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Intel、Kaby Lakeこと第7世代Coreプロセッサを正式発表

~Skylakeからビデオエンジンが強化

7世代Coreプロセッサのウェハ

 米Intelは30日(現地時間)、コードネーム“Kaby Lake”で開発を続けてきた最新プロセッサを、「第7世代Coreプロセッサファミリー(以下第7世代Core)」として発表した。

 第7世代Coreは、前世代製品となる第6世代Coreプロセッサ・ファミリー(以下第6世代Core、開発コードネーム“Skylake”)と比較して、14nm製造プロセスルールに改良が入り、クロック周波数が引き上げられたほか、ビデオエンジンが改良され、4K HEVC 10-bitビデオのデコード/エンコードなどに対応する。

 今回発表された第7世代Coreは、いわゆるUプロセッサ/Yプロセッサと呼ばれる、TDP 15Wないしは4.5Wのノート/タブレットPC向けSKUで、既にOEMメーカーへの出荷が開始されており、9月上旬から搭載製品が市場に登場する見通しだという。OEMメーカーからのノート/タブレットPCの大規模出荷は、今年(2016年)の年末商戦あたりになるとIntelでは予想している。

 なお、Uプロセッサ/Yプロセッサ以外の製品に関しては、来年(2017年)の1月発表となる見通しだ。

TICK-TOCK-TOCK+の新しい開発方針の最初の適用例となる第7世代Core

 Intelのマイクロプロセッサ開発は、ムーアの法則という経済法則、そして「TICK-TOCK」と呼ばれる開発戦略の2つに基づいている。

 ムーアの法則は、「18~24カ月に1度、半導体の性能は倍になる」という、Intelの共同創業者の1人であるゴードン・ムーア氏が提唱した経済法則。より平易に言うのであれば、約2年に1度、半導体メーカーがより微細化した新しいプロセスルールを導入し、半導体の1つのダイに詰め込める回路数が概ね倍(イコールではないが、性能が倍になるのとほぼ同じ)になるため、それに備えて製品設計をすべきだ、という意味になる。

 TICK-TOCKは、その2年に1度新しいプロセスルールが導入されるというムーアの法則に従った製品作りを、より分かりやすく説明した開発方針になる。

 2年のうち最初の1年目に関しては、新しい製造プロセスルールが導入されるので、その製造プロセスルールの性能が倍になることを利用して、前の世代の設計仕様(マイクロアーキテクチャ)を流用する。これをTICKと呼んでいる。2年目には、その最新のプロセスルールを利用して、新しい製品の設計仕様を導入し、さらに性能を高める。このように、新しいプロセスルールと新しい設計仕様が交互に投入される開発手法を、時計の針がチクタクと時を刻むことをイメージして“TICK-TOCK”と表現している。

TICK-TOCK-TOCK+の開発プロセス
投入年TICK-TOCKプロセスルールブランド開発コードネーム
2010年TICK32nmCoreWestmere
2011年TOCK32nm第2世代CoreSandy Bridge
2012年TICK22nm第3世代CoreIvy Bridge
2013年TOCK22nm第4世代CoreHaswell
2014年TICK14nm第5世代CoreBroadwell
2015年TOCK14nm第6世代CoreSkylake
2016年TOCK+14nm第7世代CoreKaby Lake

 だが、ここ数年、ムーアの法則がさまざまな理由から現実的に難しくなりつつある。ムーアの法則は経済法則なので、半導体メーカーにとって新しいプロセスルールを2年に1度導入することが、経済的にメリットがあるという話なのだが、最先端のプロセスルールの開発コストは増える一方で、Intelのようなキャッシュフローに余裕がある会社であっても、経済的に見合わなくなりつつある。

 実際、2012年に導入された22nmプロセスルールから、14nmへ本格的に移行できたのは2015年に入ってから(一部製品は2014年に導入された)で、その2015年に本格導入された14nmプロセスルールから、次の10nmへ本格的に移行できるのは2018年になると考えられており、実質的に3年に1度というサイクルになりつつあるのだ。

