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次の「動くガンダム」は?ガンダムファクトリーヨコハマが次世代に伝える新しい夢

 ロボットの国際大会「World Robot Summit 2020(WRS2020)愛知大会」が2021年9月9日(木)〜12日(日)の4日間の日程で、Aichi Sky Expo(愛知県国際展示場)にて行なわれた。主催は経済産業省、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)。もともと2020年開催が予定されていたが、コロナ禍によって1年延期となっていた。

 「Robotics for Happiness」をテーマにしたWRSは、競技会、展示会、セミナーで構成されているが、今回は全て無観客・オンラインでの開催となり、セミナーもオンライン配信された。9月11日にはステージプログラム「未来のエンジニアに向けて〜ガンダムファクトリーヨコハマの取り組み〜」と題した、横浜の動くガンダムに関するトークセッションが行なわれ、ガンダムの監督の富野由悠季氏ほか、一般社団法人GUNDAM GLOBAL CHALLENGEの関係者らがトークを行なった。レポートする。

本当は「ジャンプ」させたかった

株式会社サンライズ 常務取締役 佐々木新氏

 「ガンダム GLOBAL CHALLENGE」は横浜・山下埠頭で実施されているプロジェクト。2020年12月から開催されている。「動くガンダム」のねらいについて、株式会社サンライズ 常務取締役の佐々木新氏は、2009年にお台場に1/1スケールのガンダム立像を出したことを改めて紹介。2014年から動く1/1ガンダムを目指す「GUNDAM GLOBAL CHALLENGE(GGC)」がスタートしたと振り返った。

一般社団法人GUNDAM GLOBAL CHALLENGE GGCリーダー 富野由悠季氏

 富野由悠季氏は最初に動くガンダムの企画を聞いたとき「僕はバカな人間で、地球上でガンダムを動かすことをアニメでやってしまった。自立する、一回くらいジャンプすることはできるんじゃないかと思っていた」と話を始めた。

 そして「今はなんてバカなことと思うんだけど、動くガンダムを1/1でやるという発想をした当時、学生たちによる二足歩行ロボットコンテストが盛況だったので、1/1でも自立型ができるんじゃないかと、かすかに思った。建設重機の技術を応用すれば立たせることはできるだろうし、5、6歩歩かせることもできるんじゃないかと思った」という。

 「アニメではジャンプをさせたので1回くらいジャンプさせたかった。そしたら横に座っているこの人たち(石井啓範氏や橋本周司氏)からダメと言われた。なんでダメなのというところから始まった」と続けた。そして「ダメだとわかったのはクレーンのアームを動かすだけでも大型の足場が必要であることを考えたとき。そうですよね、と納得した」「だったらやめたらとも思ったが、いいと思うまで6年間かかった」と笑いながら話を続けた。

 現在の技術では残念ながら18mの人型ロボットをダイナミックに動かすことはできない。だが富野氏にとっては、1/1立像の首が動いただけ、スモークを出すだけでも観客が大喜びした様子が大発見だったという。「あれだけでも動くものとして面白いんだ」という安心感を得たと述べ、「それが1/1体験だった」と語った。

 サンライズ佐々木氏は1/1のガンダム立像を見に車椅子のおばあさんがいらしたときのエピソードを紹介。おそらく「ガンダム」というもの自体を初めて見ただろうそのお婆さんも、1/1立像を見て感動していた様子を見て、「このインパクトはすごい」と思ったという。実際に、1/1立像は首を回して目を光らせるだけでも声援が上がった。それを見て富野監督から「屈伸させろ!」と言われたことを覚えており、それをいかにして現実のかたちにするかが最初の目標だったことを思い出したと語った。

「このバカバカしい話は良いんじゃないか」

GGCリーダー、早稲田大学名誉教授 橋本周司氏

 GGCリーダーで早稲田大学名誉教授の橋本周司氏は技術監修として携わっている。はじめに「動かしたいんだ、どうでしょう」というこの話を聞いたときに「いろんなことは考えられる」と答えたという。「ガンダムが動く」というと普通は歩行すると思う。だから「やりようはありますよ」と答えたそうだ。たとえば胴体は風船にしてしまえば動かすことは容易だ。しかし、それは面白くない。いわば「大きなCGを作ってるようなもの」で、そんなことをするよりは「動きは限定せざるを得ないけど、金属で、本道で作っていきたいと考えた」と振り返った。

