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Arm、PCもカバーする高性能CPU「Cortex-X3」とAndroid向けGPU「Immortalis-G715」発表

新しいGPUのブランドは「Immortalis」(イモータリス)、Maliのさらなる上位版という位置づけ

 CPU/GPUなどのプロセッサのデザインIP(知的所有権)をライセンス供給している英Armは、6月28日(現地時間)に米国でオンライン会見を開催し、新しいCPU/GPUのデザインIPを発表した。

 発表されたのはCPUのカスタムハイエンド版になる「Cortex-X3」、通常版になるCortex-A715で、Cortex-X3はAndroid OSのスマートフォン向けだけでなく、Arm版WindowsなどのPCの用途も意識した高性能製品になる。

 また、GPUにはフラッグシップ向けの新しいブランド名として「Immortalis」(イモータリス)を導入し、その最初の製品としてImmortalis-G715が発表された。ハイエンド/メインストリーム向けにはMaliブランドも併用され、Mali-G715とMali-G615が発表された。こちらはAndroid OSがメインターゲットとなる。

 Armによれば既に半導体メーカーへのライセンスを開始しており、搭載した製品は来年(2023年)の早い時期に登場すると説明している。

22年向けのプラットフォームとなるTCS22、CPUはCortex-X3/A715、GPUはImmortalis-G715などから構成

オンライン会見の中で挨拶するArm CEO レネ・ハース氏

 英Armは、Apple、QualcommやMediaTekといった半導体メーカーに対して、IPライセンスを提供している。CPUを自社で設計しているAppleであればアーキテクチャライセンスを供与し、SoCを設計するMediaTekへはCPU/GPUのデザインライセンスを提供している。

 今回の記者会見でArmが発表したのは後者のデザインライセンスで、これまでCPUの「Cortex」、GPUの「Mali」ブランドで、QualcommやMediaTekなどの半導体メーカーにライセンス供与してきた。

 昨年(2021年)は5月末に新しいCPUとなる「Cortex-X2」、「Cortex-A710」、「Cortex-A510」、GPUとなる「Mali-G710」、「Mali-G510」、「Mali-G310」を発表しており、昨年の末から今年(2022年)の前半に半導体メーカーが発表したハイエンド向けSoCなどにこれらの製品が採用されている。

TCS22(Total Compute Solutions 2022)

 今年Armが発表したのはCPUの「Cortex-X3」、「Cortex-A715」、GPUの「Immortalis-G715」、「Mali-G715」、「Mali-G615」の各製品となる。ArmではこうしたCPU/GPUを1つのプラットフォームとして提供しており、今年のプラットフォームは「TCS22」(Total Compute Solutions 2022)と呼んでいる。今後、2023年にはTCS23を、2024年はTCS24を……という形で、年次的に新しいプラットフォームを提供していく計画だ(昨年提供されていたCortex-X2などは遡ってTCS21と今後は呼ばれることになる)。

PC向けに8コアのCortex-X3と4コアのCortex-A715という組み合わせも可能になる

発表されたCortex-X3、Cortex-A715。

 そうしたTCS 22向けのCPUがCortex-X3、Cortex-A715になる。よく知られているようにArmは高性能コアと高効率コアという2つの種類のCPUコアを用意しており、big.LITTLEアーキテクチャに基づき、高性能が必要なときは高性能コアないしは両方をオンにし、電力効率を優先する時には高効率コアだけをオンにするという仕組みを採用している。

 Cortex-X3、Cortex-A715はいずれも高性能コアで、高効率コアは昨年発表した「Cortex-A510」が継続提供される(ただし、A510自体も設計などが見直されることで、同じ性能であれば消費電力が5%少なくなっている)。

 Cortex-X3とCortex-A715は、いずれも64bit ISAの「Arm v9アーキテクチャ」に基づいた製品で、Cortex-A715に追加のキャッシュを実装してレイテンシを削減し、さらにクロック周波数などを引き上げたものがCortex-X3、という構図は従来と同じだ。

 Armによれば、Cortex-X3は、従来製品のCortex-X2と比較して25%性能が引き上げられており、Cortex-A715はCortex-A710に比較して性能では5%、電力効率は20%引き上げられている(なお、ArmはCortex-A715はCortex-X1と同程度の性能を実現していると説明している)。このため、たとえば、シングルスレッド性能を引き上げるためにCortex-X3を1コア+Cortex-A715を3コアで高性能コアを構成し、高効率コアとしてCortex-A510を4コアなどで8コアのCPUなどを設計することなどが可能になる。

設計次第だが、スマートフォン向けの設計では現行のAndroidスマートフォンと比較して25%、PC向けの設計では現行のメインストリーム向けノートPCと比較して34%性能が向上する

 Armによれば、TCS22の一部として提供されるCPUコアのバックボーン「DSU-110」(TCS21でも利用されていたものと同じ)では最大で12コアまで構成が可能になっており、前述のX3(1)/A715(3)+A510(4)という構成のほかにも、Cortex-X3だけで12コアなどの構成ももちろん可能とのことだ。

 たとえば、昨年の12月にQualcommが発表したSnapdragon 8 Gen 1はCortex-X2(1)+A710(3)+A510(4)という構成になっており、年末に発表が予想される「Snapdragon 8 Gen 2」ではCortex-X3(1)/A715(3)+A510(4)などの構成が考えられる。

