山田祥平のRe:config.sys
ゆくPCくるPC 2025
2024年12月28日 06:16
2024年が終わる。本当に慌ただしい年だったと思う。AIに始まり、AIに終わる年ともいえるが、それに伴うPC周辺の話題にもこと欠かなかった。いったいこのまま何がどうなっていくんだろうか。
待てをガマンした1年間
最初のもくろみでは、今年(2024年)の秋には、PC用のプロセッサとして、Qualcomm、AMD、Intelの3社製品が出揃うので、いよいよ本格的にPC選びに取り組めるはずだった。実際、IntelがLunar LakeことCore Ultraシリーズ2を発売開始、パートナー各社から搭載製品が発売されたことで市場には多くの魅力的な製品が登場した。よりどりみどりだ。どれでも好きなのを買えばいいはずだ。
結果として、Widowsが稼働するPC製品は、そのアーキテクチャとして、IntelとAMDによる由緒正しきx86(64)と、QualcommのSnapdragonによるWindows on Armという2つの陣営が縄張り争いをするようになった。というか、そう仕向けられたムードがある。
そりゃWindowsも歴史はハンパじゃない。商業的には1992年のWindows 3.1あたりから、まあ、ズドンと打ち上がったのは1995年のWindows 95からだとしても1995年で来年は30歳だ。
その一方で、Windows 10の64bit版がQualcomm SoCをサポートすることが明らかになったのは、2016年の暮れに中国・深センで開催されたWindowsハードウェア技術者向けのカンファレンスWinHEC 2016でのことだった。
その翌年、Qualcommは、COMPUTEX台北の会場近隣のホテルでWindows 10が実際に稼働するハードウェアのデモを一部のメディアに紹介した。WinHECではステージ上のデモだったが、ここでは間近で稼働する環境を見ることができた。実際に操作させてくれたし、powercfgコマンドを叩かせてもくれた。大いに興奮したのはいうまでもない。Microsoftが当時考えていたAlways Connected PC構想を実現するには、Qualcommの力が必要だと信じていたに違いない。
あれから7年が過ぎている。コロナもあったが、それはもういろいろあって当たり前だ。
MicrosoftとQualcommの蜜月
フルバージョンのWindowsをAlways Connected環境のモバイルデバイスで実用的に使える環境はMicrosoftの悲願だったといってもいい。Windows 10 Mobileなどという寄り道もあった。
2017年の10月にはASUSがNovaGoを最初のSnapdragon搭載Windows PCとして発売している。続いて、HPの「Envy x2」や、Lenovoの「Yoga」、Microsoftも「Surface Pro X」などをリリースしている。
だが、これらで状況が変わったわけではなかった。どうしたってインテルアーキテクチャがWindowsの王道で、その領域に食い込むことはできていなかった。
ここでずいぶん時間がとぶ。2024年、つまり今年の5月になってMicrosoftはマーケティングプランとしてのCopilot+ PC構想を高らかに宣言し、6月からパートナー各社の製品の発売が開始されたのだ。この時点で、Copilot+ PCを名乗るためには、40TOPS以上の処理能力を持つNPUをCPUやGPUとは別に搭載している必要があった。そして、それを満たすSoCは、その時点でARMアーキテクチャによるQualcommのSnapdragon Xシリーズだけだった。
2016年から(本当はもっと前からなんだろう)8年近くをかけて育まれてきたMicrosoftとQualcommの仲良しぶりが昇華したのだ。
その背景にあるのがAIの浸透だ。
消費電力の乱
この数年でAIは驚異的なスピードで世の中に浸透した。揶揄するわけではないが、過去において「自動」と呼ばれていたものを「AI」に置き換える輩もいるくらいには身近な存在になった。MicrosoftのCopilot+ PCは、そのAIをPCエッジのオンデバイスで稼働させようというチャレンジだが、それにはどうしても消費電力との戦いが必要だ。GPUでゴリゴリと処理しても同じ、あるいはそれ以上の結果が得られるかもしれないが、半端でない電力が必要だ。だからこそNPUが必要だというのが彼らの論理ではある。
でもまあ、世の中のPCのすべてがバッテリで駆動されているわけではない。特に、高い処理能力が求められる現場では、ずっと以前からGPUにAI的な処理がまかされてきた。消費電力のことを気にしなくていいのなら、NPUがなくたって同じように幸せになれたのだ。でも、Microsoftはそれではダメだと考えた。
もっとも、いわゆるAI処理が、すべてNPUに依存するようになるには、まだまだ時間がかかるだろう。多くの処理系はGPUを頼るだろうし、それ以前に、オンデバイスではなくクラウドサービスでの処理結果が送られてくるだけのものも少なくない。実際のところ、本当に消費電力のことに危機感を持たなければならないのは、それらのサービスが稼働するデータセンターなのだろうし、それをなんとかするための方法論のひとつがローカルでのAI処理だといえる。
これじゃ買いたくても買えない
これまで、PCは、買いたい時が買い時だと考えられてきた。欲しい時に買ってやりたいことを少しでも早期に始める方が結果的にお得というわけだ。どうしようかとノロノロ考えているだけソンをするという論理なのだが、それは分かっていても、半年先に最新アーキテクチャの高速処理ができる製品が出ると分かっていたら、今はちょっとガマンしようかと思ったりもするのが人間というものだ。
ものすごい勢いで進化が続いているAIだが、とりあえず、目立っているのはクラウドサービスだということもできる。そしてクラウドサービスだけで用が足りるのなら、オンデバイスAI処理のためのNPUがなくても不自由しないだろうし、百歩譲ってGPUでもいい。もっとも高性能GPUはまだまだ高止まりだ。
これからPCというハードウェアの構成はどのように遷移していくのか。この先数年程度で趨勢が決まるものなのか。どうにもわからないでいる。
何十年もPCの利活用を勧める立場で、あれこれと人々の肩を押し、少しでも豊かな暮らしを追いかけようという文章を書いてきたが、なんだか、今は買ってはいけないと書きそうになっていたりもしつつ2024年が暮れていく。