笠原一輝のユビキタス情報局
世界最軽量を実現した11.6型のLAVIE Hybrid ZERO、開発の意図を訊く
~NEC PC 商品企画本部長 山下敏嗣氏インタビュー
(2016/1/13 11:00)
NECパーソナルコンピューター株式会社(以下NEC PC)は、1月13日に記者発表会を開催し、同社のPC製品の春モデルを発表した(別記事参照)。その中で、CES 2016で参考展示した、LAVIE Hybrid ZEROの11.6型モデルを正式に発表し、本体のタブレット部分が398g、キーボードを足しても798gという“衝撃的”な軽量級の2in1デバイスであることを明らかにしている。
そうした春モデルをリリースしたばかりの、NECパーソナルコンピューター株式会社 商品企画本部 本部長 山下敏嗣氏にお話を伺う機会を得たので、その時の模様をお伝えしていきたい。
SIMフリーLTEモデムのニーズはモバイルノートPCでも高まっている
Q:今回新たにLAVIE Hybird ZEROを販売することになった理由を教えてください。以前NEC PCは、NEC時代にVersaPro UltraLite タイプVC(別記事参照)のようなウルトラモバイルなノートPCを展開していましたが、近年では13.3型のLaVie Z/LAVIE Hybrid ZEROが最も小型で、より小さな11.6型、10型の製品は出してきませんでした。ここに来て11.6型に参入した理由を教えてください。
山下氏:弊社はA4サイズのノートPCや、デスクトップPCでは国内シェアで第1位になっています。それに対して、モバイル(筆者注:ここでいうモバイルというのはPCだけでなく、タブレットなどを含めたコンピューティング機能を持つモバイル機器のこと)ではまだ成長の余地があるし、実際に成長しています。特に全体の市場を見れば、13.3型以下のボリュームは、既にデスクトップPCを逆転してしまっています。
現在モバイルの市場では、ある1社が大きな市場をシェアを持っており、そこには成長の余地があるのではないかと考えました。モバイルという市場は一口に携帯できる機器と言っても多様なニーズがあります。これがスタンダードだという製品はないので、弊社としては軽さを目指そうということで、以前よりLaVie ZやLAVIE Hybird ZEROなどの軽量な13型の製品に取り組んできました。
それらの製品がご好評を頂きまして、次は軽量なノートPCの中で裾野を広げていこうとして、11.6型を考えました。「13型の製品は軽量で良いけど、底面積が一回り大きいんだよね」というご意見を頂くことも多く、バッグに入る製品というリクエストが少なくなかったのです。それでサイズを12、11……と検討していったのですが、日本のお客様にはコンパクトさを重視されると考えたので、11.6型が最適ではないかと考えました。それで、13.3型の製品を開発した時の体験を活かすことで、技術陣に新しいチャレンジをしてもらい、この製品を作り上げました。
Q:以前はあった、10~11型のラインナップが一時的になくなり、今回復活ということになったのはなぜでしょうか?
山下氏:事業的な優先順位であるとお考えください。弊社もLenovoとのジョイントベンチャーとしてビジネスがスタートして4~5年が経過して、ようやく新しい事にチャレンジする余裕が出てきたということです。また、PCビジネス全体を考えると、モバイルの市場というのは決して大きな市場ではありませんでしたので、ボリュームが出せるところにまずは新商品を投入するということになっていましたが、モバイルの市場が伸びてきたことと、弊社としても新しいチャレンジができるようになったという2つの条件が重なったのです。
Q:今回の製品では、おそらくNEC PC製のノートPCとしては初めてSIMフリーのLTEモデムを搭載していると思いますが、その経緯を教えてください。
山下氏:最大の理由はお客様のニーズが高まっており、やりたいと考えていたからです。もちろん、LTEモデムを搭載することに関しては乗り換えるべき課題があります。例えば、SIMカードをバンドルしなくても、モデムのコストをお客様にお支払い頂けないといけないとか、スマートフォンやタブレット向けのアーキテクチャに比べると、Windows向けのアーキテクチャではそのコストが高いとか、課題はありました。それでもやるべきだと判断したので搭載に踏み切りました。
Q:それはSIMフリーのLTEモデムのニーズが高まっているという認識なのでしょうか?
山下氏:おっしゃる通りです。技術への理解が深い方の間でニーズが高まっていると認識しています。ただ、全員のお客様がそうかと言えばそうではないので、必要なお客様にだけ買って頂けるように上位モデルにだけ搭載にしております。
Q:SIMカードをバンドルして販売する計画はありますか?
山下氏:現時点では、具体的な計画はありませんが、今後は検討する可能性はあると思います。
首上にシステムが集中するため、キーボードとの重量バランスに工夫を
Q:今回の製品で訴えたい部分はどこでしょうか?
