笠原一輝のユビキタス情報局
9.7インチiPad ProとSurface 3、2in1デバイスとして最適なのはどっち?
~がっつり2カ月間使い比べてみた
(2016/5/31 06:00)
Appleが9.7インチiPad Proを販売開始してから約2カ月が経過した。筆者も発売直後に入手して、この2カ月間結構真剣に使ってきたので、それ以前に使っていたSurface 3との比較レビューをお届けしたい。
以前の記事でも触れた通り、AppleのiPad Proは、昨年(2015年)の9月に12.7型のモデルが発表され、今年(2016年)の3月に9.7インチモデルが追加された。いずれも、別売りのキーボードやペンを利用することで、MicrosoftのSurfaceシリーズと同じような2in1デバイス的な使い方が可能なことが1つの売りになっている。
タブレットのハードウェアとしての最大の違いは、キックスタンドの有無
最初に、基本的なハードウェアの比較から入ろう。今回は、10型級ということで、9.7インチiPad ProとSurface 3を比較するのが趣旨だが、たまたま別の記事を作成するためにSurface Pro 4が手元にあったので、参考として写真やスペック比較の中に登場させていきたい。9.7インチiPad Pro、Surface 3、Surface Pro 4のスペックを表にして見ると以下のようになる。
9.7インチiPad Pro | Surface 3 | Surface Pro 4 | |
---|---|---|---|
SoC | Apple A9X | Atom x7-Z8700 | Core m3/i5/i7 |
メモリ | 2GB | 2/4GB | 4/8/16GB |
ストレージ | 32/128/256GB | 64/128GB | 128/256/512GB |
ストレージ拡張 | - | micro SDXC | |
ディスプレイ | 9.7型/2,048x1,536ドット | 10.8型/1,920x1,120ドット | 12.3型/2,736x1,824ドット |
スタンド | なし | キックスタンド(3段階) | キックスタンド(無段階) |
ポート類 | Lightningコネクタ | USB(A)/USB(Micro-B/充電用)/Mini Display Port | USB(A)/Mini Display Port/ACアダプタ端子 |
純正キーボード | Smart Keyboard | Surfaceキーボード | |
純正キーボード配列 | 英語 | 日本語/(英語 ※米国などでのみ販売) | |
ペン | Apple Pencil | Surfaceペン | |
指紋認証 | 有り | - | 指紋認証キーボードに用意 |
顔認証 | - | - | 有り |
通信 | LTE+Wi-Fi/Wi-Fi | LTE+Wi-Fi/Wi-Fi | Wi-Fi |
バッテリ容量 | 27.5Wh | 28Wh | 42Wh |
バッテリ駆動時間(公称) | 約10時間 | 約10時間 | 約9時間 |
サイズ | 240x169.5x6.1mm | 267x187x8.7mm | 292.1x201.4x8.4mm |
重量(Wi-Fiモデル)/タブレットのみ | 437g | 622g | 766~786g |
キーボード重量(実測) | 223g | 267g | 303g(※指紋認証キーボード) |
重量(2in1実測) | 671g(※セルラーモデル) | 889g | 1,069g |
【表2】価格(いずれも執筆時点での最廉価モデルの直販価格) | |||
---|---|---|---|
9.7インチiPad Pro | Surface 3 | Surface Pro 4 | |
価格(Wi-Fi/最安値モデル) | 72,144円 | 77,544円 | 134,784円 |
ペン価格 | 12,744円 | 8,424円 | 8,424円 |
キーボード | 18,144円 | 16,934円 | 17,712円 |
合計 | 103,032円 | 102,902円 | 160,920円 |
いずれの製品も、持ち運び時にはディスプレイを保護する役目を果たす取り外し可能なカバーキーボードがオプションとして用意されており、取り外した時にはスレート型のタブレットとして、取り付けた時にはキーボードを利用して入力、操作が可能な2in1デバイスとして利用できることは共通だ。
