笠原一輝のユビキタス情報局

Microsoft「Surface 3」ファーストインプレッション

 Microsoftが3月末に発表した「Surface3」だが、5月5日より全米のMicrosoft Storeおよび量販店などで販売が開始されている。今回筆者は米国で販売されたSurface 3を入手したので、その使い勝手などをチェックしていきたい。

 以前の記事でも触れた通り、Surface 3はSoCにAtom x7-Z8700(1.6GHz)を搭載している。従来のSurface(Surface RTおよびSurface 2)がARMアーキテクチャ向けのWindows RTを採用していたのに対し、x86版Windowsを採用している点が最大の違いだ。

 実機を触って分かったが、Atom x7-Z8700はWindows PCとして実用的な性能を持っており、4GBのメモリと64bit版OSになったことで、Officeを使うPCとしては十分快適に利用できる。

887gの2-in-1デバイス

 Surface 3の概要に関しては以前の記事で詳しく紹介している。詳細はそちらの記事を読んで頂きたいが、簡単におさらいしておこう。

Surface 3の概要
・本体重量620gで、オプションで265gのタイプカバーキーボードが用意されている
・SoCはIntel Atom x7-Z8700(1.6GHz)を採用
・メモリ/ストレージは2GB/64GBないしは4GB/128GB
・液晶ディスプレイは10.8型、1,920×1,280ドット、3:2のアスペクト比
・LTEモデルとWi-Fiモデルがある
・オプションで用意されているデジタイザペンを利用可能

 旧製品のSurface RT、Surface 2との最大の違いは、CPUの命令セットアーキテクチャがARMからx86に変更されていることだ。Surface RTではTegra 3、Surface 2ではTegra 4というARMアーキテクチャのSoCが採用されていた。しかし、Surface 3ではAtom x7-Z8700に変更されているのだ。これにより、OSはWindows RTからWindows 8.1(無印)に変更されている。

 この最大のメリットは、Windowsユーザーが一般的に利用しているWindowsデスクトップアプリケーションが利用できることだ。Windows RTでは、最初からプリインストールされていたOffice 2013 RTを除き、Windowsデスクトップアプリケーションを利用できなかった。Surface 3では、現在一般的なWindows PCで使っているアプリケーションがそのまま使えるのだ。特に日本のユーザーにはメリットが大きく、例えば日本語変換ソフトウェアのATOKがそのまま使えるメリットは大きいと言えるだろう(ちなみにWindows RTではそもそもIMEを変更できない)。

 つまり、オプションで用意されているタイプカバーキーボードを取り付けたり、Bluetooth接続あるいはUSB接続のキーボードとセットで使えば、クラムシェル型ノートPCとして使うことができる。実際タイプカバーキーボードを取り付けても重量は887gに過ぎないので、11型のクラムシェル型ノートPCの代替として十分検討に値する製品になった。

米国向けモデルにも技適マークはついていた

 Surface 3は、現時点では日本では販売されていない。ただし、販売する意向があることは日本マイクロソフトから表明されている。それに先だって、米国では5月5日(現地時間)から販売が開始されており、既に入手可能な状況になっていた。筆者も米国で販売されている製品を入手した。

 手に入れたのは、販売が開始されたWi-Fiモデル(LTEモデルはまだ販売されていない)のうち、上位モデルとなるメモリ4GB、ストレージ128GBのモデルだ。価格は599ドル+35.94ドル(消費税)で合計634.94ドル(日本円で8万円弱)で購入した。

 なお、本製品は米国向けの製品だが、既に日本国内の技適マークの取得は行なわれているようで、スタンドの裏側に技適マークがナンバー付でレーザー刻印されていた。従って、日本国内でも無線(Wi-Fiモデルの場合にはWi-FiとBluetooth)をオンにして利用できる。

 つまりハードウェア的には、日本向けに出荷する準備は整っており、後は日本向けのソフトウェアイメージと、タイプカバーキーボードの日本語版の準備さえ整えばいつでも出荷可能だ。

 なお、OSの初期状態はもちろん英語だが、Windows 8.1では言語パックをユーザーが自分でダウンロードして追加できるようになっているので、言語パックを追加導入してちょっと設定するだけで日本語環境で無事に使えている。

 パッケージに関しては、従来同様の色彩の箱で、テープで封印されているという構造は、従来のSurface/Surface Proシリーズと共通。中に入っている内容物もシンプルで、簡易マニュアル、ACアダプタ、本体とシンプルだ。

