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人が乗って操作できる4m級ロボット「アーカックス」、ついにお披露目。4億円で国内先行販売

 ツバメインダストリ株式会社が独自開発している搭乗操作型ロボット「アーカックス」のメディア内覧会が2023年8月19日に横浜・本牧埠頭の倉庫で行なわれた。「アーカックス」は人が搭乗して操作可能な4m級のロボット。

 すべての可動部が操作可能な「ロボットモード」と、腕を折りたたんで前脚を60度前に伸ばして姿勢を低くした「ビークルモード」の2種類があり、それぞれのモードで操作箇所だけでなく移動速度も変化する。公式SNSでも動画が公開され、ネットでは以前から話題になっていた。

 「アーカックス」は全高3.9m(ビークルモード時)〜4.5m(ロボットモード時)。重量3.5t。フレームは鉄(SS400系)とアルミ合金。外装はFRP。ハンドや頭部など一部部品は3Dプリンタ(ASA)で作られている。

 動力は電力で、EV用のバッテリ(DC300V)で駆動する。車同様、前輪操舵、後輪駆動で、移動速度はロボットモードで時速2km、ビークルモードでは時速10km出せる。タイヤ走行系はフォークリフトのものを転用している。

アーカックス(ロボットモード)
側面
背面
充電部。バッテリは走行すると一気に減るが上半身しか動かなさいのであればかなり保つとのこと
ロボットモード時の頭部。モノアイ風のデザインだが実際にはカメラではない
ビークルモード時の頭部
斜め後ろから
左側面
モーターやシリンダーなど機能部品はあえて目立つようにデザインしたとのこと
腕を動かすシリンダーはよく見える
各部にはスポンサー企業やパートナー企業のロゴが貼られている
実際にアーカックス製作に関わった企業
ハッチを開けた状態での上半身
タイヤは産業用車両(フォークリフト)のもの
ロゴデザインも凝っている
胴体部
カメラは半球部の中に収められている
全体に9箇所あって視野を確保する
「アーカックス」仕様。名前は始祖鳥の学名(Archaeopteryx、アーケオプテリクス)に由来する
「アーカックス」のサイズ

 コックピットは変形中に約17度傾き、シート座面の水平を保つ。内部にはジョイスティック、ペダル、タッチパネルがある。モニターは4枚、カメラは全身で9台。

 ロボットモードでは、2本のジョイスティックで腕・ハンド・腰、2つのペダルで走行系の操作が行なえる。直感的な操作方法で各可動部を動かせるという。搭乗操作のほか、遠隔操作も可能。全身の関節自由度は26で、加えて前輪と後ろにサスペンションがあって揺動する。

全身の能動自由度は26

 ハンドは5指が稼働する。根本に駆動用モーターがあり、各指はリンク機構で連動する。実際に15kg程度のものを把持することも可能だがまだ実際には試していないとのこと。

右手。物を握ることも可能
左手。5指が動く

 主に海外の超富裕層向けに販売を予定しているが、今回、国内先行販売として初期ロットを5台限定で受注生産すると発表された。価格は4億円。1年から1年半で納入可能とのことだ。

 合わせて、10月26日から11月5日にかけて行なわれる「ジャパンモビリティショー2023(旧東京モーターショー)」に出展されることも発表された。一般公開としてはここが初めてのタイミングとなる。

4億円で国内先行販売
関係者で記念撮影

「ロマン」から搭乗型ロボットの一大産業化へ

ツバメインダストリ代表取締役CEO 吉田龍央氏

 会見ではまず、ツバメインダストリ代表取締役CEOの吉田龍央氏が同社の概要を紹介した。2021年創業のツバメインダストリは「サイエンスフィクションの世界を、サイエンスリアリティへ」をミッションとして掲げている。

 従業員数は9名で、「身体の拡張」をキーワードとして、人が乗り込めるロボットを開発している。パイロットが自分が巨大化したかのように扱えるような重機が存在する世界の実現を目指し、まず最初はエンターテイメントやホビー用途として技術開発を行なっている。

「サイエンスフィクションの世界を、サイエンスリアリティへ」

 吉田氏は「ロマンを大事にしている」と語った。「宇宙や航空などいろいろな産業があるが、どれも最初はロマンから始まっている。搭乗型ロボットが日常生活で活躍する社会もきっと来る」と述べ、まずエンタメ用途として開発したプロトタイプが「アーカックス」だと位置付けを紹介した。