SurfaceシリーズとiPad Proのタブレットとしての最大の違いは、SurfaceシリーズにはキックスタンドとMicrosoftが呼んでいるスタンドが標準で搭載されており、タブレット単体で自律するという点だ。机の上に置いてタブレットでコンテンツを見る場合には非常に便利だが、その反面、重量/厚さへの影響は大きく、437g/6.1mm厚の9.7インチiPad Proと、622g/8.7mmのSurface 3の差の主要因であるとも言える。
本体とキーボードをまとめた場合の実測値の重量を計ってみた。以下の画像通りである。
SoCに関しては、9.7インチiPad Proが、Apple自社設計のA9Xであるのに対して、Surface 3はIntelのAtom x7-Z8700となっている。前者はARMアーキテクチャのARMv8の64bitプロセッサで、後者はIA(Intel Architecture)の64bitクアッドコアプロセッサとなる。いずれもタブレット向けのSoCと考えると十分な性能だ。メモリは9.7インチiPad Proが2GB、Surface 3は2GBないしは4GBとなる。
どちらも同じメモリ容量と言えるが、iPad ProのOSであるiOSの2GBと、Surface 3のOSであるWindows 10の2GBでは大きく意味が異なる。iOSは、その成り立ちからしてシングルタスクで使うことにフォーカスしたOSであり、バックグラウンドに回ったタスクはほとんど処理が行なわれないというタイプのマルチタスクになる(このため、消費電力への影響が小さく長時間バッテリ駆動が可能になっている)。
最新版のiOS 9.xではアプリによってはバックグラウンドで動き続けるように実装されているものも増えつつあるが、それでもWindowsのようにフォアグランド(一番手前で実行している)と同じように多くのアプリがバックグラウンドで動き続けるというわけではない。12.7型iPad Proの4GBからは減って2GBになっている9.7インチiPad Proだが、2GBで不足ということは、本気で大きな写真や動画ファイルの編集でもしない限りはないだろう。
これに対して、マルチタスクで使うことを前提にしているWindows OSが使えるSurface 3の場合、話は別だ。もちろん使い方によるが、バックグラウンドで何かを処理させながらほかの作業をするなら、2GBではすぐに足りなくなるだろう。その意味では、4GBメモリになっている上位モデルを購入するのがお勧めだと思う。
もう1つ、ハードウェア面での違いとしてポート類が挙げられる。9.7インチiPad ProにはLightningコネクタと呼ばれる、裏表どちらに挿しても利用できるApple独自端子が1つしかない。これで充電も、USB端子としての役割も果たしている。
それに対して、Surfaceシリーズの場合には、充電用の端子(Surface 3ならMicro USB端子、Surface Pro 4ならACアダプタ端子)とは別に、ディスプレイ出力用の端子としてMini Display PortとUSB 3.0(Type-A)が用意されている。USBメモリなどを挿したりということを考えると、USB端子が独立していた方が便利だが、デザイン上は余計なものが1つしかないiPad Proの方が優れていると言える。
ここは、名を取るか、実を取るかで、ユーザーの好みの問題とも言えるが、生産性向上という観点では変換ケーブルなどを必要としないUSB 3.0(Type-A)が有る方が便利だと言える。
現状では課題が多いSmart Keyboard、数世代を経て良くなりつつあるSurfaceのタイプカバーキーボード
それでは9.7インチiPad Proと、Surface 3のキーボードを比較していこう。
9.7インチiPad ProのキーボードとなるSmart Keyboardは、マグネットで本体に固定する形になっている。iPad Proの底部に3ピンのポゴピン(Smart Connectorと呼ばれている)が用意されており、ここにSmart Keyboardの端子が設置されることで、電源とデータを転送する。
この電源とデータ線は、SmartKeyboardを折り曲げて実現されるスタンド部分の中を通っており、それでも断線しないように作られているのはなかなかよくできている。この仕様であるため、ほかのiPad用のキーボードのようにBluetoothのペアリングをする必要がないのはなかなか便利だ。取り付ければ即座に利用できるというのがSmart Keyboardの最大のメリットと言える。
キーボードの入力感に関しては悪くない。キーピッチは約17mmとフルサイズよりは小さいが、キートップがアイソレーションキーになっており、なれてくれば隣のキーを打ち間違えることはないだろう。実際、これでメールなどを入力しているが、見た目よりもストローク感があるのでものすごく入力しやすいとは言わないが、致命的に使えないというほどでもないというのが筆者の正直な評価だ。
