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「はやぶさ2」サンプル帰還から1年。JAXAが初期分析状況と探査機の状況を紹介
2021年12月6日 17:40
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2021年12月6日、オンラインで記者会見を開き、「はやぶさ2」が1年前に持ち帰った試料のキュレーションや初期分析状況について解説を行った。サンプルは2021年6月に分析チームへ分配され、その後分析は予定どおり進んでおり、来年春頃には詳細な結果が報告される予定だという。
「はやぶさ2」は、「はやぶさ」後継機として小惑星サンプルリターンを行う小惑星探査機。「はやぶさ」が探査した小惑星イトカワ(S型)とは別の種類の小惑星(C型)を探査することで、地球の水の起源や、生命の原材料である有機物の由来を探求することが目的だ。目標天体だった小惑星リュウグウ (162173)もC型小惑星であり、太陽系が生まれた約46億年前の水や有機物が、今でも残されていると考えられているため選ばれた。
「はやぶさ2」は2018年6月27日にリュウグウに到着、翌2019年に2回のタッチダウンを実行して無事にサンプル回収に成功した。そして約1年前の2020年12月6日、「はやぶさ2」の再突入カプセルがオートストラリアで回収された。カプセル内部には想定以上のサンプルがあった。現在、サンプルのキュレーションや初期分析が進められている。
なお、「はやぶさ2」探査機自体は、イオンエンジンの燃料が半分以上残っていたことから、拡張ミッションへと移行。小惑星1998 KY26に向かっている。途中で技術実証などを行い、小惑星1998 KY26への到着は2031年の予定。
はやぶさ2はまだまだ元気
会見では、まずJAXA 宇宙科学研究所はやぶさ2プロジェクトチーム プロジェクトマネージャの津田雄一氏が、地球帰還1周年を迎えてコメントを述べた。津田氏は「あっというまに1年が経った。一年前のことを思い出すと涙が出てくる。回収後はお祝いの嵐だった。一般の方、子供達からの祝福はとても嬉しく、日本の宇宙科学が輝いた日だった」と述べた。
そして「はやぶさ2はまだまだ元気で、次の目的地に順調に宇宙飛行を続けている。サンプル分析も順調で、とても面白い成果が出てきそう。研究者たちと話すと、みなからワクワク感が伝わってくる。まだ全容をお披露目できる状況ではないが、最新状況をお伝えしたい」と述べた。
なお研究チームも新型コロナウイルス禍による影響を受けており、チーム全員が集まってのお祝いも、まだできていないそうだ。
試料の状況とNASAへの分配
キュレーションの活動状況と今後の予定についてはJAXA 宇宙科学研究所はやぶさ2プロジェクトチーム 統合サイエンスチームメンバーの臼井寛裕氏が述べた。
回収されたリュウグウサンプルの総量は約5.4g。内訳は2019年2月のタッチダウン1回目のA室3.2g、7月の2回目に使われたC室が2.0g、B室が0.1g以下、そのほかが0.2g。6月には初期分析に0.3g、全体を把握するフェイズ1、より高度な記載等を行うフェイズ2用として0.2gが分配され、計画どおりに進んでいる。以上が半年前の状況となる。
最新の状況はどうなっているのか。試料の10%はNASA-JAXA機関間合意に基づき、NASAに分配される。NASAには約0.5g(A室・C室それぞれから0.25gずつ。粒子・粉体を2:3で含む)が分配されている。機関間合意では、帰還後1年で分配される試料は、回収試料を代表しており、その状態が保存されている(初期記載時に大気に触れておらず、X線や紫外線、電子線など各種観察機材によるダメージや環境からの汚染がない、承認された手順・器具を用いている)こととされている。
配分試料が決まったあと、試料は臼井氏自身の手荷物として飛行機で運ばれた。米国中部標準時11月30日、JAXAからジョンソン宇宙センターへの移送が完了。NASAクリーンルーム内において、JAXAとNASA両者立会いのもと、コンテナからの取り出しと顕微鏡を使った内容物の確認、そしてジョンソン宇宙センターにて確認式が行なわれた。
試料詳細は世界中の誰もが見られるカタログとして公開予定
今後はどうするのか。2022年夏(6月頃)には、国際公募により研究提案が募集されサンプルが分配される。それに向け、1月中旬にサンプルカタログが一般公開される予定だ。全世界誰でも見られるかたちで公開されるという。研究提案は世界中の誰からの提案も受け、フェアに審査を行い、評価をもとに研究提案と分配試料を決定し、国際メンバーからなる委員による承認を受けたあと、分配する。
