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ThinkPadの大和研究所が語る最新X1 Carbon/Yogaの開発秘話

分解されたThinkPad X1 Carbon

 レノボ・ジャパン株式会社は30日、ThinkPadの開発を行なっている神奈川県横浜市みなとみらいにある大和研究所にて、開発メンバーなどによるメディア向け技術説明会「大和 TechTalk」を開催した。

 大和研究所はThinkPadの開発および耐久試験などが行なわれている施設があることなどで知られており、PC Watchでも過去に取材を行ない、実際にどのようなストレステストが実施されているかを見学することができた。

 ただし、今回は趣向を変え、ThinkPadのこれまでの開発を振り返るとともに、レノボ・ジャパンとしての取り組みを紹介。また、同社のフラグシップノート「ThinkPad X1」シリーズの作成秘話や技術的なポイントの解説が行なわれた。ここでは、最新世代の「ThinkPad X1 Carbon」および「ThinkPad X1 Yoga」に採用されている機能や技術的な見どころを紹介する。

限界に挑戦するThinkPad X1 Carbon/ThinkPad X1 Yoga開発秘話

レノボ・ジャパン株式会社の大和研究所 先進システム開発で部長/ディレクターを務めている互井秀行氏

 「ThinkPad X1 Carbon/ThinkPad X1 Yoga開発チャレンジについて」と題したプレゼンテーションを行なったのは、ThinkPadのプレミアムモデルなどを開発する同社 大和研究所 先進システム開発で部長/ディレクターを務める互井秀行氏だ。

 互井氏は2011年に登場した「X1」、それに続く2012年/2014年/2015年の「X1 Carbon」を振り返るとともに、X1シリーズが高性能かつ軽くて薄いノートPCを目指してきたことを説明。初代のX1では見た目はがんばったものの満足のいく軽さと薄さを実現できなかったが、“Carbon”世代でそのコンセプトが上手く実現され、現在では14型ながら重量1.18kg、厚み16.45mmと、初代の1.69kg/23.1mmからモデルを更新するたびに軽量化と薄型化してきた経緯を語った。

ThinkPad X1シリーズ

 そしてX1シリーズの新しい試みとして、360度回転ヒンジのYogaモデルを投入。2in1でありながら、X1のコンセプトを継ぐ、重量1.36kg、厚み16.8mmの軽さ、薄さを実現したと述べた。

 最新世代のThinkPad X1 Yogaでは、軽量化と薄型化を進めるにあたり、「キーボード」、「素材」、「熱設計」などを重点的に見直したという。

 前述の通り、X1 Yogaでは360度回転式のヒンジを採用し、クラムシェルモードからタブレットモードへと移行できるようになっている。X1 Yogaのキーボードには「Lift'n' Lock」という機構が使われており、ディスプレイを背面側に回転させるにつれ、キーボードのキーとトラックポイントが沈み、タブレットとして使用する際に、キートップが引っかからないようになっているのである。

 当然ながらこういった複雑な構造は重量が増えるといったマイナス要素があり、そもそもわざわざこの機構を採用する意味があるのか、製品自体の存在価値を問われたそうだ。互井氏はこの機構を実現すべく、今までのX1から全ての部品を見直して設計を行ない、X1シリーズからのYoga誕生の道筋を立てた。キーボード自体は素材を変えることで、軽量化が可能であることが分かったが、トラックポイントについては高さを数mm変えるだけでも相当操作性が変わってしまうそうで、試作品を何個も作成。その作成にはおよそ2週間を要するが、試行錯誤を重ねたという。

 結果、従来の操作性を維持しつつ、キーボードとトラックポイント、ヒンジの薄型化に成功。剛性感も維持した。キーボードのストロークは1.8mmと十分なものにし、トラックポイントは従来の高さ6.5mm、5.5mmに収めて設計した。

 X1 Yogaのキーボード面には防滴機構も実装されており、左右に両側に5つの雨樋を作り、液体が流れる排水路を通り、本体の底面側から排水できるようになっている。この雨樋は基板に直接穴を開けて設けるという大胆な作られ方をしており、提案時は設計側から「ふざけるな」と反対を受けたそうだ。しかし、防滴機構を別に作ろうとすれば、本体の厚みが増してしまう。互井氏は基板に穴を設けるために部品を減らしつつ、配線もずらし、これによって何とかこの機構を実現。最終的に1L分の水を排水できるまでになったという。

