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Arm、性能/電力効率を3割強化した「Cortex-X2」。PCもターゲットに

2022年に登場するデバイスに搭載されるCortex-X2(1コア)+Cortex-A710(3コア)のbig側CPUクラスタとCortex-A510(4コア)のLITTLE側CPUクラスタ。L3キャッシュは8MBのDSU-110をコントローラとして内蔵している。この構造で2021年の製品に比べてピーク性能と電力効率が30%向上しているほか、LITTLE側の性能も35%向上している(出典:The Future of Purpose-Built Compute and Specialized Processing、Arm 上席副社長 兼 クライアントラインビジネス事業本部長 ポール・ウィリアムソン)

 英Armは25日(現地時間)、顧客半導体メーカーに提供している最新CPU/GPU/インターコネクトの新IPデザインを発表。今回発表されたのは、CPUが「Cortex-X2」および「Cortex-A710」、そしてbig.LITTLEで高効率側のCPUとなる「Cortex-A510」の3つのIPデザインだ。

 従来はCortex-A78、Cortex-A55など2桁のブランド名がつけられていたのに対して、この世代では3桁のブランド名になったほか、新しく先日Armが発表したばかりの新命令セットアーキテクチャ「Armv9」に対応している。

 GPUはMali-G710、Mali-G510、Mali-G310の3製品で、同時にSoC内部でCPU、GPUやメモリコントローラなどを接続するための内部インターコネクト(CoreLinkシリーズ)も発表されている。

 Armによれば、これらのIPデザインのライセンスは既に顧客となる半導体メーカーに提供が開始されており、今年の末までに搭載する製品が顧客の半導体メーカーに採用される計画で、来年の初頭から実際の製品が登場する見通しだ。

big側だけでなくLITTLE側も更新されたCortex CPU

Cortex-X2、Cortex-A710、Cortex-A510という3つのCPU IPデザインを発表(出典:The Future of Purpose-Built Compute and Specialized Processing、Arm 上席副社長 兼 クライアントラインビジネス事業本部長 ポール・ウィリアムソン)

 今回Armが発表した新しいIPライセンスは、そのブランド名の仕組みが従来のアルファベット+2桁数字からアルファベット+3桁数字に変更されている。CPUであればCortex-A78のように、クライアントコンピューティング(スマートフォンやPC)向けを意味する「A」の頭文字+2桁数字でブランド名は表現されていたが、今回の世代ではCPUのCortex-A710のように、引き続きクライアントコンピューティングを意味する「A」の頭文字+3桁数字に変更されている。

 GPUとなるMaliシリーズも同様で、従来はMali-G78のようにグラフィックスを意味するG+2桁数字だったものが、Mali-G710のようにグラフィックスを意味するG+3桁数字に変更されている。

 CPUのIPデザインは3つの製品がある。それがCortex-X2、Cortex-A710、Cortex-A510だ。このうち、Cortex-X2はCortex-X1の後継で性能強化版コア、Cortex-A710はCortex-A78の後継でbig.LITTLEで高性能(big)側に位置づけられるCPUコア、Cortex-A510は、Cortex-A55の後継でbig.LITTLEで高効率(LITTLE)側に位置づけられるCPUコアという製品になる。

 CPUのLITTLE側が新しいコアになるのは、2017年にCortex-A55が発表されて以来。Armによれば、Cortex-A510は同じプロセスルール世代で製造されるCortex-A55に比べて性能は35%向上し、電力効率は20%、マシンラーニング(機械学習)の性能は約3倍に向上している。

 Cortex-X2は昨年(2020年)発表されたCortex-X1と同じように、Cortex-Aの高性能(big)側コアの強化版と位置づけられる製品だ。今年のラインアップで言えばCortex-A710の性能強化版がCortex-X2という扱いになる。アーキテクチャなどは共通点も多いが、キャッシュが増やされたり、動作周波数が引き上げられるなどして性能が強化されている。同じプロセスルールで製造されるCortex-X1と比較すると、性能は16%、マシンラーニングの性能は約倍になっている。また、シングルスレッド時の性能が大きく強化されておりCortex-X1に比べて40%も向上している。