ただ、現状では課題が多いのも事実で、具体的には4つある。1つ目は現在販売されているSmart Keyboardは、US配列のみで、日本で一般的に使われているJIS配列のキーボードは販売されていないということだ。PCでもUS配列を使っているというユーザーには問題ないと思うが、普段は日本語配列を使っているというユーザーであれば慣れるまで時間がかかるだろう。
2つ目はiOSの制限により、サードパーティのIME(例えばジャストシステムのATOK)には外付けキーボードでの利用は解放されておらず、Smart Keyboardを利用するにはiOS標準の日本語入力のみしか利用ができないという点だ。PCでもATOKを使っており、学習の結果をATOK Syncで同期して使っているというユーザーにはやや残念だと言える。
ただ、Smart Keyboardには入力システムをワンタッチで切り替える言語ボタンが用意されており、それを押せばシステムにインストールされているIMEを順々に切り換える事ができるので、タブレットとして使う時はATOKで、Smart Keyboardを接続して使う場合には標準の日本語入力にと切り替えて使うことは可能だ(外付けキーボードを接続した状態でATOKを選んでも自動的標準の日本語入力に切り替わる)。
3つ目は、タッチ以外のポインティング機能を持たないことだ。これは、iOS側の制限だと思うのだが、タッチ以外のポインティング機能が仕組みとして用意されておらず、USBマウスだろうが、Bluetoothマウスだろうが、Bluetoothキーボードに内蔵されているタッチパッドだろうが利用することができない。文章入力程度であれば、外部のポインティングデバイスは必要なくてタッチで十分だ。しかし、Excelの表を本気で編集したり、写真を編集するという時にはやはりタッチだけでなく、マウスなりタッチパッドなりが有った方が便利だ。
4つ目は、Smart Keyboardの構造上ディスプレイの角度が変えられないことだ。Surface 3の場合にはキックスタンドの角度を3段階で、Surface Pro 4の場合は無段階で変えることができるのだが、9.7インチiPad ProのSmart Keyboardは角度を変えることができない。もちろん、iPad Proに採用されているRetinaディスプレイは視野角が広いため、どの角度であっても見えないということはないが、長時間作業をするなら好きな角度に調整してより快適に見たいというニーズがあるはずで、現状ではそれができない。
このようにSmart Keyboardに関しては現状では課題が多いと言わざるを得ない。それに対して、Surface 3のキーボードは3世代を経ていることもあり、弱点が徐々に修正されてきている(率直に言えばSurfaceも最初の世代のキーボードは酷かったが……)。キーピッチは約18mと、フルサイズとまではいかないが十分確保されており、ストロークも初代や2代目に比べて増えている。
また、初代、2代目で課題とされていた平らな場所に置いた時にキーボードに角度が付かないために入力しにくいという点(現在のiPad ProのSmart Keyboardはまさにこの課題を抱えているが)も、キーボードがディスプレイ手前側で折れ曲がることで解決されており、徐々に快適な入力環境が整いつつある。
ただ、Surface 3のキーボードにも課題はあり、1つはタッチパッドの面積が小さすぎて操作しにくいことだ。これはSurface Pro 3でも同じことが指摘されており、Surface Pro 4で修正され、かなり大型のタッチパッドに切り替えられている。
Surface 3には生体認証のログイン方法が提供されていないことも、弱点の1つと言わなければならないだろう。iPad Proには、ホームボタンが指紋認証センサーを兼ねており、指紋を利用してのログインができる。Surfaceシリーズも、Surface Pro 4世代で、内蔵の3Dカメラで顔認証ログインが可能になっているほか、指紋認証リーダが装備されたタイプカバーキーボードもラインナップされている。その意味では、Surface 3用にも、Surface Pro 4と同じ世代の、大きめのタッチパッドと指紋認証リーダが付いたタイプカバーキーボードを出して欲しいところだ。
ペンの入力感はどちらも良好だが、Apple Pencilの長さは要改善
9.7インチiPad Pro、Surface 3ともにオプションとしてデジタイザペンが用意されている。それぞれの違いを表にまとめてみると以下のようになる。
Apple Pencil | Surface ペン | |
---|---|---|