カタログには写真のほか重さや吸収分光データ、詳細な生データなどが掲載される。これらを研究者以外も見られるようにする。研究者ならば研究プランを考えることができる。「チームメンバーだけでは考えられなかった面白い研究提案を期待している」という。
どういう分析をしているのか想像しながら見てほしい
また、2021年12月からサンプルの一般公開も順次開始されている。日本科学未来館では12月4~13日、相模原市立博物館では12月6~12日、長径2mm程度のサンプルが展示されている。アウトリーチ用に貸与されているサンプルはそれぞれ違うもので、一般公開用として選定された4粒が公開されている。粉末ではなく、肉眼で観察できる大きな粒子を、A室、C室からそれぞれ選択した。
臼井氏自身は「黒さ(アルベドの低さ)」に改めて驚いたそうで、そこを見てもらいたいと語った。黒い理由は、まだキュレーショングループではわかっていないとのことで「何に由来する黒さなのかを想像しながら見てほしい」と語った。
なおフェーズ1で見えている範囲では、少なくともリュウグウの試料はリモートセンシング段階で見られていたような水(含水鉱物内の水酸基)の特徴と、同定はされていないが水と岩石が反応してできる炭酸塩や有機物を示すような特徴が分光学的に見えているという。どんな含水鉱物なのか、どんな有機物があるのかについては、今後詳細に調べる。
通常、隕石は地球大気圏に突入するときに高熱で表面が炙られて変性してしまう。そのあとも氷漬けになっていたり、長年放置された状態で発見されるので、研究のためには、それらの影響を除去しなければならない。それに比べると「はやぶさ2」によって回収されたサンプルは「生」なので、「生の情報が得られるというのは質的に変わる」成果が得られる可能性が高いという。
津田氏は「2mmの粒子が2つなので、それだけ見ると小さいもの。だがこれを取るためにどれだけの労力がかかったか、どれだけの科学者が見たいと思っていたのか、想像しながら見て欲しい。はやぶさ(1号機)のサンプルの分析もまだ終わっていない。一般の方は『これで大量か』と思うだろうが科学者たちからは『大量で困っている』という声が上がっている。『これがたくさんの量とはどういう分析をしているのか』と思いながら見てくれると面白いと思う」と語った。
チームでは「できるだけ、たくさんの人に見てもらいたい」と考えているそうだが、今後、どこで公開するかは決まっていない。
「はやぶさ2」は地球から約1億km離れたところを順調に飛行中
探査機運用の状況については、JAXA 宇宙科学研究所はやぶさ2プロジェクトチーム ミッションマネージャの吉川真氏が紹介した。2020年12月6日にサンプルが回収されたが「はやぶさ2」本体は地球から離れ、新たな旅に出ている。それから1年間の運用が行なわれており、順調に飛行している。
運用期間は2,560日。打ち上げからの総飛行距離は約62億4,600万km。地球と探査機間の距離はちょうど約1億km。太陽と探査機の距離は0.87au(1auは地球と太陽間の平均距離に由来する単位)。対太陽速度は約32.8km/s。イオンエンジンによる加速も順調で、加速量は約470m/s。現在、サイエンスとしては黄道光観測を行なっている。これまでに会見日に実施された観測も含めて、7回の観測を行なった。
イオンエンジンについては津田マネージャが解説した。イオンエンジンは全く故障もなく稼働しており、安定して運用を行なっている。いま現在は新しい目標天体に向かうべく軌道変更をしており、いまもイオンエンジンを使って軌道を乗り換える作業を継続している。2021年10月23日には「はやぶさ」の力積0.9474MN・s(メガニュートン秒)を上回る0.968MN・sを達成。はやぶさを超える稼働実績となり、現在、日々、未踏領域をテストしていることになる。津田氏は「拡張ミッションでは長期航行にまつわる性能変化を見ていこうとしていたので、ここからが見ていきたかったところになる」と語った。
「はやぶさ2」のイオンエンジンはいま、ずっと1台運転を行なっている。これは性能の変化(劣化)が見え始めているからだという。具体的にはマイクロ波を発生させるための電流や温度のバランスが変わってきており、データを見ながらどういう運転をすれば長生きさせられるか、運転の仕方を変えているとのことだった。現時点では劣化といっても性能変化が見えはじめており予定どおりだが、今後、慎重に調子を見極めながら運用を続けていく。
会見の最後、津田氏は「もう1年経った。思いがこみあげてくる。こんなにゆったりとした年末を過ごすのは久しぶりで、その意味でも達成感がある。これからもミッションは続く。はやぶさ2で獲得した成果を反映していきたい。はやぶさ2は新たなプロジェクトに引き継がれるが、プロジェクトそのものは本体は今年度いっぱいで締めるので、それまでにいい成果が出ることを期待している」と語った。