 また橋本氏は大学で教えていて「世の中どうも元気がない」と感じていたと述べた。「100年前には夢だったものがどんどん実現し、夢と現実が近づいた。中には突き抜けちゃってるものもある。それが元気がない原因だと思っていた。これからはいかに新しい夢を見るか。このバカバカしい話は良いんじゃないかと思った。今の技術でできるところまでしかできないんだけど、やってみたらどうです、やりましょうといった覚えがあります」という。

 そして橋本氏は実際に「動くガンダム」を作るためには、「ロボットを作る」のではなく「建物」のようなものを作るつもりでやらないとダメで、チームをどうやって編成するか、それがちゃんとできるかどうかが大きな課題だと思っていたと続けた。

「動くガンダム」は異分野の様々な技術の集合体

GGCテクニカルディレクター 石井啓範氏

 では、実際に「動くガンダム」を設計したGGCテクニカルディレクターの石井啓範氏は何をどう考えたのか。石井氏はコンセプトから説明した。究極の目標は自立で動くロボットだが、一足飛びにそこまではいけないのは明らか。そこでまずは18mの実物大ガンダムを動かすことと、「ガンダムらしい動き」の再現に絞った。

 現時点では2022年3月までとなっている長期間の展示を横浜の屋外で行うという点も重要であり、それ自体が大きな技術チャレンジとなる。そこで様々なテクニカルパートナーに声をかけた。もちろん絶対に転倒しない安全性も重要だ。もともとアニメの存在である「ガンダム」のデザインと可動の両立も難題である。動くものができても全くガンダムらしくなかったら無意味だ。

動くガンダムのコンセプト

 開発したものはガンダム本体を「Gキャリア」という台車で支え、背後にメンテナンスデッキで配置したものとなった。様々な分野の技術が集まっていて、メンテナンスデッキの「Gドック」は建造物、25tあるガンダムを上下前後に動かせるGキャリアは重機の技術が使われている。ガンダム本体のフレームは建設機械のような技術が主に使われているが、関節には産業用ロボットのサーボモーターや減速機が使われており、角度分解能は0.02度以内と高精度に動かせる。表情のないガンダムのなかで表現ができるハンドにはエンタメロボットの技術が使われている。全体のデザインは基本的にはガンダム立像から継承されている。

全体概要。分野の違う様々な技術を集めた

 石井氏はさらに詳細を解説した。モデルは「RX-78ガンダム」がベース。鋼鉄製フレームで、カーボン樹脂の外装がついている。関節は指を除くと24自由度。アクチュエータは全て電動。安全性を重視しており腰部はGキャリアにつながっている。コックピット部には空間があるが、動作時には人は乗らず、近くに配置されている遠隔制御室から動作を指示している。

ガンダム本体。アクチュエータは電動

 Gキャリアは転倒安定性を確保するための台車で、前後8m、トロリーと呼ばれる接続部が上下4m動作する。全体の重量は台車単体で140tある。

ガンダムを動かす「Gキャリア」概要

 Gドックは多段式保守デッキ。6F建てでメンテナンスのときにコックピットに乗り込むことも可能。ガンダムを格納できるよにフロア形状もガンダムに合わせてそれぞれ違うものになっている。また観覧用のドックタワーが併設されていて、追加料金を払うことでガンダムをすぐ横、または上から見ることができる。

ガンダムを保守する「Gドック」概要

「僕みたいなメカ好きはみんなバカなので見に行きます」

トークの様子

 サンライズの佐々木氏は観覧デッキについて「ガンダムを高いところから見たい」と考えてドックにつけたと語った。そして「横浜の都会的風景、そしてガンダムの顔越しで海が見える写真が撮れる」とアピールした。

