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横浜「動くガンダム」、3年3カ月を経てついにグランドファイナル
2024年4月1日 10:21
横浜・山下埠頭の「動くガンダム」こと「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」が2024年3月31日に最終日を迎え、「最終起動実験」が行なわれた。「動くガンダム」は6年かけて企画され、当初は2020年12月19日から2022年3月31日までの期間限定イベントと予定されていたが、そのあとの度重なる新型コロナ禍拡大の影響を経て、2回、会期が延長されていた。
だが今回、3年3カ月を経て、ついにグランドファイナルとなり、ドローンや花火を交えた演出とともに幕を閉じた。なお当日の様子はYouTubeでも生配信された。
18mの「動くガンダム」
「動くガンダム」は高さ18m、本体重量は25t。鋼鉄製の可動フレームに、FRPまたはCFRPの外装をつけた構造だ。腰部分を後ろから搬送台車「GUNDAM-CARRIER」で支えられて安全性を確保しつつ動く。アクチュエータはすべて電動で、電動モーターと減速機、電動シリンダーを組み合わせており、全身の関節自由度は24。加えてハンドは各五指が稼働し、じゃんけんもできる。
デモ前は高さ25mのメンテナンス用多段式デッキ「GUNDAM-DOCK」の中に収められている。「GUNDAM-DOCK」には可動デッキが3つあり、前からもガンダムにアプローチできる。横には来場者が間近からガンダムを見られる観覧デッキ「GUNDAM-DOCK TOWER」が併設されている。デモのときにはガンダムは演出とともにドックから前へ出てきて、しゃがんだり、後ろから支えられていることを活かして浮かび上がるなど、全身を動作させた。
敷地内にはガンダムの仕組みを学べる展示施設とショップ、カフェ、コミュニケーションスペースからなる複合施設「GUNDAM-LAB」も併設されており、会場限定の特別なガンプラの販売、動くガンダムの設計や構造、仕組みを楽しみながら学べる施設となっていた。
イベント開催中には新しいガンダム作品に合わせた新演出やライブビューイング、動きの改良、子ども達向けの教育イベントも行なわれ、世界中から来場した多くのガンダムファンたちを楽しませた。累計の来場者数は175万人超とのこと。
人型の巨大機械の存在感
最終イベントは「GUNDAM GLOBAL CHALLENGE(GGC)」のディレクター3人と、メディアアーティストの落合陽一氏を交えた4人のトークから始まった。落合氏は最初に、潮風が吹き続ける場所での長期間の展示をねぎらった。
テクニカルディレクターの石井啓範氏は「当初は1年間の予定だったが気づけば3年。中身を産業用機械で固めているので、よく頑張って動いてくれた。予備の部品も用意していたが、ほぼ使うことなく無事に乗り越えてくれた」と振り返った。もともと1年間動かすためには3年くらい動かせるよう余裕を見るので、3年はちょうどいい区切りだったという。
システムディレクターの吉崎航氏は「3年以上動かせるかどうかは分からなかったが、できそうなメンバーが集まったことが重要だった。そのおかげでここまで一緒に走ってこれた」と述べた。
動くガンダムから何かクリエイティビティが喚起されたかという質問に対し落合氏は「動いているものはインパクトがある。僕もよく動くものを作っている。万博では動く建築物を作っている。作品では僕は仏像を作ったりする。人型が大きくなると、人間は面白いスケール感で考えるんだなということを感じる。奈良の大仏が動き出したらどうなるかといったことを考えた」と述べた。
それを受けて石井氏は「人型の意味は私も感じる。『動くガンダム』に頭をつけたのは最後の最後。エンジニア側からすると頭はあまり関係なかったので、頭を載せる儀式は開発テストスケジュールの上では邪魔だった。だが、載せた瞬間に『機械』から一気に『人型のガンダム』になった。存在感が大きく変わったことは私も感じられた」と述べた。
ガンダムの「目線」も重要なポイントだ。落合氏は「目線が変わると急に『生きている』と感じるポイントがある」と述べ、吉崎氏も「目線はこだわりポイント」と答えた。演出担当であるクリエイティブディレターの川原正毅氏の演出意図から、下を向かせたり周囲を見回したりさせていたという。
川原氏が「吉崎さんの動きも、だんだん演技力が増していった。たとえば指がすごくなめらかに動くようになった」と語ると、吉崎氏は「メカ的に無茶をしないようにログを取りながら、石井さんの顔色も見ながら進めていた」と述べた。石井氏のほうでも「今回めっちゃ攻めてるな」と感じたりしながら動きを見ていたという。
今回の「F00ガンダム」は、後世に発見された謎多きガンダムという設定だった。ガンダム作品に登場する「サイコフレーム」という特殊な金属が使われていたということになっていて、演出の中には、このガンダムに搭載されていたであろう自律型AIに、あるキャラクターの人格が降りてくるというものがあった。落合氏は「現実ではロボットが動くようになるよりもAIが喋れるようになるほうが早かった」とコメントした。
次は「乗れるザク」? ARとの組み合わせ?
