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日本パソコン史のはじまりとも言える、NEC PC-8001の誕生を振り返る

 NECパーソナルコンピュータ株式会社(NEC PC)は8月5日、NECの本格的なパソコン事業(=PC-8001誕生)が40周年を迎えるにあたり、都内で記者会見を開催し、豪華ゲストとともに過去を振り返りつつ、未来について展望をした。

 冒頭では、NEC PCの代表取締役執行役員社長を務めるデビット・ベネット氏が挨拶。ちなみに折しも同氏も1979年生まれで、PC-8001とともに歳を重ねてきた。「NECは過去に世界初の製品を継続的に投入し、日本のパソコン市場を牽引してきた。40周年を迎えるにあたって、LAVIE Pro Mobileの40周年特別バージョンと、PasocomMini PC-8001を投入し、これを記念したい」とし、新製品を掲げた。

 ちなみにLAVIE Pro MobileおよびPasocomMini PC-8001の詳細については、別記事(NEC PC、PC-8001生誕40周年を記念した「LAVIE Pro Mobile」細部まで再現し、BASICが動作する「PasocomMini PC-8001」)を参照されたい。

デビット・ベネット氏のプレゼンテーション

渡邊和也氏と後藤富雄氏による振り返り

 続いて、「NECパソコンの父」と呼ばれる渡邊和也氏と、PC-8001の開発をリードした後藤富雄氏、そしてPC-8001にMicrosoftのBASICを載せようと売り込んだ元アスキー社長の西和彦氏が登壇し、PC-8001登場時の背景などを振り返った。

 こちらに関してもすでに弊誌で大河原克行氏がインタビューを行なっており(ビル・ゲイツとの密会、サードパーティ戦略。いま振り返る「PC-8001」成功物語)、詳細はそちらに譲るが、時系列に簡潔にまとめると以下のようになる。

・1966年~無線通信事業部を夢見て、後藤氏がNECに入社。ところが現実は半導体事業部へ配属され、渡邊氏のもとで働く。しかしそこには若手を大切に育てようと思う先輩や仲間がおり、「自由に泳がせてくれた」のだという。

・1969年頃~後藤氏はLSIテスターのコントローラであるミニコンの「PDP8」を習得していたが、当時半導体開発のペースは遅く、テストする半導体が完成しないため、PDP8を実際に使う機会がなかった。そのため、PDP8の骨をしゃぶり尽くすまでに独学で知識を習得した。

・1971年~Intelからi4004が登場。後藤氏は、ミニコンからマイクロプロセッサの時代へ突入することに将来性を感じるとともに、プログラミングの重要性を認識した。

・1976年~マイコンブームが開始。NECは当時、半導体部門しかなかったが、その半導体をより普及させようと、開発者教育のための教材としてトレーニングキットTK-80を発売。しかしこれが開発者の枠を超えて、マニアや一般人にも広く受け入れられ大ヒットする。

・秋葉原にマイコンサービスルーム「ビットイン」を開設したところ大盛況。マイコンショップ網も広島でスタートさせ、全国のすべての都道府県で1店舗ずつの展開を目指していたが、200店舗を超える盛り上がりを見せた。

後藤氏のプレゼンテーション

・TK-80は設計図などを公開するオープンポリシーで挑んだため、それまで存在しなかったサードパーティーが登場。ハードからソフトまで展開を見せかつてない盛り上がりを見せる。

・そうしたなか、TK-80の上位機種を求める声がユーザーやメディアのあいだで多くなり、渡邊氏へのPC-8001開発のプレッシャーとなった(今でもそういう声が脳裏に蘇るという)。

・アスキーの西和彦氏がTK-80のマイコンキットに感動を覚えた。そしてTK-80の空きROMソケットにBASICを載せようと企み、Tiny BASICで挑戦したが、「Tinyすぎて何もできない」ことに気づく。

・1977年~NECから「TK-80 BASIC Station」が発売されたが、「搭載されるBASIC、キーボード、インターフェイスともに最悪で、グラフィックスもなかった。渡邊氏に悪口を書いて持ってこいとまで言われた」(西氏)。

・1978年~西氏の勧めで、渡邊氏が米Microsoftを訪問し、ビル・ゲイツとポール・アレン氏と対談。デファクトスタンダードの重要性に気づく。

・1979年~NECがついにBASICを搭載した「COMPO BS/80-A」をリリースするも、「デザイン(そのデザインをした下請けのデザイナー、故人)、BASIC、キーボード、グラフィックス、インターフェイスなど、あらゆる点で気が入らなかった。それまでのPCは1人のデザイナーが顔を出してコンセプトが完成していた。アスキーからの提案をどんどんしていって、実現していったところ、NECとのコラボが実現し、PC-8001の発売にたどり着けた。

渡邊氏のプレゼンテーション

 渡邉氏によれば、PC-8001の成功は「NECが(パソコン業界の)先頭に立って走ったから、先駆者がおらず自由に走れた。そしてオープンポリシーやサードパーティーなど、非常識を常識に変えたことで実現できた」と振り返る。「こうした非常識を常識に変えることを、今後もNECに期待し、コンピュータの進化につなげてもらいたい」とエールを送った。