 富野氏は「一般の方にあの高さを見てもらいたい」強く考えたという。「立っているんで、コックピットの高さが尋常じゃない。メカ好きはその高さを見たいわけです。その高さで機体がどう見えるのか、肩や腰の動きを見たくなる。下から仰ぎ見てるだけで喜べというのは酷。本当はメンテナンス用のところからメカ好きは見たい。とんでもない料金をふんだくって見せてるわけだけど、僕みたいなメカ好きはみんなバカなので見に行きます」(富野氏)。

 富野氏は、メンテナンスドックが後ろにあるということ自体は、実は嫌いだそうだ。だが「どうしてもあの高さで見ないわけにはいかない。そういう衝動がある。それと、後ろにあんなものがあってはいけないというのは別の話」とのことだった。

どうしてもあの高さからのガンダムを多くの人に見せたかったという富野由悠季氏

18mのものを動かす課題

多くの技術課題があった

 「動くガンダム」の課題は様々だったが、一番の問題は何をさせるかということと、技術課題としてはやはり大きさである。演出については上下の動き、前後の動き、そして意匠(デザイン)との両立は決まった。いっぽう大きさの問題については、身長が人体の10倍ということは断面積で100倍、重さは1,000倍になる。必要なエネルギーも莫大だし、リクスも大きい。

 フレーム構造については、ガンダムは設定上はモノコックだったが、今回はフレーム構造となっている。自由度、すなわちどこをどれだけ動かすのか、荷重条件、非常停止で動きを止めたとき具体的にどう止めていくのか、また台風であれば 1平方mあたり200kgの力を想定する必要があるが、それを受けられるのか、安全のための評価基準はどうするのか、構造材の材質はどうするのか。最終的にはアクチュエータは全て電動にしたが当初は油圧も検討したという。電動にしても、モーターかシリンダかといった選択肢もある。

 また、保守と組み立ても重要だ。毎日動かすメカであり、日々メンテナンスしないといけない。18mの物体をどう動かすか、テストするか。石井氏らはコストと開発期間も考えて検討していったと6年間を振り返った。

『ガンダム』だからできたプロジェクト

「ガンダム」だから様々な関係者の力を結集できたと語る橋本周司氏

 橋本氏は石井氏の話を「今のような課題がたくさんあった」と受け、研究室でのロボット作りとは全く違うと続けた。「研究室ではロボットを作ってビデオを撮ったらおしまい。だがこれは1年以上動かす必要がある。また研究室のロボットは、基本的には作る人が自分のために作ってる。これは不特定多数の人に見てもらうために作るもの。建築、機械、システムのソフトウェア、見てもらうための演出もある。まとめあげていくのは本当に大変なこと。石井さんは本当によくやったと褒めたい」と改めて石井氏をねぎらった。

 そして「もう1つは、いろんなメーカーの人も担当していたが、つくづく思ったのは、こういうどデカイバカバカしいものを作るということは、ただそれだけではできなかったと思う。これは『ガンダム』だからできた。ほとんど全員みんながガンダムが好きだった。そういう好きが溢れる会合が何度もあった。見ているだけでも嬉しかった」と語った。なお石井氏はそれまで勤務していた会社を退職して、このプロジェクト専任になっている。

「ガンダム以上のものをお前ら作ってみせろよ」

「ガンダム以上のものをお前ら作ってみせろよ」と檄を飛ばす富野由悠季氏

 富野氏は「ジャンプくらいさせろよという思いがあったが個々の技術者の担当部署がやっているところを見せられた。関節ギア1つとっても重さがある。先ほどの話のように、立体にした瞬間に質量は人体の1,000倍になる。重さを持ったものが、地べたに並ぶのではなく立つ。積み上げたときにこの1,000倍という荷重がかかってくることを考えたときに、機械ものを作ることがどんなに無謀なものかを教えてもらった。モーター1つとっても、違うメーカーのものを集合させて1つの働きをさせていくことが、プランで考えるほど簡単ではない」と語った。