 このため、そのムーアの法則に基づいて作られてきたIntelのTICK-TOCKの開発方針も、軌道修正が行なわれている。2年から3年に1度新しいプロセスルールが導入されるという現状に対応する必要があるからだ。このため、TOCKに相当する新しい設計仕様(マイクロアーキテクチャ)の製品を、2世代続けて投入する方針に変更されており、「TICK-TOCK-TOCK+」とでも言うべき、TOCKの”マイクロアーキテクチャ最適化版“を3年目に投入するという方針に変更されている(TOCK+という便宜的な呼び方で、Intel自身の呼称ではない)。

 今回発表されたKaby Lakeこと第7世代Coreは、このTOCK+に相当する設計仕様の最適化版に相当する製品となる。

14nm+と呼ばれる改良版の14nmプロセスルールを採用することで、クロック周波数が引き上げられている

 第7世代Coreは、14nmプロセスルール世代の製品で、TICKに相当する第5世代Core(開発コードネーム“Broadwell”)、TOCKに相当する第6世代Coreに次ぐ3番目の製品となる。

 ただし、第7世代Coreに利用されている14nmプロセスルールは、同じ14nmプロセスルールでも、第2世代と言うべき改良版になる(Intelでは14nm+と呼んでいる)。半導体のプロセスルールというのは、熟成が進んでいくと最適化が進んでいき、問題となっていた箇所が徐々に修正されたりして、ライフサイクルの後半には、消費電力が改善されたり、性能が向上したりする。この14nm+はそれに該当するものだ。

 第7世代Coreで利用されている改良版14nmでは、FinFETのフィンの形状が改善されたり、回路そのものの改良などが入ることにより、性能が向上している。Intelによれば、第6世代Coreに使われてきた最初の14nmプロセスルールのそれに比べて、12%ほど性能が向上しているという。これにより、消費電力を減らしたり、クロック周波数を引き上げたりすることが可能になった。

14nm+のプロセスルールが採用されている ※出典: Intel
Intelの14nmプロセスルールを利用して製造された、第7世代Coreのウェハ

 ユーザーにとって分かりやすいメリットは何かと言えば、クロック周波数が引き上げられていることにある。第7世代Coreの最上位SKUとなる「Core i7-7500U」は千個ロット時の価格で393ドルの価格が付けられているが、同じ価格帯の第6世代Coreの製品だと「Core i7-6500U」と「Core i7-6600U」がある。これをクロック周波数の観点でCore i7-7500Uと比較してみると、以下のようになる。

第6世代Core Uプロセッサと第7世代Core Uプロセッサの同じ価格帯のでのクロック周波数
モデルCore i7-7500UCore i7-6600UCore i7-6500U
ベースクロック2.7GHz2.6GHz2.5GHz
ターボ時クロック3.5GHz3.4GHz3.1GHz
価格393ドル393ドル393ドル

 これを見れば一目瞭然だが、同じ価格帯でありながら、ベースクロックもターボブースト時のクロックも引き上げられていることが分かる。このように、クロック周波数が引き上げられているというのは歩留まりの向上を意味しており、それは14nm+、つまりプロセスルールの改良によりもたらされたと考えるのが妥当だろう。

第6世代Coreと第7世代Coreの性能比較 ※出典: Intel

マイクロアーキテクチャは第6世代Coreと同等、ビデオエンジンに改良が加えられている

 CPUの設計仕様は、ほぼ第6世代Coreのそれが流用されている。つまりCPU、GPUは第6世代Coreと同等になる。

 唯一改良されているのがGPUのビデオエンジンだ。GPUそのものに関しては、第6世代Coreで導入された第9世代のIntel GPUであり、基本的なアーキテクチャに変更はない。しかし、GPUに内蔵されているビデオエンジンには手が入れられており、動画を処理する固定ハードウェアの機能が向上している。具体的にはMFX(Multi Format codeX)、VQE(Video Quality Engine)が改良されており、動画のエンコードやデコード時の機能や性能が向上している。