MicrosoftのSurface 3、米国で販売されている4GB/128GBモデル
スタンドの裏面には各種認証マークがレーザー刻印されている。日本向けの技適マークも認証番号付で書かれていた
Surface 3の外箱は従来のSurfaceシリーズと共通の意匠に
中に入っていたのは本体、簡易マニュアル、USB ACアダプタの3つだけとシンプル

メモリ4GB/ストレージ128GBのモデルを選択、OSはWindows 8無印

 SoCは既に述べたように、開発コードネームCherry TrailのAtom x7-Z8700。Atom x7-Z8700はクアッドコアのAirmontコア(Silvermontの14nm版)に、16EUのIntel HD Graphics Gen8のGPUを内蔵したSoCとなる。クロック周波数は1.6GHzベースで、バーストの機能を利用して最大で2.4GHzで動作。これは全モデル共通だ。

 今回筆者が入手したのはWi-Fi版上位の4GB/128GBモデルだが、ストレージにはSamsung Electronicsの「MDGAGC」が採用されていたこれ(Samsungの型番ではKLMDGAGE2A)は、eMMC 4.5に対応したフラッシュメモリで、スペック上はリード150MB/sec、ライト50MB/secという仕様になっている。64GBモデルがeMMC 5.0対応でリード240MB/sec、ライト60MB/secなのでそれより若干遅いが、その分容量が大きい。

 メモリは標準で4GBとなっているので、もちろんOSは64bit版になっている(なお2GB版モデルでも64bitとなっている)。採用されているOSは、Windows 8の無印で、with Bingではない。

 なお、多くのモバイルユーザーにとって、Windows 8.1 Proを選択する理由の1つがBitLocker(ストレージの暗号化)に対応していることにあると思うが、本製品のようにInstantGo対応製品の場合はやや話が別だ。というのも、InstantGoに対応したWindows 8.1プリインストール製品は、デバイスの暗号化というBitLockerのサブセット版に対応しており、内蔵ストレージの暗号化がProでなくてもできるようになっているからだ。

 Atom x7-Z8700には、標準でTPM 2.0(TPMはBitLockerで暗号化するために必要な鍵となる)が内蔵されており、これを利用して内蔵ストレージの暗号化は標準状態で可能だ。従って、ドメインなど企業内のネットワークに接続する必要が無いパーソナルユーザーやBYODで使おうと思っているユーザーであれば、無印でも十分だと言える。

 なお、ほかの採用デバイスを見ると、Wi-Fi/BluetoothはMarvell製、オーディオのコーデックはRealtek製などになっている。Cherry Trail向けの構成としては一般的な選択だと言える。

Surface 3のデバイスマネージャの表示
CPU-ZとCPUID HWMonitorの表示。バッテリの容量は28Wh

Surface Pro 3と共通の意匠を採用したデザイン、USBのACアダプタで充電可能

 デザインだが背面はシルバーで、液晶面がブラックという色合いはSurface Pro 3と共通のデザインになっている。Surface Pro 3との構造上の最大の違いは背面に用意されているキックスタンドで、Surface Pro 3が無段階で調整できるのに対して、Surface 3では3段階になっている。

 一番立った状態がキーボードを接続してクラムシェル型のPCとして使う時に便利で、一番寝かせた状態がデジタイザペンで操作するのに便利だ。またキックスタンド裏のデザインも若干変わっており、Surface Pro 3ではSurfaceと刻印されていたが、Surface 3ではWindowsマークがシルバーの素材で表現されている。

ディスプレイスタンドの3つの角度

 一般的なPCのポート類は、すべて右側面に集中しており、Mini DisplayPort、USB 3.0、Micro USB(充電用)、ヘッドフォン端子がある。なお、microSDカードスロットはスタンドを開けたところにあり、SDXCに対応している。試しに手持ちの64GBのSDXCカードを挿してみたが、問題なく利用できた。

 なお、本体下部にはオプションで用意されているタイプカバーキーボードを接続する端子が用意されている。米国では同時にタイプカバーキーボードの販売も始まっているが、筆者は日本語配列のキーボードが好みなので、今回は米国では購入せず、日本で販売開始されてから購入することにした。

