同じウェハなのにCore i9とi5を分かつ「決定的瞬間」とは
2023年8月23日 09:30
Intelは、同社がマレーシアに設けている後工程の組立工場などを報道関係者に公開している。初日となる8月21日(現地時間)には、ペナン・キャンパスにあるCPUなどの組立ラインや研究開発施設などが公開された。
8月22日にはもう1つのサイトになる「クリン・キャンパス」が公開され、ウェハからダイを切り出して、検査するための施設となるKMDSDP(KuliM Die Sort Die Prep)、さらにはIntel社内CU動作検証など向けのテストマザーボードやテストシステムなどを製造するSIMS(System Integration and Manufacturing Services)などの施設が公開された。
その中でもダイ・ソートと呼ばれるプロセスでは、前段階でウェハから切り出されたダイが、「SDXテスター」と呼ばれるテスターにかけられて、そのダイがどのSKUに相当するかが決定されていく仕組みになっている。
マレーシアのクリンではダイカットと開発向けシステムの生産が行なわれている
IntelのCPUやGPUなどのプロセッサ製品は、基本的にウェハと呼ばれるシリコンの板に回路を構成していく「前工程」、そしてその前工程で製造されたウェハをカットしてダイに分割してそれをサブ基板に実装していく「後工程」と大きく2つの工程に分かれて製造されている。
今回Intelが連日公開しているマレーシアにある工場は後工程を担当し、ウェハからダイを切り出して、それをパッケージに封入し、最終的にCPUとして完成させて出荷する形になる。8月21日に公開されたのは、パッケージ組立工場の工程と後工程などの研究所などになり、詳しくは以下の記事にまとまっている。
8月22日には、後工程のうち最初の工程になるダイを切り出して、トレー上に並べてダイのテストを行ない、SKU別に並べ替えてテープリールに封入していくというダイ・プリパレーション(ダイ準備)、ダイ・ソート(ダイ並べ替え)というプロセスを行なう施設になるKMDSDP、Intelが社内で出荷前のCPUやGPUなどをテストする装置を製造するSIMSの2つの施設が公開された。
これら2つの施設は、Intelがマレーシアで開設しているペナン・キャンパス、クリン・キャンパスの2つのうち、クリン・キャンパス内にある。ペナンは、ペナン島という島になっており、歴史的にはマレーシアがイギリスの植民地だった時代に、イギリスの植民地支配と貿易の拠点として発展した歴史があり、ペナンの中心街であるジョージダウンは今でもそうした植民地時代の雰囲気を残す古都となっている。
Intelのペナン・キャンパスは、そのジョージタウンから南に下った、ペナン空港近くの工業団地内にある。空港近くにあるのは、ロジスティックスや人の行き来を考えたためで、その工業団地内にはルネサス エレクトロニクスのような日系企業も、Broadcomのような米系の半導体メーカーの工場が用意されているなど、一大工業団地となっている。
クリン・キャンパスは、そのペナン島から2つの橋を渡って行ける、マレー半島のマレーシア本土側の「クリン・ハイテク工業団地」の中にある。こちらもペナン・キャンパスと同じように建物の名前には、KM1(クリン・キャンパスの1番目の建物という意味)、KM2、KM3……のように名前がついており、今回筆者などの報道関係者が訪れたのは、KM1にあるKMDSDPとKM2にあるSIMSになる。
なお、前日に続き工場内は究極の社外秘となるため、撮影などは許可されておらず、Intel側が用意した公式写真でお伝えすることになる。その点はお断わりしておきたい。
カットされたCPUは、SDXテスターでどのSKUに相当するかが判別される
KM1にあるKMDSDPは、前工程で作られたウェハをダイに分割し、それをテープ上のリールに封入して次の工程に渡す工程になる。そして、生産されたダイがどのSKUに相当するのかを決定するプロセスとなるダイ・ソートも含まれている。1つのウェハで生産されたCPUが、上位SKUなのか、下位SKUなのかはダイ・ソートのプロセスで行なわれるのだ。
①ダイ・プリパレーション
前工程で製造されたウェハが運ばれてきて、それをレーザーによる線を入れて、ダイにカットする準備を行なう。その後ダイヤモンドカッターを利用してダイにカットし、カットされたダイはロボットによりトレーに移動されて、次のソーティングの工程に回される。
②ダイ・ソート
