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東北大、スピントロニクス素子を使った人工知能の動作実証に成功

~アナログ的に状態変化できる同素子をシナプスとした人工神経回路網を構築

(a)は、人工シナプスとして用いられたスピントロニクス素子で、白金・マンガン合金とコバルト・ニッケル積層膜からなる磁性細線に電流を流したとき、電流の大きさに応じて細線の抵抗(ホール抵抗)が連続的に変化する。(b)は、用いたスピントロニクス素子の印加電流と抵抗の関係の測定結果で、電流の大きさに応じて抵抗が連続的に変化していることが分かる。(c)は、実証実験用にパッケージにマウントしたスピントロニクス素子アレイ(右は1セントコイン)

 国立大学法人東北大学電気通信研究所は、同研究所附属ナノ・スピン実験施設の大野英男教授、佐藤茂雄教授、深見俊輔准教授、秋間学尚助教、同ブレインウェア実験施設の堀尾喜彦教授らのグループが、磁石材料から構成されるミクロなスピントロニクス素子を使った人工知能の基本動作の実証に、世界で初めて成功したと発表した。

 東北大学では2月に、「生体のシナプスと同じくアナログ的に状態を変化させることができ、その状態を長時間に渡って保持し、かつ無制限に更新できる」という特徴を有する、磁石材料からなるスピントロニクス素子を研究・発表しており、今回、研究グループはこのスピントロニクス素子を用いて人工知能の基本動作の原理実証実験を行なった。

 研究グループは、上述のスピントロニクス素子36個とFPGAを組み合わせ、人工神経回路網(人工ニューラルネットワーク)を構築。このスピントロニクス素子は、従来の0または1という2つの状態しか記憶できないスピントロニクス素子と異なり、0から1までの連続的な値を記憶することができるため、シナプスの役割を果たせるという。

 実験では、構築した人工神経回路網を用い、現在のコンピュータが苦手とする連想記憶動作を検証。具体的には、3×3ブロックにおける「I」、「C」、「T」の3つのパターンのいずれかから、1ブロックを反転させたパターンを人工神経回路網に与え、その元となったパターンを想起するという試験を行なった。

 パターンの想起には、ホップフィールドモデルという神経回路網の情報処理様式を模擬したモデルを採用。シナプスであるスピントロニクス素子の状態がある一定の法則に基づいてアナログ的に書き換えられることで学習が行なわれ、これにより人工NNが正解を導く。

 研究グループによれば、多数回の試行を通して、開発したスピントロニクス素子は期待通りの学習機能を有しており、これにより正解パターンの想起に寄与することが確認されたという。

構築した人工神経回路網のブロック図。PCとFPGA、スピントロニクス素子から構成される
連想記憶の実験に用いられた、3×3のブロックに表現された「I」、「C」、「T」の3つのパターン

 人工知能は一部で実用化が始まっているが、本研究で用いられた、スピントロニクス素子をシナプスとして用いた人工知能では、従来技術と比べて圧倒的な小型化と低消費電力化を実現する可能性を有しているとする。

 東北大学では、今回の原理実証実験の成功で、高速・小型・低消費電力という脳が有する利点を兼ね備えた人工知能の実現への新しい道が切り開かれ、本技術の実用化により人工知能技術の適用可能な範囲をさまざまな領域へと拡大できるほか、今回の成果が情報処理分野、脳神経科学分野の新しい学理の構築にも寄与することが期待されるとしている。