長さ | 約18cm | 約14.5cm |
ボタン | なし | 頂点のBTボタン |
電池 | 内蔵 | 単6電池+ボタン電池 |
充電方法 | Lightningケーブルを利用 | 交換のみ |
最大の違いは長さだ。Apple Pencilが約18cmと非常に長いのに対して、Surfaceペンは約14.5cmとなっている。一般的なボールペンなどと比較してみるとよく分かるのだが、Surfaceペンがボールペンの長さであるのに対して、Apple Pencilは鉛筆の長さだ。このため、Apple Pencilは、シャツのポケットなどに入れるとはみ出してしまうし、カバンのボールペンを挿しておくところに入れるとやはりはみ出してしまう。なぜ、Apple Pencilがこれだけの長さが必要だったのかは分からないが、一般的なニーズから考えればやはりボールペン程度の長さの方が取り回しが良いということは否定できないだろう。
もう1つ、Apple PencilとSurfaceペンの違いはバッテリだ。Apple Pencilが内蔵バッテリで充電式であるのに対して、Surfaceペンの方はトップのBluetooth LEで接続されるボタンはボタン電池、ペンそのものは単6電池で駆動されている。Surfaceペンの方はいわゆるアクティブペンで静電気をペン先に発生されることでペンの位置をデジタイザが検出しているので、この単6電池でも数カ月使っていても切れた記憶がないぐらいの長さで利用できる。
これに対して、Apple Pencilの方は12時間でバッテリ切れになるということで、ペン自体の消費電力は大きいと推測される。AppleのApple Pencilの構造を説明していないためどのような仕組みであるかは明確ではないが、一般的なアクティブペンに比べて消費電力が大きいことを考えると、Bluetooth経由で筆圧などの情報を送る仕組みになっていると考えるのが妥当だ。
仮にそうなら、本体側のデジタイザでペンの情報を検知するSurfaceペンの方式に比べて、より細かなデータを送ることが可能なはずで、仕組みとしてはApple Pencilの方がより進んだ仕組みである可能性は高い。
そうだったとしても、ユーザーとして面倒なのは、このApple Pencilの充電は、Lightningケーブル(iOSデバイス用のコネクタを持つUSBケーブル)を利用して行なう必要があり、かつペン側も、ケーブル側もオス側コネクタであることだ。
このため、ケーブルを利用して充電する場合には、Apple Pencilに付属してくるメス-メスの変換コネクタを利用する必要がある。なくしそうというのが一番の心配であり、早期にサードーパーティからApple Pencilと本体を同時に充電できるLightningケーブルの登場を期待したいところだ。
ただ、Pencil側がオス側コネクタであることにより、本体に挿せばペアリングと充電が同時にできることはメリットとして挙げておきたい、Appleによれば15秒間の充電で30分間は使えるということなので、実用上はそのコネクタをもっていなくても問題はないかも……とは思っている。
一番大事な書き味だが、ビジネスアプリで使う限りは正直に言って、どっちも優秀だ。どちらもしっかり筆圧を検知して、思った通りの入力をデジタル的に反映してくれる。もちろん、イラストを描くユーザーになれば評価は変わってくると思うが、現状例えば書類にサインしたり、書類に赤入れをする、OneNoteでメモを取るというビジネス的なニーズであれば、どちらも過不足なく使うことができる。
ただ、既にデジタイザペンが登場してからずいぶん経っているWindowsプラットフォームではアプリケーション側のペンの対応も進みつつあるのだが、iOS用のアプリではまだ実装が始まったばかりで、ペンに対して十分な実装が済んでいないアプリが多い。
既にWindowsアプリでは、ペンとタッチを別の入力して扱うことができるアプリが多く、ユーザーが自分でペンとタッチを切り替える必要がない場合が多いのだが、iOSのアプリではペンとタッチを区別しないアプリがまだまだ多い。何がダメかというと、ペンで描画してタッチでスクロールさせようとする時に、ペンとタッチが区別されていないとスクロールではなくタッチ操作でも描画になってしまうので、使い勝手が悪いのだ。
ただし、徐々に対応は進んでおり、例えばPDFを編集する機能を持つアプリだと、MicrosoftのOneDriveアプリはタッチとペンを区別しなかったが、PDF ExpertやGoodNotesといったPDF編集アプリはタッチとペンを区別していた。同じMicrosoftのアプリでも、OneNoteはタッチとペンを区別しているなど、アプリによる違いという部分になるので、時間とともに解消していくだろう。
