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【年末特別座談会 前編】後藤、笠原、山田のライター3氏に聞く、今年の重大ニュース
2016年12月28日 06:00
毎年恒例となった、PC Watch 年末座談会が今年も開催された。
今年で4回目となる本座談会は、2016年の間に発表された製品やサービスについて、PC Watch執筆陣が振り返り、それぞれの見解を語っていただく趣旨。出席したのは後藤弘茂氏、笠原一輝氏、山田祥平氏、司会にPC Watch編集長の若杉といういつものメンバーだが、今回はMCとして勝又楓さんを迎えている。
また、初の試みとして、観覧希望のPC Watch読者を募り、登壇形式の会場限定のプレゼントや、イベント終了後の懇親会も実施した。
座談会の内容は大きく分けて「2016年の重大ニュースを振り返る」、「名物ライターに質問をぶつけよう!」、「2016年、私はこれを買いました」の3つ。
2016年の重大ニュースを振り返る
2016年の重大ニュースは、1月から12月までにPC Watchが報じたニュースの中から、月ごとに重要なニュースを選出し、テーマとして設定して論じるコーナー。
1月
・Microsoft、SkylakeでのWindows 7/8.1サポートを2017年7月までに短縮
笠原:ところで若杉さん、なんで今回はきれいな女性をMCに迎えたんですか?
若杉:そうなんですよね。隣に座っていて、さっきからすごくいい匂いがするんです。
勝又:やめてくださいよ(笑)。
笠原:それセクハラですよ(笑)。
若杉:この座談会は過去3回ほどやり、前回は生配信もやったんですが、絵面がよろしくないという苦情が各所から来まして。
笠原:絵面がよろしくないとか言うなよ(笑)。
若杉:まぁ、ちょっとリフレッシュしたいと言うことで。楓ちゃんは今おいくつですか?
勝又:今年23歳になりました。
山田:僕と同い年くらいかな。
笠原:祥平さんの孫世代でしょ(笑)。
勝又:ちょうど私のお父さんと同じくらいの世代だと思います(笑)。
若杉:では、本題に入りたいと思います。Windowsが最新のCPUアーキテクチャ(当時はSkylake)をサポートしながら、古いOSとの組み合わせについてはサポートを短縮する、というニュースです。
笠原:新しいプラットフォームが出た時に、新しいソフトウェアと組み合わせることで「より良く」使えるというのはほかのOSでも同じなんですが、Microsoftのプラットフォームでは互換性が確保されているので、その結果、新しいプラットフォームにユーザーが移行してくれない、というジレンマを常に抱えているんですよね。
Skylakeは、省電力化などWindows 10でないと使えない機能も多いので、「移行して欲しい」というマーケティング面の意図もあって、旧OSのサポート短縮に踏み切ったのだと思います。
若杉:それってユーザーからしたら「聞いてないよ」という話ですよね。急にサポート期間を短縮すると言われても困ると思うのですが……。
笠原:そうですね。特にエンタープライズ用途では、旧OSを長期間使う場合も多いので、新しいマシンにリプレースする際、買い換えなのにSkylakeより以前のプラットフォームを採用しなければならないので、そこは辛い部分と言えるでしょう。
山田:Windows XPの二の舞いを防ぐ意図もあると思うんですよね。Windows 7のサポートは2020年に終わるのですが、例えばその年の東京オリンピックで使われる電光掲示板のOSがWindows 7で、ブルースクリーンが出たりしたら洒落にならないので、そういう事態を防ぐ目的もあると思います。それは極端な例ですが、古いOSを新しいプラットフォームでサポートするのに費用がかかると、新しいプラットフォームを使おうとしている人たちがその費用を負担するという構造は、仕方がない反面、「そりゃないよ」と思う人達の気持ちも分かるので、複雑な気持ちですね。
後藤:根源的な話をすると、どこまでハードウェアを仮想化するし、どこから上のレイヤーをOSが受け持つかという話なんですよね。理想的なのは、ハードウェアの上にあるレイヤーで全てをカバーして、OSからは同じように見えるようにする形です。ハードとソフトと、もう1つ、省電力やなんやをサポートする中間レイヤーがあって、その上にOSが乗っていれば、こういう問題を解決できます。
・日本マイクロソフト、Surface Bookを2月4日より国内販売
若杉:ライターのみなさんは、どなたかSurface Bookを購入されました?
笠原:昨日の夜、購入しました(笑)。
若杉:もしかして読者プレゼントとして?