ダイ・プリパレーションでカットされたダイはトレーに並べられて、トレーごと専用の箱に入れられて、ダイ・ソートの工程に回される。その時にボックスは専用のロボットにより運ばれていく。前工程のAPMのような工程の上を専用のレールで移動していくのではなく、床の上に線が引かれており、ロボットが自律的に運んでいく仕組みになっている。
そのロボットが運んできたトレーを含む箱は、SDXテスターにかけられる。SDXテスターではそのダイが優良かそうでないかをチェックする。そのテストにより、高いクロック周波数で動くダイは上位SKUに、そうでないものを下位SKUに分類する。
たとえば、デスクトップPC版の第13世代Coreであれば、高いクロックで動く優良ダイをCore i9-13900K(24コア/最大5.8GHz)に設定し、そうではないものを、CPUコアのいくつか無効にしてCore i5-13600KF(14コア/最大5.1GHz)にする、そういう形でそれぞれのダイがどのSKUに相当するかを決定していく。
このSDXテスターは20の独立したセルが用意されており、複数のダイを並列に判別していくことが可能になっている。
そうした決定されたSKUに応じて、再びトレーの上にSKUごとに並べ替えられて、複数のトレーがボックスに並べられて、次のプロセスへと再びロボットにより運ばれていく。
③トレーからテープへ
ダイ・ソートのプロセスで、SKUごとに並べ替えられたトレーが、テープへ封入される。このテープは同じSKUのダイが1つのテープにまとめられるため、あるテープはすべてCore i9-13900Kというような形でテープに封入される。
IntelのCPU、GPUなどの開発作業のために必要なマザーボードなどをIntel自身が製造して開発拠点に提供するSIMS
SIMSは、IntelのCPUやGPUなどの開発を行なう時に必要な開発用のマザーボードなどを生産するための拠点だ。SMT(Surface Mount Technology)という基板(PCB)に部品を表面実装するラインなどが用意されており、マザーボードをSMIS自身で生産できる。このマザーボードなどは、IntelがCPUやGPU、FPGAなどの開発を行なう上で必要な開発ボードで、外部には販売されず、Intel自身の研究開発センター向けに提供されるマザーボードやそれを搭載したテストシステムなどがSIMSで生産される。
一般的に、半導体はプレ・シリコンと呼ばれる実際にウェハとして製造される前は、FPGAなどのプログラマブルな回路などを利用してシミュレーションとして動作させて機能などのチェックを行なう。そのプレ・シリコン向けのシミュレータ用基板もSIMSでは製造され、こちらはCPUの開発拠点などに提供されることになる。
また、ポスト・シリコンと呼ばれる、ウェハのテスト生産が始まり、いわゆるエンジニアリングサンプルと呼ばれるA0シリコンなどを動かすためにマザーボードが必要になるので、そうしたマザーボードがSIMSで生産されている。
筆者が訪れたときには、シングルソケットの次世代Xeon(Sierra Forestだと考えられる)用のマザーボードを搭載したテストシステムが準備中だった。
また、前出のSDXテスターで利用されているテスターの基板なども、Intel自身が開発しSIMSで生産されている。そうしたテストシステムを自社で開発することは、自社にノウハウが蓄積されていくことにつながり、IntelのCPU開発などの期間が短縮されることになる。その意味で、SIMSの存在はIntelの製造部門にとっては大きなアドバンテージになっていると言える。
①HDBI(High Density Burn-In)テスター
パッケージ組立工程の最後の方にある「動作検査(Burn-in)」で利用されるテスターがHDBIとなる。この動作検査では、PGAであろうがBGAであろうが交換可能な特殊なソケットにCPUなどをロボットが挿入して、取り外すという形で正しく動作しているかどうかを検査する工程になる。この動作検査はより早く、かつ正確にできる必要があり、Intelが内製で製作しているテスターになり、それがSIMSで製造されている。
②HMDT(High Density Modular)テスター
ポスト・シリコン(テストチップがウェハとして生産されること)になってからのCPUやGPUなどのテストに利用される機器がHMDTテスター。たとえば、ファームウェアやOSの動作チェックなどのテストに利用されることになる。また、顧客や報道関係者などに向けて発表前の製品をテストする場合にも、HMDTが利用されることになる。