コンシューマアプリの少なさがWindowsの最大の弱点、iPad Proは機能限定版アプリが課題
PCにせよ、タブレットにせよ、アプリケーションがなければただの箱とはよく言うが、多くのユーザーがプログラミングができるユーザーではない以上、どんなアプリケーションが揃っているかをチェックしておくことは大事だろう。とは言え、無数にあるアプリケーションを全てチェックして、あれはある、これはあるとやることは難しいので、筆者の独断と偏見で、重要だと思えるアプリケーションがどれだけ揃っているかを表にしたものが以下の表4だ。
大きくコンシューマ向けのサービスを利用するためのアプリの有無と、生産性を向上させるためのアプリケーションに分けて表にしてみた。
9.7インチiPad Pro | Surface 3 | ||
---|---|---|---|
コンシューマ向けアプリ | Twitter(SNS) | ○ | ○ |
Facebook(SNS) | ○ | ○ | |
Facebook Messenger(SNS) | ○ | ○ | |
Instagram(SNS) | ○ | - | |
Amazon Kindle(電子書籍) | ○ | △(Win32アプリ) | |
楽天Kobo(電子書籍) | ○ | △(Win32アプリ) | |
Amazon Prime Music(クラウド音楽プレーヤー) | ○ | - | |
Google Play Music(クラウド音楽プレーヤー) | ○ | - | |
Apple Music(クラウド音楽プレーヤー) | ○ | △(Win32アプリ) | |
Google Maps | ○ | - | |
Outlook(電子メール) | ○ | ○ | |
Gmail(電子メール) | ○ | - | |
OneDrive(クラウドストレージ) | ○ | ○ | |
Google Drive(クラウドストレージ) | ○ | △(Win32アプリ) | |
Dropbox(クラウドストレージ) | ○ | ○ | |
プロダクティビティ/クリエイティビティアプリ | Officeデスクトップアプリケーション | - | ○ |
Office Mobile | ○ | ○ | |
Adobe Photoshopフル機能 | - | ○ | |
Adobe Photoshop限定機能 | ○ | ○ | |
Adobe Lightroomフル機能 | - | ○ | |
Adobe Lightroom限定機能 | ○ | - |
コンシューマ向けのアプリでは、Windows 10のUWPアプリは、正直まだラインナップでiOSやAndroidに負けている。TwitterやFacebookなどに関してはここ1年で充実が急速に進んだが、例えば今でもInstagramのWindows 10用のアプリというのは用意されていない(サードパーティのものはあり、Windows 10 Mobile用は既にリリース済み)。
また、電子書籍もUWPアプリの弱点で、未だにKindleや楽天Koboといった電子書籍のUWPアプリは登場していない。クラウド型の音楽プレーヤーもUWPアプリの弱点で、Amazon Prime Music、Google Play Music、Apple Musicなどのクラウドベースの音楽サービス向けのUWPアプリは用意されていない(ただし、Apple MusicはWindows版iTunesで利用可能)。
Microsoft自身のGrooveミュージックが日本ではクラウド型音楽サービスを提供していないこと(米国では既にサービスが提供されている)も合わせて、あまりに悲しい状況だ(なお、いずれのサービスでもブラウザ経由では利用できる場合もあることは付け加えておく)。こうしたコンシューマ向けのアプリやサービスを使うと考えれば、WindowsよりもiPad Proを選んだ方がいいのは筆者が繰り返すまでもなく明らかだ。
これに対して、プロダクティビティやクリエイティビティアプリと呼ばれる、何かを作り出すアプリになると、途端に評価は逆転する。Officeアプリに関しては、Windows PCであるSurface 3がデスクトップアプリのフル機能のOffice 2016と機能限定のOffice Mobileの両方が利用できるのに対して、iPadに関しては機能限定のOffice Mobileのみが利用可能だ。それはAdobeのCreative Cloudに関しても同様だ。