笠原:いや違います(笑)。まだ届いてないですが、CESの取材で使おうと思ってます。Surface BookはイノベーティブなPCではあるけど、やっぱり価格が高価であるという点が皆さんの中で引っかかるポイントかなと思うのです。僕ら(ライター)の場合は、購入したデバイスで結果的にいい仕事ができればもっと稼げるかもしれない、という打算もあって、多少高価でも良いものが欲しい、ということで購入を決めた側面もあります。
山田:Surfaceはハイエンドに振っている感じがありますね。重量的に僕の食指は動かなかったけど、「MicrosoftはハイエンドをSurfaceが担い、ほかの方向性は別のベンダーさんに任せる」というトレンドを作りたいのかなあという気がします。
2月
・HTC、VRヘッドセット「Vive」を111,999円で3月1日に発売
若杉:2016年はコンシューマ向けに、本格的なVRヘッドマウントディスプレイ(HMD)が発売された年です。それまでも開発者版は手に入りましたが、いよいよ製品版が出たということでピックアップしました。
後藤:今コンシューマに入り込んでいける手頃なフルスペックVRと言えば、PSVRですよね。今年は「VR元年」とも言われていますが、VRは長いスパンで見れば「まだまだこれから」の段階にいると思っています。長い長いステップの中の一番最初のところにいる。
差し当たって、まずはケーブルをなんとかしないといけないですよね。今は必要とされるコンピュテーションの能力要求が大きいので、HMDとは別に強力なマシンが必要ですが、いずれHMDにマシンパワーを内蔵したところからが次のステップだと考えています。行く行くはAR(Augmented Reality: 拡張現実)が融合する方向性もあり得るのではないでしょうか。基礎技術で言えば、5nmプロセスあたりの時期に実現するのではないかと予想しています。
山田:僕はVRに対しては消極的なスタンスですね。何年か前の3Dブームに似たものを感じます。コンシューマユーザーが広くVRの機器を買う時代が来る、というのがまだ少し信じられない。
業務用途、例えばゲームセンターでVRを楽しむ、あるいはHoloLensで取り組んでいるような、MR(Mixed Reality: 複合現実)で業務向けのアプリケーションが出てきて、それを使うようになるという時代は来ると思います。でもコンシューマVRについてはまだ半信半疑の目で見てます。とんでもないキラーアプリケーションが想像できないというのもあります。まあ、思いついたら大金持ちになれるんですけどね(笑)。
笠原:みんなはコンテンツについて話しているけど、僕はVRのUIがどう変化していくのかに興味があります。PCもそうですが、例えば僕らが日常的に使っているスマートフォンは画面が「四角い」ですよね。VRだと視界全体が画面なわけで、それらに対してユーザーはどういった操作を行なうのが適切なのか。少なくとも、これまでとは違うUIが必要になってくるはずです。そうした変化を誰が最初に提示するのか、そしてどういうものが出てくるのかは楽しみにしているところです。
そういう意味では、HoloLensでジェスチャー操作が取り入れられてるのは面白いですよね。将来的には、例えばアシスタントが視界の隅に浮かんで話しかけてくるようなUIになるかもしれない。僕はそうなったら良いな、と思っています。
・Huawei、同社初のWindows 10タブレット「MateBook」を発表
若杉:今までAndroidしかやってなかったデバイスメーカーが、Windows 10タブレットに乗り出してきた、というトピックです。
山田:MWC(携帯通信関連見本市のMobile World Congress)で、スマートフォンのメーカーが、スマートフォン向けSoCを積んでないデバイスを出してきたのには驚きましたね。
笠原:僕もMWCは取材しましたけど、まさかHuaweiがPCを出してくるとは思いませんでしたね。
若杉:タブレットについて、メーカーとしてはWindows 10に商機を見出していると考えていいのでしょうか。
笠原:これについては、2015年に発売された12.9型の「iPad Pro」が2in1的に使えて、それが市場に受け入れられた、というのが大きな影響になっていると思います。
この流れにSamsungやHuaweiが続いたわけですが、ポイントはOSがAndroidではなく、Windows 10だったことです。この事から「プロダクティビティとしては、AndroidよりもWindowsの2in1の方が良い」という結論が出たのではないかと思っています。
山田:Huaweiはまだまだやる気で、来年はさらに「新しい入力方法を採用したPCを出す」と言い切っているので、これも楽しみにしてます。時期的にはCESとかMWCの時期かな。
3月
若杉:これは象徴的なニュースですよね。これまでは“チックタックモデル”でプロセスのシュリンクとアーキテクチャの改良を交互に繰り返してきていて、製品が2世代続くと、その後には必ずプロセスルールが小さくなるというのが続いてきました。でもここで、次世代の「Kaby Lake」でも、現行のSkylakeと同じ14nmのプロセスルールを採用することになりました。
山田:ムーアの法則は自然法則ではないので、“小さくなる”ではなく“小さくする”という努力を意地でも守るIntelの気質を表す法則だったのですが、これを諦めてしまったというところが、個人的にはすごく残念に感じました。
後藤:Intelだけを見ているとプロセスの微細化が鈍化したように見えますね。一方、TSMCは今年(2016年)6月に7nmの製造を1年前倒しを発表し、2017年にはリスクプロダクション、2018年には実際の物が出てきます。数字の刻みだけを見ると、14nmから2年で10nmに行って、今度は早ければ1年で7nmに行く。GLOBALFOUNDRIESは10nmをスキップして7nmに行き、Samsungはもう10nmの量産を始めている。こうしてみるとファウンダリの方は順調に行っているように見えます。
ところが、数字の刻みが違うというのがあって、TSMCの16nmはIntelの刻みで言うところの18.5nmぐらい、Samsungの14nmもIntelで言うところの18nm相当。しかしTSMCの10nmはおそらくIntelで言うところの10.5nmで、Samsungの10nmはIntelで言うところの12.5nmぐらいなので、数字のズレが生じています。フィーチャーサイズを小さくするだけでなく、そのほかのところを小さくしてロジック全体を小さくする動きがあるので、とてもややこしい。