ロマンから産業化を目指す

人型ロボットに人が乗る世界を

ツバメインダストリ 代表技術責任者CTO 石井啓範氏

 「アーカックス」の詳細については、同 代表技術責任者CTOの石井啓範氏が紹介した。石井氏は日立で双腕重機「アスタコ」の開発に携わったあと、横浜の「動くガンダム」のテクニカルディレクターを務めた。

 建機のようなフレームに産業用ロボットのモーター制御などが組み合わさった構造の「アーカックス」についても、それらの開発歴で培われた経験が生かされている。石井氏は「人型ロボットに人が乗る世界を実現したい」と考えて、このプロジェクトに参加したという。

ロボットや建機、産業車両などの技術の組み合わせで実現
人型ロボットに人が乗る世界を実現したいとのこと

 アーカックスの大きな特徴が人が乗り込めるところ。そのためのコックピットハッチのギミックは凝っており、4つのハッチが連動して動くだけではなく、シートも一緒に稼働する。

 コックピット内のモニターは4枚で、シミュレータでの事前検討を踏まえて、全身で9台のカメラの配置も検討したという。モニターは4枚なので、姿勢とモードに応じて切り替えて視野を確保する。なおコックピットにはエアコンが装備されているが、まだ稼働させていないとのこと。

コックピットハッチは4ハッチとシートが連動する
操作システム。ジョイスティックとペダル
モニター表示システム。シミュレータを使って検討
カメラ配置。全部で9台
カメラは全身各所にある
検証に使ったシミュレータ

 ハッチ部は軽量化のためアルミで構成されている。パッと見ると全体の重心が上にあるように見えるが、実際には上半身は大幅に軽量化されており、全体の重心バランスは常に本体下部にある。その結果、転倒安定性は建機同等の安定性を確保した。

 ロボットモードで20度、ビークルモードで30度傾いても転倒しない。また左右のシリンダーの長さも見ており、その差が閾値を超えたらシステム停止する。

 フレームは建機と似た構造で、強度と剛性を確保している。板厚はもっとも薄いところで4.5mmと溶接しやすさを見ながらもギリギリまで軽量化。金属フレームにFRPの外装を貼り付けたかたちになっているので、ほかのデザインバリエーションも展開可能だ。外装には大型ロボット立像などのエンターテイメント技術が用いられている。

軽量化のため薄いところは板厚4.5mmしかない
内部フレームと外装

 全体システムは産業用ネットワークで各種コントローラやドライバをつないだものとなっており、産業用ロボットと似ている。配電盤は3つあり、腰の前後とバックパックに収納されている。嵩張る配電盤をどうレイアウトするかは苦心した点の1つだったという。

全体システム。Ethernetやメカトロリンク、CANなど産業用ネットワークを採用
遠隔操作も可能
脚部。白いバンパーやエアインテーク風のデザインは飾り
ハッチをオープンした状態もかっこいい

安全系は既存の機械の規格を参照

建機やロボットの安全規格を参照してリスクアセスメントを実施

 安全系については、安全コントローラを搭載して特別系統で監視している。そしてリスクアセスメントを行なって、リスク提言のための保護方策を抽出した。オペレータが操作することから建設機械の安全規格を参照した。重心バランスを建機同等としたのもこれによる。またシステムは産業用ロボットに近いので産業用ロボットの安全規格も参照した。

 コックピットハッチについては手足を挟むリスクがあるため、開閉するには手足を4つ決められた場所に置かないと動作しない方式とした。ハッチ部には接触センサーを配置し、挟み込みが発生した際には停止する。

 またハッチの後ろにも非常脱出ハッチが設けられていて万が一転倒するなどして、正面が開かないときにも脱出できるようにした。これも建機の安全規格からきている。

保護方策の一部。重心はもともと低く、20度傾いても転倒しない。ハッチは挟み込みを防止するため両手両足を所定の位置に置かないと操作できない

搭乗型可変ロボットのビジネス価値は?

ツバメインダストリ 監査役 関大地氏

 ビジネス面については、監査役の関大地氏が紹介した。コンシューマに対して、これまでにない期待を満たすこと、特に所有に関する満足感をかきたてて、近未来的体験を体感してもらうことを目指す。

 価格は数億円程度と非常に高くなることから、超富裕層をメインターゲットとして、初めて実際に搭乗可能なプロダクトとして販売することで、新たなビジネスブランドを確立する。そのための開発・設計人材やデザイン人材は内部で確保する。

 デザインにはこだわっており、今後、キャラクター化などデザインの活用(IP化)も目指す。なおデザインはツバメインダストリ デザインマネージャーのAK_BAN(アカバン)氏こと堀田智紀氏が手がけている。メカ設計担当の石井氏と絶えずコミュニケーションしながらデザインを進めたという。