 Micro USBの充電端子だが、標準で添付されているUSBのACアダプタだけでなく、一般的なUSB ACアダプタを利用することができる。ただし、標準で添付されているACアダプタでは、より多くの電力を充電できることがWindows上のツールから確認できた。標準添付のACアダプタでは6Wの電力が充電に回されていることが確認できたが、エレコムのQuick Charge 2.0対応のUSBアダプタ(もちろんSurface 3はQC2.0には未対応だが、通常の5V/1.8AのUSBアダプタとしては利用できる)では4.6Wの電力が充電に利用されていた(いずれもCPUへの負荷が少ない状態)。標準のACアダプタの出力は5.2V/2.5Aとやや大きめになっているので、そのせいなのかもしれない。

 背面カメラはSurface 2世代の500万画素から800万画素へとアップグレードされており、ビジネス用途としてはこれで十分と言える。Windowsデバイスのカメラというのは、標準状態でのホワイトバランスがおかしかったりという製品が少なくないが、Surface 3のカメラに関してはそういうこともなく、撮影状況は良好だった。今回は蛍光灯下というカメラのホワイトバランス機能にとってはやや厳しい環境での3つのデバイスで撮影してみたが、ほかのデバイスと比較してもSurface 3のカメラはホワイトバランスが最も良好に調整されて撮影できた(なお、すべて設定はフルオートのままで撮影した)。ほかの2つが白が正しく表現されなかったのに対して、Surface 3のカメラはかなり正しい白に近い色で撮影できた。

Surface 3の背面カメラ(800万画素)で撮影した画像、今回撮影した3つのデバイスの中で最もホワイトバランスが正しいと思われる画像を撮影できた
VAIO Zの背面カメラ(800万画素)で撮影した画像。フルオートではホワイトバランスがややおかしな画像となっている
Samsung Galaxy Note Edgeの背面カメラ(1,600万画素)で撮影した画像

 ただ、Windows標準のカメラソフトは、非常にシンプルなつくりで、細かな設定ができない状況は以前から変わっていない。例えば、露出は設定できるのだが、解像度や明るさ、ホワイトバランスなどの設定もなく、ユーザーが手動で何かをすることができない。サイバーリンクがWindowsストアで販売している「YouCam Mobile」をインストールしてみたところ、ホワイトバランスとシーン、色調などを設定できるようになった。より使いこなしたいというならYouCamを購入してみるのも1つの手だ。

表面は黒の液晶面の縁にシルバーの枠という組み合わせ。右側にWindowsボタンというデザインもSurface Pro 3のそれを継承している
背面にはSurfaceではなくWindowsのロゴマークが
本体の右側面にはMini DisplayPort、USB 3.0(A端子)、Micro USB(充電専用)、ヘッドフォン端子が用意されている
本体正面には電源ボタンとボリュームボタンが用意されている。
底面にはタイプカバーキーボード用の端子
付属のUSB ACアダプタ、5.2V
付属のUSB ACアダプタを繋いだ時に、バッテリ関連の情報を見ることができるツールYbinfoで確認した充電状況。6Wの電力で充電できていることがわかる
エレコムのQuick Charge 2.0アダプタで充電しているYbinfoの情報、4.5W前後で充電できていた、いずれもCPU負荷1%とシステムの消費電力が少ないと考えられる状況で計測
ACアダプタの重量は112g
本体の重量は実測値で622gだった
標準のカメラアプリでは調整できるのは露出ぐらいであとはフルオートになる
サイバーリンクがWindowsストアで販売しているYouCam Mobileを使うと、ホワイトバランスなどが調整できるようになった

3:2液晶はコミックの閲覧に強力だが、課題はWindowsストアの電子書籍アプリは……

 液晶ディスプレイは、10.8型で1,920×1,280ドットと3:2のアスペクト比のパネルとなっている。解像度設定が100%の設定だと細かすぎるが、標準では150%の倍率に設定されている。

 気になる1,920×1,280ドットの3:2のアスペクト比だが、16:9のアスペクト比に比べたメリットはコミックを縦方向で見る時に余白がほとんど無くなるという点が大きいと感じた。写真は16:9のVAIO Zでコミック(WindowsストアアプリのKinoppyを利用)を見ている時と、3:2のSurface 3で見ている時の違いになる。このように、明らかに3:2のアスペクト比の方が比率の問題から上下ないしは左右のあまりがほとんどなく楽しめることが分かる。