真面目に刻むと遅くなっているように見えるけど、刻みを小さくすることで順調に小さくなっているように見せかけているのが業界全体の動きです。根源的なところはEUV(極端紫外線露光)の立ち上がりで、これが引っかかっている。EUVさえ導入できれば一気に進展するもので、この部分が解決すれば、Intelは7nmから先、ファウンダリは5nmから先の微細化が可能になってくると思います。
笠原:Intelという会社の製品部門と製造部門は、違う会社だと思った方が良いくらい違うので、意外とシンクロしてないんですよね。この話って、製品部門と製造部門のそれぞれの都合がだんだん合わなくなってきているということなんでしょうね。
・Apple、9.7型に小型化された「iPad Pro」を発表
笠原:12.9型のiPad Proは、アメリカではよくユーザーを見かけるのですが、日本では「ちょっと大きいな」と感じる方が多いのではないかと思います。9.7型になったことで価格も手頃になったので、買いやすくなったのかなと思います。僕も買いましたが、ペンの書き心地もいいし便利に使ってます。傾き検知もありますし。弱点としては、バッテリが持たないところですね。使い勝手は悪くないです。
後藤:iPadはモバイル向けSoCの中では最高峰のチップを使っているのですが、それでも画面解像度に対するグラフィックスの能力がいつもギリギリなんですよね。9.7型iPad Proでは同じチップを搭載しながら画面解像度を落としているので、実用的なグラフィックス面では有利だと思います。
笠原:ただ今となっては、iPad Proよりも僕が今使っているiPhone 7の方が新しいSoCを使っているので、重たいゲームを動かしてみると体感できるレベルでiPhone 7の方が動作が軽いですね。
後藤:iPhone 7のGPUは同じ世代でも内部アーキテクチャが異なります。PowerVRの中のパイプラインの長さを2分の1に切って、段数を2倍にすることで速くしているんです。だからGPU性能が大きく伸びています。
4月
・Intel、ビジネスの主軸をPCからIoTにシフト、最大12,000名の人員削減へ
笠原:IntelはIoT主軸にしたい、と言っていますが、事業全体の割合から言えばまだ数%ないくらいですよね。
後藤:IntelのIoTは、今年になって「少しはやる気があるのかな」というのが見えてきたフェーズです。
笠原:ここで言うIoTとは何かと言うと、IoTと聞いて世の中がイメージするIoTというよりは、エンベデッド(組み込み)の延長線上にあるIoTのことを指します。
後藤:モノとしては、深層学習(ディープラーニング)推論向けのクライアントチップが起爆剤になると言われていますね。自動運転車に関する研究開発で使われている、深層学習で使われています。ちょっとダークな話ですけど、具体的な一例としては、ナショナルセキュリティ(国家安全保障)の観点から、カメラで怪しい人物を検知したいという用途に需要があります。例えば自動運転車において、カメラが認識した人間やほかの車が正しく判別できているかの推論処理を、クライアント側でやる機運が高まってます。
笠原:一方の、学習についてはサーバー側ですね。
後藤:ここで重要なポイントは、ついこの間までIoTは「組み込みの延長だった」のが、深層学習に使われるようになったことで「組み込みの延長ではなくなった」ところ。そこに対してIntelがようやく戦略を打ち出しつつある段階です。
笠原:クライアントに関して言えば、Atomの後継がロードマップ上からなくなったので、そこをどう埋めるかを今社内で議論している段階だと思います。それが見えてくるのは来年のIDFになるのではないかと思ってます。
後藤:この市場では、CPUは重要ではなく、ニューラルネットワークのアクセラレータが重要になってくると思います。今はGPUだけど、今後は専用のプロセッサになる。今はCPUとアクセラレータが一緒になった製品を提示していますが、将来的にはニューラルネットワークしかできないアクセラレータになるでしょう。
・東芝、富士通、VAIOのPC事業統合は白紙に。複数メディアが報じる
山田:日本のメーカーが作るPCが手に入りにくくなる時代が目前に来ている気がする一方で、日本のメーカーにしかできないことをしているベンダーさんもいるし、期待することと、失望することも今後あるでしょうけれども、僕はこの3社が一緒になるという話は、なくなってよかったと思っていますよ。
若杉:ところで楓ちゃんは、PCを使っていますか?
勝又:MacBook Proを使っています。
若杉:MacBook Proを選んだ理由ってなんですか?
勝又:なんだろ。……かっこいいからかな。高校2年生の時から持っていますが、今持っているMacBookは2~3年前に買ったものです。
若杉:ということは、日本のPCには見た目的にパッとしたものがなかったということですか?
勝又:お店に行って画面を見た時に、一番綺麗だなと思ったのがMacBook Proでした。
笠原:店頭で綺麗に見えることは重要だとメーカーさんもよく言ってますよね。
山田:僕は画面にタッチして操作したいからMacを選ぶことはないかなぁ。
笠原:Touch IDがあるじゃないですか。
山田:いやそうじゃなくって(笑)。
笠原:この3社って、いずれも工場を国内に持ってるので、もし合併したら工場が3つになっちゃうわけです。そこが上手く折り合わなかった要因になったのではないかと考えています。実際に取材してみると、そういった主旨のことをおっしゃる方も多かったですしね。
山田:LenovoとNECパーソナルコンピュータが群馬の事業所に修理センターを集約したんですが、話を聞いたら「もう1社分くらいは大丈夫」って言ってたよ。どこだろうね?(笑)
若杉:その話も出てきますので、また後ほど。
・NVIDIA、PascalベースのGPU「Tesla P100」を発表
後藤:FinFET、HBM2、巨大ダイ。28nmプロセスで3年半停まって、ここにきて詰め込めるものは全部詰め込んだ。今まで停滞していた部分を一気に解消したのがPascal世代です。
1つのポイントは、GPUが深層学習に使われ初めたことで、データ処理効率化のために小さいデータ精度が必要になり、8bit以下のデータ精度が求められるようになったということです。32bitでいったん収束した浮動小数点を、細分化して並列処理できるようにする必要が出てきた。Tesla P100は8bitに対応しました。
GPUの次のトレンドは、これから先、32bitのパイプラインにSIMT(Single Instruction, Multiple Thread)型のアーキテクチャをはめ込んで、16bitや8bitの処理を並列化し、深層学習をより速く処理できる方向性になっていくのだと思います。
山田:素朴な疑問なんだけど、いつまでGPU業界が深層学習でやっていけると思う?
