Ubuntu日和

【第24回】Ubuntuにおけるオススメの電子書籍ビューワー

電子書籍であればがんばって肘で押さえなくてもページを固定できるし、サンプルコマンド・コードの写経も捗る

 今日は4月1日、いわゆる「エイプリルフール」だ。せっかく休日だからとはりきってお気に入りのサイトをめぐりたいと思っても、最近はどこも気合の入ったジョークサイトと化しているし、Twitterに流れてくる話題もそればかり。まあ、Twitter自体ここ半年ぐらいジョークみたいな状況ではあるのだが。冗談じゃない。というわけで今回は、Ubuntuを使って電子書籍を楽しむ方法を紹介しよう

ファイルフォーマットとDRMという壁

 第23回で紹介した音楽ファイルと比べると、電子書籍には「 ファイルフォーマット 」と「 DRM(Digital Rights Management) 」という壁が依然として存在する。これによりUbuntuで閲覧できるコンテンツは大幅に制約されてしまう。

 ファイルフォーマットに関しては、最近はただ読むだけの電子書籍であればEPUBかPDFかAZW/MOBIあたりが大勢を占めるようになってきた。W3Cに統合されたIDPFが策定したEPUBは元々オープンな規格であるし、Adobeによって作られたPDFも現在はその大半の仕様が標準化されている。よってフォーマットについては今後は徐々に気にならなくなってくるだろう。問題はDRMだ。

 「DRM(デジタル著作権管理)」は、PC等で利用するコンテンツ(電子データ)を特定のソフトウェア・ハードウェア・ユーザーにのみ閲覧・再生・複製を許可することで、権利を保護しようとする仕組みだ。一般的にはDRMで保護されたコンテンツを閲覧・再生するためには、特定のソフトウェア等が必要になる。そして大抵の場合、そのソフトウェアはLinuxには対応していない。よってそのコンテンツは、Ubuntuを含むLinuxユーザーが閲覧・再生できないことになる。

 最近は「ソーシャルDRM」と呼ばれる、特定のソフトウェアは不要なタイプのコンテンツも増えてきている。これはデータに購入したユーザーの情報を埋め込むなどして、心理的に権限を超えた複製などをさせにくくする仕組みだ。このタイプのDRMであればUbuntuでも利用可能なことが多い。

 今回は、ファイルフォーマットがPDF・EPUBであり、DRMがない(DRM Free)かソーシャルDRMなコンテンツに限定してUbuntuで楽しむ方法を紹介しよう。実際のところ、技術書に限定すればこのタイプの書籍は多い。まずは普段の勉強用にこれらのコンテンツを楽しもう。

 ちなみにマンガ等のDRMありが普通なコンテンツであっても、「ウェブブラウザー経由での閲覧」であれば可能なサービスはある。興味があればそちらも試してみると良いだろう。

DRMなしのコンテンツであればファイルとして扱いやすいし、販売サイトのサービス終了に伴って閲覧ができなくなる心配もない

DRMなしデータの入手方法

 今回紹介するどの電子書籍ビューワーを使うにしても、まずはそれで表示するコンテンツがないと話が始まらない。そこでまずは、Ubuntuでも閲覧可能なDRMなしコンテンツの入手・購入元をいくつか紹介しよう。前述の通り技術書であれば、DRMなしを扱っているところは多い。具体例をいくつか挙げると次のような購入サイトがある。

  • インプレスブックス
    インプレスが発行する本の紹介サイト。一部の本は電子版が用意されており、直接購入が可能
  • オライリー・ジャパン
    内容のしっかりした技術書と言えばまずここ。本家は電子版の直販を廃止済みだが、日本語の書籍については引き続き購入可能
  • 達人出版会
    比較的古くから技術書の電子書籍を手掛けている。委託販売も多いため、直販がなかったらここを探してみると良いかも
  • ラムダノート
    品質の高い技術書を取り揃えている。1冊の値段で紙の本と電子書籍の両方を買うこともできるので、どちらも欲しい人には嬉しい仕組み
  • Gihyo Digital Publishing
    Software Designのような、定期購読したいけれども紙だと嵩張るような雑誌も電子化してくれている

