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東大ら、高性能な有機トランジスタの実現につながる印刷可能なn型有機半導体単結晶を開発

(a)印刷法とフォトリソグラフィにより作製された短チャネル有機トランジスタの顕微鏡像、(b)駆動電圧20Vでの入力電流に対する出力電流の増幅率の周波数依存性

 東京大学大学院新領域創成科学研究科、同マテリアルイノベーション研究センター産総研・東大先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ国立研究開発法人 物質・材料研究機構筑波大学数理物質系の共同研究グループは17日、n型有機半導体単結晶薄膜を利用した高速トランジスタの開発に成功した。

 有機半導体は、機械的な柔軟性や印刷適合性、軽量さなどの特徴を持ち、電子材料として期待されている一方で、移動度の低さが実用化への課題とされてきた。近年では、バンド伝導性を持つ移動度の高いp型有機半導体が実現されてきたが、n型有機半導体については大気安定性や効率的な電気伝導経路が形成しづらい点などから開発が難しかった。

 研究グループでは5月に、大気安定性や熱ストレス耐性を持ち、印刷法にも適した高移動度なn型有機半導体材料「PhC2−BQQDI」を開発。今回、印刷法を用いてPhC2−BQQDIの単結晶薄膜を作製したところ、この薄膜がバンド伝導を示すことがわかった。加えて、実際に印刷後に微細加工を施した有機単結晶薄膜を用いて、大気下で4.3MHzの短波帯で動作するn型有機トランジスタの開発に成功した。あわせて、実験結果と理論計算の比較により、伝導機構についても理解が深まったという。

 デバイスの作製には、連続エッジキャスト法やフォトリソグラフィ技術が利用できるため、大規模集積に向けた拡張性もあるとしている。今後グループでは、単結晶p型有機トランジスタと組みあわせた相補型有機デバイスの応用研究を進めていくとしており、RFIDタグなどのIoTデバイスへの応用が期待されるという。

PhC2−BQQDI分子構造と、印刷法によって得られた単結晶トランジスタの温度可変ホール効果解析結果