山下氏:この製品の製品企画担当と計画を立てていた時に、軽量な2in1デバイスにしたいと考えてきました。かつ、脱着型の形状にすることにしたので、脱着した時にWindowsタブレットとして軽量なタブレットを作りたい、これがコンセプトでした。というのも、Androidとか、iOSのタブレットに比べて、これまでのWindowsタブレットって何だか重いなというのがユーザー様の受け止めだったと感じていたので、そこから脱却したい、片手で持てるWindowsタブレットを作りたいと考えました。
Q:確かに11.6型のディスプレイを搭載しながら400gを切る重量は驚きというほかないです
山下氏:今回は脱着型を選択したことで最大の課題は、タブレットモードにした時の強度でした。13.3型のモデルの場合には首上(筆者注:液晶ディスプレイ側)にはCPUやストレージなどの部品は搭載されていませんので、液晶パネルの強度を確保すればいいのですが、タブレットではそうもいきませんので、タブレットの中にもフレームを入れ、それも天板と同じマグネシウムリチウム合金になっています。
脱着型2in1デバイスで難しいのは、首上がそれなりの重量を持ちますので、下側のキーボードドックの重量バランスを考えなければ、ちょっと押しただけで後ろに倒れてしまうアンバランスな製品になってしまいます。下側に重りを入れるなども考えられますが、それでは本末転倒ですので、今回はバッテリを手前に持ってきてバランスを取るように工夫してあります。
また、もう1つのこだわりポイントとしては、合体してクラムシェル型のノートPCにした時の完成度です。脱着型の2in1デバイスは、脱着機構にラッチをつけたりとどうしても大げさになり、ヒンジの部分が必要以上に大きくなることが多い。それをやりたくなかったので、今回はマグネットとコネクタだけで実現しています。かつヒンジも無段階で調整できるようになっており、お客様が普通のクラムシェル型PCだとしてご利用頂けるようになっています。
ポート類にもこだわっており、USB 3.0ポート2つとHDMI出力をキーボード側に、USB Type-Cを本体側につけてあります。軽いからフルPCとして使うものを何か端折りましたということをしたくなかったので、そこはこだわりました。
Q:販売店などの反応はいかがでしょうか?
山下氏:販売店様に事前にお見せしたところ、皆様軽量さに驚いて頂いております。これまでの11.6型が欲しいという声は販売店様からも頂いておりましたので、ようやくその声にお答えできたという気持ちです。
Q:ほかにも昨年(2015年)発表した新しいコンセプトPCになる「Frista」の第2世代が発表されています。
山下氏:今回発表したFristaは2世代目の製品となります。日本では14型や15型のノートPCが家の中にあるPCとして売れていますが、本当にそれが家庭用のPCとして最適なのか、そこが出発点でした。家の中でだけ使われるPCであれば、特にクラムシェルの形をしている必要はないのではないかと。タッチパネルが付いていれば、キーボードを使わないという利用シーンがあるのではないかと考えて、初代のキーボードをしまえるという形ができました。
今回はさらにそれを進化させ、キーボードを隠すときに下ではなく、背面に隠してみたらいいのではないかと考えてあの形になったのです。実際初代製品を購入して頂いたお客様にはご好評を頂いている商品です。
Q:確かにFristaは最初の世代も、2世代目もほかのPCにはない形状になっています。
山下氏:Fristaのもう1つのコンセプトとしては、お客様にPCを長時間使って頂きたいという想いがあるのです。PCが家庭に置いてあると、使っていない時にも役立つデバイスであって欲しい、そう考えたのです。
そこでスクリーンセーバーが流れている時に、お客様が必要としている情報を流したらどうか、例えばニュースや天気、カレンダーなどを流してみたらどうかということで、弊社のソフトウェアであるインフォボードというアプリケーションにそうした機能を持たせてきましたが、今回の春モデルからは、さらにプロの方と契約して撮影した綺麗な写真を表示するという機能を追加しました。また、ニュースをクリックして頂くと、弊社の別のソフトウェアであるMy Time Lineと連動するようになっているので、そちらでより詳しいニュースを見て頂いたり、SNSで流行しているニュースなどを確認したりなどが可能です。実際、インフォボードとの連携機能を実装してからMy Time Lineの利用率も上昇しているのです。
NEC レノボ・ジャパンの発足からまもなく5年、攻めの姿勢へ徐々に転換
Q:NEC レノボ・ジャパングループが発足したのが2011年なので、それから丸5年を迎えようとしています。この間の率直な感想をお願いします。
山下氏:先ほどモバイルに挑戦する環境が整ったというお話をさせて頂きましたが、Lenovoと1つのグループとなったことにより、シェアが高まったり調達コストが下がったというメリットがすぐにあったのですが、商品企画の観点から言うと、2つの企業が1つになるという中でジョイントベンチャーのシナジー効果を商品に反映させるには少し時間を要しました。ですが、徐々にLAVIE Hybrid ZEROやFristaのような市場に対して提案できるような商品を増やすことができつつあり、今後もそうした製品を製品を増やしていきたいと考えています。
Q:昨年の日本PC市場は大きなマイナスになってしまいましたが、今年(2016年)はどうなるとお考えでしょうか?
山下氏:日本のPC市場に関しては昨年がマイナスになってしまいましたので、少なからず何らかの揺り戻しによるプラスがあると期待しています。我々NEC レノボ・ジャパングループとしてはトップシェアのメーカーとして市場の活性化が役割だと考えているので、市場に新しい提案をすることで活性化していきたいと考えています。もちろん、それは弊社1社だけではできないので、業界全体でどんどん仕掛けていく必要があると考えています。