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Nintendo Switchでスマホを充電できるって知ってた?iPhoneとPixelで確かめてみた
2024年3月28日 06:08
今年1月の能登半島地震の時、SNSで注目を集めたポストがあった。それは「Nintendo Switchがあればスマホの充電ができる」というものだ。長期間の停電で、スマホを充電する手段が失われて困っているときに、Switchが手元にあればモバイルバッテリの代用品としてスマホの充電ができてしまうという主旨である。
Switchを使ったこのハック技、噂レベルではかなり前から広く知られているが、具体的にどのくらいの速度で、何%程度バッテリを回復させられるのかといった情報は、ネット上にはほぼ皆無と言っていい。あるのはせいぜい、試しにケーブルを挿してみて、充電が開始されたことをアイコンで確かめて「充電できる」と判断した記事ばかりだ。
そこで今回は実際にSwitchとスマホを用意し、どのくらいバッテリを回復させることができ、それにはどのくらいの時間がかかるのか、またほかに注意すべき点があるのかを検証してみた。
不明な点だらけ、Switchのリバースチャージ機能
このSwitchを含め、スマホやタブレットなどUSB Type-Cを搭載したデバイスは、「リバースチャージ」と呼ばれる逆方向の充電機能を搭載していることが多い。両端USB Type-Cのケーブルを用意し、本体のUSB Type-Cポートと、別のデバイスのUSB Type-Cポートをつなぐことによって、バッテリ残量のおすそ分けが行なえるというわけだ。
このリバースチャージ機能は、多くのスマホのように公式にサポートされている場合もあれば、Switchのように機能の有無そのものが公式に明言されていない場合もあるが、いずれにしても仕組みとしては存在している。そのため「Switchでスマホを充電できる」こと自体は不思議ではないわけだが、具体的な挙動となると不明な点だらけだ。
1つは容量と充電速度だ。Switchのバッテリ容量(本体のみ)は4,310mAhと、ほぼスマホ1台分。これがすべて充電に使えれば、概ねスマホ1台分程度は満充電できる計算になるが、そもそもリバースチャージでは容量すべてを充電に回せるわけではないので、実際どのくらいまでスマホのバッテリを回復できるかは試してみなければ分からない。また充電速度についても不明瞭だ。
もう1つは充電の方向だ。Switchとスマホ、両方がリバースチャージに対応しているということは、意図したのとは逆向きに充電される可能性があることを意味する。充電の向きを決定するのがバッテリの残量なのか、ケーブルを挿す順序なのか、あるいはそれ以外なのかといったロジックは公開されておらず、またデバイスによっても異なる可能性はある。
とは言え、今回のように片方がSwitch、片方がスマホという制限があり、充電方向もSwitch→スマホに限定するのであれば、ある程度の傾向は分かるはずであり、実際にいくつかの知見が得られたので、以降ではそれらを紹介していく。
スマホを「実質0.3~0.5台分」充電可能。速度は遅め
まず実験の概要を紹介する。今回はSwitchを使って充電するスマホとして、iPhone 15 Pro Max(以下iPhone)と、Pixel 8 Pro(以下Pixel)をそれぞれ用意した。両者をつなぐUSB Type-Cケーブルは、3A対応、つまりUSB PD規格で最大60Wまでの充電に耐え得る製品を用いている。スペック的にはローエンドの品で、百均ストアでも調達可能だ。
テストの内容は、バッテリ残量100%のSwitchと、バッテリ残量を20%まで減らしたiPhone/Pixelを接続し、Switchのバッテリ残量が0%になりシャットダウンするまで、充電を行なうというものだ。結論から言うと、Switchからの充電は問題なく開始され、iPhone/Pixelのバッテリが回復されることを確認した。
さて、スマホのバッテリはどのくらい回復できるのだろうか。今回、Switchのバッテリ残量が完全に尽きるまで充電を行なったが、iPhoneは54%まで、Pixelは48%までしか、バッテリ残量を回復させられなかった。
今回の実験に使ったiPhoneとPixelは、バッテリ容量が大きめのモデルであることは差し引く必要があるが(ちなみにiPhone 15 Pro Maxは4,422mAh、Pixel 8 Proは5,050mAhである)、とは言え残量0%からスタートしたのならまだしも、残量20%からのスタートで、それぞれ54%、48%までしか回復できないのは、かなり心もとない印象だ。
ちなみに最終的なバッテリ残量から察するに、SwitchからiPhone/Pixelへと供給されたのは、容量で言うと3,000mAh相当と見積もれる。筆者の経験上、リバースチャージで電力を移した場合、大体3割前後のロスが発生するので、Switchのバッテリ容量4,310mAhに0.7を掛けた値(3,017mAh)とも概ね合致しており、リバースチャージの機能自体はきちんと動作したと考えられる。