 また、PC向けに高性能製品を構成するのであれば、12コア全部をCortex-X3にするなども可能だろうし、電力効率のことを考えてCortex-X3(8)+Cortex-A715(4)など形で12コアにすることも可能だ。Cortex-X3はかなりPCの利用ユースを意識した製品だとArmは説明しており、そうした製品が、今のところ唯一のArm版WindowsのSoCプロバイダであるQualcommから発表されることに期待したいところだ。

ハードウェアレイトレーシングに対応したImmortalis-G715、xRアプリケーションにも対応

Armのオンライン会見ではジョン・ロメオ氏がアバターで登場

 今回Armが行なったオンライン会見の冒頭では、DoomやQuakeなどのPCゲーム向けのタイトル開発で知られるid Softwareの共同創始者 ジョン・ロメオ氏がVRのアバターでゲストとして登場し、モバイル市場におけるVR/ARが今後のスマートフォンのキラーコンテンツになるだろうということを、Armのポール・ウイリアムソン氏と議論した。

 そうした「振り」を入れたのも、今回のもう1つの発表の目玉が、VR/ARの実現に必要なGPUの新しいブランドであるからだ。

新しいブランド名はImmortalis

 今回Armが発表したのは新しいフラッグシップ向けGPUのブランド名で、それがImmortalisとなる。最初の製品がImmortalis-G715で、ArmのGPUとしては初めてハードウェアレイトレーシングを搭載していることが大きな特徴になる。それにより、従来のスマートフォン向けGPUでは実現できなかったようなレイトレーシングの効果をゲーム内で利用できるようになる。

 また、下位グレードのGPUコア数が7~9であるのに対して、Immortalis-G715は10以上となっており、GPUの演算器が下位グレードの製品に比べて増やされていることが特徴になる。ただし、基本的なアーキテクチャMaliと共通で、基本的にMaliの上位グレードのブランドがImmortalisになると理解しておくと良いだろう。

発表された3製品、Immortalis-G715、Mali-G715、Mali-G615

 Armは昨年発表したMali-G710で既にソフトウェアベースのレイトレーシングに対応しており、Mali-G710を搭載したMediaTekのDimensity 9000などでサポートされている。しかし、今回ハードウェアレイトレーシングエンジンを搭載したことで性能が大きく向上し、レイトレーシングに対応した3Dゲーム、AR/VRなどのxRアプリケーションなどでよりリアルなシーンをGPUに負荷をかけることなく実現することが可能になる。なお、対応APIはVulkanだと説明している。

 同社がプレミアム向けと呼んでいるMaliに関しては2製品が発表された。それがMali-G715、Mali-G615がそれで、両者の最大の違いはコア数でMali-G715が7~9コア、Mali-G615は6コア以下となる。

性能向上率
マシンラーニングの処理能力は2倍に

 新しいGPUは、FMA(Fused Multiply-Add)演算器が昨年モデルに比べて2倍になっており、それにより行列演算時の性能が高まっている。新しく追加されたMatrix Multiply命令などを利用することで、マシンラーニング時の演算性能が2倍になり、電力効率が高まるという。

 なお、今回の新しいGPUの発表に合わせて、Unityとの協業も発表されている。UnityのゲームエンジンをImmortalisおよびMaliに最適化を行なうことで、Android向けゲームやxRアプリにUnityのゲームエンジンを利用している開発者がより性能を引き上げることが可能になる。

 なお、Armによれば、GPUのドライバーに関してはAndroid OSがターゲットになっており、Arm版Windows向けに関してはこの世代に関しては今の所予定がないということだった。

TCS23向けのCPUはHunter、TCS24向けはChabertonと進化していくロードマップを公開

Armのロードマップ

 既に述べたとおり、Armは今後、CPU、GPU、そして周辺部分のIPをプラットフォームとしてひとまとめにして提供していく方針(もちろんそれぞれ単体での利用も可能)で、今年から「Total Compute Solutions 20xx」ないしはTCSxxの形で年次を入れたプラットフォーム名を冠して提供していく。今年はTCS22で、来年はTCS23、再来年はTCS24といった形だ。

表1 Armの製品ロードマップ(Armの資料より筆者作成)
TCS21TCS21TCS22TCS24
XシリーズCPUCortex-X2Cortex-X3CXC23CXC24
CPU(big)Cortex-A710Cortex-A715HunterChaberton
CPU(LITTLE)Cortex-A510Cortex-A510HayesHayes
DSUDSU-110DSU-110HaydenHayden
GPUMali-G710Immortalis-G715TitanKrake

 それに合わせてTCS23、TCS24のロードマップを公開し、CPUが23用の設計の開発コードネームが「Hunter」、24年用がChaberton(チャバートン)、GPUは23年用が「Titan」、24年用が「Krake」(クラーケ)などであると説明された。

 TCS22のIPライセンスは既に顧客に対してのライセンス供与が開始されており、搭載製品は2023年の初頭に市場に登場する見通し。こうしたArmのCPUデザインを搭載した製品はQualcommが12月に行なっている新製品発表会で発表され、GPUに関してはMediaTekがMWCのタイミングあたりで発表する新製品で採用されるのが通例になっており、TCS22の製品に関してもそんなスケジュールで発表され、2023年の前半に登場するスマートフォンなどに採用されていく可能性が高い。