ツバメインダストリの価値創造プロセス

 これまでにも人が乗れるサイズのロボットは開発されてきた。それらと「アーカックス」との違いは、販売目的の製品であること。安全基準についても国内外の安全基準と同等レベルの水準で開発している。またメンテナンスについてもリペアパーツを持ちながら、継続メンテができる体制を今後構築していく。

これまでの同種のロボットとの差別化ポイントは、継続販売を目指すこと、メカ・デザインの両立等

 想定している事業領域は、受注販売の主たるターゲットを富裕層としつつ、キャラクター二次利用や、イベント等での事業供与も視野に入れる。企画・設計はツバメインダストリで行なうが、さまざまなステイクホルダと提携しながら、ビジネスモデル構築を目指す。

想定事業領域は3つ
他社とも協業し、搭乗型ロボット受注販売モデルの構築を目指す

10億ドル以上の資産を持つ「超富裕層」とは

 では、主なターゲットである海外の超富裕層とはどんな人たちなのかというと、10億ドル(1,400億円以上)の資産を持つ人たちのことだ。その層は世界でも増加傾向にあり、それに比例して、フェラーリやランボルギーニといった超高級車の販売台数も伸びている。「その何%かを取っていきたい」と考えているという。

 なお日本の超富裕層は野村総研によれば総資産5億円以上とされているが、それでも8.7万世帯ある。ここも販売対象として、シェアリング(共有)など新たなかたちも視野に入れつつ、ビジネス展開は考えていきたいとのことだった。

「日本文化を圧縮したプロダクト」で「対戦型リアルeスポーツ」も

アーカックスを使った「対戦系リアルeスポーツ」のイメージ

 今後については、たとえば「対戦系リアルeスポーツ」を挙げた。ハイパーカー(100万ドル以上の車)の多くは実際にはナンバープレートを取得されることなくガレージで保管されており、現代アートのような扱いを受けていることが多いという。

 「アーカックス」は自動車ではないが自走するので自動車的要素もあるし、ロボット的要素、アート的要素も併せ持っている。「ゲームやロボット、自動車など、日本文化を圧縮したようなプロダクト」でもあると捉えて、海外に向けて販売していきたいと考えているという。

 少なからぬ数の高級車が公道を走ることなくガレージで眠っていることを考えると、「ガレージの中で最大限遊べるものを提供できたらおもしろいのでは」と考えて、「対戦型リアルeスポーツ」という枠組みを紹介した。

 肉眼視界のないロボットである「アーカックス」に乗り込み、実際の動きによる物理的影響を受けながら、ARを使って弾や爆発のエフェクトを体験しながら行なうシューティングゲーム体験だ。

 そのような提案をしながら販売を続けて、2025年からはエンタメ用の次世代機、さらに2028年以降は、エンタメ以外の用途にも用いることのできる汎用ロボットのプロトタイプ開発を目指す。並行して、腕、移動機構、操作インターフェイス、表示モニターなどの改良開発も行なう。

技術開発ロードマップ

 なお、ロボットの操作も「座ればすぐに動かせる」ようなものではないので、ツバメインダストリで講習会などを行なう予定。それらも含めて体験価値として提供する。「最初はうまく動かせないが、徐々にうまく動かせるようになるところがおもしろい」という。

「ジャパンモビリティショー2023」で一般公開、河森正治デザインモデルも

「ジャパンモビリティショー2023」で一般公開予定

 10月26日から11月5日にかけて行なわれる「ジャパンモビリティショー2023(旧 東京モーターショー)」に出展されることも発表された。一般公開としては初めてのお披露目となる。走行は行なわないが、上半身の動作や変形はデモする予定とのことだ。

 なお、乗車体験などは今後も提供する予定はない。それはあくまで購入者限定の体験となるという。

アーカックスのコックピットに座れるのは開発スタッフと購入者のみの特典

 また、アニメ「マクロス」や「アクエリオン」シリーズなどで知られる河森正治監督デザインモデルの製品化プロジェクトも始動したことも公開された。こちらは11月ごろに詳細が発表される予定。シルエットを見ると、やはり河森正治氏がメカニックデザインを手がけたゲーム「アーマードコア」を連想させるものとなっている。

河森正治監督デザインモデルの製品化プロジェクトも始動

 冒頭で述べたように国内先行販売モデルは4億円からの完全受注生産となる。内部フレームは共通なので、色の変更やデザインの特注もできるとのことだ。

テクニカルサポーターと株主
当日は司会を行なったツバメインダストリ取締役 原田憲一氏