もう1つ、所要時間はどうだろうか。iPhone/Pixelは急速充電規格であるUSB PDに対応、またSwitchも非公式ながらUSB PDと互換性があるが、実際の充電速度はどちらも5V/0.5A程度という、旧来のUSB Type-Aケーブルによる充電と大差ないスローぶり。最終的にSwitchのバッテリが空になるまで、約3時間もの時間を要した。
なお参考までに、ほかのデバイスでも充電速度をチェックしてみたが、USB PD非対応のタブレットでは5V/0.5A程度、USB PD対応のスマホ同士のリバースチャージで5V/0.8A程度と、極端な違いは見られなかった。少なくとも、USB PD対応か否かによって速度が大幅に変わったり、あるいは充電の可否が決定されることはないようだ。
必ず押さえておくべき2つのポイントとは
以上のように、容量および充電速度はイマイチなのだが、そもそもの疑問である「Switchでスマホを充電できるか?」に対する答えは「Yes」である。災害などの緊急時に、スマホのバッテリを回復させる方法が尽きてしまい、短時間であってもスマホを使いたい場合、必ずしも満充電にこだわる必要はない。手元にSwitchがあるのならば、試してみる価値はあるだろう。
ただし今回の実験で確認した限り、こうした用途でSwitchを使うのであれば、必ず押さえておくべき設定が2つある。これを知らなければ、緊急時にまったく使い物にならないので、ここでまとめておきたい。本稿の肝はここである。
1つはSwitch本体のスリープの設定だ。Switchはデフォルトでは、操作のない状態で10分経過するとスリープモードに入る設定になっており、これが有効になったままでは、スマホへの充電は開始こそできるものの、しばらくすると画面が消灯し、充電がストップしてしまう。スリープの設定はあらかじめ「しない」に変更しておくのが必須だ。
もう1つは充電中のSwitchの画面だ。スマホなどにリバースチャージを行なうとき、Switchの画面は、ホーム画面(ソフトを横スクロールで選択する画面)にしておく必要がある。スリープからの復帰直後に表示される、Aボタンを押すよう求められる画面、およびその次の同じボタンを3回押す画面のままだと、前述のスリープ設定とは無関係に画面が消灯し、充電がストップしてしまう。必ずホーム画面まで進めておこう。
問題なのは、この2つの設定を行なわずに充電を強行すると、Switchの画面が消灯して充電がストップした直後、充電の方向が切り替わり、スマホ→Switchへの逆方向の充電が始まってしまうことだ。充電開始を見届けてしばらく席を外し、戻ってきたときには、スマホではなくSwitchのバッテリが全回復していて、逆にスマホのバッテリは残量ゼロという状況になりかねない。
ここでポイントになるのは、スマホと接続したままの状態で、Switchの画面がオフになると、必ずこの逆充電状態に陥ることだ。これはたとえSwitchのバッテリ残量が100%、スマホのバッテリ残量が残りわずかという場合でも発動するので、とにかくSwitchの画面がオフになるような設定および操作は厳禁だ。
また同じ理屈で、Switchからスマホへの充電が無事完了した後も、USBケーブルをつないだまま放置していると、やはりスマホ→Switchの逆充電が始まってしまう。Switchのバッテリ残量がゼロになり、電源がオフになった瞬間、スマホが「充電対象のデバイスが新しく接続された」と認識し、リバースチャージが起動するわけである。
従って、Switchからスマホへの充電が完了したら、すぐさま充電ケーブルを抜く必要がある。と言っても充電完了をずっと見張っておくのは現実的ではないため、無理にSwitchのバッテリを使い切ろうとせず、残量が見えた時点でケーブルを抜いて手動で終了させたほうが安心だろう。
なお言うまでもないが、これはスマホにリバースチャージ機能が搭載されている場合の話で、そうでないスマホ、たとえばLightningを搭載したiPhoneでは、Switchのバッテリ残量が尽きた時点で充電は終了するので、充電ケーブルはつないだまましばらく放置しておいても問題ない。逆方向に充電されてしまうことにビクビクしなくて済むので、こちらは随分と気が楽だ。
「ないよりはマシ」という程度。リスクを知って使うべし
以上のように、Switch側に設定が必要なことに加えて、相手先のスマホにリバースチャージ機能があると、途端に厄介になることがよく分かる。リバースチャージ機能のないスマホやそれ以外のガジェット類であれば成功率は高そうだが、充電用ツールとして見た場合に、信頼性は高いとは言えない。「ないよりはマシ」という程度だ。
なにより実際に災害などに遭遇した場合、仮に前述の2つのポイントをしっかり記憶していてその場できちんと設定したとしても、停電によってSwitchのバッテリも自然放電で相応に減っているはずで、今回の実験のようなベストパフォーマンスが出せないことが予想される。また今回使用したようなテスターが手元になければ、どちら向きに充電が行なわれているかが判別しづらいのも困りものだ。
もともとSwitchのリバースチャージ機能は公式には存在が明言されておらず(そもそもUSB PDについても正式対応しているわけではない)、今回のような使い方はあくまで自己責任となる。中身がブラックボックスである以上、組み合わせによってはデバイスの故障などにつながるリスクはゼロとは言えず、それを理解した上で利用するべきというのが、本稿の結論だ。