 そして「橋本先生が言ったように自分のために作ってるわけじゃない。いろんな人に見せる公共に対して発表していく、体をさらしていくものをつくる意味性がある。工学以外の要素がいっぱい入ってくる」と続けた。「ガンダムは一人のパイロットが乗るもの。具体的にここまでの形にしてもらったときに、納得するものが2つあった」という。「モビルスーツは宇宙で使う戦闘機みたいなものだから一人のパイロットが一週間くらい乗ってないといけないかもしれないと思った。だから18mのサイズにした。つまり空気や食料まで全部積み込んでいるボリュームを考えると最低でもこのくらいの大きさが必要だったなと考えた。だから適切だったなと思った」という。

 同時に「これにお客さんを乗せる、公共の乗り物にするとしたら簡単に作れるものじゃない。このスケールでは小さすぎるということもわかるようになった。これはガンダムの話だけではない。以後、このようなメカを作りたい、開発したいと思っている人は、一人の人間が乗るものなのか、みんなが使うものなのか、用途によって機械というものの提供の仕方が違うんだよということを学習してもらうと有難い。そして我々年寄りに素敵な夢を見せてほしい。『ガンダム以上のものをお前ら作ってみせろよ』という気合いをかけるものにもなっていると思います。みんなに見てもらうものを作った、つまり研究室だけのものではない。いろんな要素を我々は手に入れることもできたし学ばせてもらった。良い機会だったと思っている」と語った。

 富野氏は、コックピットには今でも人を乗せてほしいと思っているという。できればコックピットにはお客さんを乗せてほしいと考えているそうだ。だが不特定多数の人を乗せる乗り物を作るとなると、また別のハードルができてしまう。「普通の乗り物としての規制がかかってくる。それを突破するためには今のような作り方ではダメなんです。そういうことが想像できる技術者というものを、20年後の君たちにはお願いしたい。100人見てる人がいたら3人は絶対いる」と呼びかけた。

「人が乗る」巨大ロボットはできるか

ガンダムの手のひらに乗って動きを体感したいと語る橋本周司氏

 橋本氏は「乗ってみたい。ただ乗るよりは運転したい。ただ、ジェットコースターは乗ることで楽しいけど、ガンダムに乗っちゃったら、ちょっと違うかなと思う。スピードもジェットコースターのような速度が出るものではない。ガンダムに乗っちゃうと、ガンダムも見えない。だから僕が考えたのは、手の上にのせてもらって上下したいと。つまりガンダムの腕の動きを身体全体で感じられるものになったらいい。手のひらに乗せられたハムスターの気分になりたい」と語った。

 富野氏は「どの担当なのかわからないけど法規制が変わる。落ちないようになってるのか、絶対に手すりをつけろと言われる。そういうことをどうやってクリアするのか。ガンダムだから手の指をうまく手すりにしますとか、これがなかなか突破できない」と受けた。

 石井氏は「手に乗せるのは、さらにハードルが高い」と受けつつ「人が乗るとなると、そもそも考え方が変わって来るので設計自体が変わるのが現実的な話。今回はキャリアの先端にガンダムがある。いわばクレーンの先端に人を吊ることになるので発想が違ってくる」と解説。

ガンダム本体は3分割構造で腰はGキャリアに直結されている

 一方「僕もガンダムは乗ることがアイデンティティだと思っている。だから今回人は乗せないことは最初から決まっていたのでコックピットはいらなかったが『ぜひ作りましょう』と言って、作った。メンテナンスのときは実際に中に入ってメンテナンスするのに使っている。ハッチも開くので、現地で是非見てもらいたい」と紹介した。ちなみに、プレス発表のときには人がコックピットに乗りこむ演出があった。

人を乗せるなら根本から設計を変える必要があると語るGGCテクニカルディレクターの石井啓範氏

 富野氏は「コックピットの位置にあってちゃんとコックピットがあって、人が出入りしてもらわないと困る。人が出入りするところを見ることで、全体の大きさが想像できるから。デモンストレーションとして出入り口がある必要がある」と演出の立場から語った。いっぽう「ただ、乗り物になるかというと、実はもうアニメでやってる。気持ちがよくない、絶対に船酔いする。だから乗り物にはなりません。二足歩行すると、腰の高さがものすごく大きく上下運動するので、まず船酔いするでしょう」と述べた。