 技術系の書籍を取り扱っている出版社なら、電子版を直販していることも多い。買いたい本が決まったら、まずは出版社の書籍紹介ページを確認すると良いだろう。本によってPDF/EPUB両方だったり、どちらかしかなかったりが分かれている。また、物理冊子と電子版を同時に販売するケースとわかれるケースもある。そのあたりは求める本がどうなっているかを確認して欲しい。

 もう1つの入手方法が「 技術系同人誌 」だ。実はPDFにしろEPUBにしろ、コンテンツを作成するためのソフトウェアはLinuxにも揃っているため、コンテンツの中身さえ用意すれば商業媒体に比する本を作ることも可能だ。もちろん体裁も含めてまともな本を作ろうと思ったら、デザインやレイアウトにも長けて人が必要になるし、心優しくも厳しい査読者や編集者も必要になる。

 技術系同人誌を販売する大きめのイベントとしては「技術書典」が有名だ。こちらは個人が作った技術系の冊子等がメインであり、電子書籍に関してはDRMなしのPDFやEPUBを採用することが多い。イベントに関係なく通年で販売している本も多いので、いろいろ探してみると良いだろう。

 今回はインプレスグループの本のうち、次を表示例として使用する。

 前者は本連載でも何度か登場している、水野源氏が執筆した書籍だ。デスクトップなUbuntuも使い慣れてきたし、そろそろサーバーとしてのUbuntuにもチャレンジしてみようと考えているならおすすめの1冊となる。後者はいわゆるコンピュータ系の「技術書」ではないのだが、無料でダウンロードが可能であるため、画像が多めの電子書籍を読みたい場合の参考になるだろう。

定番のPDFビューワー「Evince」

 Ubuntuには標準のPDFビューワーとして「 ドキュメントビューワー(内部名:Evince) 」がインストールされている。昔のEvinceは、日本語の表示もおぼつかないことが多かったが、PDF関係のライブラリが充実してきたこともあり、現在では表示だけならほぼ問題がない。日本語の注釈等も問題なく入力・表示できる。とりあえずUbuntuでPDFファイルを開きたかったらEvinceを使っておけば十分だろう。

 電子書籍とはあまり関係がない弱点としては、PDFファイルの作り方によっては、フォームへの日本語入力がうまく動かないことがある点だ。こちらはWebブラウザの内部ビューワーのほうがうまく行くことが多い。よって、必要に応じて使い分けると良いだろう。

Evinceは最近のGNOMEに合わせたシンプルなUIになっている。単に閲覧するだけなら右上のサイズから「ページに合わせる」を選ぶのがおすすめだ
左上のボタンでサイドペインを開くと、左下のボタンからしおり(目次)やページサムネイルの表示が可能
右上のハンバーガーメニューから見開き設定や右開き・横開きの切り替えが可能
適当なテキストを選択したあと、左上のペンボタンから注釈を追加できる。注釈を残したければファイルを保存する必要がある
PDFの作成方法にもよるが、日本語での全文検索も可能

 ほかにもF11で全画面表示できるため、PDF化されたスライド資料などをプレゼンに使うといった用途も可能だ。

 EvinceはあくまでPDFのような固定レイアウトなドキュメントの表示に特化している。よってサポートしているフォーマットも、PDFに加えてPostScriptなどのファイルに限られる。EPUBに多いリフロー型のドキュメントについては、過去に何度か提案があったもののサポートされることはなさそうだ。

細かい所作が嬉しい「Okular」

 EvinceはGNOMEプロジェクトにおいてGTKベースで開発されている。それに対してQtベースのドキュメントビューワーが「 Okular 」だ。Ubuntuの場合はUbuntu Softwareで検索するか、端末から「sudo apt install okular」でインストールできる。Ubuntu Softwareを使う場合は、Okularを選択したあと、右上の「ソース」からSnapストア「以外」を選択するように注意しよう。apt/snapの違いは第4回を参照してほしい。Okularのsnapパッケージは、日本語フォントに対応していない点に注意が必要だ。