例えば、LightroomやPhotoshopは、Surface 3ではフル機能のLightroomやPhotoshopが利用できるのに対して、iPad Proで利用できるのは機能限定版となる。どこまでが機能限定版でいいかというのは、ユーザーのレベルによると思うのだが、ビジネスでLightroomやPhotoshopを使いこなしているユーザーにはやはり不満は残るだろう。
ただし、モバイルならではの便利な機能もある。例えば、Photoshop FixならiPadで撮影してちょっと修正した画像を、AdobeのクラウドサービスであるCreative Cloudを経由してPC上のPhotoshop CCにダイレクトに転送できるので非常に便利で、必要に応じてPCとタブレットを使い分けることができる。現状ではiPadなどのモバイル系のプロダクティビティツールやクリエイティブツールはモバイルで補助的に使うという設計思想で作られているモノが多く、そのように使った方が便利だと言える。
従って、アプリの観点から評価するなら、コンシューマ的なアプリを中心に使うにはiPad Proの方が全然便利だし、逆にプロダクティビティ系、クリエイティビティ系を中心に使うならSurface 3の方が便利だろう。ただ、ハードウェアのところでも述べたが、Surface 3でクリエイティビティ系のアプリケーションを使う場合には、メモリが2GBのモデルではやや心許ない。その意味では、4GBのモデルや今回の記事の趣旨とは異なるがSurface Pro 4なりを選択した方がより快適に利用することができるだろう。
ベンチマークでは9.7インチiPad ProがSurface 3を上回る結果に
最後に、各製品のベンチマークテストの結果について触れておきたい。OSがWindows同士であれば、比較は比較的容易なのだが、9.7インチiPad ProはiOSのデバイスとなるため、あたり前だがWindowsのアプリケーションは動かない。
そこで、今回はクロスプラットフォームで用意されているベンチマークを利用して、それぞれの性能を調べてみた。利用したのはBAPCoが提供しているTabletMark、FutureMarkが提供している3DMarkの2つになる。テストに利用したのは9.7インチiPad Pro(32GB/セルラーモデル)、Surface 3(4GB/128GB)、Surface Pro 4(Core i5/8GB/256GBモデル)の3つになる。結果は以下の通りだ。
TabletMarkは、Web/EmailというWebブラウザと電子メールのクライアントの応答性を見るシナリオと、Photo/Videoという写真編集、動画編集の応答性を見るシナリオの2つがある。いずれのテストでも、現時点ではクライアントデバイス向けのCPUで最高の性能を誇るCoreプロセッサを搭載しているSurface Pro 4が高い性能を見せているのは納得できる結果だと言える。特に、Photo/Videoという写真/動画編集のシナリオで高い性能を発揮しているのは、こうしたニーズではいずれとしてCoreプロセッサのようなPC向けのプロセッサのアドバンテージが大きいことを示している。
それに対して、9.7インチiPad Proは、Photo/VideoではSurface 3にやや劣る性能だったが、Web/Emailでは、Surface 3を大きく上回る結果を出している。このため、両結果を合わせた結果となるOverallではSurface 3を上回っており、よりSurface Pro 4に近い結果となっている。
3DMarkの方はシンプルにGraphics Scoreの方はGPUの3D演算性能を示しており、Physics Scoreの方は主にCPUによる物理演算の性能を示している。Graphics Scoreの結果を見る限り、9.7インチiPad ProのSoCであるA9XのGPUであるPowerVR Series 7XTは非常に優秀であることが分かる。Surface 3のSoCであるAtom x7-Z8700に搭載されているIntel Gen.8のGMAに比べて倍とまではいかないが、約1.8倍の性能を出している。ただ、Physics Scoreのスコアの方はSurface 3の方が良い結果になっており、CPUの演算性能という意味では、Atom x7-Z8700の方が優秀であると言うことはできるだろう。
コンシューマ向けアプリを使う時間が長いなら9.7インチiPad Pro、生産性重視ならSurface
このように、9.7インチiPad Pro、Surface 3という2つの10型級のタブレットを、2in1デバイスとして利用する場合にどうなのかを見てきた。率直に言って、それぞれに一長一短があり、どちらかをもって完全な選択肢だなんていうおこがましいことを言うつもりはない。筆者の現時点での結論は、ユーザーのニーズによってその選択は分かれると思っている。具体的には以下のようになると考えている。
