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日本はAIへの意識・行動ともに出遅れ

~アクセンチュアが人とAIが協働する未来の働き方について解説

雇用や働き方に関する調査

 アクセンチュア株式会社は28日、「雇用・働き方の未来 人とインテリジェント・テクノロジー」と題した記者説明会を開催した。

 日本を含む11カ国を対象にした調査の結果、日本では人工知能技術(AI)への意識変革・行動ともに、グローバルから遅れが見られる一方で、活用次第で大きな伸びが見込めるという。

AIと協働できれば収益は4割増、雇用は1割増

 はじめに、アクセンチュア株式会社 戦略コンサルティング本部 人事・組織管理マネジング・ディレクターの宇佐美潤祐氏が概略を解説した。

 アクセンチュアは毎年、テクノロジビジョンに基づく、雇用や働き方に関する調査結果を公開している。これまでに、従来型の評価のあり方を変えるべきであるとか、スキルに革命が起こるといった報告を出してきた。

 今回のテーマは「人とAIの協働」。AIをうまく活用することができれば、グローバルで見ると2020年には収益面で+38%、雇用は10%増えると推計されている

 調査対象国は11カ国(日本/オーストラリア/ブラジル/中国/フランス/ドイツ/インド/イタリア/スペイン/英国/米国)で、消費財から金融まで、幅広い業種の経営者と労働者の双方が対象(経営者は1,201人、労働者は10,527人)。

 なおアクセンチュアでは、認知技術(コグニティブ技術)、アナリティクス、ロボティクスをまとめてAIと呼んでいる。

AIとうまく協働できれば収益・雇用はともに大幅に増加する
調査対象は11カ国、全産業

 調査の結果、経営者と労働者の双方が、AIの戦略的重要性は認識しているが、経営層の半分以上が、自社従業員の半分は協働の準備ができていると考えている一方で、実際には、労働層の半分は雇用への脅威を感じており、いずれもAI協働との取り組みを進めようとしている段階だったという。

労働者の半数はAIによる雇用不安を感じている
アクセンチュア株式会社 戦略コンサルティング本部 人事・組織管理 マネジング・ディレクター 宇佐美潤祐氏

日本だけの特異性は、漠然とした不安を抱えている労働者が多い点

アクセンチュア株式会社 デジタルコンサルティング本部 マネジング・ディレクター 保科学世氏

 では日本にとっては、どんな示唆があるのか。アクセンチュア デジタルコンサルティング本部 マネジング・ディレクターの保科学世氏は、日本では労働力不足によるAIとの協働が不可欠だと考えられているが、意識改革と行動の遅れが顕著であり、労働者の多くは不安を抱えているとまとめた。

 スキル習得の重要性の理解、具体的なスキル習得の取り組みの双方とも、グローバルとの乖離が大きい。意識変革も必要だし、行動も遅れていることが日本の特徴となっている。

 一方、AIに対する漠然とした不安を抱えている人も、グローバルより日本のほうが多い。とくにポジティブな変化、仕事における具体的な変化がわかっていないというのが現状だという。

 そもそも、AI技術への理解が十分ではないことによって、自分の仕事がどのように改善していくのか、見えていない人が多いことが調査からは示唆されているという。

グローバルから見ると日本ではAIへの意識変革と行動ともに遅れが見られる
AIに漠然とした不安を抱えている人も多い

業務プロセスの再考、新たな教育、コラボレーションが重要

アクセンチュアによる企業に求められるアクション

 ではなにが必要なのか。アクセンチュアでは、

  1. 日本型AI協働モデルを前提とした業務プロセスの再考
  2. 人間とAIの協働を見据えた教育機会・コンテンツの提供
  3. 人間とAIの協働の効果を最大化するコラボレーションの最大化

 を挙げている。

 これまでの調査から、日本はAI活用による潜在的経済効果が大きいことがわかっている。AI技術を活用することができれば、一番成長する余地が大きいのが日本であり、逆に、活用できないと、ほかの先進国並みの成長ができないことが、これまでの調査からわかっているという。