 互井氏はヒンジ関連の設計で特に苦労した点として、天板を開け閉めする際に、ヒンジ部分で「カチッ」という音が出てしまう問題が発売の2カ月前に発覚し、問題となったことを挙げた。この時は0.1mm以下の単位での位置調整、素材変更、およそ20カ所に変更を施し、上層部に実際に音が出ないか聞いてもらい、問題がないことを確認した上で、発売できたという。

ThinkPad X1 Yogaで採用されているキーボードの機構

 最新のThinkPad X1 Carbonでは、従来よりも10%軽量化し、14型ながら1.18kgを達成したことをウリとしているが、この軽量化を進める上で、従来とは異なる素材が使われている。当初は軽量化のために、基板の薄型化が挙げられ、物理的には可能なものの、電気的な特性などを見直す必要があり、このモデルへの採用は断念。素材を変えての軽量化で話が進んだ。

 素材の選定にあたって、NECのLAVIEシリーズで使われているマグネシウムリチウム合金を使う案もあったが、ThinkPad X1 CarbonおよびX1 Yogaではレアアースを添加した流動性の高いマグネシウム合金を新たに開発、これを「スーパーマグネシウム合金」と名付けている。スーパーマグネシウム合金はベースカバーとパームレストに使用され、強度を損なうことなく、0.3mmの厚み削減と20%以上の軽量化を実現したという。

最新のThinkPad X1 CarbonとYogaでは、新素材の「スーパーマグネシウム合金」が使われている

 これだけ薄型化を行なうと、熱設計に問題が生じてしまう。互井氏はThinkPad X1 CarbonおよびX1 Yogaの排熱にも紆余曲折があったことを明かした。

 問題となったのは、あまりにも薄型したために側面に排気口を設けられなくなってしまった点で、背面側を排気口にし、新たに4.2mm厚のファンを作ったという。ただし、それでも排気口の開口部が足りず、熱が効率的に排出されないというボトルネックが生じてしまった。開口部を広げるとの提案は上層部のThinkPadは「ポルシェ」であるというデザイン性を追求する理念から却下されてしまい、ここは排気部分のフィンを階段状にすることで放熱効率を5%高め、実現に至ったという。ただし、このプロトタイプを作るまでに半年の期間を要してしまったとのことで、発売延期を余儀なくされたようだ。

ThinkPad X1 CarbonとYogaでは薄型化を突き進めたため、熱設計が難しくなった

有機LED(OLED)ディスプレイの欠点である焼き付きと電力消費へのアプローチ

 互井氏は別記事にて紹介した、日本で今夏発売予定とするX1 YogaのOLEDディスプレイモデルについても紹介。高い彩度や高速な応答性、広視野角などを実現する有機素材のディスプレイのメリットを語るとともに、OLEDの問題点も挙げ、X1 Yogaでどのような改善を図ったかを説明した。

 OLEDで問題となるのは、画面の焼き付きと消費電力である。ピクセル自体が発光するOLEDは焼き付きそのものをなくすことが不可能であり、長期間利用すればピクセルが劣化し、必ず焼き付きが発生する。X1 Yogaではピクセルごとの表示履歴を取っており、どのような色で何時間点灯すれば劣化が進むかといった実証データをもとに画面を補正して、見た目でその変化が分からないようになっている。

 消費電力に関しては液晶と違いバックライトがない自発光タイプのため、黒っぽい画面であれば電力を抑制できる。そのため、オフィス系ソフトなど、画面が白くなりがちな場合は積極的に輝度を下げる方法を採っている。実際のところ、OLEDは輝度が高いため、白い画面はまぶしくなりがちで、この方法により見やすさも増すという。このほか、OLED用のソフトとして、タスクバーのみ輝度を低減したり、バックグラウンドのウィンドウやデスクトップのみ輝度を低減するといった省電力機能も提供されている。

OLED採用の利点
OLEDが抱える問題点
OLEDの省電力化を行なうソフト機能が提供されている

 互井氏は、LenovoがThinkPadを世に出す上で、こうしたさまざまな研究や開発が日々行なわれていることを分かりやすく語ってくれた。


X1 Carbonシリーズ
X1 Carbonの内部
X1 Yogaの内部
X1 YogaのOLEDパネル
X1 Carbonの基板の左側にある穴が雨樋のために切り抜かれた部分
カバー部分の排水路。横長の溝がそれ
背面部。こちらの穴から排水される仕組み
X1 Yogaのファン部分
手前から奥にかけて若干段差が設けられている。これにより排熱の効率を上げた
X1 Carbonの最新モデル
左側面
右側面
天板
底面