Cortex-X2はシングルスレッド時の性能が40%向上している(出典:The Future of Purpose-Built Compute and Specialized Processing、Arm 上席副社長 兼 クライアントラインビジネス事業本部長 ポール・ウィリアムソン)

 Cortex-A710は、同じ性能プロセスルールで製造されるCortex-A78に比較して性能は10%向上し、電力効率は30%向上している。マシンラーニングの性能はこちらも約倍になっている。

 いずれのCPUも、先日Armが発表した新しい命令セットとなるArmv9に対応している。このため、SVE(Scalable Vector Extension)2という、SIMD系の新しい命令セットに対応しており、それがマシンラーニングの性能を大きく引き上げる要因になっている。

 また、こうしたCPUを制御するDSU(DynamIQ Share Unit)もDSU-110という最新版に更新される。このDSU-110では従来製品の倍となる8MBのL3キャッシュをサポートしているほか、最大で8つのCortex-X2というCPU構成が可能になっており、従来のCortex系Armプロセッサと比較して性能が大きく引き上げることが可能になる。

 Armによれば、Cortex-X2(1コア)+Cortex-A710(3コア)というbigと、Cortex-A510(4コア)というLITTLEのCPUは、Cortex-X1(1コア)+Cortex-A78(3コア)というbigとCortex-A55(4コア)というLITTLEの構成になっている現行のCPUに比べて、ピーク性能で30%、電力効率で30%、LITTLE側の性能は35%優れていると説明している。

 なお、Armでは2023年にはCPUがbig側も、LITTLE側も64bitのみになると予告しており、世界中のAndroidアプリケーション開発者などに対して今年の末までには64bit化を実現するように呼びかけている。

実行エンジンなどが強化されたMali-G710 GPU

Mali-G710など新しいGPU。いずれもValhallアーキテクチャの延長線上にある製品(出典:The Future of Purpose-Built Compute and Specialized Processing、Arm 上席副社長 兼 クライアントラインビジネス事業本部長 ポール・ウィリアムソン)

 また、ArmはGPUのIPデザインとなるMaliシリーズに関しても新製品を投入した。従来のハイエンドとなるMali-G78の後継として投入されるのがMali-G710で、今回はその廉価版としてMali-G610、Mali-G510、Mali-G310という3製品も投入される。

 Mali-G610はMali-G710と機能は完全に同じだがやや低価格向けとされており、シェーダコアなどの演算器がMali-G710からやや減らされた製品となりそうだ。

 ハイエンドのMali-G710は、従来製品となるMali-G78と同じValhallアーキテクチャになっているが、従来世代に比べてシェーダコアあたりのコンピュートユニットが倍になっているほか、テクスチャユニットのスループットも倍になるなどの特徴を備えている。また、Job Managerと呼ばれる一種のスケジューラも強化しており、新しいCommandと呼ばれる電源管理ユニットを搭載することで電力効率も大きく改善されているという。これらの改良により、性能は20%向上し、消費電力は20%削減され、マシンラーニングで35%の性能向上が実現されている。

 Mali-G510はミッドレンジのスマートフォンなどをターゲットにしたもので、従来製品と比較して性能は倍になり、消費電力は22%削減されている。Mali-G310はエントリー向けのスマートフォンなどをターゲットにしたもので、従来製品に比べてテクスチャ性能が6倍、Vulkan APIを利用した場合の性能が2.5倍になるなどの性能強化を実現している。

CoreLink CI-700とCoreLink NI-700(出典:The Future of Purpose-Built Compute and Specialized Processing、Arm 上席副社長 兼 クライアントラインビジネス事業本部長 ポール・ウィリアムソン)

 また、CPU、GPU、NPUなどを接続するインターコネクトのIPデザインも新製品を投入する。それがCoreLink CI-700とCoreLink NI-700で前者がArmv9で新たに追加された機能となるMTE(Memory Tagging Extensions)に対応しているなどコンピューティング向け、後者がネットワーク機器向けに最適化されたものとなる。

