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Samsung、14nm世代のFinFETロジックと互換の埋め込みMRAM技術を開発

14nm世代のFinFETロジックと互換のプロセスで試作した評価用シリコンダイ。128MbitのMRAMマクロ(シリコン面積は公表していない)、16MbitのMRAMマクロ、テスト用ロジック、PLL、OTPメモリなどを混載した。SamsungがVLSIシンポジウムで発表した論文から(番号C2-2)

 Samsung Electronicsは、14nm世代のFinFETロジックとプロセス互換の埋め込みMRAM(eMRAM)を開発し、2023年6月13日~15日に国際学会VLSIシンポジウムでその概要を発表した(論文番号C2-2と論文番号T18-4)。128Mbitの大容量MRAMマクロを試作して開発水準が量産レベルに近いことを報告するとともに、さらに微細な8nm世代のFinFETロジックにも開発したeMRAM技術が適用可能であることを示した。

 eMRAM技術は標準的なMRAMとは異なり、金属配線工程(BEOL)の途中に記憶素子である磁気トンネル接合(MTJ:Magnetic Tunneling Junction)を作り込む。メモリセルの選択トランジスタを製造する技術とは関係なく、大規模なロジックLSIにMRAMを埋め込める。これまでSamsung以外を含め、28nmおよび22nmのプレーナー型FD SOI CMOSロジック、28nmおよび22nmのプレーナー型バルクCMOSロジックと互換の埋め込みMRAMが国際学会などで試作発表されてきた。

 またすでに、一部のマイクロコントローラ(マイコン)やロジックLSIなどで埋め込みMRAMマクロを内蔵する半導体デバイスの量産が始まっている(参考記事)。民生用ロジックでの実用化は済んでおり、現在は産業用ロジックや自動車用ロジックなどへの適用が期待される状況にある。

車載用マイコンに向けた128Mbitの埋め込みMRAM

 Samsungが開発した14nm世代FinFETロジック互換の128Mbit eMRAMは、車載用マイコンや車載用ロジックなどの自動車用半導体を想定している(番号C2-2)。動作温度範囲はマイナス40℃~プラス150℃と広い。読み出し周波数は温度150℃、電源電圧0.64Vの条件で最大80MHzとかなり高い。入出力バス幅は256bitである。単純計算では、データ伝送速度は最大2.5Gbpsに達する。

試作した128Mbit eMRAMの内部ブロック(上)と、読み出しと書き込みのバイアス条件(下)。なお書き込み動作は「0」書き込みサイクルと「1」書き込みサイクルの2サイクルに分けて実施する。書き込みを2サイクルに分けることで、書き込みバイアス電圧を下げて書き込みドライバのシリコン面積を削減した。VLSIシンポジウムで発表した論文から(番号C2-2)

150℃で保存期間10年以上、書き換えサイクル100万回を確保

 量産を想定した試作評価は、14nm世代のFinFETロジックによる16Mbit eMRAMマクロを使って実施した(番号T18-4)。試作したeMRAMマクロのセル面積は0.0242平方μmで、これまでのeMRAMの中では最も小さいという。書き込みパルス幅は200ns(温度160℃)、読み出しパルス幅は15ns(最短11ns、温度160℃)である。

 長期信頼性はデータ保持期間が温度150℃で10年以上、書き換えサイクル寿命が100万サイクルであり、埋め込みフラッシュメモリの置き換えには十分な信頼性を確保した。なお長期信頼性の試験は、パッケージにシリコンダイを封止した状態で実施した。

試作した16Mbit eMRAMマクロのシリコンダイ写真。ダイ寸法は公表していない(記憶密度を128Mbitマクロと同じ18.1Mbit/平方mmと仮定すると、ダイ面積は0.88平方mmとなる)。VLSIシンポジウムで発表した論文から(番号T18-4)
試作した16Mbit eMRAMマクロの主な仕様。VLSIシンポジウムで発表した論文から(番号T18-4)

90%以上の製造歩留まりと8nm世代へのスケーリング

 ウェハレベルの製造歩留まりは当初、50%前後とあまり高くなかった。MTJスタックと製造プロセス(エッチングなど)の改良によって歩留まりを向上させた。現在では90%を超える製造歩留まりを得ているとする。

16Mbit eMRAMマクロの断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した画像。下からFinFET、低層金属配線、底部電極コンタクト(BEC)、磁気トンネル接合(MTJ)の順に積み上げた。なお論文C2-2によると、BECとMTJは第4層金属配線(M4)の上に作り込んでいる。VLSIシンポジウムで発表した論文から(番号T18-4)

 将来に向けて、8nm世代のFinFETロジックで製造したeMRAMセルの基本特性を14nm世代と比べた。データ保持試験(210℃、10年)の不良率と書き込み不良率(ビット線バイアスによる変化)は、8nm世代と14nm世代でほとんど違いはなかった。将来に向けて期待が持てる結果だ。

14nm世代と8nm世代(サブ10nm世代)のeMRAMセルでデータ保持特性(左)と書き込み不良率(右)を比較した結果。VLSIシンポジウムで発表した論文から(番号T18-4)