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東北大ら、0.1gの物体が生む重力を測定できるセンサー
~量子力学と相対性理論を統合した“万物の理論”に向け前進
2019年2月20日 17:36
東北大学 学際科学フロンティア研究所/電気通信研究所の松本伸之助教(兼JST戦略的創造研究推進事業 さきがけ研究者)、東京大学 大学院理学系研究科の道村唯太助教、国立天文台 重力波プロジェクト推進室の麻生洋一准教授、東北大学 電気通信研究所の枝松圭一教授らの研究グループは20日、石英の細線で懸架された7mgの鏡の振動を、1秒間で10-14m程度の分解能で読み取れる測定器を開発した。
現代における物理法則は、量子力学と呼ばれるミクロ世界の法則と、一般相対性理論と呼ばれるマクロな法則の2つで説明できるが、両理論が確立されて以来100年近くの間、理論の統合が実現できておらず、1つの理論であらゆる物理法則を説明できない。これは、相対性理論で説明できる重力が、量子力学で説明できないからだ。
物理学には4つの相互作用がある。このうち強い相互作用はグルーオン、電磁相互作用は光子、弱い相互作用はウイークボソンとよばれるゲージ粒子の交換によって発生すると考えられている。しかし、最後の重力相互作用をもたらすと言われる重力子の作用はあまりにも小さいため、いまのところ発見されていない。
というのも、これまで原子干渉計、ねじれ振り子、光格子時計などによって測定されたもっとも小さな重力源の質量は90gであったのに対し、もっとも重い量子状態を実現した物体は40ngで、両実験のスケールには10桁という大きな隔たりがあったからだ。重力と量子の実験スケールの統合には、微小重力やゼロ点振動の観測が可能な変位測定系の構築が必要だった。
今回、研究グループは重力波検出器と呼ばれる、懸架鏡(7mgの鏡を直径1μm、長さ1cmの石英の細線で吊るしたもの)を用いた変位測定装置の技術を応用している。この装置の原理は単純で、懸架鏡に重力源を近づけ、懸架鏡揺れによる反射光量を光共振器で検出することで重力を観測するというもの。
高い測定精度を実現するために、懸架鏡のブラウン運動(ほかの原子と衝突する力を受けることで揺れるランダム運動)を抑える必要があるが、研究グループでは光学トラップによって世界最小レベルにまで懸架鏡のエネルギー散逸を低減した。
また、レーザー光の安定化による強度/周波数のゆらぎの改善、レーザー光の強化による光の散射雑音の低減、真空容器内に設置した多段防振装置上に装置全体を設置することによる地面の振動/屈折率のゆらぎ/音響の影響低減など、微小なブラウン運動を読み取れるように工夫をこらした。
これらにより、100mgの物体が懸架鏡から数mm離れたところで振動したときの重力変化を捉えることができる性能を有することができたとしている。
研究グループは現在、微小重力の初観測に向け、重力源となる100mg程度のカンチレバーの開発に着手している。また、センサーの雑音が増えることを予想し、それらを除去する小型多段防振装置やシールドの開発に取り組む。さらに、mgスケールにおける量子効果の初観測に向けたさらなる低雑音化も開発していくとしている。