やじうまミニレビュー
コップ一杯の水で発電するモバイル充電器。5年保存対応で、災害用の備蓄に適した「アクアチャージ」を試してみた
2024年3月30日 06:05
災害時にバッグに入れて持ち出す必需品を揃えるにあたり、どれを選ぶか判断が難しいのがスマホなどを充電するためのグッズだ。
時間経過とともに放電してしまうモバイルバッテリはバッグに入れっぱなしにするには向かないし、ポータブル電源は重すぎて持ち出すのは現実的ではない。また乾電池を用いる充電器は容量面が、ソーラーバッテリは速度と天候が、手回しで発電する充電器は手間が、それぞれウィークポイントとなる。
今回紹介する「アクアチャージ」は、こうした備蓄用途にピンポイントで適した非常用のモバイル充電器だ。コップ一杯の水を注ぐことで発電するマグネシウム電池を採用したこの製品、最大5年間の保証が付属しつつ、実売価格は約5千円とリーズナブルなことが特徴だ。実機を購入したので、具体的な使い方や、注意点をチェックしてみた。
化学反応で発電。最大5年間の備蓄に対応
本製品は、マグネシウム電池を採用したモバイル充電器だ。電池本体を塩水に浸すことで化学反応によって発電が行なわれ、スマホをはじめとした外部デバイスへの充電が可能になる仕組みだ。密封状態ならば5年間の長期保存が可能なので、災害への備えとしてはぴったりだ。
パッケージは一片が約10cmほどの立方体。市販のモバイルバッテリに比べると大柄だが、ポータブル電源よりは小柄で、重量も実測569gと軽いため、避難用のバッグに入れての持ち出しにも支障はない。調べたところ同種の製品はいくつか市販されているが、多くは1万円超えなのに対し、本製品は10,000mAh強で実売5千円前後と値頃感もある。
箱の中身は電池一式を封入したアルミ袋、水を注ぐオレンジ色のケース、取扱説明書で構成される。さらにアルミ袋の中には電池本体、USBユニット、発電用の塩の小袋、かき混ぜ棒の4つが封入されている。このアルミ袋は開封すると中の電池が劣化するとのことなので、使用直前までは興味本位で開けないよう注意したい。
利用にあたっては、まず塩の小袋を開封して付属のオレンジ色のケースに入れ、その上から水を入れる。必要な水の量は285mlということで、カップラーメンを作る時に使う水と同程度だ。入れ終わったらかき混ぜ棒で1分ほど撹拌する。まずはこれが第1段階だ。
撹拌が終わったらその上から電池本体を入れ、ケースにパチンとはめ込む。塩水に浸かることによってマグネシウムの化学反応による発電が始まるので、付属のUSBユニットを電池上部のポートに差し込み、発電中であることを示す赤いLEDが点灯するのを確認する。これが第2段階だ。
最後に、USBユニット先端のUSB Type-Aポートに充電ケーブルを差し込み、スマホなどのデバイスをそこに接続すれば、充電が開始される。なお匂いについてはまったくの無臭だが、屋内で利用する場合、2時間に1回程度の換気が推奨されている。
ちなみに動作音は無音なのだが、電池本体を塩水に浸してしばらくすると、炭酸が抜けるような音が出始め、充電中ずっと継続する。この音は化学反応が起こっている音と見られ、発電が止まってもそこから最大数日は音が出続ける。ほかの方式にはない特徴だ。
用いる水は水道水のほか、工業用水、蒸留水、飲料用保存水、海水、湖水、河川の水、雨水、風呂の残り湯など「濁りの少ないものでしたら使えます」とのこと。災害時には水は貴重品なので、飲料水よりも川などから汲んできた水を使ったほうがよいかもしれない。もちろん、本製品とセットで水も備蓄できるならそれに越したことはない。
充電可能台数は「スマホ2台+α」。所要時間に注意
さて本製品が一般的なモバイルバッテリと異なるのは、いったん始めた発電を中断することはできず、一度に使い切らなくてはならないことだ。残量がある状態でケーブルを抜いて保管しておき、次の機会にまた充電に用いるという使い方はできない。
そのため、1つのデバイスの充電が終わったら、すぐに充電ケーブルから抜いて、次のデバイスの充電を始めるのが望ましい。間隔が開けば開くほど、せっかくの電力が無駄になるからだ。あらかじめ充電待ちのデバイスをいくつか用意しておき、電池寿命を知らせるLEDの赤点滅が始まるまでは、つなぎっぱなしにするのが正解だろう。