続けて、「今後挑戦したいことは何か」という質問が投げかけられた。石井氏は「搭乗型ロボットを実現させたい。今回は安全性やコストから人が乗れるものはできなかったので、そこにチャレンジしたい。またチームでの取り組みを次につなげていきたい。みんなジオンが好きなので『動くザク』に挑戦してみたい」と語った。「乗れるモビルスーツに将来はチャレンジしたい」という。
吉崎氏は「私自身も常に巨大ロボットを作りたいと思っていたので参加できたこと自体が喜びだ。これを通過点としてどこまでいけるかという目標がはっきりと見えたところがあって、その目標がはっきりしたことだけでも大きい。やって分かったのは技術的にも『足は必要』ということ」と答えた。
川原氏は「こういう環境で3年以上やらせてもらったので、次は違う演出空間で、たとえば映像と組み合わせてみたい。外でやる良さもあるが、天候に左右されない屋内でもいい」と述べた。
落合氏は「見てみたいものとしてはVRがだいぶ良くなってきたので、あれとコラボしたら速度の限界がなくなる。全身にLEDを組み込んだ映像演出もできるだろう。単に光ってるだけではなく流動的なものが見たいなと思う」と語った。
最後に一言メッセージとして、落合氏は「この場に立ち会えたことは光栄。非常に可能性のあるプロジェクトだった。また面白いものが見たい」と述べた。
吉崎氏は「これだけ長い期間、良いメンバーと組ませてもらった。今は3人がここに登壇しているけれど、本当にたくさんの方々の協力で物ができている。3年間続けられたのは、お客さん皆さんに来て頂いたから」と語った。
石井氏は「開発だけではなく、運用スタッフみんなのおかげで今日を迎えられた。これで3年3カ月の運用が終わる。この後の実験の様子を私も皆さんと楽しみたい」と述べた。
最後に川原氏は「あと1回、なんとか無事に動いてくださいとお願いしたい。コロナ後には本当に世界中から家族がやってきてくれて、世界中の人がガンダムが好きなんだなと分かった」と語った。
実物建設からはさまざまな学びが
続いて、「機動戦士ガンダム」総監督の富野由悠季氏が登壇した。富野監督は「『機動戦士ガンダム』という作品の放送開始から45年経った。作品には紆余曲折があり、20年経ったところでいろいろ考えることがあって、シリーズ全て若い世代の方に任せている。『ガンプラ』と呼ばれるグッズは文化的な拡大を持って展開する様子を社会にもたらした。
めんどくさい言い方をしたが、そのおかげで大仏のような造形を実際に建設することができ、工学的なものを実際に実験する機会も得た。良い経験を積ませてもらった。具体的な学びがあり有意義なイベントだった」と語った。
「重要なことは、この場所を貸して頂けたからできた。この場所がなければ作れなかった。この場所を提供することを許してくれた関係各位の協力には心から感謝している。さらにその上で技術的に実現するために、いくつもの会社の協力を得た。関係会社には敬意を表する。同時に技術的な課題を克服してきた膨大な数のスタッフ、彼らの汗水たらした努力のおかげで実現できた」と述べた。
「そしてもっと重要な話がある」と続けた。「このプロジェクトが実現できたのは、ここにいらっしゃる皆さん、配信を見ているファンのおかげ」と各方面に感謝を述べ、「絵空事ではない経験をさせてもらい社会的な勉強もできた。技術をどう行使していかなければいけないか、それぞれの立場の人が検討できた。そういう場所を手にいれることができた本当にありがたい」と語った。
最後に「1つ問題がある。これから稼働させてもらうが、昨日もきちんと動かなかった。ファイナルだから無事に終わらせるつもりだが、何かあったら笑ってやってください。皆さんがいらしてくれたおかげでこのイベントを敢行できた。心から感謝する。アニメでしかモノを考えることができなかった立場の人間が、リアリズム、つまり社会を考えることができたのも皆さんがいらっしゃったから。心から感謝する」と述べて、「最終起動実験」へとつなげた。