Ubuntu SoftwareでOkularを選択した時の画面
Evinceと同じく、サイドペインに目次や注釈を閲覧できる

 使い方自体はEvinceとそう大きくは変わらない。もちろんEvinceで付けた注釈をOkularで確認・編集することも可能だ。

 Evinceと異なる点の1つとして、OkularはEPUBをサポートしている。よってPDFとEPUBを同じツールで見たいのなら選択肢として入ってくるだろう。

EPUBを見開き表示した例

 ただしEPUBに関しては「表示できる」程度の品質でしかない。正直なところ電子書籍ビューワーとしてはあまり読みにくくないので、EPUBを使いたいなら、次で紹介するCaribreやThoreum Readerをおすすめする。

フォーマット変換もお手の物「Caribre」

 「 Caribre 」は、電子書籍データの管理・閲覧システムだ。発音は「cal-i-ber」とのこと。

 ここまで紹介したEvinceやOkularはいずれも「電子書籍ファイルを閲覧する」ソフトウェアとなっている。よって本棚機能などはないし、既読・未読なども原則として把握していない。それに対してCalibreは「電子書籍ファイルを管理する」ソフトウェアだ。つまり複数のファイルをライブラリ化し、次のような機能を備えている。

  • タイトルや著者名、タグなどでの検索
  • メタデータの追加・編集
  • 各種デバイスとの同期やフォーマット変換
  • コンテンツの閲覧
  • インターネットからのコンテンツのダウンロード
  • RSS等を利用してニュースの電子書籍化

 CalibreのインストールはUbuntu SoftwareでCalibreを検索するか端末で「sudo apt install calibre」を実行する形になる。初回起動時はライブラリ用のディレクトリを設定する必要があるため、画面の支持にしたがって進めよう。

初回起動時のウィザード。ライブラリの保存場所は、バックアップ可能なわかりやすい場所に設定しておこう
Calibreはデバイスとの連携がメインの機能となる。特になければ汎用から適当に選ぶのでも良いし、スマートフォンあたりを選択しておいてもいいだろう
起動直後は「Quick Start Guide」が登録されている。左上の「本を追加」から任意の本を追加してみよう
書籍のタイトルをダブルクリックするとビューワーが開く。見開き表示するかどうかはウィンドウサイズから自動判別される
ビューワーを右クリックするとナビゲーションメニューが開く

 CalibreはPDFファイルの管理にも対応している。ただし表示はできない。EPBUのようにダブルクリックすると、システムのPDFビューワー(Ubuntuの場合はEvince)が起動する点に注意が必要だ。

 もしKindleなどのデバイスを持っていて、閲覧はそちらがメインということであればCalibreは有力な選択肢になってくる。なぜならCalibreはEPUBやPDFだけでなく、多くの電子書籍フォーマットの変換に対応しているからだ。これにより別途購入した電子書籍を、転送先のデバイスに合わせたフォーマットに変換した上で転送することが可能になる。

変換したいファイルを選択した状態で「本を変換」を押すと、変換用のダイアログが立ち上がる

 変換はページ数が多いとそれなりに時間がかかる。ただし変換前後の書籍はCalibreとしては「ひとつ」として表示され、「所持フォーマット」のところに変換したファイルのフォーマットが追加される。もし特定のフォーマットのファイルを開きたければ、「表示」の右のプルダウンメニューから「指定したフォーマットで表示」を選ぶと良いだろう。

 ただしCalibreは「ビューワーとしての機能」はどちらかというと「おまけ」扱いだ。もちろん閲覧自体は問題なくできるのだが、デバイスとの同期とライブラリの管理に重点を置いている。

PC上でのビューワーの本命「Thorium Reader」

 最後に紹介するのが、PDF/EPUB両対応のビューワーとしては新参でさらに本命でもある「 Thorium Reader 」だ。Calibreが「別のデバイスで読む電子書籍を管理するソフトウェア」だとすると、「PC上での電子書籍の管理と閲覧ができるソフトウェア」という扱いになる。

 Thoreum ReaderはChromeプラグインとして開発されていたEPUBリーダーである「Readium」に由来を持つ。もともとEPUBフォーマットの仕様を策定していたIDPF(International Digital Publishing Forum:2017年にW3Cに統合済み)が、EPUBビューワーの開発プロジェクトとして開発していたのがReadiumである。しかしながらGoogleがChromeアプリのサポートを終了することをうけて、Readiumは開発を終了する。そこでReadiumの開発に関わっていたEDRLabが、スタンドアローンのEPUBビューワーとして開発したのがThoreum Readerなのだ。