後藤:問題はそこなんですよね。GPUはデータセンター向け製品として生き残るでしょうが、クライアント側に入ってくるデバイスとして、GPUが今後も生き残るのか、それとも専用プロセッサになるのか。NVIDIAは次の世代の製品で“アクセラレータ”を入れるようですが、僕はおそらくそれが深層学習用のアクセラレータだと予想しています。
今、多くの企業が深層学習専用のチップ、専用のアーキテクチャを作っていて、どのカンファレンスでもそのテーマが目玉なんですよね。だから今後、NVIDIAやIntel、AMDがそういう製品を作ってくるかどうかは焦点になってくるはずです。
山田:ということは製品の分類としてはDPU(Dataflow Processing Unit)とかLPU(Local Processing Unit)でリリースされる可能性もあるわけですね。
笠原:Tesla P100のシステムって1台で数千万円するんですが、僕がGTCを取材して一番驚いたのは、会場でNVIDIA関係者が「Tesla P100が何台売れた」とかいう話をしていたことです。
後藤:僕の知り合いもその場で2台買っていった(笑)。
笠原:深層学習って、クラウドの向こう側で非常にニーズが高まっている。そのくらいみんなが演算能力を必要としている。それが今、深層学習の現場で起きてることなんです。
5月
・ついにコンシューマ向けで10コアを実現した「Core i7-6950X」
若杉:笠原さんはこのCPU、好きですか?
笠原:好きですよ。コア数は多い方が良いじゃないですか。僕はしょっちゅう外出しているので、あまり家のデスクトップを使わないのですが、ゲーマーの人は歓迎してましたよね。
後藤:すごい長い視点で見ると、CPUダイが大きい多コアの用途はすごく限定されていきます。データセンターもヘテロジニアスになっていっているし、FPGAのようなアクセラレータも入っていってますから、必ずしもこのような製品が必要になるわけではないですね。もちろんサーバー向けに多コアの需要はあると思いますが、その需要はだんだん縮小していくでしょう。
山田:このくらいの性能があるプロセッサでないと使い物にならないゲームとかOSとかGUIとか使ってみたいと思うけど、僕が普段PCを使ってる用途では宝の持ち腐れになってしまうなぁ……。
若杉:4Kの編集とかになると、CPU性能はできるだけ欲しいですね。Xeonでも足りないくらいです。
6月
・Microsoft、Windows 10 Anniversary Updateを8月2日より提供開始
笠原:Windows 10の中では重要な位置付けのアップデートです。手書き入力補助機能の「Windows Ink」やCortanaの強化など、新しい機能も盛り込まれました。
若杉:一方で、半ば強制的ともとれるアップグレードの推進を批判する声もありました。これはWindows 10無償アップグレードのときにも指摘されていた問題です。
笠原:率直に言って、Windows 7からの無償アップグレードは、もう少しやりようがあったんじゃないかなとは思います。Microsoftが新しいバージョンを推進したいのはよくわかるのだけど、ユーザーもそれぞれビジネスでPCを使っていたりするので、環境が変わってしまうのは困りますよね。
・純中国産スパコン「神威太湖之光」が世界スパコンランキングで1位
若杉:ここ数年、中国がスパコンランキングの首位を独走していることで、中国が国の威信をかけてスパコンの性能を世に示した一方で、「LINPACKベンチマーク専用設計だからこそ性能が出ているのであって、実際の用途では性能が出ない」という説もあります。
笠原:TOP500って、極端な話、これのためにいくら予算をかけたかでだいぶ変わってくるので、そういう意味では、やはり国の勢いを示していると思います。
後藤:これは本当に謎が多いのですが、中国がすごいのは、TOP500の1位をとっただけではなく、TOP500に含まれる中国製スパコンの割合も米国を抜いて1位になったことです。つまり、世界で最も多くスパコンを持っている、つまり最も演算能力が集中している国は、今、中国になった。
詳しいことが何も分かっていないけど、スタンダードな作り方じゃないです。今の流行りはヘテロジニアスでCPUとGPUだけど、神威太湖之光は純粋なメニーコアで、メモリアクセスが問題になるので、そこはオンチップのスクラッチパッドを持ってそこに書き込むアーキテクチャですね。実際に使ってどうなのかは、正直コメントしづらいです。
笠原:僕としては、もう1つの「Green 500」(稼働エネルギー効率順のランキング)に入る方が難しいと思っています。そっちのトップは東工大の「TSUBAME」ですよね。
7月
笠原:これはシンプルに「孫さんはいい買い物をしたな」ということですよね。この発表がされた日にみんな言ってたのは「ARMって売りに出てたんだ」でした。色んな半導体メーカーの人に話を聞くと、ARMが売りに出ていたこと自体を誰も知らなかったんですよ。ところが、孫さんだけがそれを知っていた。そこが孫さんのすごいところです。ARMはこれから確実に価値が上がると思いますよ。
祥平: 孫さんは、「たった3兆円」って表現してましたよね。
後藤:ARMの顧客は、これをきっかけに戦略が変わるんじゃないか、例えばIPの抱き合わせをやるんじゃないか、なんて心配をしていますよね。聞こえてくるのはそういう声ばかりです。ソフトバンク側は、そうではないことをアピールしています。これがいい買い物なのかどうかは、今後もARMがIoTの主役で居続けられるかどうか、というところ。
ARMはこれまで「組み込み」の主役でした。今後IoTが組み込みの延長上から、さらに別のものへ変貌していくとき、ARMがそれに追従できるかは、実は具体的には分からない。
笠原:例えば今、Fitbitに搭載しているCPUには追従できているが、深層学習の用途に最適化できるかどうか、それに対応する戦略がまだ明らかになっていないんです。
8月
・Intel、Kaby Lakeこと第7世代Coreプロセッサを正式発表
若杉:“Kaby Lake”の読み方って“ケイビーレイク”でいいんでしょうか。
笠原:僕が聞いてる限りだと、カビーレイクより、ケイビーレイクの方がよく聞きますね。
Kaby LakeではSkylakeからビデオエンジンが変わり、プロセスルールに改良が入ってクロックがちょっと上がりました。まあ、そんなには大きく変わってないですよね。“成熟したSkylake”という言い方がしっくりくると思います。この後「Coffee Lake」もあるので、Intelの14nmはこれで終わりではないことが具体的な形で明らかになったのです。