 後藤氏は「パソコンはスタンドアロンからネットワーク、モバイルへと進化し、地球規模で人間の知的能力、コミュニケーション能力を高める手段となった。NEC PCには、今後も人類が抱えるさまざまな問題の解決に向けて、コンピュータを届けてもらいたい」とした。

 西氏は、「NECが社内でPC-9800シリーズを強くプッシュするようになってから、アスキーとNECの関係は薄れていった。そのためMSXを投入した経緯もあるが、今後の40年に向けて、NECとのコラボを続けていきたい」と語った。

西氏のプレゼンテーション

西氏プレゼンテーションの余談

 ちなみに西氏のプレゼンテーションのなかで、余談として面白かったものを紹介しておこう。

・MSXの「MS」はMicrosoftの略なのだが、松下電器産業に企画を持っていくさいには「MSのMは松下」、ソニーに企画を持っていくさいは「MSのSはソニー」だと言ってアピールした。

・MSXの「X」は、のちの「Xbox」の名前の由来ともなっている。

・デジタルリサーチに出資し、MS-DOSのクローンのDR-DOSを開発。Ms.は未婚女性への敬称なので、Dr.はドクターへの敬称だと言い張った。

・ビル・ゲイツに半導体を作る話を持ちかけるも断られたため、CompaqとKleiner Perkinsらと「NexGen」を立ち上げ、マイクロプロセッサを開発。その後AMDに買収され、K6、Athlon、Opteronなどへと続く。

西氏プレゼンテーションの余談

NEC PCとして今後はゲーミングPCも投入

 最後にNEC PC 商品企画本部 プロジェクト「炎神(エンジン)」 総合プロデューサーの森部浩至氏が登壇し、近々投入する予定の「炎神」について語った。

 PC-8001は多くのPCゲームを生み出すきっかけとなったマシンであり、そういった意味ではいまやメジャーとなっている「ゲーミングPC」の原型とも言える。そして同氏はフェニックスのビジュアルイメージと、「PC Engine」のロゴを彷彿とさせるスライドを公開し、ゲーミングPC市場に近々参入することを紹介した。

森部氏のプレゼンテーション

 著名企業の著名人によるビデオレターも多く寄せられ、発表会を盛り上げた。

業界著名人からのビデオレター
Microsoftのサティア・ナデラCEO。PC-8001はMicrosoftとNEC協業によって実現したマイルストーンだと位置づけた
インテル株式会社 上席副社長 兼 クライアント・コンピューティング事業本部長のGregory M. Bryant氏。PC-8001にはIntel製プロセッサが搭載されていないが、PC-9801にはIntel製プロセッサが搭載されている
AMDのLisa Su CEOは、NECとのパートナーシップにより、AMDが重視する日本市場での展開ができていることを嬉しく思うと語った
クオンタムリープ株式会社代表取締役の出井伸之氏(元ソニー社長・会長)もNEC PCへの期待を語った
インテル株式会社 代表取締役社長の鈴木国正氏。元ソニー時代でNECの強さを感じていたとし、今後も引き続きNEC PCをサポートしていくと語った
日本マイクロソフト 執行役員 常務 コンシューマ&デバイス事業部 本部長の檜山太郎氏。NECとの協業により日本独自のWindows/Officeエコシステム構築に成功したと振り返った
日本電気株式会社 代表取締役 執行役員副社長 兼 CFOの森田隆之氏。NECは日本のPC産業とともに歩んできたことを振り返った
マウスコンピューターの小松永門社長。NECのPC-9801VMを購入したのが強く印象に残っており、周辺機器いじりが好きだった。これが今のマウスコンピューターのBTOを創り上げたとも言える。NECのLAVIE Pro Mobileの軽量性・デザイン性について称賛しながらも、自社のDAIVはより高速なCPU/GPUを搭載し、リーズナブルな価格で購入できることをアピールし、ともにPC市場を盛り上げたいと語った
富士通クライアントコンピューティング株式会社 代表取締役社長 執行役員社長/CEO 齋藤邦彰氏。富士通のパソコン事業はNECに3年遅れて開始し、つねに後追いというかたちだった。「勝手にお兄さんと呼ばせてもらうが、お兄さんの存在があったからこそ、われわれも世界最軽量のノートPCを投入できた」とした
NECパーソナルコンピュータのホームページは本日(8月5日)限定で特別デザインのものとなっている
歴代の製品など
TK-80。すべてはここからはじまった
PC-8001
PC-6001
PC-9801
PC-100
PC-9801n
PC-9821Cb2/M
PC-VS46H1B
PC-LZ5001D
PC-VX9007F
PC-VW900CD
LU-RN7001C
PC-LZ750HS
PC-LX850JS
PC-DA970MAB
PC-PM750NAB
40周年記念のLAVIE Pro Mobile PM750/NAA
40周年記念品のPasocomMini PC-8001