Qualcommのスマホ/PC向け製品に採用か

考えられる構成、CPUやGPUがスケーラブルな設計になっていることで、PC向けやスマートフォン向け、組み込み機器向けなどさまざまな機器に応用できる(出典:The Future of Purpose-Built Compute and Specialized Processing、Arm 上席副社長 兼 クライアントラインビジネス事業本部長 ポール・ウィリアムソン)

 Armによれば今回発表されたIPデザインは、既に同社の顧客になる半導体メーカーにライセンス提供が開始されており、今年の末までには顧客となる半導体メーカーから搭載製品が発表され、来年の初頭には搭載製品が登場する見通しとなっている。

GPU性能が強化されることで、ゲーミング用途にも最適とArmはアピール(出典:The Future of Purpose-Built Compute and Specialized Processing、Arm 上席副社長 兼 クライアントラインビジネス事業本部長 ポール・ウィリアムソン)
昨年発表したNPUなどと組み合わせるとさらにマシンラーニング時の性能を引き上げることができる(出典:The Future of Purpose-Built Compute and Specialized Processing、Arm 上席副社長 兼 クライアントラインビジネス事業本部長 ポール・ウィリアムソン)

 これまでのArmの最上位製品だったCortex-X1とCortex-A78は、例えばQualcommが昨年末に発表し、今年の第1四半期から販売が始まっているAndroidスマートフォンに採用されているSnapdragon 888に採用されている。Snapdragon 888のCPUであるKryo 680ではCPUはCortex-X1(1コア)+Cortex-A78(3コア)でbig側の高性能CPUクラスタが構成されている(LITTLE側の高効率クラスタはCortex-A55)。したがって、Snapdragon 888の次世代製品はCortex-X2(1コア)+Cortex-A710(3コア)がbig側の高性能CPUクラスタで、LITTLE側がCortex-A510の4コアとなる可能性が高いと言える。

 例年、Armの新CPUを最初に採用するのはQualcommになっており、年末に発表され、年明けに実際に登場した製品が出回るというスケジュールになっていることを考えると、Armがいう今年の末までに搭載製品が登場するというのは、そうしたQualcommのSnapdragon 888の次世代製品である可能性は高い

 ただ、今回ArmはCortex-X2とCortex-A710を説明する中で、やたらとPCでの可能性を訴求していた。となると、そうしたスマートフォン向けのSnapdragon 888の後継に搭載されるだけでなく、Qualcommが2018年12月に発表して以来ほとんど更新されていないPC向けSnapdragonの新製品が登場する可能性が高いのではないだろうか。

 QualcommのPC向けハイエンド製品であるSnapdragon 8cxとそれをベースにMicrosoftブランドで提供されているSQ1は2018年12月にリリースされてから、実のところ2年半新しいアーキテクチャの製品は投入されていない。昨年にその高クロック版となるSnapdragon 8cx Gen 2とSQ2は投入されたが、CPUのアーキテクチャなどはCortex-A76と、Cortex-X2/A710が発表された今となっては3世代前のアーキテクチャのまま据え置かれているのだ。

 ArmアーキテクチャのSoCと言えば昨年AppleがM1を投入し、その性能では大きな話題を呼んだし、x86プロセッサもIntelの第11世代Core(Tiger Lake)やAMDのRyzen 5000シリーズ(Cezanne)など強力な製品が投入されており、Snapdragon 8cx/8cx Gen 2やそれがベースになっているMicrosoft SQ1/SQ2はCPUが3世代も前のアーキテクチャベースになっているので、その性能で見劣りするような状況になってしまっていることは否定できない。

 したがって、今年の末に今回Armが発表したCortex-X2コア多数搭載した製品(既に述べたとおりスペック上は最大8コアまで搭載可能)がSnapdragon 8cxシリーズの後継として投入されるということは十分に考えられるストーリーだと言えるし、例年通り今年の末にあると予想されるQualcommも翌年製品発表において、そうした製品発表が行なわれることに期待したいところだ。