山田:この世代から、Core m3だけを残して、Core m5/7のブランドが無くなってしまったんですが、個人的にはこのブランディングってどうなんだろうと思います。
笠原:その理由は多分、Core mがあまりヒットしなかったので、「Core i5/i7」として売り出した方が良い、という判断なのだと思います。Core m3は、PentiumでいうところのCeleron相当の位置付け、つまり“安いブランド”として残したということなのではないでしょうか。まあ、Intelのブランドは割とすぐ変わりますから。
後藤:製造面から言うと、例えば今後10nmのプロセッサが出てきた時、一気に切り替わるわけではなく、14nmのプロセッサも並行して徐々に切り替えることで、移行の曲線は緩やかになります。今後のプロセスは、シュリンクしても、それに伴ってプロセス自体が複雑になるので、そのために製造コストが上がり、ウェハ1枚当たりの価格が上昇します。つまりチップがシュリンクしても安くはならないので、今後は14nmと10nmの両方でプロセスの改良と製品自体のリリースが続いていくはずです。
笠原:Intelの場合は、次の世代が10nmの「Cannon Lake」ですが、それが出てくるのが、来年の第4四半期くらいです。その後に14nmの「Coffee Lake」が出てきます。位置付けとしてはCoffee Lakeの方がハイエンド寄りなので、メインストリームの方がより小さいプロセスルールで作られるという、なかなか面白い現象が起きています。
後藤:その時点での10nmの利点は「低消費電力化」です。
笠原:問題は、2018~2019年にPCのマーケットが、どのくらいの規模で残るのかが現時点では読めないところですね。
9月
若杉:iPhone 7はお三方とも購入されたんですね。客観的に見て、iPhone 7のインパクトはどの辺りにあったと思いますか?
笠原:iPhone自体は良い製品で、性能は向上してますが、ここ数年、ユーザビリティの観点から見ると、大きなアップデートがありませんでした。形はおおむね一緒だし、画面サイズもPlusが出たくらいだった。でもiPhone 7にFeliCaが入ることで、日本に限って言えば、新しい使い方のモデルを提案できたんじゃないかと思います。
後藤:僕は中身しか見ないので、iPhone 6sでFinFET 16nmプロセスが導入されました。そういう意味でiPhone 6sが、iPhoneの大きな切れ目と見做しています。
iPhone 7/7 Plusは16nm FFCに変わっているものの、見た目の世代としては同じなので、大きな変更は次に来ると見ています。とは言え、GPUはパイプラインの段数を2倍にして周波数を向上しているし、CPUは大きなコアと小さなコアのbig.LITTLEのヘテロジニアスにして省電力化を図っているので、アーキテクチャ面では結構大きく変えてきていますね。
笠原:A10 Fusionをベンチマークしてみると、ほかのSoC、特に(Qualcommの)「Snapdragon 820」と比べても、格段に性能が良くなっているのに驚きました。A9までは、ほかのSoCとそれほど大きな違いはなかったのですが、A10で大きく引き離してきた印象があります。僕はすごくバランスの取れた、良い設計のSoCだと思います。
後藤:AppleはSoCの歩留まりを上げるためと消費電力を抑えるため、動作周波数は低めに設定します。でも、今回は性能面でも不利がなくなりましたね。その辺は、ほかのARM SoCより命令発行数が多いのが効いてるんだと思います。AppleはiPhone 7で半導体のパッケージングも進歩させています。これはあまり声高には言われてませんが、実はすごく大きなジャンプなんですよね。あまり、話題にされていないけど。
笠原:それは一般ユーザーには見えないところの進化ですからね(笑)。
若杉:ところで、さっきから気になっているんですが、笠原さん、散髪しました?
笠原:ええ、一応、動画に写ると言うことで。
後藤:それで今日、遅刻してきたんだ(笑)。
10月
・ファンクションキーがマルチタッチディスプレイのTouch Barへと刷新された新MacBook Pro
・Microsoft、クリエイター向けのハイスペック28型液晶一体型PC「Surface Studio」
若杉:上記2つは、いずれもクリエイター向け製品という位置付けです。
笠原:僕が取材したAdobe MAXには両方とも展示機がありましたが、Surface Studioの方が段違いで話題になっていました。
MacBook Proもすごく良い製品だとは思うのですが、クリエイターの人から見ると、目立つところがないように見られている印象です。今回はiMacの更新がなかったというところも影響していたのでしょう。対してSurface Studioは、一体型の28型ディスプレイだけでもインパクトがあったし、試用される方も途切れることがなくて、ブースもずいぶん盛り上がっていました。
後藤:AppleとMicrosoftの立場が入れ替わったみたいな話ですね。
笠原:そう思います。
若杉:クリエイター向けのコンピュータはこれまで「PhotoshopやIllustratorはMacで使うもの」というイメージがあったし、実際使っている方も多いと思うんですが、Microsoft側でも、Surfaceシリーズの登場以降はペン対応を導入・強化してきたし、特に今回はSurface Dialという新しいインターフェイスも投入してきました。特に最近はクリエイターに向けた施策が目立ちます。
笠原:それができている理由は、Windows 10で全く新しいアーキテクチャを採用している点が効いているでしょう。ある人が「Windows 10ってiOSとmacOSをくっつけたようなものでしょ」と話していて、確かにそれは言い得て妙だなと思いました。
Windows 10はスマートOSとしての機能と、プロダクティビティのOSとしての機能の両方を持っています。だからSurface StudioやSurface Bookのような製品が作れる。
それに対してmacOSはどうなのかというと、OSとしてのアーキテクチャは2006年くらいからのバージョンアップに過ぎないので、その結果、ペンが使えないとか、Surface Dialのような新しいデバイスを追加できないということが起きているわけです。そこが現時点でプラットフォームとしての差になっていると思います。
若杉:後藤さんはMacBookを購入されたことってありますか?