 Thorium ReaderはElectronを利用してクロスプラットフォームなソフトウェアとして提供されている。そのためWindowsやmacOSだけでなく、Linux版も公式に存在している。公式サイトからバイナリパッケージをダウンロードしても良いが、そのソフトウェアをsnapパッケージとして再パックした非公式版もあるので、常に自動で最新版に更新して欲しいならそちらを使うと良いだろう。snapパッケージはUbuntu Softwareで検索するか、端末から「sudo apt install thorium-reader-snap」でインストールできる。

Thorium Readerの初回起動画面。英語UIになっている

 UIが英語になっているので、まずは日本語化しよう。これは「Settings」から「日本語」を選ぶだけだ。ちなみに設定画面ではキーボードショートカットの記載もあるので、使い慣れてきたらそちらも確認すると良いだろう。あとは元の画面(わたしの本)に戻って「+」ボタンを押せば、本棚に書籍を追加できる。

本を追加した状態。PDFもEPUBも同じように扱える

 ちなみに書籍データは「/snap/thorium-reader-snap/current/.config/EDRLab.ThoriumReader/publications/」以下に保存される。もしバックアップを取りたい場合はホームディレクトリまるごとか、「/snap/thorium-reader-snap/current/.config」単位でとっておくといいだろう。

 本の閲覧は書籍のサムネイルをクリックするだけだ。PDF/EPUBどちらも同じUIで閲覧できる。

ウィドウの縦横の比率に合わせて見開きかそうでないかが自動で判別される。右上の「a」のアイコンからも選択は可能だ
日本語による全文検索も可能

 残念ながらウィンドウ表示の場合は、上下のナビゲーションメニューを消すことはできない。右上のボタンから全画面化した時のみメニューが消える形になっている。

EPUBはウィンドウのサイズに合わせて、きちんとレイアウトが変わる。これはリフロー型のメリットと言えるだろう
EPUBであれば日本語目次も表示される

 PDFは目次を表示できない。ちなみにPDFのバックエンドはFirefoxでも使われているPDF.jsであるため、バックエンド側の機能は足りているはずで、あとはThorium Readerによる表示の問題となる。

 Thorium Readerは「OPDS(The Open Publication Distribution System)」にも対応している。これは電子書籍のカタログをRSSフィードのように配信する仕組みで、出版社側がサポートしていればそれを取り込むことで新刊情報等を取得できるのだ。

 日本の出版社だと、ぱっと探して見つかるのが次のURLだろう。

  • オライリージャパン(新刊):http://www.oreilly.co.jp/ebook/catalog.opds
  • 達人出版会:https://tatsu-zine.com/catalogs.opds
  • 技術評論社(新刊):https://gihyo.jp/dp/new.opds
  • 技術評論社(既刊):https://gihyo.jp/dp/all.opds

 これらのURLを、「図書目録」の「OPDSフィードを追加」を選べば、いつでも販売書籍の一覧にアクセスできるし、そこから販売サイトへのジャンプも可能だ。ただしオライリージャパンのOPDSのみはThoriumではうまく動かなかった。HTTPになっているのが、理由なのかもしれない。

OPDSに対応したサイトなら、電子書籍ビューワーから新刊情報にもアクセスできる

いろんな電子書籍をUbuntuで読もう

 今回は技術書に多い、横書きのPDF/EPUBのみを紹介したが、最近はどのツールも縦書きにも対応している。商業媒体の小説でDRMなしのデータはなかなか存在しないものの、同人誌であればいろいろと見つかるし、青空文庫を縦書きPDF/EPUBに変換するのも一般的だ。

 縦書き表示がうまく動くか試してみたいのであれば、「電書協EPUB3制作ガイド」として公開されているサンプルファイルも参考になるかもしれない。

サンプルファイルをThorium Readerで表示した例

 Windows等に比べるとUbuntuは電子書籍ビューワーの選択肢があまりありないし、カスタマイズ性が高いものも少ない状況ではある。しかしながら、技術書を読むには十分な機能を備えているはずだ。4月から新社会人・新学生になる読者は、ぜひディスプレイの片隅に電子書籍を表示させて、学習がてらUbuntuを操作してみてほしい。