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DataRobotとパナソニックが製造業でのAI活用をテーマに対談。課題は人材育成

 機械学習の自動化プラットフォーム「DataRobot」を展開するDataRobot Japanが2018年5月31日、パナソニック株式会社AIソリューション戦略企画部部長の井上昭彦氏を招いて製造業分野でのAI活用をテーマにトークセッションを開催した。

 「DataRobot」はエンタープライズ向けの機械学習プラットフォーム。データを読み込ませてなにを予測したいか指定すると、自動でアルゴリズムを選定してフローで視覚化する。一般的な機械学習ツールでは機械学習フローをデータサイエンティストが設計しなくてはならないのに対し、自動で高精度の予測モデル生成を行なえ、分析作業を効率化できる。

 2012年に米国で設立されたDataRobot, Inc.は、2015年11月にリクルートホールホールディングに出資を受け、2016年7月に日本支社を始動。2017年2月末から東京オフィスを新設し日本でも本格的にビジネスを行なっている。国内では大阪ガス、トランスコスモス、パナソニック、リクルートホールディングスなど金融、メディア、製造、インターネット、コンサルティング、人材派遣、アウトーソーシング、流通などの分野の企業に採用されているという。

 同社は「AIの民主化」をスローガンに掲げており、「市民データサイエンティスト」を各社内で育成することでツール活用を活性化しようとしている。ここでいう市民データサイエンティストとは、いわゆる一般の人というわけではなく、現場で実業務に当たっている技術者たちのことだ。つまりプロフェッショナルのデータサイエンティストでなくても、事業の知識がある人たち自らがAI技術を使えるようにしようというわけだ。

 最初にDataRobotゼネラルマネージャーの原沢滋氏は「日本でのビジネスも順調に進んでいる」と挨拶。今年(2018年)3月に発表し4月から提供している「AI-Driven Enterprise Package」を紹介。実際に導入に至った企業などについて「近いうちにご案内できると思う」と述べた。

 パナソニックと同社は2年前からビジネスを開始。同社が日本で業務を本格化する前からビジネスでのAI活用や導入推進について話をしていたと紹介し、「AIを理解してもらうための教育が重要だと考えている」と語った。

DataRobot ゼネラルマネージャー 原沢滋氏

本格的な研修で1,000人のAI人材を育成するパナソニック

パナソニック株式会社 ビジネスイノベーション本部 AIソリューション戦略企画部部長 井上昭彦氏

 続けて、パナソニック株式会社 ビジネスイノベーション本部 AIソリューション戦略企画部部長の井上昭彦氏と、DataRobotチーフデータサイエンティストのシバタアキラ氏による対談が行なわれた。対談はもっぱらシバタ氏が井上氏に質問する形式で行なわれた。

 パナソニック・井上昭彦氏はもともとは半導体の設計開発が専門。TVやレコーダを経て、デジカメLUMIXの顔検出機能を担当した頃からAI関連技術に携わるようになり、いまは戦略企画でAI戦略を担当していると経歴を紹介した。アルゴリズムの開発から製品への実装までを担当していた経験から、従来型の機械学習アルゴリズムでは顔検出1つとっても条件がコンフリクトすることがあり限界を感じていたが、それだけにディープラーニング(深層学習)が出て来たときには衝撃を感じたと語った。

 シバタ氏は最初に、パナソニックが優れた取り組みを行なうことができている理由はなにかと質問した。井上氏は同じ品質の製品を大量生産するビジネスモデルでは確かに優れていたが、21世紀のインターネット時代での勝負には「勝てなかった」と振り返った。それだけに次のIoT時代にはリベンジしていきたいと経営層を含めて皆が考えたことと、新しいAI技術が本当に使えると感じたことから、本格導入がはじまったと考えていると答えた。

 パナソニックは2016年に「技術10年ビジョン」を発表しており、AI/IoT/ロボティクス領域と、エネルギー領域を2本柱として取り組んでいくとしている。

 とはいえ、最初はデータも持っていない状況からはじまったため、まずはデータをたくさん集めてソリューション化していくうえで、人を育成する必要があると考えた。今はデータもじょじょに集まってきて、いよいよビジネスへという段階にあるという。

 AIの使い方は大きくわけて2つあるとした。1つ目は、従来の大量生産ものづくり形態を変えるためにイノベーションを起こし新事業に取り組む方向。もう1つは既存事業の業務プロセスの効率改善である。

 最初は2、3名でAI強化推進室をはじめ、人材育成を1年半くらい進めた。そして各事業所やカンパニーでデータがたまってきたので、いよいよソリューション化を目指すということで、「AIソリューションセンター」という組織を100名体制で整えた段階にあるという。

 パナソニックでは2022年に1,000人のAI人材を育成することを目標としている。2016年からスタートし、毎年100から200くらいの受講者がいて、いま300人の育成が終わった状況にあるという。育成を終えた人材が各職場でまた教育を繰り返すことで、トータルでソリューションできる人材を増やすことを狙っている。

 なお育成プログラムは半年間/全10回にわたり、1回あたり1.5時間の座学、1.5時間の演習を実施。最終的にコンテストを行ない、論文を書き、その査読も行なうといった本格的なもの。講師は大阪大学から来てもらっているが、「これだけ演習をやっているのはパナソニックくらい」と言われるという。

画像系とデータアナリティクスの両方で進めるAI活用

DataRobotチーフデータサイエンティスト シバタアキラ氏

 パナソニックは2017年10月にはアメリカのAIスタートアップのARIMO(アリモ)を買収すると発表した。これはどういった理由だったかについて、井上氏は以下のように解説した。

 パナソニック社内でも以前から画像系で従来の機械学習は使っていたため、そこに深層学習を使うといった試みはすんなり進んだという。「今のAI関連人材も半分くらいはAV処理に関わっている」と井上氏は紹介した。