(1) たまに2in1デバイス的な使い方をするけど、主な用途はコンシューマ向けアプリを使うことにあるユーザー
このタイプのユーザーには、9.7インチiPad Proをお勧めしたい。既に述べた通り、Windowsタブレットの弱点は、UWPアプリのラインナップが現状では十分ではないことだ。各社が、iOS、Androidと並んでUWPアプリをサポートするプラットフォームとして認識されるまでは、その代替としてWin32アプリやブラウザを使うなどの工夫が必要になる。
iOSにも、Office Mobile、OneDrive、OutlookといったMicrosoftのプロダクティビティ系のアプリが揃っており、必要に応じてキーボードを繋いで電子メールを送ったり、Word/Excel/PowerPointでちょっとしたファイルの編集を行なうぐらいであれば十分に活用できる。
(2) PCのサブデバイスとしてタブレットの購入を考えている
このタイプのユーザーは、ケースバイケースだと思う。毎日PCと一緒に持ち歩くと言うのであれば、軽量でかつWindowsの弱点と言っていいコンシューマ向けアプリのユーセージを補うという意味で、9.7インチiPad Proがお勧めではないだろうか。しかし、それがPCのバックアップとして、出張時にPCが壊れてしまってビジネスが継続できないと困るというユーザーであれば、フルWindowsとしての機能が利用できるSurface 3はかなりお勧めだと言える。
(3) これまでPCでやってきたような作業を全部2in1デバイスでやろうとしている
完全にPCの代替として2in1デバイスを考えているなら、正直9.7インチiPad Proはお勧めではない。最大のポイントは、プロダクティビティ系にせよ、クリエイティブ系にせよ、同じ名前のアプリは用意されていても、現状ではできないことが多い機能限定版であるという点だ。従って、結局、PCを引っ張り出してきて作業した方が生産性があがるということになってしまう。重要な事は“生産性”であり、現状ではそれを9.7インチiPad Proで上がるかと言えばそうではないと思う。
ただ、Surface 3も、SoCはAtom x7-Z8700で、従来に比べれば高速にはなったが、もちろん上位モデルのCoreプロセッサに比べれば性能面では不利なことは否定できない。従って、純粋に今PCでやってることを代替させるようと思うのであれば、Surface Pro 4のようなCoreプロセッサ搭載の2in1デバイスにしておくことを強くお勧めしたい。
ちなみに筆者自身はどのように使っているかと言えば、上で言っている(2)のパターンで、13型クラスの2in1デバイスとなるWindows PCを補完するデバイスとして9.7インチiPad Proを持ち歩いている。がっつり仕事する時にはWindows PCで作業して、ちょっとした空き時間に電子書籍を楽しみたいという時にはiPad Proで見るなどの使い方だ。
また、筆者の仕事の場合には書いた原稿の赤入れや、雑誌などであれば校正を見る時には、OneDriveにデータを上げて、iOS用のOneDriveアプリで見るようにしている。iOS用のOneDriveアプリは、ファイルのビューアとしての機能だけでなく、PDFファイルに直接Apple Pencilやタッチで直接記入できるようになっている。これで見て、赤入れをしてOneDriveに保存し、必要に応じてPCからメールしたり、直接iPad ProのOutlookアプリから返送したりしている。あるいは、DuetDisplayというソフトウェアを利用して、出張時のWindows PCのセカンドディスプレイとして活用している。
筆者にとって9.7インチiPad Proと純正キーボードだけでPCの代わりになるかと言われれば、現状のiPad Proの純正キーボードは色々制限が多すぎてそうとは思えない。アプリのところでも述べたように、まだiPad Proではできないことも多いので、そういう用途にはあまり向いていないなとは感じている。
ただ、2in1的なニーズをAppleが追求しだしたのは、昨年の秋から販売開始された12.7型iPad Pro、そしてその小型版となる9.7インチiPad Proからであり、まだまだ第1世代だ。今後現在課題になっているところがブラッシュアップされればもっと良くなるだろう。そうなった時にはまた別の評価があるのかもしれない。
繰り返しになるが、iPad Proも、Windowsタブレットも、それぞれに一長一短だというのが筆者の正直な感想だ。従って、その一長一短をよく吟味して読者のニーズに合うのはどちらなのかを検討して選択する助けに、この記事がなれば幸いだ。