これら充電にまつわるステータスは、本体のLEDで確認できる。充電待機中は赤色に、充電中は緑色に点灯する。赤色に点灯したままというのは、バッテリを放電させているだけの状態なので、長時間そのままにせず、何らかのデバイスを接続して充電を行なうべきだろう。モバイルバッテリを接続して電力をストックしておくのでもよい。
実際にスマホのバッテリをどの程度回復できるのだろうか。今回は、バッテリ残量を20%まで減らしたiPhone 15 Pro Maxと、同じく20%まで減らしたPixel 8 Proを、それぞれ残量80%に達するまで充電したあと、さらにFire Max 11の充電を開始したところ、20%→39%まで充電したところでLEDが赤点滅を開始し、充電が行なえなくなった。
本製品の容量は11,000mAhとされているので「スマホ2台+α」という結果は妥当といったところ。0→100%の満充電にこだわるならばスマホ2台弱、実用的な充電レベルにとどめるならば3台といったところだろう。先日紹介した、Nintendo Switchによるリバースチャージが、1台のスマホを20%→50%前後まで回復させるのがやっとだったことを考えると、実用性は高い。
出力電圧/電流については、製品ページによると最大で「5.0V/1.0A」とされており、チェッカーで確認した限りでも「4.8V/0.96A」前後を行なったり来たりしていた。USB Type-Aでの充電ゆえ急速充電ではないが、スマホを20→80%まで充電するための所要時間が3時間程度ということで、我慢して待てる範囲だろう。
むしろ注意したいのは、本製品は11,000mAhという容量があることから、すべてを使い切るまでに約3時間+3時間+1時間の合計7~8時間がかかることだ。充電を開始するのは1日のうち遅くとも夕方まででないと、日付が変わってしまいかねない。うっかり夜に充電を始めて就寝できない羽目にならないよう気をつけたい。
なお本製品は化学反応によって結露や塩の結晶が発生し、ボディ上部などに付着する。これらは拭けば簡単に除去できるが、半径30cm程度の範囲にはこれら結晶が飛ぶ場合があるので、スマホなどもなるべく離して置いたほうがよいだろう。
このほか発電中には一定の発熱があるとされているが、実際に測定した限りでは、部分的に50度を超えるケースがまれにある程度で、触れられないほど熱くなることはなかった。夏場に測るとまた違うかもしれないが、昨今のUSB PD充電器の中にはピーク時に筐体表面が70℃近くまで達する製品もあるので、それよりはよほど安全だ。
廃棄方法は自治体ごとに要確認。充電ケーブルも併せて備蓄を
最後に本製品の廃棄方法についても確認しておこう。モバイルバッテリの不適切な廃棄により発火事故が相次ぐ昨今、使い切りという特殊な形態である本製品を最終的にどのように廃棄すればよいかは気になるところだ。
廃棄にあたっては、USBユニットを電池から抜いたあと、ケースに入った電池を逆さにして液体を捨て、そのまま常温で乾燥させる。濡れたままでは微量の水素ガスが発生するため、完全に乾燥させる必要があるとのこと。ちなみに目安は約10日とされている。
本製品の取扱説明書によると、その後の廃棄は自治体のルールに従うように書かれており、それ以上の対応方法は特に記されていない。メーカーによる回収サービスなども用意されていないので、あとは自治体任せとなる。
試しに筆者在住の都内の自治体と、実家のある自治体、計2自治体に問い合わせたが、一方は「有害ごみ」として収集日に出すよう指示され、もう一方は充電池を回収しているごみ処理センターに自力で持ち込むよう指示された。モバイルバッテリなど充電池の廃棄方法は自治体ごとに千差万別で、本製品も個別の確認は必須と言えそうだ。
以上のように、廃棄方法の分かりにくさはネックになるが、製品自体は説明書をざっと眺めさえすれば使い方を間違えることはまずなく、容量的にも速度的にも、また価格的にもおすすめできる。この種の災害用の製品は注目が集まると在庫が一気に尽きることが常なので、本稿を読んでピンと来た人は早めにチェックしてみてほしい。
なお本製品の備蓄にあたっては、充電ケーブルも併せて準備しておくことをおすすめする。というのも本製品のUSBユニットが備えるポートはUSB Type-Aで、ふだんの充電環境をUSB Type-Cで統一していると、いざという時に充電ケーブルが挿せない事態に陥るからだ。災害時は量販店が営業していない可能性も高く、あらかじめ準備した上で、本製品と一緒に備蓄しておくのがベターと言えそうだ。