後藤:MacBookはないですね。デスクトップはCPUがPowerPCに変わった時に買いました。
笠原:ずいぶん昔ですね(笑)。でも、僕もPowerPCのThinkPadが欲しくなりましたよ。ただ、100万円クラスだったので、諦めましたが(笑)。
若杉:MacBookを買わない理由って何かあります?
後藤:求めてるPCのスペックに合致するものがMacBookにないというのが、理由としてあります。あとは単に管理が面倒なので、複数のOSを混在させたくないからですね。
笠原:“ホームIT管理者”って本当に辛いんですよ。給料も出ないのに、管理だけやらされるわけじゃないですか。なのに、何かトラブルがあって写真とかが消えると、奥さんに怒られるとかね。
後藤:逆もあって、あるライターさんの家庭では奥さんが触るとそのPCが壊れるらしい(笑)。
若杉:この仕事してると、“パソコンに詳しい人”と思われるので、周囲の人からサポート代わりに使われちゃうことももあるんですよね。この間もある人から、LINEで“Wi-Fiに繋がらないんだけど、なんで?”っていう質問が来て。まあその情報だけでは、“知らない”としか言えないので、電器屋の電話番号を教えました(笑)。
・Lenovo・富士通、PC事業における戦略的提携検討を公式発表
山田:この件については色んな人に訊くんですが、みんなどう「分からない」というコメントですね。これは今後どうなるのか、少なくとも日本にいる人は誰も分からないんじゃないでしょうか。
Lenovoは買った会社を大事にする企業だと思うので、もし提携したら、日本的な部分も含めて上手くいく可能性もあります。僕はそこに期待したいかな。
笠原:そうですね。実際、NECパーソナルコンピュータの人たちは、Lenovoに買われた結果、今でも生き残っているわけだし、米沢で作ったNECパーソナルコンピュータのPCは、国内だけではなく、Lenovoブランドとして米国展開もしているので、NECパーソナルコンピュータを買ったことは“幸せな買収”だったと思います。
ただ、今回、富士通のPC部門を買うという話になった時、先程言ったように工場はどうするのかという問題は付きまといます。Lenovoはすでに米沢工場を持っているので、それに加えて出雲や福島の工場を持つことが、ビジネス的にミートするのかどうかはまた別の議論としてありますよね。
Lenovoの開発陣の層はすでに相当厚く、また、大和にThinkPadの開発拠点があり、そこにNECパーソナルコンピュータの開発者が加わったわけです。そこへさらに富士通の開発陣を加える必要はあるのか、という問題もあります。そういう意味では、富士通にとって幸せな出口があればいいなとは思いますね。
若杉:一般消費者からすると、それがどういうメリットとして返ってくるかが関心事なわけですよね。例えば統合によってより安価に良い製品が買えるようになるとか、そういうことだと思うのです。
笠原:日本市場は海外と比べて若干高価なPCが売れる傾向があるので、それが今後、低い方にシフトするのかどうかはまだ分からないのですが、販売の方に話を聞くと、現状としては単価が上がる傾向にあるという状況があるようです。PCの場合は、多少高価でも、良いものをより長く使いたいという市場になっている印象があります。
11月
・HoloLensが12月2日より国内予約開始。価格は約36万円
若杉:HoloLensがOculus RiftやHTC Viveと違うのは、単体で動作する点、そしてAR向けのデバイスであるという点です。開発者向けに国内での予約販売が始まったというニュースですね。
笠原:HoloLensは実際に被ったことがあるのですが、非常に良いですよね。網膜照射で若干目は疲れるのですが、ARがすごいなと思うのは、既存のUIが変わってしまうところです。僕らは普段、PCをキーボードで操作するわけですが、それがジェスチャ操作に変化するのが革新的ですよね。
VRとARの市場を見てみると、最終的にARの方が大きな市場になるのではないかと言われていて、ARの市場、特にビジネス向けの市場が伸びるとの予想もあって、これからはこのあたりで面白いものが出てくるのではないかと思います。
若杉:ARは従来より、作業者向けのデバイスとして業務の現場で活用されてきました。HoloLensもその用途を想定しているようです。
笠原:この分野の課題は、ディスプレイ技術が定まっていないことだと思います。まだ“決定版”と呼べるものがない。この分野は、そうした“決定版”が出てきたときに、大きく成長を見せるのではないかと考えています。
後藤:一番理想的なのは、視神経に直接入力するようなやり方なんですけどね。
笠原:後藤さんいつもそれ言いますよね(笑)。
若杉:それは5nmの時代でもまだ実現できませんよね(笑)。
後藤:それはまだ不可能なので、一先ず近いうちに、網膜照射の技術革新というステップは必ず来るでしょうね。
「スノウ・クラッシュ」というSF小説があるのですが、それにちょうどHoloLensのようなHMDが登場するんですよね。ほかのHMDと比べてもHoloLensが一番近いです。だから今後の進化形にはすごく期待しています。
笠原:未来予想図としてのSFは面白いですよね。僕が最近追っている分野では自動運転があるんですが、自動運転の話をするときに、多くの日本人は、運転席にロボットが座っているイメージを持つみたいなんですが、アメリカ人にとっての自動運転は「ナイトライダー」の「ナイト2000」なんですよね。