日本はAI活用による潜在的効果が高いという

 具体的には、どんな取り組みが必要なのか。

 アクセンチュアの社内では、スケジュール調整バーチャルエージェント「Hiromin」を活用している。Skypeからアクセスできるシステムで、「Hiromin」にチャットで話しかけて依頼することで、たとえば会議を行ないたいときに、Outlookのスケジュールから参加メンバーの空き時間を探し、会議室予約や飲み会調整などを実行してくれる。

スケジュール調整エージェント「Hiromin」

 保科氏は、「AIが得意な領域と人間が得意な領域を切り分け、業務プロセスを見直して組み直し、協働することで成果を最大化することが重要だ」と述べた。

 どの産業でも人手は不足しているが、とくに労働集約的なサービス・接客では深刻化している。日本では顧客要求レベルが高いため、すべてがAIというわけにはいかないが、AI技術を導入して、日本レベルの要求をクリアすることができれば、世界に通用するサービスが実現できる。日本のサービスはそのための優れたデータとなると考えているという。

 また、人とともに働くことを考えると「手足」が必要だ。日本は産業用ロボットが非常に強く、手足の技術自体は持っている。

 「頭」にあたるAIと手足であるロボットを組み合わせて新しいサービスを生み出すことが重要だと考え、アクセンチュアでもロボティクスに力を入れはじめていると述べた。単なる生産設備の改善だけではなく、サプライチェーン全体を視野に入れた取り組みを実行しようとしているという。

サービス業ではAIとの協働が不可欠に
日本の高い要求レベルは優れたデータセットとなり得る
たがいに得意分野を活かしたAIと人間の役割分担と業務の再構築が必要
製造業への参入も進める

 漠然と不安を抱えている労働者には、教育機会が必要だ。

 アクセンチュアでは、メディアなどでよく知られている、AIを扱うための統計や数学などの知識、プログラミングやライブラリ、ツールの扱い方、実践などのわかりやすい表層的な部分だけではなく、そもそもAIの特性はなにか、「解決すべき社会課題はなんなのか」ということを、きちんと考えていくことが重要だと考えていると述べた。

 同社では社会貢献活動の一環として、NPO法人のCANVASと共同で、小学生向けプログラミング講座「ROBO*C」などを行なっている。

 課題はなんなのか考えて、教わったことで解決する力を養うことを狙っている。同様の取り組みは企業でも必要だ。また、大学院生向けを想定して「産学連携人材育成コンソーシアム」を設立し、実ビジネスの課題、データなどを扱うことや、企業側ニーズを踏まえたAI教育の浸透を目指している。

 人間とAIの協働効果を最大化する、コラボレーション活性化については、AI活用においてはコラボレーションは非常に重要だと述べた。

 AIソリューションにおいて、社外コラボレーションも行なう企業は、そうではない企業と比較すると、約2倍のスピードで企業価値を向上させているとアクセンチュアでは見ている。

 アクセンチュア自身もコラボレーションには力を入れており、JapanTaxi、KDDI、トヨタなどと共同でタクシー配車支援システムなどに取り組んでいる

これから必要な教育
実ニーズを踏まえた、大学院と連携したAI教育
AI関連事業ではコラボレーションが必須に
アクセンチュアも参画したAIによるタクシー配車

 2018年1月に開設され、記者説明会を行なった会場でもある「アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京」自体が、コラボレーションによってイノベーションを起こすために作った施設だと紹介。

 アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京は、グローバルなアセットを集め、世界各地の専門家と連携してさまざまな着想を得ることで、イノベーションを東京から世界に発信する拠点であり、多くの方に活用してもらいたいと述べて、説明会を締めくくった。これまでに数百社が訪問しているという。

イノベーション発信を目指すアクセンチュア・イノベーション・ハブ
各種技術展示が行なわれている
Accenture Innovation Hub Tokyo