GPUは第6世代Coreと第9世代で、ビデオエンジンに改良が入っている ※出典: Intel

 MFXでは10-bit HEVCのハードウェアエンコーダ/デコーダ、さらには8-bit VP9ハードウェアデコーダ/エンコーダ、10-bit VP9のハードウェアデコーダの機能や、WiDi(Miracastベース)のサポート強化、QSVのFF(Fixed Function)モードの品質機能向上などが追加されている。VQEに関しては、HDRをSDRにトーンマッピングする機能、ワイドカラーガンマ(Rec.2020)のサポートなどが追加されている。これらの強化により、HDR動画の再生がIntelの内蔵GPUだけで可能になる。

MFXとVQEの改良ポイント ※出典: Intel
第6世代Coreと第7世代Coreのハードウェアデコーダの機能の違い ※出典: Intel

 ただし、内蔵トランスミッタのHDMI 2.0や10-bit出力への対応は今回も見送られており、HDMI 2.0や10-bit出力の実装そのものは、外部トランスミッタが必要になる。このため、ディスプレイに出力できるかは、OEMメーカーがHDMI出力で外部トランスミッタを利用するかどうか次第となる。

HEVC 10-bit動画を再生している時の比較、左が第6世代Core、右が第7世代Core
第6世代CoreではCPUを使ってデコードするために、CPU負荷が50%
第7世代CoreではCPU負荷はほとんどない

搭載システムは9月から徐々に出荷される予定、大規模に出回るのは年末商戦に

 今回、Intelが発表した第7世代CoreのSKU構成は、以下のようになっている。

Intelから発表された第7世代CoreプロセッサのSKU
型番Core i7-7500UCore i5-7200UCore i3-7100U
プロセッサコア/スレッド2/42/42/4
ベースクロック2.7GHz2.5GHz2.4GHz
ターボブースト時最大3.5GHz3.1GHz未対応
チャネル数222
サポートメモリDDR3L-1600/LPDDR3-1866/DDR4-2133DDR3L-1600/LPDDR3-1866/DDR4-2133DDR3L-1600/LPDDR3-1866/DDR4-2133
GPUIntel HD Graphics(GT2)Intel HD Graphics(GT2)Intel HD Graphics(GT2)
価格(千個ロット時)393ドル281ドル281ドル
型番Core i7-7Y75Core i7-7Y54Core m3-7Y30
プロセッサコア/スレッド2/42/42/4
ベースクロック1.3GHz1.2GHz1GHz
ターボブースト時最大3.6GHz3.2GHz2.6GHz
チャネル数22
サポートメモリDDR3L-1600/LPDDR3-1866DDR3L-1600/LPDDR3-1866DDR3L-1600/LPDDR3-1866
GPUIntel HD Graphics(GT2)Intel HD Graphics(GT2)Intel HD Graphics(GT2)
価格(千個ロット時)393ドル281ドル281ドル

 今回発表されたのはYプロセッサ(TDP 4.5Wのタブレット用)と、Uプロセッサ(TDP 15Wの薄型ノートPC用)のうち、GPUにGT2(24EUのiGPUのこと)を搭載したSKUで、両者の違いは、TDPのほか、メモリサポートの仕様が異なっている。YプロセッサはDDR3LとLPDDR3のサポートであるのに対して、UプロセッサではDDR4がサポートされているのが大きな違いとなる。これは、第6世代Coreでも同様の仕様だ。

 なお、チップセットの機能に関しては第6世代Coreと同じとなる。

第7世代Coreのパッケージ
第7世代Coreのシール

 また、従来YプロセッサにはCore mブランドが冠されていたが、第7世代Coreでは、Core mはCore m3だけに残され、m7とm5はそれぞれi7とi5に置き換えられている。

 今回はGT2のGPUを内蔵したYプロセッサ、Uプロセッサのみの発表で、GT3/GT4など、より上位のGPUを内蔵したU/Hプロセッサ、さらにはデスクトップPC向けのSプロセッサなどは発表されていない。それらの製品は来年の1月に追加する予定だとIntelは説明している。

今回はUプロセッサとYプロセッサのみ、GT3/GT4やHプロセッサ、Sプロセッサなどは1月に発表予定 ※出典: Intel

 第7世代Coreは、既にOEMメーカーに出荷済みであり、搭載されたOEMメーカーのシステムは9月上旬から徐々に市場に投入され、より大規模に出回るのは今年の年末商戦になる見通しだ。