ロボットにしてもそうで、僕らにとっては例えば「ガンダム」なんですけど、アメリカ人は「2001年宇宙の旅」の「HAL 9000」を想像する。ヒトがものに抱くイメージは大事だと思いました。
若杉:HoloLensは、Windows Holographicとしてプラットフォームやアーキテクチャをサードパーティにライセンスして、サードパーティからも出せるようにもしましたね。
笠原:これはAPIなので、必ずしもHoloLens用というわけではなく、HTC Viveなど他社のVR HMDも使えます。
山田:HoloLensは基本的にスタンドアローンのコンピュータなので、複数のモデルを出して処理能力に差を付けることができます。
そうした選択肢がある中で、どのターゲットに向けて何をやるかというのは、アプリケーションを考える人のアイディア次第でどうにでもなるんですけど、僕らが現時点でHoloLensを使ってみて、実際にどういうものなのかを判断するのは、まだ時期が早い気がしています。判断できるレベルに到達するにはあと3年くらいかかるんじゃないかな。
笠原:まあ一応。来年から立ち上げるみたいですけど。
山田:いけるかな。見た感じ、まだMSXのスプライトなんだよなー(笑)。
笠原:HoloLensのデモで面白いのは、スター・トレックのミスター・カトー(ヒカル・スールー)役で知られるジョージ・タケイさんがUIで出てきて、なんかやる内容のものがあるんですけど、そういうUIになる可能性もあるんですよね。そこがポイントかなと思います。
・2016年度上期の国内PC出荷台数が5半期ぶりにプラスに転じる
若杉:PC業界としてこの勢いが続いてくれればなぁというところですが。コンシューマとビジネスもまた市場が違いますからね。
笠原:元のデータの主旨としては、ビジネス向けPCが回復したので、PC全体の出荷が増えたという話ですね。
最近起きてる現象としては、PCをカジュアルに使っていた層、例えばSNSやWebをPCで見るだけだった層は、タブレットやスマートフォンに移行してしまいました。そして彼らがPCに戻ってくるのは想像しにくい。PCメーカーさんもそう考えて、施策としては、安いモデルをなくして、生産性を上げる製品を作るようになってきました。
PCって元々そういう方向を向いてましたよね。でもそれが、インターネットを使えるデバイスとして安価な製品が出てきて、低価格化していったというのが歴史的な流れなわけです。
そして今市場がなくなっているのは、まさにそうした安価なPCです。今後はPCの単価が上がり、同時に利益率も上がってくるので、ビジネスとしてはやりやすくなる環境になることも考えられます。
VAIOのように、規模が小さくなり、出荷台数が下がっても、ちゃんと黒字になる。それは良いことですよね。そうしたメーカーさんが革新的な製品を作れるようになるのであれば、その流れは歓迎したいです。
今、Windows 10の登場によって、僕らが使うPCはローカルとクラウドが同居するコンピューティングのモデルになっていますよね。そしてこれから、モデル自体が完全にクラウドに移行しようとしています。そのとき、サーバー側のアプリケーションも含めて、クラウドをもっと使うにはどうすれば良いかをPCメーカーも考えて行かないと、生き残っていけないと思います。
山田:フォームファクタはどう?
笠原:それはあまり問題じゃないですね。好きなものを出していけばいいと思いますよ。
山田:例えばパナソニックは“丈夫なPC”を作っているわけだけど、メーカーの人には「そんなに頑丈じゃなくてもいいから、もっと軽くして欲しい」って言ってみたことがあるんですよ。そうしたら「うちにはそういう需要はないんです」との返答をもらったことがありました。
笠原:今ほかのメーカーさんが追従して丈夫なPCを作っているところを見ると、やはりパナソニックさんの方向性は正しかったんだと思いますよ。
若杉:PCってWindows 95とか98の時代から、「なんでもできる魔法の箱」みたいな言い方をされてたんですけど、それって逆に何をやれば良いのか分からなくなってしまうと思うんですよ。やっぱり、PCを買うには目的があって、必要性があって買うものだと思うんですよね。“PCならこれができる”というシナリオをユーザーに向けて見せる必要はあるのではないでしょうか。
笠原:意外と、そういう使われ方をされてないように僕には思えるんです。たとえばスマートフォンも「なんでもできる箱」なわけですけど、みんながスマートフォンで何をしているかを考えると、みんなが使いたいSNSとか動画サイトのアプリなんかは、どれもサービスの本体はクラウド側にあるんですよね。そのクライアントとしてスマートフォンを使っている。
僕はPCもそうなるべきだと思っています。クラウドサービスを、いかに便利に使えるかを見なきゃいけない。例えばですけど、スマートフォンと同じサービスを使うにしても、「画面を見るなら大きい方が良いでしょ?」とか「キーボードで文章を打ち込んだ方がたくさんリプライできるでしょ?」とか、そういうアピールを上手くやらないと、今後厳しいんじゃないかなと考えています。
山田:すぐそこにPCがあるのに、調べ物をスマートフォンでする人が回りに多いんですよね。
若杉:でも、若い世代だと、むしろキーボードよりスマートフォンのフリック入力の方が速くて、卒論もスマートフォンで書く人もいますよ。
笠原:でも、慣れるとキーボードの方が速いはずなんですよ。そこをうまくアピールすれば、PCに戻ってきてくれるんじゃないでしょうか。
山田:楓ちゃんの周囲もスマートフォンで卒論書いてました?
勝又:移動中はスマートフォンで入力してる人はいましたね。
山田:最終的な清書はPCでやると?