 こういう話も「1/1スケールをみんなが見ている前提だからできる」ようになったという。「30年前からこの話はしてるけど、誰も想像してくれなかった」そうだ。そして「ですから今後は乗るのを作ってください!」と再び呼びかけた。

ここまでのモノはできた、次の進歩を考えてほしい

もっと進歩させてほしいと語る富野由悠季氏

 今回の「動くガンダム」は、アニメのガンダムの舞台である「1年戦争」よりも未来の話で、RXタイプが発見されて起動実験をしているという演出になっている。

 一連の演出をビデオで見た富野氏は改めて「これしかできないのは嫌だ。僕たちは基本的に原作ストーリーを作った立場、妄想を提供する立場。これだけで満足してはいけないのが仕事。やっぱり空を飛びたい(笑)」とコメント。「ただ、乗り物として、こういうふうに立っているというシルエットが正しいのかどうかは、これを見てわかるとおりで、二脚方向で最適な大きさは人間の大きさ。人間以上になったときの大きさの乗り物は4輪駆動が正しい。地上から離れてしまう飛行機型の乗り物は落ちるから不適格。落ちないような乗り物をつくることも必要なんだけどこれ以上の航空機が必要なのかは疑問もある。フィクションでは3000人乗りの飛行機があってもいいんだけど、それは良いことなのかも考えたい」と語った。

 そして改めて、ガンダムは宇宙空間で一人のパイロットが1週間くらい放り出されても生き残るためには18mくらいの大きさが必要なのではないかと考えたと述べ、「工学的にものを作るとはどういうことなのか。動くものを見て、本当に面倒くさい機械なんだよなということは理解してもらいたい。でも、ここまでのモノはできた。次にもうすこしだけ良いかたちのものがあるんじゃないかと考えてもらいたいと思う。機械好きの人間としては、あと100年ぶんくらいは進歩させるという考えをしてもいいんじゃないかと思ってます。これがフィクションの側からの提言でもあります」と語った。

実物を見るのは、画面で見るのとは全く違う体験

現物があるものは現物を見るべきと語る橋本周司氏

 サンライズ佐々木氏は「施設を運営している立場なのでもう何百回も見ている。でも見るとかっこいいなと思ってしまう」という。そして「オープンしてからもう5,000回以上動いている。でも完全に動かなくなるような事故はまだ起きてない。改めて良いものをつくってもらったと思って見ています」と語った。

 橋本氏は「ほぼ完成したものを初めて見たとき、やっぱり作ってよかったと思った。いまスマホの画面やPC画面で見ているかもしれませんが、実物は違う。『来てください』と申し上げたい。いま世の中にはいろんな技術があって、スケーリングフリー。音も画面も大きさが変えられる。そういう時代にあって実際のスケールの重要さをもう一度認識した。やっぱり100号の絵はA4判の画集で見てはだめ。バイオリンの音はそのボリュームで聞く。そういうチャンスがあるんだから 是非体験してほしい」と語った。

 石井氏は「私は10年前の立像のときは観客側で見て、すごいリアリティを感じた。子供のときにアニメで見たものがそこにあることに感動した。そのときに受けた迫力、感動を一歩でも前に進めたいと考えていた。今回、僕自身がそれを感じることができたので、すごくよかったなと思う」と語った。また作り手として「佐々木さんが仰ったようにかなりの回数動いている。見るたびに『ちゃんと動いてくれるかな』と緊張しながら、音を毎回気にしている」そうだ。