 だが現場ニーズを訊くと、画像処理だけではないセンサーデータや、時々刻々変化するデータを扱っている部署が多く、データアナリティクスの分野を強化していかないといけないとわかった。しかも短い時間軸での人材育成が求められていたので、買収によって一気に仲間を増やすことで加速しようとしたのだという。そうすることで画像系とデータアナリティクスがバランス良くなってきたと語った。ARIMO側からすればパナソニックはデータホルダーに見えるため、たがいに相思相愛というかたちで話は進んだという。ちなみに買収金額は「二桁億円くらいの感じ」だったとのこと。

 その後のコラボレーションについても「ようやく成果が見えはじめた」と紹介し、BtoBtoC分野において、店舗に納入している機器の省エネ化に成果が見えはじめているという。

 DataRobotとARIMOはまったく違う位置づけだと考えていると述べた。ARIMOは顧客と一緒にじっくり問題を解いていくプロフェッショナル集団である一方で、DataRobot社のほうはツールだと考えているという。

 井上氏は「私はずっと半導体の歴史を見て来た。トランジスタ設計、ゲート設計、レジスタレベルから、いまはC言語で作れるようになった。どんどんレイヤーがあがってきているのは、自動化ツールが普及したから。パナソニックでも半導体設計の自動化ツールは作っていたが、外部の大手ベンダーのツールが普及していらなくなってしまった。そういうかたちで大規模化してきた歴史がある。AIも同じ歴史をたどる可能性が高い」と述べた。

 現在のAI活用はプロフェッショナル型だが、いつまでも続くわけではなく、遠からず自動化の波が来るだろうと考えており、DataRobotは世界を席巻するツールになるのではないかと興味を持ち、まずはツールというところにこだわったと述べた。

工場の故障予測、監視業務の補助、店舗の需要予測や行動分析に活用

対談の様子

 DataRobotについては、パナソニックでは、目的としている予測に効いているパラメータを探すために、これまではトライアンドエラーを人力で繰り返していたところに対して使っているという。「APIを叩いて、夜中じゅう回しておいて、『このパラーメータが効いている』というのを見つけるという使い方」だと紹介した。

 これまでは学習モデルを作るときに思ったような結果が出なかったといった人が、DataRobotをうまく使いこなせている人ならば、どのようにデータを使えばいいかわかるようになったという。なお、モデル探索を人力でやった場合とも比較させたが、DataRobotのほうが圧倒的に探索範囲が広く、そういうところは「ツールが使われるべくして使われていくだろうところ」だと語った。

 ただ、最初は100人以上のユーザーがすぐについたが、使うにつれ、どう使っていいのかがわからず、じょじょにユーザーが減ってしまい、今は使いこなせるコアユーザーが決まって来ている状況だという。ツールといっても、ツールの癖を理解しており、どういうふうにツールを使えばいいのか理解している人で、かつ、事業ドメインの知識をきっちり持っている人、両者の知識を掛け算で持っている人がいないと使いこなしは難しい。

 現場が使いこなせるようにしないとツールの意味がないので、現在は各カンパニーや事業で人を育成して、回していくという状況を作ろうとしているという。

 うまくいっている使い方は「あまり具体的には言えない」としつつ、工場の故障予測、監視業務の補助、店舗の需要予測・センサーデータを使った行動分析を挙げた。また、R&Dレベルではマテリアル・インフォマティクスにも使っているという。このほか、顧客の業務プロセスを改善した例として、エアコンと電波センサーを使った高齢者住宅の見守りサービスによって、スタッフの業務負担を軽減する事例を挙げた(パナソニックエアコンみまもりサービス)。

 DataRobotについてはユーザー側の視点で、たとえば製造業専門のツールは特定目的に特化しているためわかりやすいが、DataRobotは満遍なく機能が追加されているためフォーカスがわかりにくく、特定分野にならどういう使い方があるのかといったフォーカスがあるほうが、もっと導入しやすいし魅力的だとコメントした。センサーデータの時系列解析/予測についても「もう少し踏み込んだソリューションがほしい」と語った。

家庭内のデータも多くのタッチポイントで収集

パナソニック株式会社 井上昭彦氏

 パナソニックは北米を中心に、新しい住空間価値を提案するための住宅用のIoT基盤として「HOME X」プロジェクトを立ち上げている。商材単品ではなく家や暮らしなどを定義してソフトウェアドリブンで進めようというプロジェクトだ。井上氏は「われわれはタッチポイントをたくさんもっているので、データも数百億件単位で集まってくる。そこではクロス分析を行なっている。そういうところにハマるのであれば積極的に活用していきたい」と語った。

CES 2017でのpanasonicのによる展示

 スマートスピーカーなども普及しはじめているが「音声はコンテキストを取るには断片的」だと考えているという。ユーザーの家電の使い方などをは想定外であることが多く、音声1点だけでコンテキストを取ることには限界があると考えており「複数のタッチポイントで情報をとることが重要になるのではないか」とコメントした。

 まだパナソニック自体でもAI関連商品を出しているわけではない。井上氏はボトルネックとして、コストを挙げた。「ROIとしてバランスが取れるところを見つけられていない。AIを使ったら効率化は可能だけれどコストのバランスが合わない、となることが多い」。

 もう1つは品質だ。「これまでは大量に不特定多数の顧客に対してものづくりをしてきたので、われわれは100%にこだわる。確率的なものとどう付き合うかは1つ大きな壁」とした。ともかく今は、各事業所からデータが出てくるようになり、クロス分析できるようになった段階にあると述べた。ただし、データをどのように準備して生成できるようにするかについての仕組み作りについては、まだまだこれからだという。