勝又:そうですね。
山田:最近の学生の悩みは、スマートフォンで論文を書いた時に、プリンタが使えないことだそうです。
笠原:使うシチュエーションによると思うんですよね。机に座ってるならPCが便利だし、電車の中ならスマートフォン、ベッドで寝てる時はタブレットが便利だったりするわけです。
後藤:僕はベッドでもPCだけど(笑)。
若杉:後藤さんはPCを天吊りして寝ながら使えるようにしてるんですよね(笑)。
山田:PCとスマートフォンは競合せず、協調してより便利に使える物だという訴求が必要なんだと思うんですよね。
後藤:僕からすると、手で入力することが今後なくなって、音声入力したり、あるいは文章を書く作業もなくなって、あらましをコンピュータに伝えると、その文章をコンピュータが作文してくれるという時代がすぐそこまで来てるのかなと。
若杉:それが実現すると、東京オリンピックの頃には、このお三方は廃業ですね(笑)。
山田:その時は、Windowsがブルースクリーンになったら直す仕事をします(笑)。
12月
・Win32アプリが動く“ARM版Windows 10”はフル機能搭載の完全なるWindows 10
若杉:これまでは「Windows 10 Mobile」とか「Windows RT」といったモバイル専用のプラットフォームがあったわけですが、ここで、デスクトップ向けアプリがフル機能で動くARM版Windows 10が出ることになりました。
笠原:ポイントは2つあって、1つは「Win32アプリが実際どのくらい動くのか」、もう1つは「どのくらい自由に使えるのか」ですね。Windows RTは制限が多すぎたことで普及しなかったので、その失敗を受けて、どのように変えてきているのかは注目したいところです。
Win32用アプリケーションがフルに動く“見通し”ですが、各々のアプリケーションはARM版Windows向けにリコンパイルしなければならないので、使えるようになるにはそれなりに時間がかかるだろうと思います。
また動作速度については、そこそこの速度が動きますが、ゲームとかCADソフトはかなり重くなると言われています。Officeのアプリケーションを使う程度なら問題ないらしいです。
今のところ明らかになっているサポート環境としては、Snapdragon 835以降としています。このSoCはハイエンドのスマートフォンにしか入らないので、いざ製品が出るときに、どの価格帯のスマートフォンやタブレットに入るのかが問題になります。
Windowsタブレットは、ハイエンドからローエンドまで厚い層をカバーしているわけですが、Snapdragon 835は、価格的にミドルレンジからローエンドまでのデバイスをカバーできないはずので、そこに降りてくるのがいつになるのか。Microsoftによれば、2017年末頃には、すべてのデバイスにSnapdragon 835が載ると言われているので、それ以降のタイミングになるというのが有力です。それが2018年なのか、もっと後なのかによっても、いろいろと変わってくると思います。
後藤:バイナリのトランスレーションは、Intelのx86からARMにトランスレーションする方が簡単で、ARMからx86に持ってくる方が厄介です。と言うのは、32bitの場合、条件実行命令があるのでそのフラグの問題を解消しないといけないので。それから、コールドとホットなトランスレーションを組み合わせるんだろうと思います。
山田:これって両刃の剣という感じがします。仮にこのプロジェクトが上手くいったとすると、2025年くらいにまだWin32アプリが使われている、という状況になるわけじゃないですか。それってWindows 7の二の舞の状況が10年後くらいに起こる感じがして、ちょっと嫌だなあ。
笠原:それは別に良いんじゃないかと僕は思います。Windows 10は2in1であることが最大の特徴であって、ローカルとクラウドのアプリケーションが同時に動くのがWindows 10の良いところなので、それは2025年でも続いていて良いと思います。
少なくとも、ビジネス向けのコンピューティングにおいては、x86のアプリケーションがなくなることはないでしょう。
後藤:この記事は今書いています。ごめんなさい(笑)。※編集部注:その記事はこちら
若杉:本当だともう載ってる予定ですよね(笑)。
後藤:名前については、CPUも「R」から始まるものになり、AMDがATIに乗っ取られていることを暗示するような名称ですよね(笑)。メタルギアソリッドぽくもあるけど(笑)。
ZENアーキテクチャについて言うと、マイクロキャッシュだとか、Intelがやって高速化に寄与した機能を全部入れこんだ上で、ゼロから綺麗に組み立てたので、すごく綺麗なアーキテクチャに仕上がっています。Bulldozerのように予想が付かない性能のでこぼこは起きないでしょう。
AMDは過去にシングルスレッドあたりの性能は諦めて、ダイあたりでのスレッド実行数を高める方に持ってきたのを、また元に戻しました。これでシングルスレッドの性能で、ようやくIntelと戦える性能になっているので、そういう意味では、Intelが持ってる市場に入り込んで、サーバーとかハイエンドでもう一度戦えるCPUが出てくると思います。
笠原:サーバーがもう一度カバーできるというのもポイントですよね。サーバーの市場は今、Intelがほぼ100%持ってるみたいな市場になってしまったので、そこに切り込んでいけるのは大きなインパクトです。
後藤:もう1つのポイントは、ZENはサーバー用ではIntelと同様にCPUであってAPUではない点。AMDは一度、サーバーもAPUでカバーしようと考えましたが、それは止めて、ハイエンドではCPUとGPUをコヒーレントインターコネクトで繋ぐことも言い始めてます。NVIDIAのNVLinkもそれですよね。
笠原:AMDは事業を立て直してる段階ですが、RYZENの登場でかなり整理されてきた感があります。だから来年は、かなり期待して良いんじゃないかと思っています。
っていうかAMDには復活してほしい。AMDが元気ないと、PC業界は面白くないので。
若杉:確かに、この記事のツイートを見ても、根強いAMDファンの方が期待をかけてる様子が見て取れました。
後藤:まあ実際の性能は、出てみてのお楽しみというところですね。