質量を具体的に感じて、新たなチャレンジへつなげてほしい

歩行させるには1万倍の位置エネルギーを吸収できる転倒制御技術が必要と語る石井啓範氏

 石井氏は「2足歩行させられないのか」という質問をよく受けるという。今回、改めて質問を振られた石井氏は「監督の横でいうのはなかなか(笑)」としながら、次のように答えた。「『歩く』ということは倒れることを同時に考えないといけない。6F建のビルに相当する大きさ、1,000倍の重さのものが倒れることになる。人間に倒れるのにくらべると、1万倍の位置エネルギーを吸収する技術が必要。そうでないと安定して倒れることはできない。地震があったときに倒れてしまうところを想定したときにどこまでいけるのか。是非そこは、この配信をご覧の若い人たちにも一緒に考えてもらえればと思う」と語った。

 富野氏は「やはり現物を見てもらわないと困る」と再び語った。そして「質量は、画面上で縮小して見ていて済ませられるような生易しいものではない。具体的に感じてもらうには本当に作ってもらってよかった。だから夢を止まらせたくないし、課題がいっぱい見えて来るのがこのガンダムではないか。奈良の大仏の大きさと同じように、畏敬の気持ちをもって仰ぎ見て、これをどうするかと考えてもらいたいというのがフィクション側からのお願いです」と述べた。

 橋本氏は「やりかたによっては歩いているように見せることはできるが、やる意味があるのかと考えないといけない。ただ動いているのを見るだけでは面白くない。思うように動かすとか対話するにはどうすればいいか」と語った。そして今回の動くガンダムは動きが遅いが、「見るとわかるけど、それでいい」と続けた。「空間のスケールと時間のスケールはリンクしている。18mの動きの速さは我々サイズの速さとは違う。インタラクティブに操縦するときどうすればいいか。タンカーを操縦するようなものですから、人間と機械のインタラクションはどういうふうに考えたらいいのか。哲学的な問題なので私の仕事として考えたい」と語った。

オンラインツアーも開催中

オンラインツアーも開催中

 ガンダムファクトリーヨコハマは2022年3月31日まで開催予定だ。一方現在も新型コロナ禍によって現地には足を運びにくい状況がある。ガンダムファクトリーヨコハマでは、定期的にオンラインツアーも開催している(有料)。施設内を石井氏そのほか開発リーダーによる解説付きで巡るツアーだ。Gドックの裏側をめぐるバックヤードツアーでは、現地の見学では見られない角度から、動くガンダムを見ることができる。「社会科見学」のようなかたちだ。参加者はチャットでリアルタイムに質問ができ、「かなりマニアックな質問が来る」とのことだ。

 また、より詳細な制作過程や図面などを収録したオフィシャルメイキングブックも11月に刊行が予定されており、こちらは9月26日まで予約受付中となっている

オフィシャルメイキングブックは予約受付中

次の「動くガンダム」は? 現実の上に新しい夢を

実物を見てもらえば話が理解できると語るサンライズ佐々木氏

 セッションを締めくくるにあたりサンライズの佐々木氏は「まずは見て頂きたい。見て頂くと全てがご理解頂ける。そして次の『動くガンダム』はどんなものなのか皆さんも一緒に考えて欲しい」と述べた。

 橋本氏は「新しい夢を是非見てもらいたい。富野監督は妄想というけれど、妄想に妄想を重ねても妄想のバリエーションができるだけで面白いものはできない。現実があってこその夢や妄想だ。いま、ここまで作った。この上に新しい夢を積みあげてほしい」と語った。

 そして「2年前(2019年)のロボット学会で行なわれたスペシャルトークも好評だった。研究とは違う意味で認めてくれたと思っている」と述べた。

 石井氏は「多くのエンジニアが頑張った夢のかたちを是非リアルで見て頂きたい。現地には技術を解説した『アカデミー』もあるので、是非そちらも一緒に見てもらいたい」とコメントした。

最後に、富野氏は「橋本先生からいま教えていただいたとおりです。リアルにロボットを研究している方々から認めてもらったというのは、フィクションの立場からはとても嬉しいことです。それと、具体的に現場を知ってますと、潮風にあたってガンダムを見るのもかなり良いものですよ。その上で次のモノを考えるのは君たちです。いろんなことを教えてくださいね」と締めくくった。