左Surface 3(1,920×1,280ドット、3:2)、右VAIO Z(2,560×1,440ドット、16:9)の2台で、コミックを横画面で見開き表示しているところ。余白がSurface 3の方が少なく表示されることが分かる
左Surface 3(1,920×1,280ドット、3:2)、右VAIO Z(2,560×1,440ドット、16:9)の2台で、コミックを縦画面で、単ページ表示しているところ。Surface 3はほとんど余白がないことが分かる

 もっとも、現状ではWindowsストアの電子書籍ソフトはほとんどなく、デスクトップアプリのKindleはアスペクト比に関係なく余白が入ってしまう状況で、没入感が足りないのも事実。日本マイクロソフトには早期に各サービス会社に働きかけて、Windowsストアのリーダーアプリのラインナップを増やして欲しい。

 Surface 3にはMini DisplayPortが用意されており、外部ディスプレイに出力して利用することもできる。DisplayPortなので、4Kまでの出力が可能かと思ったが、実機で4Kディスプレイに出力してテストしてみたところ、2,560×1,440ドット(WQHD)までの出力に留まった。HDMI変換アダプタを介して接続してみたのだが、こちらではフルHD(1,920×1,080ドット)までの表示となった。Atom x7-Z8700の仕様上は、ディスプレイ出力が2,560×1,440ドットまでとなっているので、仕様通りとも言える。

 また、Surface 3ではデジタイザペンはオプション扱いになっているが、手元にあったVAIO Z用(N-trig方式)のペンがそのまま使えた。もちろんSurface Pro 3(やはりN-trig製)と同じ方式であるのであたり前の話なのだが、VAIOのデジタイザ搭載機種、ないしはSurface Pro 3ユーザーであれば同じペンが使い回せる。

Surface 3をDellの4KディスプレイにDisplayPort経由で接続したところ、WQHD(2,560×1,440ドット)まで表示できた
同じN-trig方式のVAIOのデジタイザペンで操作できた。つまりSurface Pro 3と同じN-tirg社製のデジタイザが内蔵されていると考えられる

4GBメモリの威力絶大、Cherry Trail搭載Windowsタブレットの基準となる製品

 最後に、実機に触ってみた性能面での感想を述べておきたい。Windowsの起動(電源スイッチオンからログイン画面まで)が20秒、ExcelやWordの起動が2秒といったところで、正直Coreプロセッサを搭載したPCとさほど変わらない起動時間だった。

 メモリが4GBあることが効いていて、Internet Explorer 11のタブを10個開いて、Word、Excelを起動してもメモリの消費量は2.5GBで、残り1.5GB空いているという状況だった。これが2GBのモデルだと、既にメモリがいっぱいで、ストレージへスワップが発生していることになるので、快適度はかなり落ちることになるだろう。それだけメモリが4GBあることの効果は非常に大きいと言える。

 Surface 3が発表された後、SoCがAtomであることをネガティブに感じている人が少なくなく、筆者のSNSのタイムラインでもそういうことを言ってる人が少なからずいた。しかし、筆者が強調したいのは、もうその常識はもう古いということだ。

 AtomのCPU性能は、前世代になるBay Trailで大幅に向上しており、現世代のCherry Trailでもそれは引き継がれている。さらに、この世代のCherry TrailではGPUの性能が大きく強化されており、3D周りの性能なども向上している。もちろんCoreプロセッサには及ばないが、ブラウザやOfficeアプリケーションが必要とするような性能は十分満たしている。実際筆者もこのSurface 3で原稿を書いたり、Excelで表を作ったりしてみたが、特に不満を感じることなく作業することができた。

 もちろん、例えばPhotoshopやPremiereのような、大容量メモリや高性能CPUを必要とするようなソフトウェアは、Coreプロセッサ/16GB/SSDといった構成のPCに負けるのは事実だし、そうした性能が必要ならそちらを選ぶべきだと思う。しかし、どちらかと言えば、ビジネスアプリケーション中心で、軽量さを活かして常時持ち歩き、出先でタイプカバーキーボードと組み合わせてクラムシェル型PCとして使い、余暇にはタブレットとして電子書籍などを楽しむといった使い方を検討しているユーザーには最適と言えるだろう。本製品は、今後登場するであろうCherry Trail搭載2-in-1デバイスの、基準となる製品になるのではないだろうか。

(笠原 一輝)