「最終起動実験」は未来へのメッセージ
最終起動実験はガンダムの自律AIとしてアムロの人格がガンダムに宿ってパイロットに未来へのメッセージを語りかけてくるというもの。一般演出でも行なわれていたものだが、最終起動実験では部分的に異なる演出が行なわれた。
さらにドローンと花火による演出が行なわれた。ガンダムの背後で打ち上げられる花火が次々と夜空を彩り、ドローン群は楽曲と合わせて、ガンダムシリーズの印象的なシーンを示した。最後は横浜への感謝を示して、フィナーレとなった。
最後にはドックに格納されたガンダムのコックピットから「パイロット」が登場。観客に敬礼して本当に終わりとなった。
ガンダムはさらにパワフルに
富野監督はイベント終了後の質疑応答でも「こんなに素晴らしいものを見せて頂けるとは思わなかったので夢のようで嬉しいです、というのはほとんど嘘です」と冗談を飛ばし、「この企画が始まったときに『ジャンプくらいさせろ』と言ったら技術陣から袋叩きにあった。ジャンプくらいさせたかった。でも技術的には難しく、ずっと我慢して数年間を過ごした。
若い方や子ども達が本当に喜んでくれて、自分たちがこういうものを追いかけるぞという顔を見せてくれた。嬉しかった。絵空事でしかモノを考えてこなかった人間が、具体的にこういうモノを作ることで何が起こるかを教えてもらった。この7、8年は本当に勉強させてもらった。こういう機会をいただいて本当に有難く思っている」と繰り返した。
来場客の1人として参加したミュージシャンの西川貴教氏は「実際にモノを作っていく、日本のものづくりはきちんと踏襲されている。こういったところからも我々は学べる」と語った。
同じくミュージシャンのSUGIZO氏は「ドローンも含めて今の時代を象徴するエンタメを見せてもらった。子どもの頃に憧れたガンダム、その生みの親の富野監督が横にいらっしゃって、西川とは35年来の腐れ縁。影響を受けた大先輩の小室さんの曲を頂いて僕らが演奏して、ここに上がれている。あらゆるところがシンクロして、とても感動した」と述べた。
富野監督は「動くガンダムがここに作られた意義」を再び強調。「港湾施設の場所は好き勝手に使えるところではない。そういう場所を使用する承諾を頂き、この場所であるからこそ今日の最後の花火もドローンも展開できた。本当に関係各位に感謝したい。今日現在でこれだけのことをできることを示せたことが本当に嬉しい」と語った。
西川氏は「最近、地元であったり地方創生だったりの仕事をやらせてもらることが多い。よく観光地だったり、世界遺産を作らなくちゃとかみなさんおっしゃけど、内容やサービスでもてなせる。ここは新しい観光を象徴するようなものだった。そういうものに尽力された皆さんの技術力や意志を感じることができた」と述べた。
SUGIZO氏は「僕は出身が神奈川です。地元に錦を飾れた気持ち。横浜のこの美しい港、この風景、海、このロケーションと景色があって、ガンダムがある。そのセットは本当に奇跡のようなマリアージュ。神奈川出身者としては、これほど誇りに思うことはない」と語った。
最後に、「これからガンダムに期待すること」として富野監督は「ガンダムは帰るところがある。ファイナルではない。ネクストを必ず開拓してくれるのがガンダムシリーズだということは確信している。そういうものが新たに発生するように応援してほしい」と語った。
西川氏は「実物大ガンダムを見て、小さい子たちが『ものづくりをやりたい』とか、『新しいことに挑戦したい』といってくれる姿が素晴らしい。その勇気をたくさん頂いた気がする」と述べた。
SUGIZO氏は「僕も同意。子ども達にこれだけ素敵な影響を与えられる。みんなそれぞれの夢を持った。今回、このグランドファイナルを見させてもらって、さらに未来への希望を感じた。同時にガンダムは45周年。まだまだ走り続けられる。最強のエンタメでありカルチャーが、これからよりパワフルになっていくことを僕もとても期待している」と語った。